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第44話 深層ダンジョン攻略後編Ⅲ

これから僕たちはミノタウロスと戦う……

 レントさんが命をかけることでなんとか逃げることができたのに、今度はこちらから挑まざるをえない状況で遭遇することになるとは……

 いずれ超えるべき壁とは思ったが、逃げだした後すぐに出会って超えられるような存在ではない。


「向こうはやる気満々って感じですね……」

「……流石にこの崖は登れないだろうが……」

「戦うとは言ってもこっちも遠距離武器なんざ持ってないからな……」

『ハーちゃんの魔法でなんとかならないの?』

「さ……流石にリッツさんの盾を貫通できるほどの魔法は……」


 リッツさんの盾が無事な姿をしてここにあるということは、あのミノタウロスの攻撃を耐えたということだ。

 盾は耐えられても攻撃の衝撃や威力が消えるわけではないからレントさんはやられてしまった。しかし、強靭な体をもつミノタウロスであればあの壁を破壊したハーミットの魔法すら耐えてしまうだろう。


ーーーザス!!ーーー

『ブモォ……』

 ミノタウロスは斧と盾を地面に突き立てると腕を組み、こちらの様子を窺っている


まだ準備に時間がかかるのならいくらでも待っていてやろう……だが、今度は逃しはしない。そんな空気を身に纏っている。


「試しに攻撃ってわけにもいかなそうだな……」

「……一度でも攻撃すればすぐさま反撃してくるだろう……」

「そう……よね……」


 ミノタウロスに視線を向けるたびに僕の胸がギュッと痛くなる。怖い、死にたくない、勝てない、逃げ出したい。そういった感情が体を包み込み、心臓を鷲掴みにしているからだ。

 みんなも同じだろう。勝てない……戦いたくないと思っている……顔が真っ青になり、グレイさんやリッツさんでさえ手や足が僅かに震えている。


【母さんを頼むぞ】【後は任せた】


 心が冷え切り、体が自然と後ろを向こうとした時に、どこかから父とレントさんの声が聞こえた気がした。


「……っ……」


 グレイさんの帰りをフローリアさんが待ってる。

 ハーミットの帰りをコンフォートさんが待っている

 リッツさんが無事じゃないと屋敷のみんなも街のみんなも困る。

 母さんだってガーディさん一派からも慕われているし、何よりも僕が絶対に死なせたくない……

 ここで逃げてどうするんだ!!みんなを巻き込んだのは僕だろう責任をとれ!!


「僕が行きます……」

「馬鹿か!近距離戦なんて……死ぬつもりか!?」

「違います!!勝ちに行きます!!」

「無茶だ!!全員で戦うべきだ!」

「そうですよブレイブくん!1人でなんて!」

「やらせてください!」

「ブレイブ!!お願い……そんなこと……やめて……」

「……せめて全員で戦うべきだ……」

「必ず生きて帰ります。生きてみんなを地上に帰してみせます!待っててください!!」

「「ブレイブ!!」」


 僕はみんなの静止を振り切って崖を滑り落ちて行く。

崖を降りながらみんなの方を見ると、一緒には来ていないようだ。

よかった……これで1人で戦いに行ける。僕は震える足を誤魔化すように着地した後、ゆっくりとミノタウロスの元に歩いて行く。


「待っていてくれてありがとうございます」

『ブモォ?』


 僕が1人で降りてきたこと、そして武器も構えていないことを不思議に思ったのか、ミノタウロスは首を傾げている。


「僕とお前で一騎打ちだ!」

『ブモォ?……ブモォォォォ』


 僕がククリナイフを構えるとミノタウロスは後ろを向き、木の根の方に歩いて行く……


「僕とたたか……」

   ーーードン!!ーーー

「っっ!!」


 ミノタウロスは木の根元を拳で叩き割ると台座から少し長く白金に光り輝く剣を引き抜き僕の元へと力強く投げ込んだ。


『ブモォ!ブモォ!!』

「これじゃあ戦いにもならないってことか……」


 どうして杖とナイフを差し込んだ台座から見たことも無い剣が出てきたのか、どうしてレントさんを容赦なく叩き潰したミノタウロスが僕の武器を見て戦うための剣を投げてきたのか、疑問は尽きないけれど、ミノタウロスからは、『そんなことは置いておいて正々堂々と戦おう!』という意思をビリビリと感じる。


「わかった……こいつを抜けばいいんだな……」

 ーーーキィィィンーーー

「っ、熱い……剣からすごい熱が伝わってくる……」


持っていたククリナイフを投げ捨て、投げ込まれた剣を引き抜くと剣を通じて体全体が熱くなる。

集中して何でもできると思っていたあの状態よりも遥かに熱い。


『ブモォォォォ!!!』

 ーーーガンガンガンガン!!!ーーー


 ミノタウロスは斧と盾を拾い上げ、僕をまっすぐとした瞳で見つめると、雄叫びを上げながら斧で盾を叩き激しい音を鳴らしている……さあ、戦いを始めよう。そう言っているようだった。

