第45話 深層ダンジョン攻略決戦
「ミノタウロス!待たせたね!第二ラウンドだよ!!!」
『ブモォォォォ!!!!!』
僕の体から吹き荒れる魔力と迷いのない構えをみて、ミノタウロスは腰を少しだけ落として盾と斧をしっかりと構えた。
「はぁっ!!!」
『ブモォ!?』
僕は一気にミノタウロスの元まで接近して、その勢いのまま剣を斜め下から振り上げて攻撃を行おうとする。
ミノタウロスは僕の攻撃を予測して軌道上に盾を置くが、意識は僕の攻撃を防いだ後に振るうつもりの斧に向いている。
相手の意識が盾に向いていないことを見抜けるほどに集中した僕は、攻撃を中断し構えられた盾と地面のわずかな間に滑り込み、ミノタウロスの足の間を通り抜ける。
「ここだ!!」
『ブモォォォォ!!』
斧に意識が偏っていたミノタウロスは、盾に衝撃が来ないことに驚き、後ろに回り込んだ僕に気づくのが少し遅れる。
ミノタウロスがこちらの存在を捉える前に、僕はミノタウロスの方へと振り返り、太ももの裏を切り付ける。
もらった武器は想像よりも切れ味がいいのか、分厚い毛皮をあっさりと切り裂き、ミノタウロスに傷をつけることに成功する。
「けど……浅い!……くっ」
ーーーブォンーーー
切りつけた傷は毛皮を引き裂き、出血を与えてはいるが、筋繊維を断ち切るまでは到達していないらしく、ミノタウロスの動きには全く影響が見られず、後ろに回り込んだ僕を迎撃しようと斧を振るってくる。
今の僕には簡単に避けられる攻撃のはずだが、斧が巻き起こす風圧と記憶に刻みこまれた威力が体を強張らせ、回避をワンテンポ遅らせてギリギリの回避となってしまう。
そして、ミノタウロスは僕が想像以上に動けることを理解して警戒レベルを一気に引き上げてしまった。
こうなってしまうと先ほどのように簡単には切らせてくれないだろう……先ほどの攻撃が浅かったのが悔やまれる。
『ブモォォォォ!!!』
「まだまだ!!」
何度目になるだろうか、僕の攻撃は盾や斧に防がれてダメージを与えられず、ミノタウロスの攻撃は僕に当たらない。
一進一退の攻防を繰り返すほどに、回避と攻撃のテンポがお互いに噛み合ってきてしまっている。
ミノタウロスは斧も盾もその強靭な手足も全てが一撃必殺の武器になるため、相手に流れを変えさせる攻撃をさせるわけにはいかない……ここは僕から攻めていかないと!
「そろそろ限界も近いけど!負けられない!!」
『ブモォ!?』
僕は振るわれる斧に対して先ほどまではミノタウロスの体の外側に回避することで追撃を避けながら反撃を行っていた。
今回はあえて斧を剣で受け、剣を傾けることで攻撃を外に受け流す……昇華の限界も近づいてきた僕にできる起死回生の一手だ。
「ここだぁ!!」
ーードシュ!ーー
『ブモォ!!』
攻撃を受け流されたことで伸びたミノタウロスの肘に剣を突き立てる。
初めて戦況に影響を与えるほどの一撃を与えることができた。ミノタウロスは突然の痛みに斧を手放し後退する。
「ここは攻めるしかない!!!」
『ブ……ブモォ!!』
後退するミノタウロスとの距離を一気に詰めて攻撃を叩き込み勝負を決めに行く。
ダメージに一瞬だけ動揺したミノタウロスは意識を切り替え、盾で攻撃を丁寧に捌きながら反撃の一手を探っている。
「と、届かない……」
『ブモォォォォーーー!!!』
どれだけの攻撃を仕掛けても盾を越えられない……まさに鉄壁……
こちらはすでにこのラッシュで出し切るつもりだったため余力がない。一方でミノタウロスは片手が使えず、ダメージは僕よりも受けているが、まだまだ万全に近い動きが可能だ。
