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五百年前の記憶 2

「おーい!」

なんだろう……声がする。

「子どもだ!」

「なんでこんな子どもが?傷だらけじゃないか!」

「早く村へ!姐さんに診てもらわないと!」

薄らと目を開ける。たくさんの大人がボク達を囲っていた。大人がボクとサラを抱えると、歩き出した。ボクは再び眠りについた。

そして、目を覚ますと室内にいた。最初はやっぱり夢だったんだって思ったけれど、知らない天井だったし、知らない人が顔を覗き込んできたので、希望は打ち砕けた。

「坊や、大丈夫かい?」

「大丈夫に……見えると思う?」

「それは失礼。」

「妹は?ボクの妹はどこ?」

「坊やと一緒にいた女の子かい?それなら、別の部屋で寝かせてるよ。」

ボクはガバッと起きて、ベッドから降りようとした。でも、足が痙攣して動かなかった。

「それじゃしばらく休まないと、本当に動かせなくなるよ。」

「……あなたは?」

「アタシ?アタシはケイリー。この村の薬師であり、医者さ。皆からは姐さんって呼ばれてる。坊やはコンヘラ地域出身だろう?」

「うん。ボクはレイサー。」

ケイリーはとても不思議な人だった。耳が動物のように長く、まるで人形のように指の関節には境目があった。

「……もしかしてだけど、奴らから逃げて来たのかい?」

「奴ら?」

「厭世部隊だよ。商人が言ってたのさ、コンヘラシオン山を見ていたら、不気味な翠色の光が見えたってね。でも、ドラゴン騎士団の人たちは近づけなかったんだと。吹雪がすごくて見えないってさ。」

あの光景を思い出した。ボクとサラを放り投げて、炎の中に包まれたボクの家族。そして逃げ惑い、餌食になっていく村の人たち。思わずボクは大粒の涙を流して大泣きした。

「レイサー……大丈夫。アタシたちが着いてるよ。」

ケイリーはボクの頭を撫でてくれた。故郷から逃げてから初めてだった。

数時間休んで、やっと歩けるようになった。そして真っ先にサラの元へ向かった。サラは苦しそうに息をしていた。あの黒ずみはさらに広がっていた。

「サラ……。」

「残念だけど、アタシには治せない。」

「どうして?医者じゃないの!?」

「病じゃないんだよ。これは、黒魔術さ。」

「黒魔術?」

「厭世部隊が使う邪悪な魔法。黒い煙のようなものと、翠色の炎や光を扱ってる。あいつらは、黒魔術の塊である邪龍を駆使してくるんだ。」

邪龍……父さんが言ってた。

「どうしても治せないの?」

「黒魔術を浄化する方法は未だに解明されてないよ。……アタシの故郷なら、もしかしたら……いや、無理だね。我々ができるのは弱らせることだけだって。完全には取り除けないと。長が言ってた。」

「弱らせることだけでも!妹が苦しんでるところなんか、見たくない。」

「……ごめんよ。レイサーにはトクベツに教えたげるけど、アタシは故郷の皆が生まれつき持つその力を持たずに生まれたんだ。アタシはそのせいで、追放された。」

「あなたの故郷はどこに?」

「申し訳ないけど教えるのは掟破りでね、教えたら追放どころでは済まされない。それで、自分で家を建てて、細々と暮らして、通りかかる人を治療してたら、村ができてた。」

ケイリーは明らかに人ではない。子どもながらそう思った。

そして、村を散策した。大きな神木が中心に立ち、その神木がケイリーの家だった。神木を囲うようにして家が建ち、美しい灯篭が幻想的だった。

ケイリーの家……病院は最も古く歴史があり、知る人ぞ知る病院だった。

ここに暮らし始めて1週間。毎日ボクはサラに会い、本を読んで黒魔術を取り除く方法を探した。そして今日もサラに会いに行った。いつもなら手を握っていたけれど、ケイリーに止められた。黒ずみが体に入ったら今度は自分も黒魔術に汚染されると。