 

「ミノタウロス……ありがとうございます」

『ブモォォォォ』

「じゃあ……行くぞぉーーーーーー!!!」

『ブモォ!!!!』


 僕はレントさんの仇であるはずのミノタウロスに感謝をせずにはいられなかった。

 子供だと侮らず、1人の戦士として対等だと認めてくれた。そして戦いに武器が耐えられないと気付けば自分を殺せるような武器すら用意して見せた。

 存在としての格が違う……前に出会った時にもその圧倒的な力を前にそう思ったが、人間性?でも圧倒的に格が違ったらしい。


「だからと言って負けられないんだ!!はぁ!!!」

ーーガキン!!ーー

『ブモォ!』


胸を借りるような不思議な気分とレントさんの仇を討つんだと燃える気持ち。そして、崖の上にいるみんなを守りたいという想い、父さんやレントさんから託された願い。

 あらゆる気持ちを胸に滾らせてミノタウロスへと叩き込む。


 だが、圧倒的に届かない。


「がはっ!!」


 僕の渾身の一撃はリッツさんの盾で軽く防がれ、反動でよろけた僕をミノタウロスは軽く蹴り上げた。

『そうじゃ無い、まるで足りていないぞ』とそう言われているような、気遣いすら感じさせるほどの柔らかな一撃。

 それでも僕の体は衝撃に耐えきれず、全身に痛みが走り体が震えてくる。


「ぐぅ……まだだぁ!!!」

『ブモォ……』


 みんなを守ると言って飛び出してきたんだ……こんな不甲斐ない所を見せられない。僕が心配させたらきっとみんなはここに来てしまう……そうなればミノタウロスも本気を出して全員を殺すだろう……それはダメだ!!

 何度も弾き返され焦る気持ちはより一層剣筋を鈍らせ、ただがむしゃらに何度も挑んでしまう。


『ブモォォォォ!!!!』

 ーーードカンーーーー


「くっ……」


 同じことを何度も繰り返していると、ついにミノタウロスが斧を勢いよく振り下ろす。

 その衝撃を間近で受けて動けなくなった僕をミノタウロスは手で掴み、顔の前に持って行く。


「くそぉ!!死にたくない!!こんなところで死ねないんだ!!僕がみんなを守るんだぁ!!!」


 食べられる……そう思ってパニックになり暴れる僕をミノタウロスはまっすぐと見つめている。


「離せ!!離せよ!!!くそ!!」

『ブモォ!』

「……っ!」


 暴れる僕を掴むミノタウロスは鋭く僕を一喝する。

『何をしてるんだ!こっちを見ろ!』そう言っているような気がした。


「……そうか……そうだよね……」

『ブモォ……』


 僕はミノタウロスと目を合わせる……すると、不思議と何を伝えたいのかを理解できた気がした。

『責任感だけで戦うな、戦う理由に他人を使うな』と、そして『お前がお前の意思で全力で向き合ってこい』そう言っているように感じる。


「ミノタウロス……何度もごめんなさい……僕は、僕の意思でお前と戦うべきだったね」

 『ブモォ!』


 力を抜き、抵抗をやめて呟く僕に対して、『やっとわかってくれたか』と言うように吠えた後、僕を少し離れたとこで解放して再び斧を構える。


「第二ラウンドの前に……集中させてもらうよ……」

『ブモォォォォ』


 僕は剣を構えると目を閉じて自分の中に意識を向ける。

 コンフォートさんにも言われた……僕の戦う理由……

 まさかミノタウロスに気付かされるとは思わなかったな……このまま戦って死んだらきっとみんなは自分を責めるだろう。そして、僕も死ぬ間際でみんなのために戦ったせいで死ぬんだと後悔しただろう。

 それじゃあダメなんだ……


 僕は冒険をしたいんだ。強くなって、旅をして、ダンジョンを攻略して……そうして最後に世界のみんなが笑顔になってくれたらそれでいい!

 そんな冒険に行けるように……まずは街のみんなだって守ってやるんだ!


「父さん……僕は僕のために今日初めて戦うよ!」

 【ああ、行ってこいブレイブ】


「昇華ぁ!!!!!」

 ーーードン!!!ーーー


 僕が覚悟を決めて父と同じ言葉を叫ぶと、体から凄まじい魔力が吹き出す。


「ミノタウロス!待たせたね!第二ラウンドだよ!!!」

『ブモォォォォ!!!!!』

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