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第三王子、普通科に入学する<7>

 「え?いや、ちょっと偉そうでしたね、すみません」

 知らない人に聞かれてたと思うとなんだか急に恥ずかしくなった。


 「謝らなくても良いわ、だって私もそう思うし現国王様は素敵な方だと思っているから」

 「ええと、お初にお目にかかります僕はマサト・シモンと言います。どちら様で御座いますか?」

 「あら、私としたことがごめんなさい。ハヤ・チエルノヴィン、四年生よ。学生会の広報を担当しているわ」

 四年生という事は恐らく学生会の幹部だ。


 「わ、私はアイナってっと言います。ご、ごきげんおはようございます」

 ぷ。おはようではない時間なんだけど・・・アイナも一応緊張する事があるんだ。


 「初めましてチエルノヴィン様。シャルロッテ・ヘンゼルと申します。よろしくお願いします」

 「あなた、もしかしてマティオ・ヘンゼル様のご息女ではありません?」

 ロッテの挨拶にかぶせ気味に反応した。


 「お父様をご存じなのなのですか?」

 「やっぱりー!ヘンゼルという家名ですぐにピンピン来たわ!」

 「(情報部の話は本当だったわね!)」ハヤは後ろを向いて早口で呟いた。


 「「???」」

 「あらぁ、なんでもございませんわぁ。早速ご案内しますね!」

 「(明日から学校中探し回ろうと思っていたけどまさかこちらへ来てくれるなんて私超ラッキー!)」ハヤはまた後ろを向いて早口で呟いた。


 「あの、すみませんあたしたちは面接を受けに・・・」

 「(千載一遇のチャンス、逃してはダメよ私!)」ハヤはまたまた素早く後ろを向いて早口で呟いた。

 「「「・・・」」」


 あの・・・先輩、普通に全部聞こえちゃってるのですが・・・。


 「あ、いいのいいの。あなたたちは直接会長に紹介するから。さ、ついていらして!」

 「「「か、会長?!」」」

 ハヤはニコニコしながら早足で歩き始めた。


 「(ねえ!あの人随分変わってるけどついて行って大丈夫なのかしら?)」

 「(ちょっと怖いなの)」

 「(あはは・・・行き先が会長室みたいだから大丈夫だよきっと)」

  ハヤ先輩は束ねた金髪を左肩から前に垂らした美人のお姉さんっていう感じだけど所作が僕もちょっと怖いです・・・。


 「それにしてもロッテって有名人なんだ」

 「そりゃあそうよ。全領地をまたにかけて注文を受けたら何でも仕入れてくれるヘンゼル商会を知らない人なんていないわ。ヘンゼルと聞いて無反応だったのはあんたぐらいよ」

 それは仕方がないな。僕は子供のころから剣術と魔術漬けで城の外には殆ど出たことが無かったし2年も国外にいたから。しかし何故アイナが自慢げなんですか?・・・。


 学生会館のロビーはとても広く作ってあった。奥の方には木製の長いカウンターがあって五つに分かれて数人の列が出来ていた。何かの相談窓口のようだ。右手奥には僕らと同じシャツに赤いラインの入った制服を着た新入生数十人が並べられたイスに座っている。恐らくあそこが本来僕たちの行くべき入会希望者の待機所なのだろう。


