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第三王子、普通科に入学する<5>

 講堂の外では入学式を終えた新入生とその親族達が抱き合ったり目標を語ったりしていて喜びを分かち合っていた。


 僕たちは人混みをかき分けて川沿いの歩道まで出た。


 「二人のご両親は?」

 知り合いを探す素振りもないのでちょっと気になる。


 「ロッテの父と母は・・お仕事で他領に行っているので来られないなの」

 「そっか。お忙しいんだ。残念だけど仕方がないよね」

 「はい。でも・・帰ってきたら多分賑やかにパーティをしてくれると思うなの。いつも・・そうなのなので」

 「それは楽しみだね」

 「はい」

 ロッテは嬉しそうに返事をした。共働きで忙しいが良いご両親なのだろう。


 「うちはお母さん一人でお店があるから来ないわ」

 母子家庭で商店の娘か。戦争や内乱、魔獣被害等この世界は死に繋がる事案が多いので片親というのは全然珍しくはいけど母親は相当頑張ってアイナを入学させたに違いない。成績優秀者には一部学費免除等の優遇があるが入学金は決して安くはないから。


 「あ、アンタ今『貧乏商店の娘がよくこの学校に入れたな』って思ったでしょ?!」

 「そ、そんなこと思ってないからっ」

 ア、アイナって人の心を読む魔法でも使えるのか?!い、いやそんな酷い言葉は思い浮かべてないからただの偶然?!それにしてもカンが良い・・・。あと悪い言葉に置き換えるのはやめて欲しい・・・。


 「そういうアンタはどうなのよ?」

 「う、うちはグレトリ領で遠いから来られないかなー」

 と、とりあえず遠い領地を言っておけば両親不在でも詮索されないだろう。


 「グレトリ領って東の辺境にある国なの。馬車でも一か月ぐらいかかるなの」

 え?!

 「アンタそんなに遠いとこから来てるの?凄いわね」

 「ロッテさん、く、詳しいですね」

 「お父様とお母様、今そこに行っているなの」

 わあああ!!。安全地帯かと思ったらままさかの地雷原・・・!!


 「三人とも訳アリなのなの」

 おかしな事になりませんように・・・。


 「さ、入学式も終わった事だしさっさと寄宿舎に行って荷物の整理しよ」

 「そうするなの」

 「じゃねマサト。またどっかで会ったら声ぐらいかけてあげるわ」

 「あ、ああ。また・・・」

 な、何か嫌な予感が。あの二人とは離れていた方が良いのかも・・・。


 今年度の新入生は過去最多の6211人だ。そのうち普通科は平民主体で特別な能力やスキルを習得する必要が無く、学費も他の学科よりは低く設定されている。また、広い知識を得られる学科で職業選択の幅を広げられる為新入生の数は1610人と一番人数が多い。


 一年生だけの校舎が三つもあって1クラス30人前後で53クラスもあるんだ。同じ校舎、同じクラスになる確率はけっこう低い。


 大講堂前の川向こうに広い公園があってそのまた奥に見えるレンガ造りの団地が普通科の生徒の寄宿舎だ。ロッテとアイナは「学長館の西の橋を渡って来たよね」「うん、西門から真っ直ぐだったから。でも地図を見ると女子舎は学生会本部西にある橋を渡った方が近そうなの」等と話しながら歩いて行った。


 「えーと、男子舎はと」

 僕ももう一度地図を広げた。男子舎は学長館前の橋を渡った方が近い。


 それにしてもいちいち地図を広げないと目的地にたどり着けないとはなんて面倒な・・・。


 しかも敷地が異常に広い為に主要な場所に行くには馬車を使わないと徒歩では厳しそうだ。


 地図によると学長館西の橋を渡り緑地を超えた所に寄宿舎群があってその向こうに2000人が一度に食事を出来る第一学食堂。そのまた向こうに普通科、商業科、土木建築科の校舎があるのだがここまでの距離は約2㎞もある。


 そしてそれらの校舎を更に西に進むと土木建築科の資材館と資材置き場、製材所等があり、その先の周囲が3㎢もある第一交易地区を越えた所にやっとグランスラム西正門がある。学長館から西正門までなんと8㎞もあるのだ。


 剣術科、魔術師科、魔道具科、鍛冶科、薬学科等は反対側、つまり学長会館の東側にあって学長館から一番遠い第一闘技場までは12㎞。北側には第二学食堂、執事科、装具科、一般造形科、被服科、調理科の校舎寄宿舎群、個人工房団地、第二交易地区等があり、学長館から北門までの距離は約10㎞。


 南側には農業科、厩務科の校舎、寄宿舎、穀物倉庫、厩舎が建っていて南門まで広大な畑と牧場が続いている。その間役25㎞。どう考えても馬車を使わない移動はあり得ない。

 故に校内には各所に馬車亭が配置されていて主要建物間で決められた時間で走る”巡回馬車が走っている。

 父上・・・やりすぎていませんか・・・。「わはは」と脳内で国王が豪快に笑った。


 僕は学長館の南西角まで戻って橋を渡って西に進んだ。途中巨大な公園のようになっている緑地を抜けて普通科の寄宿舎群にたどり着いた。


 「えーと、僕の部屋24号棟3階の3号室・・・」

 あの、普通科の生徒の寄宿舎だけで85棟もあるのですが・・・。


 「やっと着いた」

 24-3-3。扉の前で一度深呼吸してカギを差し込む。


 解除の方向に回したが空振りした。二人部屋なのでルームメイトが先に入室したのだろう。どんな人かな?やっぱり何事も最初が肝心だ。ぶるぶると全身をほぐしたあと背筋を伸ばして口角を上げた。


 ガチャ。

 「ごきげんよう!はじ・め・・ま・・・して・・・」

 ルームメイトは二つあるベッドのうちの一つに壁を向いて横になったまま振り向きもしない。


 「・・・」

 そーっと部屋に入ると何かがつま先に当たった。

 僕の荷物だ。無事に届いていたみたいだ。


 視線を元に戻すとルームメイトは向こう向きでベッドに横になったまま左手を上げてふるふると振った。

 「俺こっちな。お前はそっち。早い者勝ちだ」

 は?


 窓は奥に二つ。ベッドと棚とクローゼットは左右にひとつづつでテーブルは中央に一つの対称の部屋なので正直どっちでも問題ないけど、

 『初めましてこんにちは僕は〇〇といいます。よろしく!』『さっそくだけどどっちのベッドを使うかじゃんけんで決めようぜ!』『よぅしいいだろう望むところだ』『じゃーんけーんぽんっ!』『うおおお!』『お前なかなかヤルな!』『いやあそれほどでも!』『今日は入学式以外はなにもないから良かったら一緒に昼食でもどお?』『いいね超デカい食堂があってタダみたいだからいってみようぜ』

 ・・・っていうものじゃないのっ?!


 「おい、俺はちょっと寝るから静かにしてろよ」

 ああ、終わった・・・。

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