首は無事か
「さっきの、あの、黒い脇差ですか?」
兄の犠牲になりそうだった年寄にきかれ、シロウは、はっとしたように、すまなかった、と謝った。
「じいさん、首は無事かい?」
その寝違えたことを確かめるような軽いききように、ヒコイチはおもわず前に出た。
「『無事』なわけねえだろが。あんなもんおもいきりたたきこまれてよ」
怒ってはみたが、実はヒコイチもまだしっかりとダイキチの首を確かめたわけではない。
ダイキチに刃をたてた男が消えて、ただもう、ダイキチが立っていて、しゃべっているというだけで安堵して膝がふるえそうだったのだ。 かけよって声をかけようとしたのに、先にダイキチに笑いかけられ、わたくしはなんともございません、といわれてしまい、ただもたれるようにその両肩に手をつくしかなかった。
「ええ。首は無事でございますよ」
ダイキチが合羽も着物も襟をあけて、しわだらけの首をのばしてみせる。
ならよかった、とうなずくシロウが、やっぱりあれか?とききかえす。
「 あの、てぬぐいかよ?」
てぬぐい?
そういえば、首にまいていたそれを、この男の持つ鎌に・・・。
「はい。知り合いのお坊さまに頼んで、ありがたいお経をかいていただいておりまして。 それがこんなところで役にたつとは、ほんとうにありがたいことでございます」
「ああ、道理でなあ。 ―― いままでだってよ、おかしくなったアニキをどうにかしようと山でさがしたが、みつけられなかった。 とうとう、あの刀で人を襲って殺すようになっちまって、おれがどうにかしねえとなンねえとおもってたらな、先に樵に、斧でころされた」
斧で?鉄砲ではなく?