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第3話 演説

「私はこの街に唯一残された資産家のリッツだ。皆さまざまな傷を抱えているだろう。それでもこうして集まってくれたことに感謝する。

 今現在、この街では多くの資産家や政治家、技術者が空へ消えたことで、食糧、物資、医療、ありとあらゆる問題が発生している。

 多くの力ある者達が計画的に空に高跳びをしたが、そのような計画があることを私は知らなかった。とはいえ、それを今すぐ皆が信用することはできないだろう。それは重々承知している。

 しかし、この難局は皆の力を団結しなければ乗り越えることはできない。ついては、俺の持ちうる全ての力を出し切って、皆の安全を作る柱となることで信用を得られるように行動をしていくつもりだ。

 

 現在起きている問題の詳細は私の私兵団を中心に今現在も調査中ではあるが、ひとまず皆に魔物の侵攻について伝えたい。

 昨日の魔物の侵攻は私の幼馴染の戦士カイムが単独でダンジョンへと乗り込みその命と引き換えに攻略したことで、一時的な安全は確保された。


無論、全てがカイムの力のおかげだと言うつもりはない。装備も乏しい中、街を、家族を守るため勇気を振り絞って魔物に立ち向かったものが多くいることを私は知っている。

 しかし、魔物の侵攻が落ち着いた今、勇気を振り絞り戦った戦士は体に傷を負いすぐには動けず、避難している者は明日への不安や絶望感で心が埋め尽くされていることだろう。かくいう私も昨日の侵攻の後心が折れていた。

『次の侵攻が有れば、ダンジョンを単騎で攻略できるほどの勇士がいないこの街は、いくら力を合わせて防衛をしていてもやがて滅びてしまう』と……」


 リッツさんが一度言葉を区切ると屋敷の広場を埋め尽くす人たちの顔には不安が広がっており、皆一様に俯いてしまう。

 

「皆が希望を見出せず、俯いてしまう気持ちもよくわかる。しかし、まだ絶望するには早いのだ、皆にも顔を上げて聞いてほしい、私の折れた心を奮い立たせた少年の言葉を……」


そう言ってリッツさんは一度アイテムから離れると僕に視線を送ってくる


「リッツさん……」

「大丈夫だブレイブ、お前が昨日体験したこと、今後やりたいこと、素直な気持ちを皆に聞かせてやってくれ」

「は、はい……」


 アイテムの前に移動して、深呼吸をする

皆んなに伝わるように話すことができるだろうか

 そんな不安な気持ちを抱えながら僕は話し始める


「戦士カイムの息子、ブレイブです。集まってくれた皆さんに少しだけ僕の話を聞いてもらいたいです。

 

 昨日、大地が空に登っていった時、僕は何が起きたのか、これからどうなるのか、何もわかりませんでした。でも、お父さんは何が起きたのか、これからどうなるのかわかっていたんだと思います。

 

 街のはずれの鐘が鳴って、魔物が出たと聞こえた時、お父さんは迷うことなく『母さんを頼む』そして、『街のみんなが怪我をしないように行ってくる』と行って走っていきました。

 僕は何も分からずお母さんと一緒にリッツさんのところへ行けと言ったお父さんの言葉に従ってここに来ました。

 ここにきた時、リッツさんは兵士のみんなに指示を出して魔物の被害を抑えようとしていました。そんなリッツさんだから僕とお母さんを任せられると信じてお父さんはここに向かえと言ったのだと思います。

 

 しばらくしてから、怪我をした兵士の人たちがこの屋敷に運ばれてきました。それを手当するお母さん達を見て何か手伝いたいと思っても、僕に出来るのはお湯やお水を用意したり、シーツを交換するくらいでした。

『母さんを頼む』と言った父の言葉に対して僕は何もできなかったんです。

 

 その後、魔物の侵攻が終わったと聞いたとき、何もできなかった自分が悔しくなりました。お父さんが帰ってきたら、戦い方や手当ての仕方、なんでもいいから教えてもらおうと思いました。そんな時、リッツさんから父の行方がわからなくなったと聞きました。


 その時に思ったんです。きっとお父さんは最初からわかっていたんだと、自分が魔物のところに行ったら帰ってこれないかもしれないことも、今の僕には何もできないことも……だけど、自分が戦わないとお母さんを、街のみんなを守れないから、僕に『母さんのことを頼むぞ』と言って魔物に立ち向かったんだと思います。


 そうしてまでお父さんが守った場所が、みんなが、今はこうして暗い雰囲気になっています……僕はそれがとても悔しい。

 だから、次は僕が戦う。僕が皆んなを、街の皆んなを守りたい。笑顔にしたい。


今は何もできない僕だけど、それでも、守られるだけなのは嫌だから。

 

 きっとお父さんが僕にここに向かえと言ったのは、今もこの街をどうにかしようと戦っている、リッツさんや兵士の皆さん、今も手当をしているお医者さん達から学べってことなんだと思う。

 それに、この街の人はこれで挫けたりしない。そう信じたからお父さんは命懸けで、逃げずに戦ったんだと思う。


だから僕は戦うよ。

学ぶための時間はお父さんが作ってくれた。

学ぶための場所はリッツさんが用意してくれた。

あとは僕の覚悟だけだと思うから。

そして、強くなって皆んなを守れるようになって、お父さんを探しにいく。そう決めました」


僕はお辞儀をしてからアイテムの前から離れる

……うまく話せたかな……そんなことを思いながらリッツさんを見ると頭をぐしゃぐしゃと撫でられた


「よくやった」


 リッツさんはそう言って改めてアイテムの前まで移動する


「皆、聞いただろう、こんな少年が戦うと、皆を守るとそう言っているのだ。

 子供だから現実がわかっていないという者もいるかもしれない。しかし、この子は俺の屋敷であらゆる報告を一緒に聞いている。今の状況を分かった上で、俺ですら心が折れてしまう、そんな現実を見てもこの子は『それでも!』と立ち上がってくれた。勇気を見せてくれた。

 

 そんな子供に対して俺たち大人ができることはなんだ!?

 現実は甘くないと立ち上がろうとする頭を押さえつけることなのか!?いつまでも暗い表情を見せてがっかりさせることなのか!?

 そうじゃないだろう!俺はこいつと一緒に最後まで戦ってやる!俺1人でも支えてやる!皆はどうだ!?

 

 戦い方は一つじゃない。魔物と戦う力がないなら知恵を絞れ!知恵もないなら体を動かせ!体が動かないなら手を動かせ!戦う場所は俺が作る!


 時間は限られている、戦う意志のある者は明日の朝、10時に俺の屋敷まできてほしい。以上だ」


 ーーーブッーーーー


そう言ってアイテムを停止させると僕とリッツさんは屋敷の広場を改めて見渡す。

 話している時は緊張してちゃんと見れなかったが演説を聞いたみんなの表情には力が入っているように思えた。


明日みんな来てくれるといいな……

 そんなことを思いながらリッツさんと一緒に屋敷に戻った

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