お山参り
設定ゆるふわ薄目でごらんください。 今回は《お屋敷》の隠居、ダイキチとお山参りに行ったかえりに寒いおもいをするはなし。みじかいです。 !残虐場面、表現あり、ご注意を!
一、
ぽつりと
顔に雨粒があたり、空をみあげた。
さっきまで雷がゴロゴロと鳴り、重い雲がながれてきていたのは知っていたが、この細い道は、くだりきっておきたいところだった。
空をよみちがえたな、とヒコイチは小さく舌をうつ。なにしろ、ダイキチがいっしょにいるのだ。
「 やっぱり、参道の団子屋でもうすこしようすをみてりゃよかったんだな。すまねえダイキチさん、おれがせかしたばっかりに」
ダイキチは履物屋の隠居で、ヒコイチとは知人を介して知り合った。その知人というのは、ひとりは西堀の隠居であるセイベイで、ひとりは一条ノブタカというお坊ちゃまだ。
ヒコイチはふだん、売り物をかついで歩く、ながしの物売りをしている。
そのおかげでこの二人に会い、それからなんだか寒気のすることにまきこまれることが多くなったのだが、まあそれはべつにいいと思っているし、こどものころにじいさんと二人でくらしていたヒコイチは、年寄と話すのも出かけるのも苦でないうえに、『お坊ちゃま』にはセイベイもダイキチも、ヒコイチの『おともだち』と言われている。
その、『おともだち』のダイキチが、ヒコイチと鍋をつついているときに、『お山参りをまたしたかった』とこぼしたのを耳がひろって、こうして二人で、近場のお山参りをしての帰り道だった。