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第6話 最初の晩餐

大穴に関係する問題が少しまとまったところで医療部隊の人達が心配そうな顔をして大広間に入ってきた


「リッツさん……少し相談があるのですが……」

「どうした?」

「怪我をした兵士の手当はある程度できたのですが、備蓄していた薬草や清潔な包帯なんかが無くなってきました……この先住人の治療や怪我人が増えたりした場合対応が厳しいかもしれません……」

「そうか……各地区の備蓄状況はわかるか?」

「きちんとは調べられていませんが、南と西はここと同じような状況とだけ……」

「あそこは魔物の襲撃もキツかったからな……明日からは巡回も始めるし、備蓄は多めに欲しかったのだがな……」

「そうですね……」

「明日出発するガーディ達に薬草の収集も依頼するしかないか……あいつ薬草とかわかるのか?」


 備蓄状況が思ったよりも芳しくなく、みんなで顔をあわせながらどうしようかと考えていると、ちょうど外からガーディさん達がゾロゾロと入ってくる


「リッツの旦那!少し聞こえたが、おれにぁ薬草なんて繊細なもんはわからんぜ!怪我をしたら唾つけときゃ治るって育ってきたんだからな!ワハハ!」

「笑い事じゃないんだけどな……」


 事態は解決していなくても、ガーディさんの豪快な笑い声で大広間の雰囲気が明るくなる。


「こまけぇことは俺には話からねぇが、旦那!腹が減った!飯食おうぜ!」

「お前ってやつは……だがそうだな、明日からは忙しくなるからな、しっかり食って、休んで欲しいところだな、すぐに用意しよう」

「あら、リッツさんちょうどよかったわ、お屋敷の人と一緒にご飯を作ったからみんなに声をかけようと思っていたのよ」

「アーネス……ありがたい」

「母さん!ありがとう」

「いいのよ、みんな頑張ってくれてるんだもの……私も手伝えることはなんでもやるわ」


 奥の方からご飯のいい匂いが漂ってきて、隣にいたハーミットのお腹がキュウっと可愛く鳴る

「///ブレイブくん……聞こえた?」

「き、聞こえてないよ……」

「ぜったい聞こえてたよぉ〜……」


 恥ずかしそうにしているハーミットになんて言ってあげればいいのかわからず、適当に誤魔化したものの、余計に恥ずかしがってフードで顔を隠すハーミットはとても可愛かった


「あら、ブレイブったら女の子に恥をかかせたらだめよ?」

「だ、だって……」

「ごめんなさいね、ブレイブったら気を使えなくて……私はアーネス。ブレイブの母よこれからよろしくね」

「……ぜ、全然だ、大丈夫です……わ、わたしは……は、ハーミットって言います……」

「あら、人見知りなのかしら、びっくりさせちゃったかしら、ごめんなさいね……ブレイブ!仲良くするのよ」


 そう言って母はリッツさん達をご飯の用意できた部屋へと案内して行った


「ぼ、ぼくたちも行こうか」

「う、うん」





 食事の用意できた部屋に着くと、そこは大広間より少し狭いくらいの部屋で、四角く配置されたテーブルの上には温かいパンやスープが並んでいた


「食糧事情もあるから、ご馳走ってわけにはいかなくてね……」

「いや、アーネス、正しい判断だ。ありがとう」

「そうだぜ!あったかいもんが食えるだけありがてえってもんだ」

「そうですねぇ、研究に没頭していた時よりちゃんとしたご飯なので、私的には毎日これでも構いませんよぉ」

「お、お父さん、恥ずかしいからやめて……」


 みんながそれぞれ料理をみた感想を告げる中、全員が席についたところでリッツさんが前に出る


「改めて、今日は集まってくれてありがとう。食糧事情もあり、少しの酒は用意したが、食事に関してはご馳走をだして労うことも出来なくて申し訳ないと思う。

 しかし、『この食事とここに集まった皆の顔』これをしっかりと覚えておいてほしい。

 1週間後なのか、1ヶ月後なのか分からないが、ここにいる皆が協力して、新鮮な肉が、色鮮やかな野菜が目の前に並んだとき、きっと皆は今日の食事を思い出して、俺たちは前に向かっていると胸を張って言えるはずだ!

