アニキじゃねえ
残虐表現あり。ごちゅういを。。。
ヒコイチが問う前にシロウは続ける。
「 そこまではよかったのに、その樵が死んだアニキを、山のどこかに捨てちまったっていう。そしたらな、その樵が斧で首をきって死んで、それがアニキの『祟り』だとかいうはなしになっちまった。いや、ほんとうにそうだったんだな。なにしろ、あの社をつくって坊さんに鎮めてもらおうとしたのに、しずまらなくて、今度は幽霊になってまで旅人を殺すようになりやがったんだから・・・」
「ああ、じゃあさっき、あの男がダイキチさんにしたのは、てめえのはなしってことか・・・」
ヒコイチはあの男の語り口をおもいだしてうなずく。
「幽霊になったサブロウさんも、あなたはしずめようとなさっていたのですか?」
ダイキチにきかれると、シロウはまた、社をにらんだ。
「 ―― だってよ、あんなの、おれのアニキじゃねえからよ。あの刀を拾ったのが悪かったんだよ。埋まってたのに錆びてもいねえなんて、おかしいはなしじゃねえか」
拾ってきてすぐに、こんなもんさげていばってやがったんだからなあ、とサムライをばかにするように、わざと、ほかの鎌とおなじにあつかい、作物や薪をきるのにつかっていたその刀を、いつのまにか、黒い鞘におさめ、腰にぶらさげるようになった。
そこから、畑仕事を放って、山にはいっていくようになった。
なんだかようすがおかしかったが、また鳥をさがしに行っているのだろうと思うことにした。
だがあるとき、手を血だらけにしてもどってきたのを目にして、つぎにはあとをつけてみた。
「 ―― 鳥なんてひとつも気にかけてなくて、タヌキなんかを見つけると、刀で襲い掛かってな、すごい勢いで追いかけるんだが・・・・」
くびだ! その首をよこせえっ!!
「・・・つかまえて、タヌキの首をきりとって持ち上げて、さけびやがった・・・」
みろ!首だ!首だぞ!うちとったぞ!
「・・・まるで、戦をしてる気になっててよ。はなしかたも、ふるくてすました言葉をまねた、アニキじゃねえもんになった。 ・・・おれは、あの刀のせいだって思ったから、寝てるあいだに捨ててこようとしたんだが、・・・どんなに待っても、もう、寝ようとしねえんだ」