ひどいと思い、ここにいる
ダイキチが持ち歩く塩で、錆びた鎌とお社のまわりを《お清め》して、クスノキに手をあわせてからそこをあとにして、あとは何事もなく無事に帰り着いたのだが、つぎの日になるとじっとしていられずに、ダイキチのお屋敷を早くからおとずれてしまった。
ダイキチは驚きもせず、いつものようにヒコイチをむかえてくれ、『先生』は、あの鎌をおさめに出かけている、とおしえた。
「 あの、黒い瓶も、いっしょに『おさめて』いただけるようにしました。あれは、わたしらにはどうにかできるものではございません」
「やっぱり、ありゃあ、戦から逃げた、サムライかなにかの祟りってことですかい?」
「お侍・・・なのでしょうかなあ・・・わたくしにはサブロウさんの足に髪をからめてひきずられる、たくさんの首がみえただけですが・・・、 ともかく、瓶のなかにあんなに骨をためこむなんて、やはり、なにかの『まじない』なのでしょうな」
サブロウは、刀にとりつかれたせいで首にこだわり、人をおそった。
それをとめようとしたシロウは、ひとり山の中、兄をさがしつづけるなかで、兄は樵に殺されたのを知る。
だが、殺された兄は、幽霊になってもまだ人を襲いつづけた。
坊主にもしずめられなかった兄をとめようとした弟は、両手に鎌をもち、ひとり山の中をさがしあるきまわる。 兄の幽霊には出会えずに、人を襲うことはとめられずに、気ばかりあせり、昼も夜も、もとの暮らしもすてて、さがし、あるく。 ―― やがて、杉の葉で着物をこしらえ、どこに出るともわからぬ兄の姿を、《なにかに憑りつかれた》ようにさがしまわる弟は、オオカマキリのバケモノとまちがえられたのだろうか?
ひどいはなしだとヒコイチはおもった。
そうくちにしたら、ダイキチも、おおきくうなずいた。
だから、こうして三月ほどたったいま、ヒコイチはまた、ここにいる。