「サラ、にぃにが来たぞ。」

返事もせず、ただ苦しそうに息をするサラ。自分も辛くて、苦しくなる。

「ごめんよ。全部ボクのせいだ。」

全部悪い夢だったらいいのに。サラ、きみの笑顔が見たいよ。きみと一緒に雪合戦がしたいよ。また涙が溢れる。

「……にぃ……に。」

ハッとした。久しぶりにサラが声を出した。

「サラ!どうしたの!?なんでも言って!」

「……助……て。痛い……にぃに。」

「絶対に助けてやるから。」

すると、サラが何度も咳き込んだ。咳き込む度に、黒ずみがどんどん広がった。ボクの中で、何かが壊れた。ボクは後ずさり、キッチンへ向かった。

「レイサー、大丈夫かい?」

「……うん。」

ケイリーの様子を見ながら、包丁を取り出した。そして、サラの元へ向かった。

「レイサー?」

ケイリーに声をかけられても無視してサラの元へ向かった。そしてサラの上に跨り、包丁を構えた。

「……にぃに。」

「サラ、今助けてやるからな。」

「……ほん……と?……へ……にぃ、に。だい……すき。」

今までのことがフラッシュバックした。笑顔で遊ぼうとボクに言うサラ。ボクの手を引っ張って走り回る。ケーキが大好きで、雪が好きで……大事な大事な、愛する妹。もう、助からない、助けられない。

「ああああああ!!!」

大きく叫び、包丁をサラの喉に突き刺した。血しぶきがボクの顔に飛び散った。

「レイサー?……レイサー!どうして、そんな。」

ケイリーが走ってボクに近寄った。ボクは空に向かって大泣きした。

「レイサー……ほらおいで。大丈夫。大丈夫だからね。」

ケイリーがボクをベッドから降ろし、ハグをして撫でた。ボクが流した最後の涙だった。

ケイリーがサラのお墓を建ててくれた。

「……ごめんなさい。」

「謝る必要なんてないさ。レイサーもよく頑張ったよ。さぁ、手を合わせよう。」

お墓に花を添えて、手を合わせた。そして、ベッドに寝転んだ。忘れてしまおう。何もかも。


そうして数年過ごした。気づけばもうすっかり大人になり、ケイリーの弟子入りしていた。薬の作り方、扱い方、治療の仕方、全てを教わった。ケイリーはすごい腕前だった。ケイリーの治療は確実だった。故郷の医者以上だった。……故郷……か。

怪我を追った旅人の治療をしながら考え事をしていた。黒魔術を治す方法は本当に無いのか、ダヴィンレイズ王国の人なら知っているのではないか。

「はい、終わったよ。しっかり休めば、すぐ治るよ。」

「ありがとう。助かったよ。」

旅人を病室に案内すると、サラのお墓参りをした。

「お疲れさん。ずいぶん上手くなったね。アタシを抜いちまったんじゃないかい?」

「まさか!そんなはずないさ。」

そして深夜になり、寝る前にケイリーとお茶をしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。

「ボク、出るよ。」

「頼むよ。」

扉を開けると、馬を連れた兵士がいた。大きな袋を持っている。こんな時間に怪我でもしたのだろうか。

「レイサー殿ですね。」

「そうだけど、なにか用かい?」

「お預かり物です。」

「え、誰から?」

「では。」

「ちょっと!」

兵士はボクに大きな袋を押し付けると、馬に乗ってさっさと行ってしまった。溜息をつき、扉を閉めた。

「誰からだい?」

「兵士。なんかボクに届けものだってさ。」

そういいながら大袋を机の上に乗せた。意外とずっしりとしていた。袋の中を見ると、青い大きな石が入っていた。青い石を取り出す。

「それは……。」

「なにこれ。」

「卵だよ。ドラゴンの卵だ!」

「えぇ?」

「やったじゃないかレイサー!ドラゴンライダーになるんだよ!ドラゴンに選ばれたんだ!」

そうか、ボクはライダーになるのか。でも、興味無い。きっと凄いことなのかもしれないけど、どうでもいいかな。袋の中に入っていた手紙も読んだが、大したことは書かれてなかった。ドラゴンに選ばれたということと、ドラゴンが空を飛べるようになったら必ずダヴィンレイズ王国のドラゴン騎士団に入れということだけだった。

数時間が経ち、ケイリーも寝てしまった。ボクは卵の方を見た。そして、卵を持って外に出ると、川の前に立った。

「……やめとこ。」

はぁ。キミのせいでボクに自由が無くなった。一体どうしてくれるんだい?

