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第35話 ダンジョン攻略後編Ⅲ

 再び僕とハーミットの元に漆黒の魔弾が襲い掛かる。

 リッチは僕とハーミットに狙いを絞ったようで、弾幕の数は先ほどとは比べ物にならない。しかし、先ほどまでは躱すしか対処の方法がなかったけど、今の僕ならば正面から打ち破ることができる!後ろで僕のことを見てくれているハーミットを守るためにも回避という選択は無い!!


「はあっ!!!!」


 僕は体から湧き上がる熱を剣やナイフにも伝えるように意識をする。そして、スローモーションに見える視界の中で魔弾一つ一つをよく見ると魔力の密度にムラがあるのがわかる。

 高密度の魔弾は横から優しく押し出すことで軌道を変え、低密度の魔弾は強く弾くことで霧散していく。

 30秒ほどだろうか、僕とハーミットに当たる魔弾だけを対処し、リッチの攻撃を防いでいると突然魔弾の射出が止まる。


「……ブレイブ!いけ!……」


 射出が止まったのは、グレイさんがリッチの隙を生み出そうと後ろから切り付けてくれたからだった。しかし、先ほどと同じくリッチにはダメージがない。


『カカッ!』

「……ぐっ……」

「グレイさん!!」


 リッチは攻撃直後でまだ空中にいるグレイさんに杖を叩きつけようとする。グレイさんは刀を振り切った状態で今度は防げそうにない。このままではグレイさんまで呪いに……


「おらっ!!やらせるかぁ!!」


 リッツさんが雄叫びにも似た声を上げながら、リッツさんの持っている唯一の武器であった大盾をリッチに投げ込む。

 回転しながら大盾はリッチの顔面に当たる軌道を飛んでいく。


『カカカッ!?』


 リッチは大袈裟なほどに体全体を逸らし、大盾を回避する。弱点は顔なのか……体勢が崩れてこちらを向いていない今ならリッチの顔面に攻撃できる……けど、僕では上まで届かない!!


「ハーミットちゃん!ブレイブに足場を作ってあげて!!」

「は、はい!!『アースランス!!』」


 母さんは燃え盛る石をリッチに投げつけながらハーミットに僕のフォローをするように指示を出してくれる。

 

「ありがとうハーミット!母さん!!」

『ご主人!気をつけるの!!』

『カカッ!カカカッ!!』

「うぉーー!!」


 僕はハーミットの作り出してくれた石の柱を一気に駆け上がり、体勢の崩れたリッチの首に突き刺さるようにナイフを構えて飛び上がる。

 直後、母の投げつけた燃え盛る石がリッチのフードをめくりあげる。

 そして後頭部に見えたのはもう一つの眼球。その眼球は飛びかかってくる僕のことをしっかりと見つめていた。このリッチにはそもそも死角など存在していなかったのだ。


「くそっ!ブレイブを誘ってやがったのか!?」

「……これでは……」

「や、やべぇぞ……」

「ブレイブくん!!!」


『カカカカカカ!!!』


 リッチはグレイさんを叩こうとしていた杖をいつのまにか逆さに持ち替えていた。そして飛び込んできた僕を迎え撃つように体を少し回転させながら杖を刺し出してくる。

 不意をつかれたためなのか、スローモーションに見えた時点でこの攻撃は躱すことができないと確信する。


「それでも!!!はぁー!!」

『カカカッ!!』


 僕はたとえ差し違えてでもこの攻撃をリッチに叩き込もうと覚悟を決めてナイフを突き出す。

 そしてリッチはやれるものならやってみろと言わんばかりの笑みを浮かべて杖を突き出してくる。

 ……くそっ……少しだけ僕のリーチが短い……

 

『ご主人はやらせないの!!!』

「フェニーちゃん!!」

 

 ハーミットの上にいたはずのフェニーはリッチに死角がないことを誰よりも早く気づいていたのか、リッチの杖と僕との間に滑り込むように体を割り込ませていた。


 ーードチュ!ーー


『ご主人……あとはお願いするの……』


 明らかに何かが勢いよく刺さった音が聞こえてきた。

 僕の体には痛みがない。つまり刺されたのはフェニーだ……

 僕を守るために、そしてリッチを倒すためにその体を盾にしてくれたのだ。僕はフェニーの想いに応えてこの一撃は必ず成功させる!!


