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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

はやにえ

作者: 冬野 菜摘

祖母の家にある山へ涼みに行くと毎日百舌鳥のはやにえのような何かが大量にある

夏休みになりお盆に祖母の家へ両親と帰省した。父曰く「田舎での生活は都会には無い刺激がある」との事だが、わざわざ短い夏休みの日にちを削ってまでは自然学習したくはないものだ。

WiFiもなく家にいてもスマホの通信量が気になって動画もゲームもできたものではない。

暑さも相まってじっとしてられなくなり仕方なく山へ涼みに行くことにした。

山の中に入ると途端に涼しいを越えて少し肌寒く感じた。どうせならここに別荘があればな、なんてゾクッとした感覚を霊的なものと思わないようあれこれ空想した。

しばらく獣道を歩いていると木に違和感を感じた。枝にカエルが刺さっていたのだ。「これは百舌鳥もずってやつか?」

初めて遭遇した異様な光景に自分の知識で納得させる。百舌鳥は自分の取ったエサを木の枝に刺しておく「はやにえ」という習性があるのだ。

しかし納得出来ない不自然さを感じる。「百舌鳥ってこんな大量にはやにえを刺すものか…?」

それによくよく枝を見てみるとカエルは全て刺さっている訳ではなかった。所々千切れては木の枝にぶら下がっている。

ここは百舌鳥の多い地域なんだ。そうに違いない。自分の知識では説明の出来ない光景に無理やり理由を付け、初めて体験する恐怖で祖母の家へ駆け出した。


夕方畑から帰ってきた祖母に「なんじょしたって、そったにオドオドばりして。何かおっかねぇものでもみたんか?(訳:どうしたんだい、そんなにずっとオドオドして。何か怖いものでもみたのかい?)」と聞かれた。

自分はここの方言はよく分からない部分もあるが心配してくれていることは伝わった。そこで森で出会った妙な出来事を話すことにした。

訛りと方言で所々分からなかったが、どうやらこの現象は稀にこの村で起こるらしい。カエルだったり小鳥だったり、木にぶら下がっているものはその時によるのだとか。


「びっきが釣られた次はじゃっこ、じゃっこの次ばとりっこがようかかっとら。そん次ばな…」


ここだけはよく分からない単語があったが直ぐにこの意味が分かる時が来るのだった。


翌日の3時頃、1日で1番暑い時間が来た。昨日の出来事はあれど川で泳ぐのは細菌のリスクもあるし水を張ったタライに浸かる歳でもない。仕方なくまた山へ涼みに行くことにした。

山は相変わらず所々木漏れ日はあれど鬱蒼としている。「確か昨日はこの辺の木にカエルが…」

昨日見た辺りを探してみたがカエルの姿は1匹も見えなかった。しかし代わりにまた異様な光景が目に入ってきた。「…なんで魚が木の枝に…。それにこの数どう考えても自然現象じゃない…」

暑さと暇を持て余していたせいか、得体の知れない恐怖よりその「異常」を確かめたくなり近くのまだ若い木へ登ってみる。すると前日見たカエルと同じ様に小魚も中型の魚も身を裂かれ、腹の中身が飛び出てぶら下がっていた。

「百舌鳥は小型の生き物を刺すのは知っていたが蛇までとは初耳だな」そう思い日が傾き始めた頃家路につくことにした。


翌日、昨日、一昨日の出来事から今日はまた違う物をはやにえにしているのでは?と思い日が高くなる前に山へ向かった。

いつもの獣道を進み目視で分かる枝を探す。随分高い木々のあちこちにカエルや魚にしては大きい影を見つけた。

こういう時のために持ってきていた双眼鏡を覗く。鳥が止まっている様に見えるが何か不自然だ。双眼鏡の倍率を上げ改めて注視してみる。その影は鳥で間違いなかった。間違いでは無かったのだがあからさまに逆さ吊りになっているもの、臓物を撒き散らし木々にぶら下がっているもの。もう百舌鳥のはやにえと呼ぶには異様な、まるでクリスマスツリーを飾る装飾のようにぶら下がっていた。


「何か良くない事が起こっている」3日連続でこの自体は異常以外の何物でもない。もう好奇心などとは言ってられない。「今日見たことを全て忘れよう。忘れなければ到底明日から無事に生きていける自信がない。」

山から転がるように走り出す。日が傾き始めた頃には家に着いたがもう布団に包まり泣きながら震える事しか出来なかった。


障子から差す鈍い光で目が覚めた。泣き疲れていつの間にか寝てしまっていたようだ。

水を飲みに土間へ行くと何やら慌ただしい。

昨日地元の組合で飲みに出ていた父が帰らないそうだ。他の家庭とも連絡を取り合っていたらどうやら他にも帰らない人がいるらしい。

まだ帰って来ないというだけなのに祖母は今生の別れと言わんばかりに静かに泣いていた。「ばあちゃん、父さん達はきっと飲み足りなくて街まで降りていったんだよ。この辺だと夜遅くにお酒を買う店も飲むお店もないからそのうちひょっこり帰ってくるよ。」

そう祖母を励ましてはみたものの、自分の胸の奥に言葉では表せないざわめきがあった。

「私は北の神社の方を探してみるから、○○は消防団の人たちと南の山の方を探してみて」

そう母に言われたものの、あの山に近づく事は二度とごめんだった。でも他の大人達もいるからと無理やり送り出されてしまった。

消防団の人たちと山の獣道へ向かう。中腹辺り、そうこの3日間通った付近だ。あの時もうっすら感じていた異臭が今日は強く感じる。

「うわ!なんだこりゃぁ!!?」

消防団員の1人が山全体に響くんじゃないかという位の大声で叫んだ。

他の団員と共にその人の方角へと向かう。

「嘘だろ、まさか殺人事件なのか…?」

口々に悲鳴、怒号、ありとあやゆる大声が聞こえた。

自分は何が起きているかもう分かっている。

分かっているから見ることが出来ない。

時期に救急車とパトカーが到着し、自分は1度家へ帰ることになった。


家に帰ると祖母はもう泣き止んでいたようだ。そこで祖母はゆっくりと、そしてなるべく標準語を選んで話してくれた。



この村では数十年に1度、異常な猛暑の年がある。その時は必ずカエル、魚、鳥、そして人の順に木の上から吊られる。ぶら下がる生き物はその時によって違うが必ず「食物連鎖の順番」であるということ。そして最後には人が吊られる。吊られた生き物食べこぼしたものであるとされ、そのため身体のあちこちが千切れ千切れなのだという。

最後に人間が吊られるのは山の神が高所で人間を食べ散らかしたためだという。


この事件以降自分は祖母の家へ遊びに行っていない。

なぜなら毎年「過去1番の最高気温を更新」しているのだから。

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[良い点] ホラー小説がどういうのかを理解できた 流石です
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