 今日、この時が本当の始まりなのだ、ここにいる皆で始めるのだ、これほどの熱意を持って集まってくれた皆がこれからの復興、戦いの柱になるのは間違いない!

 明日からは人も増え、忙しくなると思うがよろしく頼む!

 ーーー乾杯!!ーーー」


「「「かんぱ〜〜い!」」」

 

 こうしてささやかであったかい食事はあっという間になくなり、復興への思いや希望をそれぞれが語っているうちに疲れが溜まっていたのか、1人、また1人と眠りに落ちるのだった



「いてて……よくみんな床でぐっすり寝れるよなぁ……それにしてもガーディさんのいびきはすごいなぁ……寝てる時は全然気にならなかったのが不思議だ……」

深夜3時と言ったころ、体の痛みで目が覚める。僕の体には眠った時にはなかったはずの、母のブランケットがかけられていた。流石に昔のようにベットまで運んだりは出来ないから、せめて風邪をひかないようにとかけてくれたのだろう。

 

 ガーディさんの周辺には今日の打ち合わせの時に仲良くなったのか、探索をお願いした人たちが折り重なるように眠っていた。

 ガーディさんの頭の近くにいる人は流石にいびきがうるさいのか眠っているのに顰めっ面をしている。

  他にも兵士のみんなは壁に寄りかかって武器を抱えたまま寝ているなど、それぞれに特徴があって見ていて少し面白い。

 女性陣の姿がないことから、きっと空いている部屋などが別に用意されているのだろう。

 ふと窓から外を見ると、二階の窓から光が漏れているのが見える。


「あそこは……リッツさんの書斎だ……まだ起きてるのかな?」


 まだ何もできない僕よりも、リッツさんの方が大切だと思うから無理はしないでほしいな……

 そんな事を考えながら足はリッツさんの書斎の方に自然と動いていた


リッツさんの書斎の前に着くと、『ドン!』という音が聞こえたのでノックもせずに慌ててドアを開ける


「リッツさん!」

「ぉ……おぉ?……ん?その声はブレイブか?」


 そこには椅子に座って寝落ちしかけたのか、机に頭をぶつけて、その拍子におでこに書類が張り付いたのか、顔に紙をくっつけて僕の方を見上げてくる、いつもと違ってマヌケなリッツさんの姿があった。


「あははっ、リッツさん、それどうなってるんです?」

「お?、あぁ、なんか目の前が白いと思ったら書類がくっついてたのか……」

「無理はしないで早く寝てくださいよ、さっき皆んなに明日から本番だとか、まずは休息をしっかりとってくれ、とか言ってたじゃないですか」

「ブレイブこそこんな時間に出歩いてるじゃないか」

「僕は床で寝てたら起きてしまっただけですよ、リッツさんはその様子だと一睡もしてないですよね?」

「い、いや、少しは寝たぞ……」

「机にあった紙が張り付くような寝方は睡眠じゃなくて気絶って言うんだと思うんですけど……」


 僕のジトっとした視線と先ほどのアクシデントで居心地が悪いのかリッツさんは視線を僕とは合わせず、誤魔化すように呟く


「ダメですよリッツさん、今のみんなの中心に必要なのはリッツさんなんですから……」

「だからこそだ……俺が間違えたり、遠回りをしてしまえばその分復興が遅れちまう。その遅れが皆の命に関わるとなればおちおち眠ってなんかいられないだろ、今は1秒だって時間が惜しい」

「違いますよリッツさん、僕が言ってるのは『中心で正しい指示を出すリッツさん』じゃなくて、『みんなの意見を聞ける、カッコよくて頼りたくなる大黒柱のリッツさん』が必要ってことですよ。そんなクマだらけのやつれた顔で希望はあるから頑張ろうとか言うつもりです?」