「フェニー!!……くそぉ!!お前だけはぁー!!!」

『カカカッ!?』


 リッチは横から飛び込んできたフェニーが突き刺さったことで杖の軌道が変わり、僕を止めることができない。

 僕はそのままの勢いでナイフをリッチの首に突き刺した。


 ーーグサッーー


『ガァッ!!』

「やったか!?」

 

「……いや、まだだ……」


 首元を突き刺されたリッチは一撃では死なないのか、杖を持ち替えるとフェニーを振り落とし、僕に向けて再び杖を振るう。


「ブレイブくんはやらせない!『アイスアロー!!』」

「ハーミット!!」


 ナイフをリッチに刺したことでリッチの攻撃を躱せない僕を助けようとハーミットが魔法を放ってくれた。

 氷の矢はリッチの腕に当たり、杖を吹き飛ばした。


『ガァァ!!』


 リッチは杖を手放しても魔法が使えるのか、ハーミットに向けて無事な方の手を差し出し、魔法を使おうとする。


「……させぬ!!……」

 ーーーシュパッーーー

『ガァーーーッ!!!!』


 僕のナイフの呪いの効果が発生したのか、グレイさんがリッチの腕を切り飛ばすことに成功する。


「あともう少しだ!踏ん張れみんな!!」

「「はい!!」」

 

 リッツさんの檄をうけて僕も着地してすぐに攻撃に加わる。リッチは盾を回収したリッツさんに弾き飛ばされ、グレイさんに背中を切り裂かれ、ハーミットの魔法を体に叩き込まれている。

 あと少し……ほんとにあと少しで倒せるんだ!

僕たち全員の頭に勝利の二文字がうかぶ。


『ガガァァァァ!!!』

 

 すでに満身創痍の状態のリッチ周囲一帯を自分ごと吹き飛ばそうと体全体に魔力を込める。


「こ、これは!自爆する気です!!」

「まずいぞ!一旦下がれ!巻き込まれるぞ!!」

「くそっ、間に合わない!!」


 僕たちは近距離の攻撃手段しか持っていなかったため、自爆を回避できるほど離れることができない……


『ガガッ!?』


 ここまでなのかと思った瞬間、リッチが苦悶に満ちた短い叫び声をあげる。

 何事かとリッチを見上げると後頭部の瞳にリッチが持っていたはずの杖が刺さっていた。

 誰が……


「はっ……やってやったぜ……ちくしょう……」

「よくやってくれたわ……レントさん」


『ガ……ガッ……』

 ーーードサッーーー


 杖を投げてくれたのは顔が真っ青になったレントさんとそれを支える母の姿だった。

 どうやらレントさんは弾き飛ばされた杖を母に回収してもらい、一矢報いるために機会を伺っていたらしい。

 レントさんの一撃を受けてリッチは地面に落ちて絶命した。自分ではもはや十分に動けないとしても最後の瞬間まで戦う意志を捨てないレントさんはやっぱりすごい。


「レントさん、大丈夫ですか!?」

「リッチを倒したからか、少しずつ楽になってきた気がするぜ……」

「よくやってくれたな、レント……」

「いや、それはこっちのセリフだ……あと少し遅かったら俺は死んでたぜ……」


 レントさんが無事なことを確認して、僕はフェニーの元へ向かう。

 地面に落ちているフェニーの体には、大きな穴が空いている。僕を守るために……


「フェニー……フェニーのおかげでリッチを倒せたよ……」

「ブレイブくん……」

「ハーミット……フェニーが……フェニーが動かないんだ……それに、体が少しずつ崩れて……

「っ……」


 フェニーの少しずつ塵となっていく体を抱いてうずくまる僕をハーミットは抱きしめてくれる。フェニーは呪いの杖に刺されてしまった。持ち主のリッチ自身を殺すことのできる呪いだ……きっともうフェニーは……


