おまえもおれも
四、
キ イーと、どこかで山の鳥が鳴いた。
ヒコイチはいちどあたりをうかがう。
陽がさしこむここだけは明るく、そこにある木々をとびうつる鳥の姿もみえた。
ダイキチとお山参りをしたかえり道、ここで怖い目にあってから、どうにか無事に年もこし、春先の梅の花も見終えたあとに、ヒコイチはまた、あの楠のところへきていた。
楠の枝には、あのときみつけた傷がまだのこる。
兄が刀でつけた傷かなのか、それとも弟が鎌でつけた傷なのか。
「・・・クスノキなあ・・・おまえもおれも、こんなことに、なんだか巻き込まれるよなあ」枝をなでながらわらいがもれた。
たまたまお社のぞばにはえていたというだけで、ふしぎなことにまきこまれるというのなら、ヒコイチと同じようなものかとおもったが、その立派な姿をあらためてみると、どうにも違うような気もした。ここまで太くおおきくなればきっと、ゴシンボクだとかよばれて、神様だけではなく、モノノケの類もよってくるのかもしれない。
それと、幽霊も・・・
いや、あのときは、ダイキチという、死んだものがみえ、はなしができる年寄によってきていたのか。