手ぬぐいに礼をいう
瓶をもとのように埋めなおし、かたむいた社のこわれた扉をどけてみると、中には粉のようにたまった杉の葉だったものと、社とおなじように朽ちそうなほど錆びついた鎌があった。
「 ・・・『オオカマキリの化け物』っていうのは、・・・アニキをさがしてた、シロウさんってことか・・・」
ヒコイチはなにも考えずに鎌をつかみだし、ダイキチをふりかえった。
年寄りはさびしそうに、どうでしょうかねえ、と鎌をひきとる。
「 ―― サブロウさんがまず、拾った刀にとりつかれて、人の首をねらうようになったのは確かでしょうな。あの人が道の向こうから来るとき、わたしには、あのひとがたくさんの人の首をひきずってやってくるのが見えましてね。 ―― ときおり、なにかがあった山道など通りますと、そういう者と出会ってしまうことがあるので、用心のために、知りあいのお坊さまに頼んだ『お守り』を身につけるようにしておりましてね」いや、役にたってよかった、とダイキチはあの手ぬぐいを懐からとりだした。
白地の手ぬぐいに、なにやら墨でかいてはあるが、ヒコイチには読めない文字だ。 ダイキチがひろげてみれば、すっぱりと切れているところがある。
「みがわりになってくれたんだねえ」
てぬぐいに礼をいうのを耳にしながら、ヒコイチはまた血が引きそうだった。
この手ぬぐいがなかったら、ダイキチの首が転がっていたのか・・・