 「ねえねえあれ見て見て!なにかいい匂いがすると思ったらお店があるわ!」

 アイナが興奮気味に僕の肩を叩いた。


 入口すぐ左にオープンカフェの様な店があって数人の学生が楽しそうにお茶を飲んでいた。

 「あそこのお店は会長が出資運営していて学生会員はタダなのよ」

 ハヤ先輩が言うとアイナとロッテが「わあ!」と声を上げた。


 どうやら今年の会長は随分と太っ腹なお金持ちみたいだ。まあ上級貴族ならわけないか。


 ハヤはカウンターの右にある幅広の階段を上がって行き学生会館最上階にある扉の前で足を止め、コンコンコンと三回ノックした。

 入りなさいと男性の声がして中に入ると白を基調とした制服の男女三人がこちらを見た。


 一人は応接用の大きな革張りソファに座ってお茶を飲んでいる小柄で少しくせ毛の女の子。ロッテのように幼い顔立ちだが白い制服なので彼女も最上級生だ。

 その脇にバインダーを手に持った丸眼鏡の細身の男性。色白で細長い眉に切れ長の目でちょっと神経質そうな感じがする。そして学生会長のものと思われる天板の広い机の横にもう一人。彼も細身だが長身で胸板が厚く太眉でぴっちりと何か油で固めたような銀髪のオールバック。いかにもというボス感がある。


 「失礼いたします。会長、お客様をお連れしました」

 「は、初めまして一年のアイナといいます。よろしくお願いします!」

 ハヤに挨拶した時はカミカミだったのだが今回はちゃんと言えたようだ。真っ先に挨拶したのはアイナも自覚があってちょっと恥ずかしかったのかもしれない。


 「お初にお目にかかります。同じく一年のマサト・シモンです。本日は急な訪問をお許しください」

 僕も挨拶をした。


 「えっと、二人とも違うなの」

 僕なにか間違えただろうか?そんなはずはないと思うんだけど・・・。


 「な、何が違うのロッテ。わ、私ちゃんと挨拶できたわよね?」

 アイナがロッテの耳元で囁く。


 「会長様はこちらの方なのなの」

 ロッテがソファに腰を掛けていた少女に正対して言った。

 「「え?!」」

 「あら!あなた何処かでお会いしましたかしら?」

 「「(’え?!)」」

 僕もアイナも驚きの声をなんとか飲み込んだ。


 「その節はお屋敷にお招きいただき有難う御座いましたベアトリッツ・テディア様。マティオ・ヘンゼルの娘シャルロッテで御座います。また御目にかかれて光栄に存じます」

 う・・・。テディア家、テディア公爵家か。


 テディア公爵領は北方に位置している所謂辺境伯だが当主であるフレデリックが交易で国力を増強し王国で発言力を持つまでになった。更に国の成り立ちが特殊で内紛内乱が絶えず不安定な隣国ランディーク王国とも交易を行い一代で財を成したキレ者だ。そして魔王討伐遠征の際、数か月もの間アルバトス王国領の通行許可が下りず困り果てていた時自ら名乗り出て特使としてランディーク国王と交渉し領内の通行を認めさせた功により討伐成功の折昇爵し”剛腕”と言われるようになった。


 今アルバニア王国内で一番勢いのある貴族だ。


 遠征時一度だけ国王代理としてフレデリック・テディア公爵と謁見した事があるけれどその娘なのかも・・・いや、孫かもしれないがベアトリッツと面識が無かったことは今となっては幸いだ。しかし用心するに越したことは無い。


 「まあ!えっと、お部屋の模様替えの時でしたかしらマティオ様と一緒にいらしたのは」

 「はいあの時にグランスラムの学生会長にお手をお挙げになったと伺いました。お茶とお茶菓子まで振舞って頂きとても嬉しく思いました」


 なるほど会長と面識があったのか。それはそうと人は見かけで判断しちゃいけないな・・・てっきり会長はオールバックの人だと思ってしまった。それにしてもロッテって普段はおどおどしてるのに貴族相手だと驚くほどきちんと挨拶できるのは不思議だ。豪商の娘だから場慣れしているのだろうが話し方まで変わるのはちょっと面白い。いつも一緒にいるアイナがその真逆というのも面白いけど。


 「「失礼いたしました。会長様」」

 「いいのよ。気になさらないで。初めての方はみなさんティールに挨拶するの。彼ってボス感あるでしょう?仕方ないと思うの」

 そ、その通りです会長、ごめんなさい。

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