第36話 ダンジョン攻略後編Ⅳ
扉を潜るとそこは先ほどの部屋とは違い、灯りでしっかりと照らされ、部屋全体の様子を見渡すことができた。
部屋はそれほど大きくはないものの、鉱石や小物、箱などで溢れかえっており、一方間違えればゴミ屋敷のようである。
先にこの部屋に入った大人組は中央の台座の前に集まって何やら深刻そうな顔をして話し込んでいた。
「うわぁ〜……」
「すごいわね……」
「本当ですね……」
『キラキラもたくさんなの〜』
僕たちはゆっくりと周囲のアイテムを見ながらリッツさん達に合流する。
「どうしたんですか?」
「ああ、ようやくきたかブレイブ」
「ちと扱いに困るもんがあってな……」
「……うむ……」
そう頭を悩ませながら話しをするリッツさん達の視線の先には台座に浮かぶ人の顔ほどの大きさの石があった。
「これは?」
「……天空石だ」
「っ!?それって!!」
「……今回の騒動の元凶とも言えるダンジョンアイテムだ」
「こんなもんじゃなくて食糧やら水が出るようなもんが欲しかったぜ……」
「これがそうなのね……」
僕たち全員は台座の上に静かに浮かぶ天空石を見つめ、誰もその先を話すことができないでいる。
こんな状況でもみんなで乗り越えられたんだ。こんなアイテムに頼らなくても協力すればきっと乗り越えられる。逃げた人達に置いて行かれたみんなを、父が守ると決めた街のみんなを守る。その気持ちは確かにある。
一方で、本当に死ぬ一歩手前の状況をさっきまで何度も乗り越えてきたんだ。これを使えばダンジョンという危険な場所から離れることができると僕の弱い心が囁く。
みんな同じ気持ちだったのだろう。だからこそ何も言い出せない。どちらの言葉も口に出したくないのだ。
『そんなに悩むほどのアイテムなの〜?』
「ああ……これのせいで俺たちは……」
「……このままダンジョンを出れば見なかったことにできる……」
「そういうことじゃねぇだろうが!」
「……だったらどうすると?……」
「やめなさい!喧嘩なんてみっともない!」
「そうは言ってもだな……」
フェニーの疑問に答えるリッツさんをよそに、グレイさんとレントさんが口論を始めてしまう。
やっぱりみんなこの事実を簡単には受け止めきれないでいる。
街に持ち帰って戦えない人だけを逃す?
……戦える人はダンジョンに行って犠牲になれと言うのか?
じゃあこの街みんなで逃げる?
……きっとこれっぽっちの石で街の全員は逃げれないだろう。
選ばれた人だけを逃す?
……それじゃあ僕たちを見捨てて父の行方不明の原因を作った奴らと一緒じゃないか……
だったら、天空石は使わずに取っておいて、僕たちは違うと!逃げる手段があっても、『それでも戦う』と街のみんなに伝えるんだ!