結局帰ってくると、ボクは眠くなるまで黒魔術の研究をしていた。研究と言っても、サラの容態を思い出していただけだったけど。ドラゴン騎士団か……確かに入れば黒魔術に近づける。そもそもライダーは黒魔術に汚染された時、どうしているのだろう?


1週間が経ち、ドラゴンが生まれた。その姿にボクは驚愕した。

「なんで……。」

「あら、可愛らしいドラゴンね〜。」

嫌な記憶がどっと押し寄せた。サラが壊れる前のあの時。山奥に行ったあの日。

「なんで蛇の姿なんだよ……。」

ボクのドラゴンは蛇の頭をし、手足の一部が羽毛に覆われ、翼は柔らかい布のような、鳥の翼のような見た目だった。目の色と、1部分が薄緑色だった。緑色は故郷を、家族をめちゃくちゃにしたあの日を思い出す。ドラゴンに罪は無い。でも、こんな奴と一生共に生きるなんてたまったもんじゃない。

「レイサー、どうしたんだい?」

「い、いや……なんでもないよ。」

それから蛇のドラゴンはボクに着いてきた。

「着いてくるなよ。」

ドラゴンは首をかしげ、小さく鳴いた。

「あっちへ行け!」

そういいながら石を投げた。ドラゴンは走って逃げて行った。これでいい。これでいいんだ。なぜキミがこんなボクなのに選んだのか知らないけど、ボクは蛇が嫌いなんだ。あいつと同じじゃないのはわかってる。あいつは黒くて、大きくて、不気味なカメリア色のピンク模様が身体中に浮き出てて、恐ろしかった。でもあの子は、綺麗な淡い青色の鱗、落ち着く薄い緑色のつぶらな瞳で……表情はどこか、サラに似ていた。

「……サラ。」

結局、忘れられなかったな。

「レイサー、ここにいたのかい。あれ、ドラゴンは?」

「ケイリー、ボク、蛇が嫌いなんだ。どうしてもあの子を好きになれなくて……今後ずっと一緒にいるなんて、耐えられないよ。」

「そうかい。……ドラゴンがどんな姿で生まれるか、知ってるかい?」

「知らないさ。」

「ドラゴンがどんな姿で生まれるかは、あんた自身によるんだよ。」

「ボク自身だって?まさか!蛇が嫌いなのに?もしかして、嫌いなものも?」

「そうなんじゃない。あんたは蛇が嫌い。でもドラゴンは蛇の姿で生まれた。それは、あんたの奥底では、何か蛇に対して強い思いがあるんじゃないのかい?それか、あんたが目指しているものは、蛇と関係があるとかね。」

本当に、そうなのだろうか?でもやっぱり、サラに呪いをかけたあいつがチラつく。

突然、甲高い悲鳴が聞こえてきた。

「なに?」

「まずいね、何かあったみたいだ。」

嫌な予感がする。でも、1歩が踏み出せなかった。助けに行って、もし厭世部隊だったら?助けられても、逃げて、ここに来てしまったら?また故郷と同じ目にあったら?

「何してるんだい!行くよ!未来のドラゴンライダー!」

ケイリーはボクの手を引っ張った。

悲鳴が聞こえてきた方へケイリーと一緒に走ると、徐々に暗くなってきた。湿地林だ。更に走ると、見えてきた。そこにいたのは、ボクのドラゴンだった。周りには、厭世部隊がいた。ボクのドラゴンを抑え込み、鎖に繋げていた。

「お前たち!」

「なんだ?お前ら。」

「その子を解放しな!」

「嫌だね。邪龍の餌にするか、主様に献上するのだ。」

動け動け動け!何をしているんだボク!無理に足を動かす度に、あの女にぶたれ、逃げ出してしまった自分を思い出した。そして、あのドラゴンが鳴き声を発した。それにハッとした。その瞬間、ドラゴンがサラに見えた。

「サラ!!」

走って奴らに突っ込んだ。奴らはボクの動きを読めなかったようで、1人はボクのタックルによろめいた。しかし、もう1人が剣を構えた。

「まったく、強くなったね……あんたたち!その子たちに手を出してみな。アタシが許さないからね。」

「あぁ?ただの女に何ができるってんだ。」

ボクがタックルした奴に髪を引っ張られた。

「ふっ、ふっはははは!ただの女?アタシが?」

「な、何がおかしい!」

ケイリーの手首から何かヴェールのようなものが伸び、結膜と瞳が薄い青色になり、瞳孔が猫のように縦に切れると黄色くなり、手足が鳥のようになった。まるで天から舞い降りた女神のようだった。本で読んだレイビン人やデイサル人のように、どこかの地域の人種?でも、そんな人種は本になかった。

