第42話 深層ダンジョン攻略後編
川岸に沿って少しずつ下流の方向へ移動する。
ミノタウロスは追ってきていないのはわかっているのだが、上流側に向かうのは気が進まなかった。
少しずつ川幅も広がり、流れも穏やかになって行く。
川岸に生えていた草木もだんだんと減ってくることで視界も開けてきた。
そのまましばらく進めば川は終わりを迎え、海なのか湖なのかはわからないが、とにかく広い水辺に到達した。
「開けた場所に出れた事だし、服を乾かしませんか?」
「そうだな……濡れた服での移動は体力を消耗するしな」
『火おこしなら任せるの〜』
「ま、魔力もほとんど回復したので簡易的な壁や屋根なら作れると思います」
「ありがとうハーミットちゃん……そうね、休憩しましょう」
ハーミットが魔法を使い、斜めに柱を突き出し、その上に壁を出す事でへの字のシェルターが完成する。
その下で周囲から枝を集めて火を起こし、暖をとりつつ荷物の整理をする。
お宝部屋で集めたアイテムも滝の中でたくさん落としてしまったので、思ったよりも少なくなっていた。
「結構無くなっちゃいましたね」
「あれだけのことがあったんだもの……こんなに残っているだけでも充分凄いわよ」
「そうだな」
「そういえばリッツさんの武装はどうしましょうか……」
「……予備の脇差なら1つある……」
「それは流石にグレイでなければ使いこなせないだろう」
「ですね……僕の剣を使いますか?僕にはまだククリナイフも呪いのナイフもありますし……」
「そうだな……借りるならブレイブの剣を借りるか」
「では使ってください」
とりあえず残った武器やアイテム類は必要に応じて分散して持つことにした。
そろそろ体感時間的にも外は夜になった頃だろうか……
「一度寝ずの番を立てて交代で寝ましょうか……」
「そうね、魔物に眠らされたけど、ちゃんと寝てはいなかったものね……」
「フェニーは睡眠とか必要なの?」
『眠ることもできなくはないけど特に必要はないの〜』
「であれば、ハーミット、アーネス、グレイは先に眠ってくれ。次が俺とブレイブだ」
「分かりました!」
みんなが寝静まった頃、片側だけの出入り口に調整されたシェルターの前で僕とリッツさんは寝ずの番をしながら話をする
「なんとか全員が一息つけそうだな……」
「ここまで……本当に色々ありましたからね……」
「ダンジョンに挑んだり、探索に外に出ればこういうことは現実としていくらでもある。レントのことも、人や場所が違うだけでいつかは経験したことだっただろうな……」
「だからと言って簡単には割り切れませんよ……」
リッツさんは何回も経験したことの内の一つだろうけど、僕は目の前で誰かが犠牲になるのを見るのは初めてだった。
いつかは経験したことだ……そう言って簡単には割り切れないし、街の外では良くあることだからと無関心にもなりたくない。
「それはそうだろう……俺もこの辛さに慣れろとは言っていない。ブレイブがレントの気持ちを受け継ぐと言ったように、そいつが願ったものや託してくれたものをしっかりと背負って、前を向いて胸を張って歩いていけばいい」
「わかりました……ありがとうございます」
「ふっ、感謝されるようなことは何も言ってないがな」
「それでもです」
リッツさんはきっと遠回りにだけど、ダンジョンに行くと言い出した事を必要以上に思い詰めたりしなくていいと伝えたかったのだろう。
「それでブレイブ、ゆっくりと話を聞く暇もなくここまできてしまったが、リッチを倒した時の事の動き……いつの間にあんなに戦えるようになっていたんだ?」
「あれは……火事場の馬鹿力と言いますか……きっかけがあって、集中すると相手のことがゆっくりに見えたり、魔力のムラが見えたりするんですよ」
「ふむ……なるほどな……」
リッツさんは僕の話を聞いて、何か思い当たることがあるのか、記憶を探るようにして考え込んでいる。
「それに、ハーミットが言うには魔力由来の力らしいんですけど、僕も使いこなせていないのでよくわからないんです……」
「ブレイブ……その力はあいつから引き継がれた物だろう」
「父さんから……」
「あいつも重要な戦いの時には動きが異常に冴えてたし、戦いが終わった後にお前と同じような事を言っていた」
「そうなんですね……」
「確か……動く前には『昇華』とか言っていたな」
「昇華……」
「まあ、唱えるだけで使えるわけでは無いんだろうから、あくまでも気持ちを入れるためのキーワードみたいなもんだったんだろうな」
「そうなんですね……」
「焦らずともいずれ自在に使えるようになるさ……なんたって才能があるのはわかったんだからな」
僕の力が父さんから受け継がれたと知ることが出来て良かった。みんなを守るという願いだけじゃなくて、そのための力もしっかりと託してもらえたように感じるからだ。
これから先、この力を使うたびに父のこと、託された願いをより強く感じるだろう。
僕は早くこの力を使えるようになって今回みたいなことが起きないように強くなるんだ。
「リッツさん……今度こそみんなを守れるように強くなるよ」
「ああ……期待しているぞ」
「はい!それで……」
改めて僕は強くなるとリッツさんに話し、その後も街であったことや、ガーディアンさん達の話など交代の時間まで沢山話し合った。
「……交代の時間だ……」
「んぁ〜……久しぶりに寝た気がするわ……」
「お、おはようございます……」
「みんなおはよう!交代で寝させてもらうからその間はよろしくね!」
「特に異常はなかったが……グレイ、何かあったら頼むぞ」
「……任せておけ……」
こうしてシェルターから起きてきたメンバーと寝ずの番が交代になる。色々考え込んだりしないで、早く寝てしっかり動けるようになっておかないとな……
こうして本当の意味で長かった僕の一日が終わった。




