サブロウとシロウ
三、
雨はやみ、雲はいつのまにやらどこかへ去って、またあおいそらがもどってきた。
「 ・・・サブロウっていう、おれのすぐ上の兄弟ですが、あるとき、刀をひろってかえりやがってね ―― 」
鎌をにぎってとびだしてきた色の黒い男は、この山の麓ではなく、やまあいの集落にすむシロウという男で、あるときからおかしくなった兄のはなしをした。
「 ―― うちは親父がもういねえから、長男が継いだんだが、それも病でなくなって、次男は若いころ出てったきりだ。しかたねえってんで、サブロウが、畑からお袋の面倒、あと、としのはなれた四男のおれのことをみてくれてたんです。まじめでむくちなアニキで、酒ものまねえし、賭け事もしねえ。ただ、山にはいって鳥の鳴きまねをしてよぶのがすきでね。鳥モチで捕まえるわけでもねえし、ほんとうに、無口だがやさしい男だったよ」
ひらけたクスノキのあたりには、きゅうにもどった陽の光がさしこみ、ぬれた地面と小さな水たまりが、ちらちらとひかっている。
そこからすこしはなれたところに建ったあの社は、その光のなかでみても、やはり朽ちていた。
「 ―― そのアニキが、ひろった刀のせいで、おかしくなりやがったんだ」
その朽ちた社をにらむように、シロウは腕をくんだ。