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夜の叫びは朝日を呼ぶ

作者: 夜街スイ

 夜よ今夜も僕を見下ろしてるね。


 時刻は深夜にまわる頃に僕は理由もなく外に出る。寂しいから毎日が詰まらんないから理由を探すのは止めよう。


 理由もない深夜の散歩も良いものだ。


 昼間は人やカラスの声で騒がしく、夕方で空が暗くなれば光る住宅や煌びやかな店の光なども消え、街灯のみが光るそんな時間だった。


 不思議と胸が踊る。こんな日も悪くない、朝がもう来なければ良いのに…、そう感じるほど深夜の散歩は楽しい。


「僕は自由だー!」


 暗くなにも見えない街。昼間なら待ち全体がよく見える高台で叫ぶ。夜に気分が上がってか叫んでいた。


「ははは! ………。はぁ…」


 不登校になる前の事をあの日、学校であったことを思い出す。


 中学生の僕は家から近い学校に通ってる。小学校も同じ感じだ。だからか小学校と同じ顔ぶれで良いじゃん! 中学に入ったばかりの頃はそう思っていた。


 クラスでいじめが始まるまでは…。


 初めは軽いノリというやつだった。


 クラスの男子一人が廊下で滑って転んでいるところを同じクラスの仲良し五人に見られ五人が笑う。


「イッテ…」


「ははは! おまえ…ははは」


 そんな笑いで済めば良かった。


 次の日、その転んだ男子をもう一度転ばそう。そんな話をしている仲良し男子五人。そんなに面白いことか? と僕は教室で自分の席に座り聞いていた。


 くだらないと思い僕は無視をした。無視してしまった。自分は関係ないと見て見ぬふりをした。


 その男子はまた男子五人が水で濡らした廊下で転び笑う五人。ゲラゲラと何が面白いのか笑う。


 その日からだ。あの五人のことが怖く感じた。転ばせた男子に対するいじめは始まったからだ。足をかけて転ばせたり鞄を隠したりなど。


 あの日も教室で五人はいじめている男子に向かって何か言っていた。壁に追いやってまるで何かを隠すようにいじめている男子は見えない。


 偶然それを見かけた僕は初めて叫んで止めた。気づけば止めていた。


「もう…止めろよな…そんな格好悪いことなんてダセーだけだ!!」


 小さな勇気は体を揺らす。喉は叫んだからか痛かった。これでいじめは終わり。この日で教室は平和に…、そうなる、そう思った。


「あ…何? ヒーロー参上?」


 僕に詰め寄る五人。今度は僕の番だった。抵抗する…でも暴力は良くない、偽善じみた言葉が頭を過る。では言葉で…聞くはずない、僕の叫びも聞き届かない五人に。


 幸いその時は叫びを聞いた教師が来たから五人からなにもされなかった。


 僕はホッとした。これでこの男子も僕も安全だと、教師に全て話し、五人は教師に呼ばれて行った。きっと怒られているそう思いその日は終わった。


 次の日、登校すると僕の上履きが消えた。


 やはり次は僕だった。


 その日から始まるいじめ。教師から何を言われてか前より陰湿なものが増えた。


 ものを隠すのは前と変わらない。机の落書き、教師の見てないところでの暴力。


 きっと僕が気づかなかっただけで彼もこんな毎日だったんだろう。体の痛みや苦しみは治っても心をすりおろされる感じが心を砕く。


 次の日、僕は耐えきれず学校を休んだ。その日から僕は不登校になった。何もない退屈とさえ感じていた学校には毎日登校していた僕の心は完全に砕けていた。


 教師に言えば良かった…。臆病だった僕にはそれすら言う勇気はなかった。あんなに平気な顔しているやつらだ言ったところでなにも変わらないと。


 あの時の僕が五人に何も言わなければ何も変わらず僕の平和は守られていた。それなのに僕は叫んでいた。


 あの時は後悔はなかったが、僕自身にいじめが向いた時、後悔している僕がいる。


 綺麗事で終わっていればもういじめが起こらなければ良かった。叫んでいた事を後悔して更なる後悔は胸に突き刺さり僕自身で傷を作る。


 夜は自由で何もかも飲み込んでいる。こんな一人の叫びも飲み込んで隠してくれる。


 ポロポロと瞳から流れるものでさえこの時間には何もないに等しい。


 誰にも僕を見つけてほしくない。もうあの家にも帰りたくない…毎日学校から来る担任の教師に対して申し訳ないと思いたくない。


 学校には行きたくないわけではない。


 でも一度でも辛いことがあると向き合えない。誰かの応援や保護は出来てもいざ自分にそれが向くと怖くて向き合えない。


 僕にはトゲの生えた壁でしかなかった。


 そんな高く痛いものに触れる時。どうして僕だけが痛い思いをしないといけない。アイツらも同じ痛みを味わえよ! アイツらも苦しむことを望んでいる。


 だから余計に辛い。僕はそんなやつじゃない。矛盾している心を落ち着かせては暴れる心。


 だからか今夜は外に出たいと叫びたいと思った。


 理由は…やっぱりあった。常に矛盾している僕は理由すら分からず外に出た。


 そろそろ朝日が出る時間だ。太陽らしき光が高台から見える。


 帰りたくない…けど、僕は今日は向き合おう。いい加減その時だ。


 矛盾だらけな僕は自分を騙す。怖いし痛いけどそれを踏み台にして手足を傷だらけにし、刃物だらの台でトゲだらけの壁を登る。


 頭も目も熱くなる。胸はドキドキバクバクする。それでも僕は自分を騙す。今この時出た小さな勇気に従って行かなければ次はもう来ないかもしれない。


 だから、変わるなら今だ。そう感じた。

 