「な、なんだお前は!?」

「一応言っておくけど、アタシに黒魔術は効かないよ。分かったら、ここを去れ。そして二度とうちの子たちに手を出すな。」

そう言うと、厭世部隊が逃げ出した。

「……はぁ。これで襲いかかって来たらどうしようかと思ったよ。アタシは力を使えないからさ。レイサー、大丈夫かい?レイサー?」

「……す」

「?」

「すっげ〜!姐さん!」

「おやおや、ははっ!あんたやっと姐さんって呼んだね!そうだ、あんたに特別に教えたげるよ。」

「なにを?」

「アタシの本名は、リケ=フェル。故郷ではリフェルって呼ばれてた。」

もっとケイリーについて知りたいと思ったが、ドラゴンがキューキューと鳴きながらボクに近づいてきた。

「さ、アンタはライダーになるんだよ。ライダーにならなかったら、この子は生きていけない。自分が選んだはずの人間がいなかったら、大人になれずに、そのまま死んでしまうのさ。」

「そうなの?」

「そ。ドラゴンは野生になれない。」

大人になれずに、死ぬ。ボクはまた、サラを思い出した。今も生きていたら、きっとサラも大人になっていただろう。美しい女性に、きっとなっていただろう。ボクは小さなドラゴンに手を差し出した。ドラゴンは、頭を擦り付けた。触れた箇所に、痛みが走る。見ると、手首にひし形の結晶が埋め込まれていた。

「それには魔法が込められている。ただの水晶じゃない。ドラゴンの水晶だよ。アタシは魔法を持てなくて、一族の恥だって言われたけど、あんたはドラゴンの魔法を持った。アタシ以上の、世界一の医者になるんだよ。」

「……姐さん。うん。絶対になってみせるさ!」

そうしてあれから1ヶ月が経ち、ドラゴンが飛べるように、喋るようになった。

レイサー、やっとお話できるね!

「そうだね……。」

ボクのドラゴンは、少々幼い女の子のような、でもどこか大人びた声をしていた。そして自分をティルキスと名乗った。彼女の背に跨って、空を飛んでも、なぜか何も感じなかった。楽しくなかった。こんなんで、ドラゴン騎士団になれるのだろうか?なっても、着いて行けるのか?

「……姐さん。」

「どうしたんだい?」

「ボク、ドラゴン騎士団にはなりたくない。」

「ならなければいいじゃないか。」

「え、そんなことってできるの?」

「アタシはドラゴン騎士団の事なんか全然知らないけどさ、そういうリーダーかなんかに頼めばいいじゃないか。」

いや、さすがに無理じゃ……。このままここで暮らそうかな。でも、黒魔術を知るには、王国に行かなくちゃ。そして、黒魔術に苦しんでいる人々を、救うんだ。

「それでレイサー、あんたはいつ王国に行くんだい?」

「今日には出発するよ。ドラゴン騎士団が、すぐ来いだってさ。」

「そうかい。寂しくなるね。」

「もう二度と会えないのかい?」

「会えるさ。」

それから、ボクたちは荷造りを始めた。ティルキスも手伝ってくれた。ティルキスは何度もボクに話しかけてくれたけど、ボクは軽く流していた。そしていよいよ出発の時。村人皆が見送ってくれた。

「またいつでも帰っておいで。」

「うん。姐さん、皆さん、今までありがとう。本当にありがとう。」

ボクはティルキスに乗ろうとした。

「あ、レイサー、ちょっと待って。」

「うん?」

姐さんが近づいてきて、紙を渡した。

「いいかい、もし王国が滅びそうになった時は、霧が深く、最も巨大な森であるトゥラファの森に行きなさい。皆と一緒にね。そして、合言葉を言うんだ。この紙はその合言葉だよ。肌身離さず持っているんだ。」

「……分かった。」

そして、ボクはティルキスの背に跨り、空へと飛び立った。

ねぇレイサー。

「ん?」

あたし、レイサーが笑ってるところが見たい。

「笑えない時なんていくらでもあるだろ。」

そうだけど、ちょっと笑わなすぎ。しんどくても、笑ってみたら?

