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2話 死神が隣にいる生活

「あなたの魂の履歴、悪いけど見させてもらったよ。」


朝起きて、目の前にいた死神がそう告げた。

自室のベッドの上、正確には僕の腹の上に乗っかっていた。

死神と言えども見た目は少女だ、あまりにも恥ずかしすぎる状況だ。


「お、降りろ!」


死神には触れることができる。

死神をどかしながら僕はベッドから抜け出た。


「で、どうだった…。」


「朝からなんだか暗い話でごめんね…。」


「いや、いいんだけど。」


それにしても履歴と言うのはどのような感じで蓄積されているのだろうか?

履歴と言えば、思いつくのはインターネットの履歴。

何月何日何時何分で記録されている。

魂の履歴もそのような感じで分かるのだろうか。

いや、デジタルではないんだ、分からないだろう。


「魂の履歴って言うのはー、うーん…。」


「なんだよ、教えてくれよ。」


「見る方が早いね。」


「え?」


冷や汗が出た。

見る、可視できる。

可能なのか?


その瞬間死神は僕の懐に手を静かに入れてきた。


「ちょ!何やってんだお前!」


この死神の存在自体信じがたい話なので、僕はもうそこまで目の前で起こる出来事にそこまで驚くことはなくなっただろう。

しかしいきなり懐に手を突っ込まれたら、それは驚く。

懐と言っても服の中ではなく、体の中だ。

慣れた手つきで死神は僕の体から手を引き抜く。

その手には黒い球体があった。


「これがあなたの魂。黒いでしょ?」


「…黒いな。」


魂と呼ばれた黒い球体から、一本の線が僕の体とつながっている。


「もしかしてこの糸みたいの切ると、俺って死ぬの?」


「うん。ちなみにあなたにその糸は切るのはできない。この鎌じゃないと無理。」



で、と死神が話を戻した。



「見ての通りあなたの魂はものすごく汚れてる。履歴を見るにあなたは悪い行いはあまりしていないけど、病気のおかげですごく負担がかかってる。秒単位で履歴が残ってる。あなたの病気ってなんなの?」



気になるのは当然だろう。



「俺の病気か?俺の病気は…、そうだな原因不明の病で心臓を他の人よりも早く動かさないと全身に酸素が送れないんだ。って、わかる?」



この話は少女にはまだ難しかっただろうか。


でも少女はこう言った。

そしてそのあとで僕はとても驚いた。

当たり前だ。



「馬鹿にしないで…。私見た目はこれだけど、年齢的にはあなたと同じだよ。それくらいわかる。」



見た目はぜいぜい小学生4、5年生くらいだ。

この見た目で僕と同じ年齢。

…年を取らないのか?


