第39話 深層ダンジョン攻略前編Ⅱ
「……ろ!……ブ!!……」
『…………の〜!』
遠くで誰かが何かを言っている……
眠たすぎて聞き取れない……ちゃんと起きたら話を聞くから少しだけ待ってほしい……ダンジョンでゆっくり寝れると思ってなかったんだ……から……
「……イブ!」
「ブレイブ!!」
「すいません!!完全に寝てました!」
『そんなこと言ってる場合じゃないの!みんな起こすの!』
グレイさんとフェニーは全員を起こそうと必死に呼びかけながら木の魔物と戦っていた。
フェニーが火の粉を飛ばすと少しだけ距離を取り、また近づいてくる。近づいて鞭のように振るわれる枝をグレイさんが切り落とす。
その繰り返しをしながらみんなを守ってくれていたらしい。
「ハーミット!!起きて!!母さんも!!!」
僕はすぐ後ろの切り株の上で眠っているハーミットとその近くの岩に寄りかかって寝ている母を激しく揺らして声をかける。
「んぅ……ブレイブくん……激しいですぅ……もっと優しく……」
「ちょっ……///そんなこと言ってる場合じゃないんだって!!ハーミット!!」
揺らされて妙に艶っぽい声をあげているハーミットにドキドキしながらも激しく揺らして起こそうとする。
母は少しずつ覚醒してきたのか、虚げな瞳をしてこちらを見ている。
「母さん!魔物が来てるんだ!起きて!!みんなを起こして!!」
「……まもの……魔物……魔物!?」
「そう!いまグレイさんが足止めしてくれてるけど、長くは持たない!みんな起こして!!」
母はようやく事態を理解できたのか、飛び起きるとリッツさんの元に向かう。
「リッツさん!起きなさい!!」
「……Zzz」
「ダメね……こうなったら……」
ーーーパチン!!ーーー
母はリッツさんの襟元を少しだけ持ち上げると頬に思いっきりビンタした。
「痛!!」
「魔物よ!シャキッと起きてください!」
「ああ……バッチリ目は覚めた……」
「レントさんを起こしてくるから少しみんなのことを頼むわよ」
「……任せろ!」
あれは……絶対に痛い……頬に手のひらの跡が思いっきり残っているリッツさんは真剣な眼差しで全体を見渡す。
いつもの安心させてくれる姿なのになんだが少しだけ面白い。
「ブレイブ、大丈夫か!?」
「リッツさんこそ……大丈夫ですか?」
「痛いが……仕方ないだろう。ハーミットは起こせそうか?」
「全然起きないです……」
「最悪寝かせたままでもいい。レントが起きたら反撃だ」
「はい!」
リッツさんは敵の数と攻撃手段をしっかりと見た上でハーミット無しでも勝てる算段をつけたようだ。だったら僕はそれを信じて戦おう。
「すまねぇ、寝ちまってたぜ」
「起きたか……戦えるな?」
「バッチリ気合いも入れてもらったからよ!余裕だぜ!」
頬に紅葉模様をつけた大人2人が真剣な顔で並んで武器を構えている。やっぱり面白い……
「まずは俺が正面の攻撃を抑える。レントは鞭を切り飛ばせ、鞭が再生するまでの間にブレイブが攻撃だ。一撃で仕留めなくてもいい、切り傷ができたら下がってこい」
「分かりました!」
「おう!」
「グレイとフェニーはもう少しだけ耐えてくれ!アーネスはハーミットを起こしてくれ!ただしビンタは無しだ」
「……ああ、任せろ……」
『はいなの〜』
「いくら私でも可愛い女の子の顔を叩いたりしないわよ!」
目の前のことに必死になっているからか、ここにくるまでの鬱屈とした雰囲気、不安感はとりあえず無くなっている。
魔物に襲撃されるというイレギュラーではあるけど、そう思うと悪いことばかりでもないらしい。
まずはみんなとこの襲撃を乗り越えるんだ!僕は剣と呪いのナイフを持ち、しっかりと目の前の魔物に向かって構える。
「来るぞ!レント、ブレイブ!合わせてくれ!」
「おう!」
「はい!」
木の魔物から繰り出された一撃をリッツさんはしっかりと盾で受け止めた。強い衝撃を受けたリッツさんは少しだけ後ろに押し込まれる。