 よし! 帰りは走って帰るか。道も夜よりは多少明るい。走ろう。


 朝日が照らす道を走り誰も車も通らない道路を走る。いつもと違う非現実的な世界を感じて帰宅する。


 まだ誰も起きていない。自室に戻り久しぶりに通す制服に着替え、鏡の前に立つ。


 やっぱり怖い。逃げたいが僕は夜叫んだからか平気だと改めて一呼吸。


「よし! 行くか…うん!」


 まだ校門が開くまで時間があったが、予定表に書かれた教科書を鞄に入れ台所にあったパンを咥え学校に向かう。


「いってきます」


 門が開くまで時間があるからゆっくり歩いて向かう。それでも多少早くついてしまう。待っていると時間が来たからか教師が来る。


「え? 君…もう…」  



 僕はスゥーと息を吸い込んだ。


「はい、もう、大丈夫です。今日から登校再開です…はは…、先生方にはご迷惑をおかけしました」


「いや、それは良いんだ、君が平気ならそれで。本当に大丈夫なんだな?」


 「はい」と返事し校舎に向かう。無事上履きは下駄箱に入っており、職員室から教室の鍵を受け取り教室に入る。


 あとは時間までここで待つだけ。向き合う時を。


 時間は過ぎ、賑やかな声が聞こえてきた。


「え…来てるー不登校くんが! はは」


「もう平気なんかよ?」


「おは…え? 何故いる」


「皆おはよう!」


 同級生と軽く挨拶を交わし、休んでいたときの事を色々聞かれたが誰もいじめについては聞いてこなかった。


「あ…」


 そしてあの男子もきた。僕の前にいじめられていた男子も。


「おはよう…」


「おはよう」


  お互い目を合わせる。挨拶はどこか怯えた声だった。そんなに会うことが辛かったのか。それは僕も同じだ、会ったら何を言えば…会ったからって何か言わなければいけないそんな不安感を互いにはあった。


「あの…あのさ。あの時は…助けてくれ…ありがとう。それとゴメン…助けてあげられなくて…」


「………!。うん! あれはしょうがないことだから良いんだよ、僕からももっと早く止められなくてゴメン!」


 お互いに頭を下げる。そんな異色の状況で教室内はざわつく。


「ははは…」


「これでお互い終わりね」


「うん、ありがとう」


 いじめられていた男子は席に戻る。


 そしてあの五人が登校してきた。前と違い一人づつ登校してきた。


「…! なんだ…学校に来てたのかよ…」


 その後にゾロゾロと四人が来た。


「あっいた!」


 五人とも汗だくのまま登校していた。ぜぇぜぇと息を荒げてこちらに来る。


「いや、家に行ったら朝からいねぇっておまえの母親が言ってたから…良かった…無事で…」


 五人は頭を下げる。一人一人が同じ低さタイミングで一斉に下げるもんだから僕は驚く。どうやら朝から僕の自宅に謝りに行ってたらしい。


「え…! どうしたの?」


「今までごめんなさい...。俺…何も分かってなかった。おまえが苦しさとか痛みとか考えずに…一人勝手に…ごめん!」


「俺も…靴隠したりしてごめん」


 次々と謝ってくる。


 それでも僕は許すべきなのだろうか。さっきまで真っ向から戦う気満々だった僕には胸が鳴る。


 気づけば体は震えている。怖いからではない、苦しいからでも痛いからでもない。納得できないから何でもっと早くそう言ってくれなった。


 そんな言葉にすると醜い感情が胸を踊る。頭が痛い。胸が痛い。もっと苦しめと思う。僕が感じたものを全て飲み込んで初めて僕に謝罪しろ。


 でも…どうしてだろうか。やっぱりあった僕の中の良心は心の叫びを喉に溜め飲み込む。


「許さない…。一生許さないから…。だから一生後悔し続けろ。僕の感じたものはもっと苦しく痛かったんだから…それを背負って生きろ」


「…………わかった…。だけどごめん。俺らがした痛みや苦しみは俺らには理解できないものだ、言葉にされても何もわからない…。だからよ…俺らを…殴れ…。いつでも良い、気に食わない時でも良い一回俺らを殴れ」


「え…聞いてねぇよ俺ら…?」


「……。わかった。なら五人とも拳出して…」


 五人は拳を出す。何人かは納得していないようだった。まわりはざわつく僕が言った行動を理解していない、まあそうだろう。


「これが僕なりの答えだ。これで僕たちは改めて友達だよ」


 五人と拳を合わせる。一人一人コツンと軽く。


「な!」


「はあ?」


「なにそれ…こんなんで良いとか…」


「良いんだよ。どう殴るかは僕が決める。それ殴る箇所や強さは言ってないよね?」


「………はぁ…そうだな…。やっぱ…おまえが正しいな。はは、俺たちは改めて友達だ」


「うん! だからもうこの件で謝るな。忘れもするな、一生、僕たちをいじめたことを後悔しろな!」


「はは…そうだな…忘れることが許されねぇならしょうがない……」


 五人は納得し無事、朝から学級会議は免れた。


 さすがに同級生同士を殴るのはやりすぎだと思う。頭が固いのか馬鹿なのかそう考えてしまう僕らの年頃だからなのか。 


 学校の予鈴のチャイムが鳴る。皆席に座り担任の登場を待つ。


 僕の平和な中学生活はここからまた始まる。

 読んでいただきありがとうございます。気が向いたらで良いので評価やコメントをいただければ幸いです

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