「がぁ……くっ……!!」
ミノタウロスは盾で受けた攻撃ごとタイミングを合わせて押し出すことで距離を離そうとする。
僕はその行動をまともに食らってしまい、崖際まで吹き飛ばされ地面を転がる。
『ブモ!ブモォォォォ!!!』
「これは……まずい!!」
距離を離したことでミノタウロスは盾を前に構え、全力で地面に転がる僕に突撃してくる。
なんとか起きあがることはできたが、回避が間に合わない……昇華も切れてしまった今では剣で受け流すこともできない。
「ここまで……か……」
父さん……ダメだったよ……1人じゃやっぱり勝てなかった……ごめんねレントさん……仇取れなくて……
僕は目を閉じてこの後来るであろう一撃を受け入れる覚悟を決める。
「ブレイブくんはやらせない!!!」
『ブモォォォォ!!』
聞き慣れた声に目を開けると目の前に見慣れたローブの姿があった。
「どう……して……」
「私は死ぬ時はブレイブくんと一緒がいいです……それに、まだブレイブくんは負けてませんから」
「……っ」
いつも僕を心配してくれて、僕を応援して、助けてくれる小さな背中。ふとした時に見せる笑顔や真っ赤に照れた顔。
【僕は冒険をしたい】それは本心だ。でもそれと同じくらいこの子だけは守りたい……守るんだ!!
「『アースランス!!』」
『ブモォ!?』
「行ってください!!」
「……ありがとうハーミット!!!」
ミノタウロスは突然地面から出てきた石の柱を片手では抑え切れず、盾が上に押し上げられる。
まさに千載一遇のチャンスだ……ここで決めなければ僕もハーミットも死ぬだろう。
ガス欠の体に喝をいれ、剣に力を込める。
「これが本当に最後だ!!昇華ぁぁぁ!!!!」
ーードン!!ーー
『ブモォォォォ!!』
ミノタウロスは最後の抵抗と言わんばかりに使えなかったはずの右腕に力をいれ、こちらを殴りつけてくる。
僕にそれを回避するだけの余力は無い、一気に詰め寄って心臓を突き刺しにいく。
「はぁーーー!!!」
ーーズシューー
ミノタウロスの胸の中心を貫くように僕の剣が突き刺さる……
「ミノタウロス……最後に仲間の力を借りてしまってごめんなさい……」
『ブ……ブモォ……』
崩れ落ちるミノタウロスと目が合い、僕は最後まで一騎打ちができなかったことを謝る。
ミノタウロスは僕の目をまっすぐに見ると『仲間を頼るのは恥では無い。だが、次を望めるのであれば最後まで一騎打ちで……』と言っている気がした。
ダンジョンで生まれる魔物には知恵がある。知恵がどこかから与えられるものであるなら、魂や記憶も引き継がれたり、与えられたりするのだろうか。
真相はわからないけれど、僕とミノタウロスの戦いは次回に引き継ぐことにしよう。
僕を殺すタイミングはいつでもあったのに、覚悟が決まるまで待ってくれた。戦うための武器を授けてくれた。最後には仲間の力を借りてしまった僕を許してくれた。
戦いには勝てたが、内容的には大負けだ。
次は僕も胸を張って、戦いだけじゃなく、内容でも勝てるように強くなろう。
僕は息絶えたミノタウロスの胸から剣を引き抜くとその体は少しずつ灰になって消えていく。
その灰の山にはぽつりとミノタウロスの大きな角だけが残されていた。
僕は今回の戦いを忘れないためにも、ミノタウロスの角を持ち帰ることにした。
崖の上を見てみるとみんなはこちらを心配そうに見ていた。
「みなさん!!勝ちました!!!」
僕が手を大きく振るとみんな急いで崖を降りてくる。
守れてよかった……
安心すると体の力が抜けて意識を失ってしまう。




