第41話 深層ダンジョン攻略中編Ⅱ
『ブモォォォ!!!!!』
飛び降りた僕達のすぐ後ろからミノタウロスの雄叫びが聞こえ、滝のある穴の中にその声が響き渡る。
ミノタウロスという脅威からは逃げることができたが、暗く深い穴からは所々鋭い岩が突き出しており、服や荷物の袋が引っかかることで引きちぎられる。
幸い着水するまでに大怪我を負った人はいなかったが、かなり部の悪い賭けだったのは間違いない。
それがわかっているからこそミノタウロスも飛び降りて追って来ないのだろう。
ーーーバッシャン!!!!ーーー
「全員無事か!?」
「こっちは平気よ!」
「……問題ない……」
「な、流されてます!!」
「ハーミット!!」
滝から続いている川は細かく枝分かれするように分岐しているが、ハーミットが着水した場所は比較的流れの強い川の方向だったらしい。
「全員ハーミットの方に迎え!助けるんだ!!ブレイブも泳げるな!?」
「……はい!」
レントさんやミノタウロスのことを忘れることはできないが、ここでハーミットまで失うわけにはいかない……
今度こそ仲間を助けるんだ!そう誓ってハーミットの元に泳いでいく。
滝壺にいた時には感じなかったが、ハーミットに近づくにつれ、体を引っ張られる力がどんどん強くなる。
かなり流れの強い川みたいだ……ハーミットは元々泳ぎが得意な方ではないし、今は動きづらいローブを着ている…早く助けてあげないと……
「ハーミット!大丈夫!?手を伸ばして!!」
「ブ、ブレイブくん!!」
荷物など余計なものを持っていなかった僕が1番早くハーミットの近くに辿り着いた。
ハーミットと手をしっかりと繋ぎ、その体を手繰り寄せ体を抱きしめて流れの中にある岩などの障害物に備える。
「……怪我はしてない?」
「だ、大丈夫です……ブレイブくんこそ……その腕と背中……」
「うん……これくらい大丈夫……ハーミットに怪我が無くてよかったよ……」
どのくらいの時間流されたのだろうか。比較的流れが緩やかになったことで、川岸に打ち上げられるようにして辿り着くことができ
急流の中、所々に突き出た岩場や枝からハーミットを庇うようにして流されたことで、受け身を取ることのできなかった僕の背中と腕はボロボロになっていた。
抱き止めていた左腕の傷は少ないものの、庇うのに使っていた右腕は肘から先の感覚が鈍く、骨が折れているように感じる。
「ブレイブ!ハーミット!大丈夫か!?」
「リッツさん……ハーミットはなんとか……」
「お前、その怪我は……いや…良くハーミットを守り切った!上出来だ!」
「へへっ、ありがとうございます」
「フェニーとアーネスももう少しでここまで来れるはずだ。合流したらすぐに治療するぞ」
「……ここまで一本道だからな……はぐれはしないだろう……」
「分かりました」
荷物の袋に鉱石と天空石を詰め込んでいた母は重たいのに何故か水に浮かびやすい状態となっていて、あの急流をゆっくりとした速度で流されることで僕たちと距離が離れてしまったらしい。
逸れるのを防止するために、フェニーが僕たちの流された道を示しながら進んできているようだ。
「それにしても……ここはどこなんでしょうか……」
「全く見当もつかんな。ダンジョンってのは洞窟を模したり、塔や建物を模したりしているから雰囲気は統一されていて、基本的には終着地は1つになっているはずなんだが……」
「……俺もここまで複雑に環境が変わる構造のダンジョンは初めてだ……」
「そうですか……」
ダンジョンのことを知っているグレイさんやリッツさんがわからないというのだから、相当特殊なダンジョンに入ってしまったのだろう。
ダンジョンに当たり外れを求めるのは間違っているのだろうが、それでももっと簡単であって欲しかった。
そうであればレントさんも……
「ブレイブ……先程も言ったがレントは覚悟を決めて、自分の意思であそこに残った。お前のせいじゃないからな」
「はい……」
重たい空気が流れる中、少し遠くにフェニーのものと思われる明るい光が見えてきた
「やっと追いつけたわ……ってブレイブ!その怪我!!見せて頂戴!」
『ご主人!大変なの!早く治さないとなの!』
それから少しして母とフェニーは合流してすぐに僕の体を治療してくれる。
腕はやはり折れていたようで、フェニーに治してもらうには骨の位置をしっかりと戻す必要があるため、母にお願いする。
「レントさんは……頑張って耐えていたけれど、普通はそのままでは無理だから、これを噛んでいなさい……」
「わかった……」
「リッツさん、グレイさん、ブレイブを押さえていて」
「ああ」
「……わかった……」
『骨の位置が戻ったらすぐ直すから、頑張るの!!』
母はそう言って周囲に生えていた枝を折り、皮を剥いて布を巻きつけて渡してきた。
「行くわよ……」
ーーーグチューーー
「ぐぅっ……うっ……」
「もうすぐよ……頑張りなさい!」
「耐えろブレイブ!」
「うぅっ!!」
「……もう少しだ……」
「ブレイブくん……」
「これで大丈夫なはずよ、フェニーちゃんお願い!」
『はいなの!』
意識が遠くなるが、決して気絶できないような拷問に近い激痛で全身が強く痙攣する。痙攣するたびにリッツさんやグレイさんが動かないように強く体を押さえつけて固定してくれる。
そんな様子を見ていられないのか、ハーミットは目に涙を浮かべて目を背けていた。
「……母さん、フェニー……ありがとう」
「良く頑張ったわね……」
『無事に治せてよかったの……』
「ブレイブくん……ごめんなさい……私のために……」
「いいんだよハーミット……僕がやりたくてやったことなんだから」
レントさんはこの痛みを耐えて、治療が終わったらすぐ戦いに戻ってきていたのか……凄まじい精神力だったんだな……
「……レントさんの体はここにはないけど、せめてこの場でお祈りしてもいいですか?」
「ああ、そうしよう」
この場にいる全員が祈りを捧げる……
レントさんは死んでしまった。それは僕が最後まで見ていたから間違いない。ほんとはちゃんと埋葬してあげたいけど、それも難しい。だからせめてみんなが無事に逃げきれたこの場所で一度レントさんのことを思って祈りを捧げたい。
レントさんはウェスタンの為になら、と僕についてきてくれた。そしてどんな痛みにも耐えて戦いに向かっていった。
大人として、常に前に出て体を張ってくれた。言葉遣いは乱暴な所もあったけど、みんなを気遣ってくれて笑ってくれていた。
……こんなところで死んでいい人じゃなかった……
困っている人がいるならなんて曖昧な理由で僕はウェスタンに行こうとしていたけど、もうそれだけが理由じゃなくなった。
「リッツさん、僕はウェスタンの人を助ける為にならってここに来てくれたレントさんの想いをしっかり受け継ぐよ……」
「そうだな……レントに守られてここにいるんだ。ウェスタンの人を街に受け入れる。それくらいはさせてもらうさ」
「そうね、だったらまずはみんなでダンジョンを攻略して戻りましょう!」
祈りは捧げた……この先レントさんのことでずるずると引きずるのは辞めよう。後悔も何もかも、全てはこのダンジョンを攻略してからだ。
「さあ!進むぞ!」
「「おう!」」