「やっぱり街に持ち帰りましょう」
「ブレイブ……わかっているのか……」
「この石は……持ち帰れば、街のみんなに混乱をもたらすと思います……だけど、ダンジョンを攻略できた証としてこれ以上の物は無いんじゃないでしょうか」
「……そうだな……」
「その上で、僕たちは逃げないと……みんなと戦っていくと示して、街の全員が逃げられるほどの天空石を見つけることができた時に改めて使えばいいのではないでしょうか……」
「えぇ、ええ……そうよね!そうしましょうよ!」
「……わかった」
ひとまずみんな僕の気持ちを汲んでくれるらしい。
ここにいる誰かがみんなを裏切るとは思えない。だって何度も命を預けあって、助け合ってダンジョンを攻略したんだから。
街に持ち帰って、厳重に管理すればいい。その上で希望はまだあるんだと象徴するような存在になってほしい。
「とりあえず天空石は置いておいて他に街の復興に役立ちそうなものを探しましょう」
「わ、私はやっぱりあそこにあった本が欲しかったですが……ここにも同じものがないか探してみます」
「私はさっき使っちゃった鉱石関係も改めて補充したいわね」
「……あれか……俺も手伝おう……」
「とりあえず俺は使えそうなものがないか箱の中でも漁ってみるぜ」
話も落ち着いたので、改めて全員で宝部屋を漁っていく。僕も色々な箱を開けたり、棚を動かしたりしてみるが、空間がそれほど広くないので意外と早く散策が終わってしまった。
「あと見てないのは……この奥くらいか……ん?」
部屋の1番奥にあった棚を動かした所にあった壁には何かを差し込めそうな穴が2つ空いていた。その穴を繋げるように模様や文字が書いてあり、何やら不穏な気配を感じる。
「みんな、これ見て……」
「ん?……なんだこれは……」
「も、もしかすると……形的に私とブレイブくんの持っている杖とナイフを刺すのかも……」
「呪いの武器を使うってなんか危なくねぇか?」
「……確かに警戒はすべきだろう……」
全員不安な気持ちももっているが、何が起きるのかは確かめておきたいところである。
「とりあえず天空石含めて必要な物は全部集めてから……試してみますか?」
「やめときましょうよ……また転移とか魔物とか出てきたら嫌よ」
「そうは言ってもここからどうやって出るのかもわからんからな、試す価値はある」
「け、研究者としては……確かに何が起きるのか気になるような……」
確かにリッツさんの言う通りではあった。逃げ込んだ部屋からの転移でここにきた以上、正しい帰り道がわからないのである。通常であれば仮に転移が起きても、ボスを倒しているため、ダンジョン内に魔物は居ないから安全であると言える。
だが、今回使用するアイテムが呪いの武器2つと言うのが気がかりな部分だ。そもそも杖だけが必要であればリッチを倒した証として使われるのは理解できる。
しかし、もう一つの使用するアイテムが封印されていた部屋にあったナイフなのだ。おそらくダンジョンを正規のルートで攻略しようとすれば確実に手に入らない武器だ。
それを要求されるからにはそれ相応の理由があるはず。それが一体なんなのかがわからない。
「とりあえずさっきの部屋を見て転移で戻れるか確認してからにしましょうよ……」
「確かにアーネスの言う通り退路の確認は必要だな」
『灯りの代わりなら手伝えるの〜』
「ありがとう、フェニー」
僕たちは一度部屋から出て、リッチと戦った大きな部屋を隅から隅まで探索していく。
壁や床に一部模様のようなものがあったり、削られた痕跡などもあるが、どうにも転移などをして戻れるような感じはなさそうだ。
「ダンジョンってボスを倒した後脱出できないなんてことはるんですか?」
「基本的には帰れるはずだ。そうでなければダンジョンがずっと開きっぱなしになってしまう」
「そりゃ、基本はそうなんだろうが……例外のケースがあったところで誰も帰れねぇんだからそんな報告なんざこねぇだろう」
「……その通りだな……」
「じゃ、じゃあ……あれを試してみますか?」
「やるしかないですよね」
僕たちは帰り道を探すためにもあの不気味な穴を試してみることにした。
「ブレイブくん……3.2.1で同時に挿しましょう」
「わかった……」
「全員武器は構えておけ」
「行きます! 3…2…1……今!」
ーーーブゥン……ーーー
ナイフと杖が同時に刺さることでお互いの間に刻まれた溝や文字が紫に輝き出す。
『これは呪いの力と魔力が増幅されているの!』
「フェニー!どうすればいい!?」
『これは止められないの!ご主人もハーちゃんも手を一回離すの!!』
サッと手を離して壁から飛ぶようにして離れた僕とハーミットを庇うようにグレイさんとリッツさんが前に出てきてくれる。
ーーーパキィンーーー
ーーーガラガラガラガラーーー
何かが割れるような音がしたと同時に目の前の壁が音を立てて崩れていく。
空中に浮いたままの杖とナイフは先ほどよりもより黒くなり、刻まれていた溝や文字は金色に輝いていた。
「これを持って進めってことでしょうか……」
「それ以外にないだろう……」
ハーミットと僕は空中に浮かぶ杖とナイフをそれぞれ手に取り、全員で武器を構えながら進んでいく。
この先には一体何が待っているのだろうか……




