学生会のオシゴト
「ベアトリッツ様可愛らしいのに威厳があって素敵な方だと思うけどあの七三メガネは何なのよ!髪を全部後ろに引っ張ってる・・・えーと誰だっけ?」
「し、七三メガネって・・・。オールバックの方はザートス副会長だよ」
「お、おーるばっく?何でもいいけどその二人、感じ悪いのもほどがあるわ!」
「ア、アイナそういう事はもう少し小声で。誰が聞いているかわからないから」
会長室を退出するや否や不満を口にしたアイナにすかさず注意を入れた。
「ふふ。あの二人には苦手意識を持っている人が多いからそう思うのは仕方がないわ」
「やっぱり!ハヤ先輩も嫌いですよね?」
「私はそういう事は人がいるところでは肯定も否定もしないわ」
「「「(いや、後ろを向いて呟くのは”人がいないところ”にはなりません・・・)」」」
「チエルノビン様、私たちは広報部で何をしたら良いのでしょう?」
「シャルロッテさん、私はハヤで良いわ」
「有難うございます。では私もロッテとお呼びください。アイナにはそう呼ばれていますなので」
「分かったわ!お互い頑張りましょうね」
「えっとハヤ先輩それで僕らは何を?」
「三人には広報部内の会報課ででがんばって頂こうと思います」
「会報課って?」
「会報課ですか。しかしそもそも広報部自体の活動内容を僕らはしらないのですが・・・」
「あらごめんなさい。私の希望する100点の展開になったので嬉しくて色々と説明をするのをうっかり忘れてしまっていました歩きながら説明しましょう」
はは。自分の思惑通りに事が進んだって言っちゃうなんてハヤ先輩は良くも悪くも正直な人だな。
「広報部の仕事は”学園内での案内”です。一言で案内といっても多岐に渡っていてその中でも大きな割合を占めているのは相談窓口です」
「お悩み相談所?なのなのですか?」
「お悩みといえばそうなんだけれど学生からの依頼や要望を聞いてそれをまた解決してくれる学生とマッチングするのが主な仕事です」
「え?それって・・・」
「そう、広報部は別名学園ギルドと呼ばれているわ」
「ああ、それで一階のロビーが」
「なるほどなの」
どうりで何処かで見たような作りだったわけだ。
「そう。あそこが受付よ。依頼者は学年、学科、発注内容と報酬を用紙に書いて登録して仕事が欲しい学生が選んで受注するっていう町にあるギルドとほぼ同じシステムね」
「学園内で仕事のやり取りをするんですか?」
「そうよ。あなたはアルバイトとかしたいなと思った事はない?」
「あ・・・したいというよりしなくちゃいけないな・・・と思ってました」
お金に困っている貴族はそんなにはいないだろうが従者を禁じられているので自分だけではどうにもならない事は沢山あると思う。そして食と住は入学金で全て支払われているが着る物や生活必需品、余暇を楽しむお金は別に必要となる。学生の半数以上は平民なので学園内でアルバイトが出来るのはとても助かるシステムだ。
「例えば必需品が魔鉱石という魔道具科の生徒は戦闘の類の訓練を受けないので自力で学園ダンジョンに潜る事が出来ないから学園ギルドに依頼を出す。するとその依頼を見た魔術科や剣術科の生徒が実践訓練を兼ねてダンジョンに入って魔鉱石を採取、報酬を手にするといった具合ね。その他にも被服科や一般造形科等の制作系の学科の生徒が制作したものを交易地区で商品として売りたいという場合に店番や接客の依頼を出すとたいてい商業科や普通科の学生が受注するわ。因みに空き店舗の賃貸契約も広報部で出来るし店舗に空きが無くて待機者がでてしまった場合は情報部と企画整備部が協議して学生会本部が予算を使って建築科の生徒充てに依頼を出すという事もあるわ」
「上手くできているなの」
「ここ学校よね・・・」
はは。僕も思った。学生でもお金を支払わなくてはならないが間に第三者が入るからトラブルにはなりにくいだろうな。馬車移動もそうだけど最早いち領地だな・・・。
「でも、受発注はともかくそんな面倒な仕事は誰もやりたがらないんじゃない?」
「ふふん。そこもこの学園の凄い所で学生会広報部所属の生徒のハンターギルドや商業ギルドへの就職率99%って聞いたらどう思う?」
「うわ・・・エグい・・・」
「王都のってなるとちょっと厳しいけどね」
確かにそうなると思う。学生の”即戦力”は実際に使ってみないと何とも言えないと言うのが普通で一般的にはあくまでも”期待値が高い”だけなのだがここでは街のギルドと同じ業務を既に実践してしまうのだから真の即戦力と言える。
「広報部に限らず他の部も同じで学園内を巡回している騎士隊や門を守っている守備隊、情報部は王城の兵として、企画整備部、資材部も商業ギルドへとどこも就職率はても高いわ」
「で、もう一つ大事な事があって、各部でのお仕事は学生会からちゃーんと報酬がでるのよ。素敵でしょう?まあ王国内の仕事並みにという訳にはいかないけれど一般的なアルバイトぐらいは貰えるし同時に勉強しながら将来を見据えた実戦経験も積めるから学生会は意外と人気があるのよ」
「そういう意味では僕たちは運が良いのかもしれないですね」
「どうしてよ?」
「だって考えてみてくれ。普通に入学したとしてこういった報酬が貰えるシステムがあるという事をいつ知るようになると思う?」
「いつって・・・入学して日にちが経って誰かからそんな話を聞いて・・・」
「だろう?先になにか情報を掴んでいた生徒が沢山入会したら当然学生会側は募集を締め切るから情報を持っていなかった生徒は学生会に入りたいと思っても後からでは入れない事になるよね」
「あ。そうか」
「でも・・毎日バイトじゃあ・・嫌になっちゃうかもなの」
「そこは交代制で実際働くのは週の半分ぐらいだから大丈夫よ。もっと稼ぎたいのならそれこそ広報部で依頼を探せば良いし。それに貴方達が所属する会報課の仕事は自由度が高くて自分たちで上手くスケジュールを調整出来ればある意味ラクではあるわ」
「その”ある意味”というワードがすっごくひっかるんですけど・・・」
ハヤ部長は学生会館二階の一室の前で説明と足を止めた。
「ここよ。入って」
「失礼します」
独特なインクのにおいがする。通常のインクではなく複写用のインクだ
案内された部屋は標準的な中学高校の教室を二室合わせたぐらいの広さで各学年の生徒が二十数人いた。部屋には個人のデスクワーク用の机椅子が20程と一辺が5mぐらいありそうな大きなテーブルが中央に四台あってそのうちの一台には数人の生徒がなにやら沢山の書類や紙を見ながら作業していた。他の三台には50㎝ぐらいの高さに積み上げられた紙の山でぎっしりだ。よく見ると壁際にも束ねられた紙の山が至る所に置いてある。
これって・・・。
「貴方達の仕事は”会報”の制作よ」