表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

緋色の空、菖蒲は揺れる

現在、騎龍武器鍛冶職人として活動するシャンク。彼は元々ライダーであったが、厭世部隊が扱う邪龍ウィケルネクロによって相棒のドラゴンを失っていた。

鍛冶場の空き部屋に置かれた相棒を見て、相棒と共に夢に向かって走り続けた時の頃を彼は思い出す。

ギィギィと鋼とグラインダーの擦れる音が鳴り響く。一区切りすると、休憩するため防護服を脱いだ。

何かする訳でもなく、奥の部屋へと入っていく。そして、埃を被った大きな布が覆いかぶさった物の前に来ると、それを引き剥がした。布から顔を見せたのは、俺の身長と同じくらい大きな緋色の頭蓋骨だった。

俺は頭蓋骨に背を向けると、そのまま座り込んだ。

『なぁ相棒!ライダーが俺たちドラゴンの上で戦えるようになったら、サイコーだと思わないか!?』

騎龍武器というものができたのは、実はつい最近のことだった。元々ライダーというものはドラゴンの背に跨って周りを見るだけで、戦闘はあまりしなかった。せいぜいドラゴンと同じ魔法による遠距離攻撃だけだった。

当たり前だが、相棒と俺はよく話が合った。俺に似てかっこいい物好きで、兵士が扱う武器の本をよく一緒に読んだ。それで、ライダーがドラゴンの背で立ち上がって、兵士たちが扱うようにライダーも武器を扱ったら、最高にかっこいい物ができるんじゃないかと思ったんだ。言い出しっぺはもちろん相棒だった。


「うわぁ!」

大丈夫か!?

「あ、あぁ。思った以上に難しいな。」

今俺は木剣を持って、相棒の背中の上で立ち上がる練習をしていた。

ドラゴンとライダーは心で繋がってる。いつかはできるようになるさ。

「あぁ、そうだな!」

俺の相棒は、橙色に近い赤色をした緋色の体色を持ち、若草色の目をしていた。体や翼にも、まるで夕陽の中鬱蒼としげる草原のように、若草色の虎模様が体中を走っていた。そして何より特徴的なのが、額に伸びる一本の大きな角だった。

「ふぅ、今日の練習はここまでかな。」

お疲れ!俺ももっと落とさないようにバランスを…

「いや、戦闘中は激しく飛んでるだろ?普通に飛んでくれないと練習にならないぞ。」

あー、確かにそうだな。

「じゃあまた後で。」

おう!

俺にはもう1つ、夢があった。武器を自分の手で造るということ。だから城や城下町にある鍛冶場に赴いてはよくその様子を見学していた。

昔は今と違って自由だった。というのも、脅威となる厭世部隊が対して強くなかったからだ。一般部隊でも勝ててしまうほどに。それに、邪龍もそんなに大きくなかった。

そんなある日のこと、新しく見習い生として入ってきた赤龍ライダーが2人もいたそうだ。噂によると、2人とも赤龍ライダーにしてはかなり優秀だと言う。そして今日、そのうちの1人と会った。

青い瞳に黒い髪……なんともまぁ珍しい風貌をした奴だった。そもそも、グラダリウス大陸で青い目を持つ人は滅多にいない。

そいつはロッドという名前で、俺達の練習の様子を見ていたらしい。子供みたいな反応をするやつだったが多分俺よりも年上だったと思う。

ロッドは俺たちがやろうとしていることをやってみたいということで、コツを教えてやったら驚いたことに、初めて間もなくドラゴンの背で立ち上がって木剣を使いこなしたのだ。

正直、嫉妬した。自分達が編み出した技を、それもまだ正式に入隊していない後輩がいとも容易くやってみせるのだから、尚のことだった。

あいつら凄いなぁ!

……よく純粋に褒められるな。俺なら無理だ。

え?嬉しくないのか?

何が?

俺たちで考えた技が、後輩に使ってもらえてるんだぞ?俺はこのかっこいい技が広まってくれるのが嬉しく思うんだ。

ふーん。まぁ、確かに。

相棒がそう言ってくれなければ、俺はロッドに嫉妬心を抱いて酷いことをしていたかもしれない。いや、相棒のおかげだけではない。そもそもロッドは憎めないやつだった。理由はその優しさだった。一般色のライダーや、陛下でさえ手をつけたがらない貧困層にさえ手を差し伸べていた。そんな奴に妬んでも、結果も残せてない自分が情けないように思えた。というか、バチバチにやり合っていたのはロッドと一緒に入ってきたグランクと言う奴だった。あいつはとにかく性格が悪かった。ロッドとは幼なじみらしいが、本当に幼なじみなのか耳を疑った。


あれから数ヶ月が経ち、ロッドは精鋭部隊の司令官となった。驚きもあるが、納得でもあった。その頃にはドラゴンの背に立つのもかなり慣れてきた。

「相棒、見ろよ!すげぇぞ!」

あぁ!これなら自由に造れるな!