「マジかよ…。よくわからないぞ…。」


「いずれ教えてあげる…。」


「何を?」


「私が死神になった理由、とか。」


「?」


「で、あなたの病気はそれで心臓に負担がかかりやすいということね…。」


死神は話を戻した。


「そうだ、心臓って動く回数決まってるだろ?その限界が近いんだと。」


「…。」


死神は僕の魂を持ったまましばらく黙ってしまった。

僕がため息をつくと、死神はそれを合図のように喋り始めた。


「とにかく、時間がない。あなたは一刻も早く良い行いをしないといけない。」


「でもちょっとまて、病気を治さない限り俺の魂はいくら磨いても汚れていくぞ。」


疑問に思っていた点だ。

考えなくても普通に気になる点。

…良い行いをすれば病気が治るとでも言うのだろうか。

いや、治ったところで俺の心臓の限界は近い。

少なくとももう長くはもたないのは確かだ。


今更になって結局僕は死ぬのだと感じた。


「…。」


「それに今更だが俺の心臓はもう限界に近い。治ったところでほとんど意味がない気がするんだが…。」


死神が再び黙った。


「結局、無理なんじゃぁ…。」


僕はベッドに倒れこむ。

一瞬見せた希望が暗い闇に飲み込まれ、僕を差す光はもうどこにもない。

あるとすれば窓から差す朝日だけだ。

でもこの朝日にはなんの意味もない。


「馬鹿ね、心臓を動かしてるのは魂そのもの、原動力は魂。魂が綺麗になれば心臓はずっと動き続けるよ。」


救いの手。

はたしてこの少女は本当に死神なのだろうか。

僕にはとてもそうとは思えない。


朝日がまぶしい。

ベッドから体を起こすと僕の顔は自然に笑っていた。

今更理屈的なことも言ってられない。

僕は死神を信じることにした。


「でも良い?本当にたくさんの良い行いをしないといけない。」


「あぁ、まだ死にたくないしな。」


「あ、でも大きな良い行いなら汚れを磨く力は強い。」


「たとえば?」


「たとえば、落ちていたお財布を交番に届けるのを1ポイントとしたら、…うーんそうねぇ…。他人の恋を実らせれば100って感じかな。」


「…恋…、100だと?」


「たとえ話だけどね。」


考えた。

誰か恋愛で困ってるやつはいないか。


「…わかった、早速恋を実らせてやろう。」


死神が戸惑う表情を見せた。

僕は学校に行く支度をするために死神から離れて壁に掛けてある制服に手を伸ばす。


「おい、いつまで俺の魂もってんだ、早くしまってくれ。」


体と魂を結ぶ糸は結構伸びるらしい。

違和感は感じない。


「あ、うん。」


死神は僕の元へ近寄り持っていた魂を僕の懐に突っ込んだ。

制服を着替え終えるとスクールバックに荷物を詰める。

朝食を摂るため自室を出て一階の居間へと向かう。

机の傍にスクールバックを置いて、冷蔵庫から適当に食材を取り出し簡単な朝食を作った。


卵を焼き、パンを焼く。

牛乳をコップに注いで朝のご飯が完成した。


死神は僕の傍を離れることはなかった。


父はこの時間はすでに会社に出勤している。


8時。


僕は家を出る。

あと一週間ほどで夏休みだ。

学校の生徒や先生は僕が余命宣告されたことをまだ知らない。

知っているのは父とこの死神だけだ。


僕が病気だということは知っているのだが。

でも病気と言われても見た目はどこも、他の人と何ら変わりはない。


「ところでお前は俺についてくるのか?」


朝食を摂りながら僕は死神に尋ねた。

死神はいつの間にか僕の正面の椅子に座っている。

身長が低いので足が床に着いていない。


「うん、どうせ一人でいてもやることないし。」


「死神って本当に魂取るだけなんだな。」


「その人を認識できるようになって初めて取るんだけどね。」


「認識できないまま取ることって出来るのか?」


「できるよ。でもそれは違反。だってその人まだ人生があるもの。」


「人生奪うと違反なのか?」


「うん。」


「けっこう死神って人のこと考えてるんだな…。」


「…。一体どういう偏見?」


「さぁ…。」


朝食を食べ終わると、食器を台所へと持っていき、水がたまった桶へと突っ込んでおく。

その後は洗面所へと向かい歯を磨く。

終わると僕は玄関に向かい、靴をはく。


あまり運動をしないようにと高校は家から歩いて行ける距離にある、10分歩けば着く。

父の提案だ。



「あのさ…。」


「?」


「お前って俺のクラスメイトとかや担任の先生にも見えちゃうのか?」


死神は死を間近にした人にしか見えない。

周りに死を間近にした人がいればその人にも見えるとも言っていた。


すると当然クラスメイトや担任の先生にも見えるはずだ。

彼らは周りに死を間近にした人を持つ人に当てはまる。


この死神がクラスにいればたちまちクラス中は大騒ぎになり騒然とするだろう。



「周りに死を間近にした人がいる人にも死神は見えるんだよな?」


「うん。」


「ってことはクラスのみんな…。死神が見えちゃってるんだじゃないか?」



そうだ、もし俺が死ぬのであれば、そういう仕組みになっている。



「…。実はね、私みたいな死神は私一人くらいしかいないの。」


「?」


「普通死神は人間と接触は絶対にしない。クラスのみんなに死神が見えるというのは事実。でも本人は自分が死神を見ているなんて気が付いてない。」


「死神って隠れてるのか、どっかに。」


「普段は姿を消しているの。」


「なんか話がよくわからないな…。」



死神は、死を間近にした人、或いは周りにそういう人がいる人にしか見えない。

と、すると僕が今死神を見ることができるのは、僕がそういう人間だから。

でも死神の話によれば、死神は人間と接触することはなく、姿を消している。

ではなぜこの死神は僕と接触してしまった?

それはこの死神は他の死神とは違うからだ。


…。



「とにかく、大丈夫、見えないから。」


靴を履くためだけの玄関で少し長話をしてしまった。

靴はすでに履き終わっていた。


玄関を開けて外へ出る。



僕はこれからたくさんの良い行いをしなければ生きていくことができなくなる。

それは根本的な病気の治療でもある。

まさか良い行いが病気に効く最も良い薬だったなんて思いもしなかった。



この死神の言っていることは次から次へと疑問を僕に作りださせる。


僕は学校へと歩き始めた。

朝日はまだ差している。












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