「……キミがいなかったら笑えるかもね。」

そう言うと、その場でホバリングして止まった。悲しげな表情をした。冗談のつもりで言ったが、ティルキスは真に受けてしまったようだ。

「冗談だよ。」

嘘。あたし覚えてるよ。小さい頃、レイサーはあたしを避けた。あたしが選んだ主はあたしを必要としてないってショックだった。でもね、あの時助けてくれたの、今も覚えてる。あたしにとって、とても特別な日だったんだよ。だから、レイサーが望むことなら、なんでも言って。あたしが要らないなら、必要ないなら……言って。

「キミには関係ないよ。ボクが勝手に、昔を思い出してキミを嫌っているだけさ。そしてそんな自分が嫌いなんだ。昔のことをズルズルと引きずる自分が。」

昔のことを引きずるのって、悪いことばかりじゃないよ。レイサーは、昔を思い出してあたしを助けてくれた。サラって……大切な人なんでしょう?

「大切も何も……妹だよ。たった一人の妹を、ボクは自分で殺した。村の人や姐さんがいても、きっと妹は一人で寂しがってる。」

じゃあ、あたし村に戻る。

「はぁ?」

レイサーはドラゴン騎士団の1人として生きるべきじゃ無いと思う。それに、医師を目指すんでしょ?なら、あたし邪魔じゃない?あたしがいたら、騎士団に入ることになるし。あたし、レイサーの妹を、村の人たちを守ってるよ。

「本当にそれでいいのかい?」

もちろん!いつか必ず帰ってきてね!

ダヴィンレイズ王国が目前というところで降り立った。本当は引き止めるべきなのかもしれない。でも、ボクにはボクの、やりたいことがあった。ティルキスは自分の鱗を1枚剥いでボクに渡してきた。

「えっと?」

たまにはあたしのこと、思い出してよね!女神様みたいに神々しく待ってるから!

「ははっ!なにそれ!」

笑ったね。レイサー。

「……うん。」

じゃあまたいつか。

「うん。ティルキス。」

ティルキスは、ボクに背を向けると、空へと飛び立った。


「ボクの話はここまでかな。」

「ちょっと……色々と質問攻めにしたくてたまらないよ!」

「やめておくれよ。」

「まず、ケイリーは何者なんだい?」

「ボクが知ると思うかい?」

「まだ生きてるのかな?」

「さぁ?」

「それと、君のドラゴンはどうなったの?騎龍晶は?」

レイサーが手首を見せた。薄緑に輝いている。

「まだ生きてるよ。」

「会いに行かないの?」

「行かないし、行けない。」

「あの後、どうなった…」

レイサーが僕の口元に手を当てた。

「まぁまぁ、落ち着きなよ。あの後ボクは、尋問を受けたよ。酷い扱いだった。ドラゴンを捨てたってね。お陰様で…」

自分の頭を軽く叩いた。

「ちょいと障害になってしまったよ。まぁ、医療に支障はでなかったけどね。その変わり、勘が鋭くなった。」

「そんな……。」

「あ、そうだ。黒魔術の使い手であるキミを、色々と研究させてもらいたいんだけど。」

「えっ……と。それは……いや、いいよ!」

「うそうそ、冗談さ。研究したいライダーはたくさんいる。ドラゴンを失ったシャンクや、唯一女のステラとかね。でも、裏社会にいるようなマッドサイエンティストみたいにはなりたくないね。せっかく勝ち取った信頼を失いたくないし。」

「いくらでも協力するのに。」

「それは助かる。君が重傷を受けた時にでも、研究させてもらうとするよ。」

「それはステラにやってること?」

「おや、まさかバレてるとはね。あ、ねぇ、ボクの勘はよく当たるんだけどさ。」

「うん?」

「あと数ヶ月後、何か起きる気がするんだ。」

「え?何が?」

「何かは分からないけど、でも……とてつもなく、胸騒ぎがするんだよね。」

「どういうこと?」

「用心するに越したことはないってことさ。」

「?」


そして本当にその数ヶ月後に、僕はその意味を理解した。

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