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5話 諏訪咲子 其の2

今僕と諏訪は学校の中庭にいる。


この話について、もちろん他人に聞き耳立たされたくない諏訪はあまり人気のない中庭を選んだ。

中庭にはベンチが設置されてあり、植物も植えてある。大きな気が何本か直線状に並べられていて、それを挟むようにベンチが左右に置かれている。


閑散とした場所だ。


白夜と言えば、中庭にあるビオトープを覗き込んでいる。

ビオトープには亀やメダカが住んでいる。

しかし、掃除されていないビオトープには緑の藻がびっしりと隙間なく繁殖している。

まぁ、でもビオトープと言う名前からして掃除するのもおかしい話しなのだが。


ベンチに諏訪と一緒に腰かけながら早速話を切り出したのは諏訪の方だった。


「綾瀬のことなんだけど…。」


ぼそりとつぶやく諏訪。

俯いた状態で視線は地面を向いている。

諏訪の髪が重力に倣って下に垂れる。


「あぁ、実際どうなんだ?」


僕は諏訪とは対照的に空を眺めて答える。



「綾瀬のことは…好きだけど…。」



僕は上を向いているので諏訪の顔は見えない。



「好きだけど?」


諏訪が、ガバっと音を立てながら顔を上げた。


「どうして良いかわからないの!だって綾瀬女子だし、この気持ち伝えたところで…付き合ってくれるはずもないし、それに私…。」


あげた視線を再び地面に戻す諏訪。


僕はベンチに浅く座り直し、諏訪の顔をのぞき見た。

涙目である。


「…どうした?」


僕が静かに聞いてみると諏訪は若干うるんだ瞳で僕を見つめてきた。

涙目の女子と言うのはなかなか破壊力が高いというもので、僕は思わず視線を反らす。


「ねぇ神原、絶対このこと誰にも言わないでよ。」


「言わねぇよ、だからそこは心配しなくてもいいぞ。」


すると諏訪は覚悟を決めたようにポツリポツリと話し始めた。



「私ね、この前さりげなく友達にね、その…女の子と女の子の恋愛ってどう思うーみたいなことを言ってみたわけ。別にちゃんと自然な流れでそう言ったから別に怪しまれなかったわけだけど…。」



恥じらいながら喋る諏訪。

黙って頷きながら聞く僕。



「その中に綾瀬もいたわけだけど…。その中の一人が言ったんだよ『ありえない』って。『想像してみただけで吐き気する』って。他の子たちも同じ様な反応…。綾瀬までも…。」



辛い言葉だっただろう。

まさか言いだした本人がそういう状況なんだ。

僕だって「男と男の恋愛ってどう思う」なんて聞かれたら否定してしまうだろう。

でもそんなの、軽く言われたから軽く返しただけで。



「ものすごいショックだった。軽々しく言った自分に後悔しちゃったよ。その後はすぐに違う話題になったけど、全然会話した内容覚えてない。」



何もしてないのに振られたようなものだからな。



「でもだからって綾瀬のこと好きなのは変わらない。だから辛い。」



でも例えそんなことであきらめたらそんなのウソだ。



「言いたくても言えない、断られるのがもう目に見えてる。そしたらいつもみたいに綾瀬と接することなんてできないじゃん。」



ごく自然な考え。



「正直、もうどうすればいいのかわからない。」



どちらを取っても負の結果にしかならない諏訪の気持ち。

思いを伝えたくても伝えられない女子。


ただ相手が女子だということだけで。



「…話はわかった。」


一気に言い終えた諏訪はグスっと鼻を啜り、制服の袖で目に溜まった涙を拭いた。



「まぁ、一般的な意見だが…お前の気持ちを本人に伝える他に何か良い方法でもあるのか?」



諏訪が涙目で僕を睨みつける。



「わかってるよ、そんなこと。」



「…自分が一番わかってる。」



もちろん僕は何も用意無しにこの問題を解決しようと思ったわけではない。


過去に一度、僕にはこの経験がある。

勘違いしないで欲しいのは、それが僕自身ではないこと。


高1の時、またとある女子が同じ状況に陥っていた。


この時にも僕は彼女に協力をした。


そして見事彼女は幸せを開花させた。



「そうだよな。よし、じゃぁお前に会ってほしい人がいるんだ。」



話しの脈絡のない言葉に諏訪はキョトンとしていた。




「…会ってほしい人?」


「あぁ、ぜひ会ってお前の悩みを相談してやってくれ。必ず力になる。もちろん俺も協力する。」


「それって誰…?」


「まぁ、今日はもう帰っていないだろうから、また明日会うことにするか。」


僕は立ちあがり背伸びをする。


諏訪は座ったまま困惑の表情を作っている、

突然、会ってほしい人がいる、なんて言われたんだ、当然の反応である。



「お前の気持ちきっと綾瀬に届くよ。」



そういって僕は中庭を出て行った。

僕の帰りに気がついた白夜が鎌をカシャカシャ鳴らしながら追いかけてくる。

諏訪も追いかけてきて、正門まで一緒に帰った。




帰り道、白夜に話しかけられた。


「誰かと協力して解決するんだ?なるほどね、そうすれば気持ちを満たされる人も増えるもんね。」


僕はポケットから携帯を取り出し文を打つ。


≪まぁね。少なくとも俺を合わせて4人は満たされるだろ。≫


もしかしたら5人かもしれない。


「良い考え。でも全然追いつかないけどね。」


≪まだこれからさ≫



夏になると日が暮れるのが遅い。

湿った空気が流れる。


まだ暗くなるには早すぎて、空は青々と輝いている。


例え沈んだとしても、すぐに太陽は昇ってくる。


そうだ、まだあきらめるには全然早すぎたんだ。



家に帰ると、ひとまず自室に向かい制服を脱ぐ。

僕の高校は男は学ラン、女子はセーラー服だ。

と言っても今は夏で学ランは着ていない。

Tシャツ姿になった僕はベッドに大きく横になり、軽く目を閉じてふぅと一息ついた。


いつも父は夜に帰ってくるので父は家にはいない。


「なぁ白夜。」


白夜は手に僕の漫画を持っている。


「なに?」



続く

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