「あれを見て!」

「なんだ!?」


 母とリッツさんの声を聞いて僕もそちらを見る。涙で歪む視界でははっきりとは見れないが、フェニーの炎で燃えていた石が一つだけ強い光を放っている。


「あ……あぁ……フェニー……フェニー!!」


 抱きしめていたフェニーの体は全て塵となって消えてしまったけど、あの光輝いている炎がフェニーなんだと僕には、僕だけにはわかる。

 僕は立ち上がり、その激しく燃える炎に右手を入れる。


「ぐぅっ……」


 僕の右手を包み込み、さらに激しく燃え盛る炎は僕の右腕を焦がしていく。


「ブレイブくん!……腕が……」

「ブレイブ!何してるの!やめなさい!!」


「大丈夫……心配しないで!」


 僕の腕を焼き尽くすような熱、そして痛み。フェニーが再び目覚めてくれるのならいくらだって受け入れよう。

 死ぬまで一緒に居てくれると言ったフェニーがその命をかけて僕を助けてくれたんだ。

 ーーー僕もその気持ちに報いたいーーー


「……おかえり!フェニー!」

『ご主人!ただいまなの〜!』

「フェニーちゃん!!」

『ハーちゃんも心配かけてごめんなさいなの〜』


 僕の腕を焼き尽くす痛みが無くなり、焼け焦げた腕が再び元の形に戻っていくことで僕はフェニーが戻ってきてくれたことを実感する。

 炎の中から元気な姿で飛び出してきたフェニーを駆けつけてきたハーミットと2人で抱きしめる。

 

「そうだ……ブレイブくん……腕は大丈夫なんですか!?」

「フェニーが治してくれたから全然大丈夫だよ!!」

「よ、よかったです……」

『ごめんなさいなの……呪いを解くのにご主人の血からまた魔力をもらっちゃったの……」

「大丈夫!それよりも僕を助けてくれてありがとうねフェニー!」

『不死鳥は受けた恩は忘れないの!それに、こうしてまたご主人には助けてもらったの〜』


 フェニーは杖の強力な呪いで不死性と魔力を失ってしまって、炎を使っても復活することができなかったらしい。


「本当にみんな無事でよかった……」

「ブレイブくん、泣かないで……」

「……泣いてない」

『泣いてるの〜』


 お互いに助け合ってこうしてみんなで生きている喜びを分かち合えている。それが涙が出てしまうほど嬉しい。


「フェニー、レントさんの呪いもなんとかしてあげられる?」

『もちろんなの〜』


 僕はフェニーにレントさんの呪いを治してもらうようにお願いする。先ほど少しだよくなった気がすると言っていたが、治せるのであれば早めに治療したほうがいいだろう。


「助かるぜ……」

『この感じだと少し時間はかかるけど治せると思うの』

「よかった……」


 これで本当の意味で全員無事にダンジョンを攻略して帰ることができそうだ。

 リッチの体はいつのまにか灰の山となっていて、形とて残っているのは不気味なローブと呪いの杖、そしてナイフだけだ。


「……全員動けるなら……少し進むぞ……」

「グレイさん?」

「ダンジョンアイテムの回収だな、行こう」

「お!いよいよか!楽しみだな!!」


 グレイさんとリッツさんは勝手がわかっているかのようにリッチが現れた先にある部屋に向けて足を進める。


「フェニー、リッチの灰とアイテムはどうすればいいのかな?」

『こんな灰は吹き飛ばしちゃうの!アイテムはご主人とハーちゃんで使えばいいと思うの』

「わ、私こんな不気味なローブ着たくないです……」

『杖の方だけでも貰っておいてもいいと思うの』

「わ、わかりました……」

「じゃあローブは私が着ていこうかしら……薄着で寒かったし」

「母さん……本当にいいの?」

「害がないなら着るくらい別にいいじゃない」


 フェニーはリッチの灰を恨みを晴らすかのように乱雑に吹き飛ばし、アイテムはこの場に残った僕とハーミットと母で分け合うことになった。


 大人3人組はこの先のダンジョンアイテムのほうが気になるのか、奥の部屋にすでに入っているようで姿が見えない。


「本当に男の子って何歳になってもああいう『お宝が眠る部屋』とか『隠し部屋』みたいなの好きよね」

「そ、そうかな?」

「ブレイブもハーミットちゃんが魔力切れになっていた時にウキウキしながら隠し部屋の探索しに行ってたじゃない?」

「……ま、まぁ……そうだけど……」

「ふふ……ブレイブくんも男の子ですね」

「じゃあ私たちもいきましょうか」

『はいなの〜』


 ボスを倒した後のお宝部屋の探索……やっぱりワクワクするかも……

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