俺達は新しく出来た鍛冶場に来ていた。というのも、ロッドが俺達のために鍛冶場を作ることを陛下に頼むと、それを許可してくださったのだ。彼が司令官になってくれて本当に良かった。場所は卵を管理及び査定する龍の巣の隣にしてもらった。まぁ、そこしか空き地が無かったから仕方ないのだが。

色々と忙しくなるなぁ。

「あぁ。やっと夢が実現しそうだ。」

今日は鍛冶場に色々と道具を取り揃えるため、商店街を走り回り、ハンマーやトングに火かき棒、金床等の道具を買い揃えた。他にもすっからからんな鍛冶場をらしくするため、色々と家具を購入して拘った。かなりお金が減ってしまったが、夢のためなら安いもんだ。

なぁ相棒、武器だけでなくドラゴンの鞍も作らないか?

「え?どうして?」

ほら、ドラゴンの鞍を作る人は、本来馬の鞍を作る人だろ?馬だけでなくドラゴンもなんて大変じゃないか?

「うーん。確かに。だが、俺鞍は作ったことないぞ?」

教わればいいんだ。武器を作れるようになった相棒のことだ。鞍も作れるさ。

「じゃあさっそく行ってくる。」

えっ今!?

「早い方がいいだろ?」

城下町で散々動き回ったはずなのに?

「あぁ。じゃ、ちょっくら行ってくる。」

馬の厩舎へと赴き、研究した。正直言うと問題点しか無かった。というのも、馬の鞍とほぼ同じ作り方、同じ素材を使っているせいで、ドラゴンの飛行速度に耐えられないのだ。これは素材から変える必要があるな。丁度いい生き物がレイビン王国にいたはずだから、明日次いでに寄ってみよう。

明日は朝からデイサルディン王国に赴く予定だ。ロッドには許可を得ている。

ロッドが父親から聞いた話によると、デイサリア山脈には周囲の環境に影響を受けやすいベルニウムという特殊な金属があるという。その金属に何かあるのではと踏んでいる。

次の日となり、気難しいデイサル人となんとか交渉、購入し例の金属が手に入った。次は鞍の素材だ。

レイビン王国のレイ砂漠にはワイアーム種が生息しており、数多の種類の革が売られている。その中のフェトラの革は鉄よりも硬く軽いのだ。

レイビン人は気さくな人が多い。すんなり購入することが出来た。

「よし、さっそく作るぞ!相棒、炎を頼む。」

おう!

何度も熱して叩き、冷やす。相棒と一緒にするこの作業がとても楽しくて仕方なかった。

「なんだ!?」

形が剣になったので研磨していると、突然騎龍晶と剣が光ったのだ。光が収まると、剣は相棒の目と同じ若草色に変わっていた。

「これは……。」

なぁ、なんだかこの武器、相棒と同じ感覚がする。なんて言うか、相棒がもう1人増えたみたいな。

「あ、あぁ。俺も同じ感じだ。」

練習台に向かって剣を振るうと、なんと剣は相棒の炎を纏ったのだ。

「レガーレ?なんで剣がその力を?」

俺たちだけの剣になったってことじゃないか?

「だとしたら凄い発見だぞ!ドラゴンの炎で溶けないなんて!」

興奮が収まらない。俺はこの武器を、騎龍武器と名付けた。ベルニウムは幾つか購入したからまだある。ロッドの武器も作れないだろうか?いや、とりあえず次は鞍の試作品を作らねば。フェトラ革の加工はかなり大変だったが、しなやかに曲がってくれるため何とか加工できた。

あれから騎龍武器の研究を進めた。フェトラ革の鞍はロッドのおかげであっという間に広まってくれた。そして陛下がフェトラの革とベルニウムを仕入れてくれることが決まり、気分は有頂天だった。

俺は全てのライダーに新しい鞍を作るため、赤龍部隊を辞退した。そして、騎龍武器について分かったことがあった。それは、ドラゴンとライダーの間柄と同じ繋がりを持つということと、研磨する際に使用者が強く念じて魔力を込めることによりその繋がりを持つということと、魔力を込めた者にしか扱えないということ。

とりあえず、数年かけて現在いるライダー分の騎龍武器と鞍は完成した。総帥を除いて……総帥には違和感を覚えていた。総帥に騎龍武器を作ってないのに、あいつは武器を持っていた。それも気配がただの鉄じゃない。なんだ?あれは。まぁ、気にする必要もないだろう。そしてその数年の間に、ロッドに彼女ができたそうだ。ライダーなのにパートナーを作るとは……自分は若いまま相手はどんどん老いるというのに、何から何まで珍しいやつだ。

「はぁ。難しいな。」

おや?今度は何に挑戦してるんだ?