リッツさんはあの食事の後も1人で状況についていたんだろう。あれこれ考えて疲れきっているのが誰の目にもわかるような顔をしていた。


「……そ、そんなにひどいか……」

「子供の僕にもわかるくらいですから」

「ふぅ……そうだな、ブレイブの言う通りだな……またお前には気付かされちまったな」

「ぜんぜん何にもしてないですよ」

「いや、俺に戦い方を教えてくれって言った時も、演説の時も、お前の言葉にははっとさせられる……言葉に不思議な力があるみたいだ」

「ありがとうございます……そういえば戦いを教えてもらうのはいつ頃になりますかね……」

「おれも教えると言った以上、しっかり基本から教えるつもりだがこの状況だからな……日中はきっと忙しくなるからな、明日の夕方あたりから少しずつやっていくのはどうだ?」

「教えてもらえるならいつでも大丈夫です!楽しみだなぁ〜」


やっと戦い方を教えてもらえることが嬉しくて、何をするんだろう、どんなことができるようになるんだろう……そんな想像に胸を膨らませていると

 ーーーコンコン!ーーー

不意に書斎のドアがノックされる


「あぁ、入って大丈夫だぞ!」

「えぇ、えぇ、入ってはいけなくても入ります。」

「か、母さん……」

「アーネスか……」

「いつまで起きてるつもりです?ドアの外まで楽しそうな声が響いてましたよ」


 呆れながら小言を言う母の額には静かな怒りのマークが出ているような気がした


「ぼ、僕はリッツさんに早く寝た方がいいって伝えようと思って……」

「ブ、ブレイブ、それは卑怯ってもんじゃねぇか?」

「だって本当のことじゃないですか」

「それにしては、戦い方を教えて欲しいだとか話を広げようとしてたじゃねえかよ……」

「2人とも言い訳はやめなさい!」

「「ご、ごめんなさい……」」

「まったく……ブレイブはすぐ人のせいにしないの!リッツさんもいい大人なんですから、ブレイブと一緒になって言い争ってどうするんです!」

「「は、はい……」」

「わかったら解散して早く寝ること!ブレイブは私と同じ部屋でいいわよね」

「う、うん……」

「ああ、わかった……」


 お説教モードの母には流石のリッツさんも頭が上がらないようだった


「それではリッツさん、お先に失礼します」

「おやすみなさいリッツさん」

「おう、おやすみ」


 お説教モードが終わり、書斎の前でリッツさんと別れ、母と話をしながら階段を一緒に降りていく

 昨日も当たり前のように会話していたのに、なんだか母と話すのは久しぶりなような気もする。


「そういえばブレイブ、ハーミットちゃんとはどう?」

「ハーミット?……すごくいい子だよ、魔法のことも詳しいし……今日初めて会ったけどたくさん話してくれたし、あと僕に魔法の才能があるって教えてくれたんだ!……いつか僕も魔法とか使ってみたいなぁ」

「あら、魔法の才能が……よかったわねブレイブ」

「うん、僕にも戦える力があるのかと思ってすごく嬉しかった!」

「うふふ……でもいま聞いてるのは、女の子としてどう思っているかってことよ」

「お、女の子としてって……まだ今日あったばっかりだよ!?」

「でもハーミットちゃんとっても可愛いじゃない?」

「確かに可愛いと思うけど……ってそうじゃなくて!!」

「それに何かを真剣に取り組む子って素敵でしょ?ブレイブのタイプじゃないのかしら?」

「タイプだけど……ってこれは違うからね!」

「あらあら、焦っちゃって……これはブレイブの春も近いかしら」

「とにかく!まだそんなんじゃないから!」

「うふふ、まだ……ねぇ」

「ちょっと母さん!!」

「いいじゃない、母さん応援するわよ」

「ねぇ、母さん!きいてる!?」


そんな母のペースでいじられながら、部屋に入る。

「疲れた……今日はもう寝るね」

「うふふ……おやすみブレイブ」



「…………ブレイブくんが……私のこと可愛いって///それにタイプって///」

 ハーミットは環境が変わるとすぐに寝れない体質で起きていたこと、そしてトイレに行こうと扉の近くまで行ったが、誰かの声が聞こえてきたため、通り過ぎるまで聞き耳を立てていて、バッチリ会話を聞かれていたことをこの時のブレイブは知るよしもなかった。

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