第37話 深層ダンジョン攻略
僕たちは陣形を整えながらゆっくりと崩れた壁の先へと進んできた。
50mほどは進んできたのだろうか、奥からは森林を思わせるような緑の匂いと、小川を思わせるような水の音が聞こえてくる。
「もしかして外につながってる?」
「そうだといいんだがな……」
「入ってきた時のような霧がないので……まだダンジョンの中じゃないでしょうか……」
「……そうだ……開けた場所に出るぞ……警戒しろ……」
「はい!」
広い空間に出ると、眼下に広がるのは深緑の森と小川が織りなす幻想的な光景だった。
「これは……たまげたな……」
「綺麗ね……」
思わず息を呑む光景とはこんな光景のことを言うのだろうか……僕たちの出てきた穴は崖の少し上の方にあるようで、崖に沿って階段が設置されていて下まで降りることができるようになっていた。
「下にいくしかねぇが……大丈夫だよな?」
「流石にイレギュラーが多すぎてわからん。ただ、警戒はとくべきじゃない」
「そりゃそうだよな」
階段ををゆっくりと降りていく。下に近づくほどに生い茂っている草木の大きさを実感し、その迫力に圧倒される。
『ピュィーーー』
「なんの声だ!?」
「フェニーとは違う感じの声だ……」
『不死鳥じゃないの〜』
木々のはるか上、空から鳥の声がいくつも聞こえてくる。
「待って……ダンジョンのボスを倒したんだから魔物は居なくなるって話じゃなかったかしら?」
「そのはず……なんだが……」
『私の事を捕まえて、専用の部屋で私を好き勝手実験をしていたリッチがボスだと思ってたの〜』
フェニーの言葉を受けてある可能性が頭をよぎり、全員の顔が引き攣っていく。
「リッチがボスじゃない……ってことはないですよね?」
「……その可能性もある……」
「でも天空石だってさっきの部屋にあったじゃない!」
「それは……ダンジョンアイテムをボスも倒さずに拾ったブレイブがいる事で、このダンジョンではボス討伐とダンジョンアイテムに直接の関連がないことの説明がついてしまう」
「くそっ!転移してボスを倒したんじゃなくて、リッチが専用の部屋に転移させたからそもそも脱出方法を作ってなかったってことかよ!!」
「そ……そんなことって……」
ーーーダンジョンは人々にとって恐怖と絶望の象徴であるーーー
全員がボスだと勝手に思い込んでいたリッチ。それを全員で知恵を絞り、勇気を振り絞り、命をかけることでようやく勝つことができたのだ。全員が奇跡的に生還し、治療も行ってそして溢れんばかりのアイテムを回収した。あとは無事に街に帰るだけなんだと安心しきってしまった……
きっとこの先にあるものは転移陣で、警戒しながら進んでみたけど結局何も起こらずに外に出られるんだと心の片隅で思っていたのだ。
それが実は別にボスがいるかもしれないなんて……そんな事認めたくない。
「リッチがボスじゃないって……あれ以上の存在がボスとしてまだこの先に待っているって事なの?」
「まだそうと決まった訳ではないがな……」
「で、でも上に魔物が……」
「魔物とは限らないだろ、フェニーみたいな存在が産まれてるんだ、他にもいねぇってことはねぇだろ」
「……希望的観測はやめろ……」
「んだと!?こっちは気を遣ってだな!」
「やめてください!!こんなところで言い合いしたっていい事ないでしょう!」
「……そうだな……すまん……」
「俺も……悪かったな……」
天国から地獄に突き落とされたような落差がみんなの心の余裕を奪っていく。
それでもここで喧嘩なんかしても状況は変わらないし、ましてやいい影響を与えることなんて一つもない。
そんな当たり前のことですら分かっていても、不安や不満を吐き出さずにはいられないほどみんな心が追い詰められていた。
「とにかく……先に進みましょうよ……上にいる魔物が降りてこないとも限らないんですから……」
「そ……そうね……ブレイブの言う通りだわ」
「……ああ……」
みんなの足取りは未だかつてないほどに重たい。
だが進まなければいつどこから魔物が襲ってくるかもわからない。
不安も、不満も飲み込んで、みんなで生きて帰るためにも……ウェスタンの人に道を示し、街のみんなに希望を与えるためにも、僕たちはこの先の道を進んでいかなければならない。
こうして僕たちのダンジョン攻略はさらに深い階層に出現した深緑の森へと舞台を変えていくことになる。