「ドラゴンの鎧だ。」

ドラゴンには硬い鱗がある。必要ないだろ?

「普通の攻撃ならな。だが問題は邪龍だ。」

邪龍も大して強くない。俺たちなら平気さ。

「……だと、いいんだがな。」

ひとまず相棒の言われるがまま一旦ドラゴンの鎧を練習するのは辞めることにした。まぁ鎧は専門じゃないし、ドラゴンの見た目はほぼ無限のパターンがあるから一々練習してたら素材と時間の無駄だ。他の生き物のように種族で見た目が決まってればいいんだがなぁ。

また更に数年が経った。今俺達は任務に出ている。というのも、前々から徐々に厭世部隊が強くなってきており、今回一般部隊に大勢死者が出たという情報が入った。

「まったく。せっかく時間をかけて辞退したと言うのに。」

いいじゃないか。久々の任務、楽しもうぜ?

……ふ、そうだな。

仲間はロッドとグランクだ。辞退する前からこの3人組とはよく任務に励んでいた。グランクは……まぁ昔と比べてある程度丸くなった印象はある。

久々の実戦だが、度々お遊び程度に鍛錬していたため、奴らが強くなってもそんなに苦戦はしなかった。だが、ロッドは最初に会った時よりも遥かに強くなっていた。

しばらく幾つかの厭世部隊を殲滅し、最後の箇所となった。気づけばもう夕方だった。しかし、最後の部隊はかなり異様だった。

邪龍がいつもと違う。全身に不気味な翠色の紋様が走り、相棒の体よりも一回り大きかった。いつものやつは相棒よりも小さかったのに。それに、よく見るとかなり小柄な男が1人だけいた。1人でどうやって俺たちに勝つつもりだ?こちらにはロッドもいるのに。だが、実際は他の厭世部隊よりも遥かに強かった。あいつは1人で何体もの邪龍を生み出し、そいつらを操っていた。

ロッド達も苦戦していた。ずっと戦っていると拉致があかない。そんな時、一瞬だけ隙が生まれた。俺はこの機会を逃すまいと、相棒の上で立ち上がると、走って相棒から身を乗り出した。剣を逆手持ちし、あのチビ目掛けて落下した。しかし、チビは俺の方を向くと、にやりと不気味に笑った。

相棒!!

気づいた時にはもう遅かった。別の邪龍が、俺目掛けて大きく口を開けてこちらに向かってくるのが見えた。

終わった……死ぬ。

そう思った時だった。突然、相棒が身を呈して俺の前に来た。時間がゆっくりになったように思えた。邪龍は相棒の首に噛みつき、振り回す。

相棒、待ってくれ。頼む。

俺は手を伸ばしたが、何も起こらずどんどん離れていく。そして、相棒の首が胴体と離れた。

急に体が持ち上がった。見上げると、ロッドが俺を抱えていた。それ以降、俺は記憶になかった。気づいたら城に帰ってきていた。目の前には、相棒の頭だけがあった。現実を受け止められなかった。あの時身を乗り出さなければ、あの時ドラゴンの鎧を作っていれば……あの時……あの時……。


それから武器の制作が続かなくなった。何年経ったか分からない。

「……ロッド。俺を殺してくれないか?」

「アホか。お前をせっかく守ったのに、それを無駄にするつもりか?」

「俺を守ったところでなんだって言うんだ。俺が死ねば、一緒に死ねたのに。俺を残すんじゃねぇよ。」

「お前が大事だからだ。」

「大事?は!なら尚更1人にすんなよ。」

「お前の相棒だけじゃない。俺にとってもお前が大事だ。お前が作ってくれた騎龍武器のおかげで強くなれた。他のライダーだって同じことを思ってる。でなきゃ、騎龍武器を作ってくれなんて誰も頼まない。」

俺は俯いた。すると、ロッドは肩を手にかけて言った。

「いいか?この先必ずお前を必要とする時が来る。それまで、お前達が手にした夢を捨てたらダメだ。」

それから仕方なく、細々と武器を作っていた。相棒のために作っていた。そしてロッドは結婚した。数ヶ月が経ち、子宝にも恵まれたそうだ。

3年が経ち、ロッドの奥さんは病気で亡くなった。なのにあいつは俺たちの前ではいつもと変わらず接していた。

更に6年が経った……ロッドが死んだ。俺の相棒と同じように、邪龍に殺されたそうだ。馬鹿野郎。子供を1人残して死ぬんじゃねぇよ。

そして俺は信頼出来る弟子を取った。


「……なぁ相棒。お前が死んでから50年が経った。俺の同期や後輩は皆死んでった。生きてんのはグランクぐらいだ。」

俺は……お前にまた会えるなら……なんだってする。

なぁ……ラヴァイズ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