盾に当たることで速度が落ちた長い枝をレントさんが切り飛ばす。
「今だ!行けブレイブ!!」
「分かりました!!はぁっ!!」
ーーグサリーーー
『ギィェー!!』
呪いのナイフを突き刺すと全ての木の魔物が何かを絞り出すような声をあげてのたうちまわり、ところ構わず鞭のような枝を振り回している。
全ての木が同じ反応を示したことに驚いたが、当初の予定通りその場を離れてリッツさん達の元に合流する。
「全部が同じ反応をするってどう言うことなんでしょうか……」
「可能性の一つだが、あいつらは全てが繋がっている1つの個体なのかもしれない」
「繋がってるって……」
「本体がどこかにあるってことか?」
リッツさんの言うことが正しいとすれば、ここが木の魔物の狩場と言うことになる。
魔物がのたうちまわっている間に落ち着いて状況を整理しよう……
この魔物の狩りの方法は……まず、水が湧き出る場所で休憩している相手を眠らせる。そして眠った相手に対して、木の枝を使って仕留めてから捕食するという流れだろう。
地面に近くにいるほど眠るのが早くなり、眠りの深さはハーミットが1番深い。母さんもすぐには起きれなかった。
リッツさんとレントさんは母が叩いて起こしたから微妙だけど、1番離れてずっと立っているグレイさんや、空を飛んでいたフェニーは眠っていない……
つまり、眠りの効果を出している本体はハーミットのすぐそばにいる?
……木の魔物……本体……切り株?……
「母さん!ハーミットを切り株から離して!!」
「え?……どうしたの急に……」
「ハーミットの乗ってる切り株が魔物の本体かもしれない!」
「うそ!?」
「いいから早く!!」
「わ、わかったわ……」
僕たちはハーミットを守るように離れて戦ってしまっていた。唯一近くにいる母に頼み、ハーミットをなんとか切り株から遠ざける。
ハーミットと母が切り株から離れると同時に切り株が半分に割れ、口のような形に変化して上にあったものを飲み込もうとしていた。
「あ、危なかったわ……」
「よく気づいたなブレイブ!」
「たまたまですよ!……あとはあれを攻撃すれば!」
ーーーグサリーーー
『ギィェェーーーーー』
切り株本体を呪いのナイフで攻撃すると再び全ての魔物がのたうちまわり、今度は倒れていく。
全ての魔物が動きを止めてからもしばらく周囲を警戒する。
「木の魔物は討伐できたみたいだな……」
「そうですね……グレイさんとフェニーには感謝ですよ本当に……」
『戻ってきたらグレイ以外みんな寝てたからびっくりしたの〜』
「……いいタイミングで戻ってきてくれた……」
フェニーは偵察をしっかりとこなしてきてくれたようで、報告に戻ってくると木の魔物に襲われているグレイさん以外全員が倒れていて肝を冷やしたらしい。
偵察の結果、川沿いは最終的に滝となっており、さらに深い階層へと続いていたそうだ。
獣道の方は上空からのため、正確にどこに繋がっているか不明だったが、方向的にこの森で1番大きな大木の元に続いているみたいだったと報告してくれた。
「んぅ〜……気づいたら寝ちゃってました……ごめんなさい……」
「ハーミット!目が覚めたんだね」
「お前が寝てた間大変だったんだぜ!」
「それはグレイのセリフだろうが」
「ふふっ、まあいいじゃない!みんな無事だったんだから」
「それもそうか!」
フェニーの報告を聞いていると、魔物を倒したことで効果が切れたのか、ハーミットの目が覚めた。
周りを見ると戦闘の痕跡もかなり残っていて、その規模の戦闘に眠っていたから参加できなかった状況にショックを受けていた。
「この先は大木の方に向かう形で大丈夫ですかね?」
「滝は落ちたらやばいだろうから、そうなるだろうな」
「せっかく木の魔物も討伐したんだし、今度こそ少し休んでから向かおうぜ」
「それもそうよね」
この先の方針は決まった。
今度こそ何事も無く進むことができるといいのだが……




