第34話 ダンジョン攻略後編Ⅱ
リッツさん達と合流した場所から中央の建物までは一本道で繋がっており、両隣は高い壁で囲まれている。
上に魔物の気配は今のところ感じることはないため、水路が見えづらく、奥には貴重なアイテムがあったり、フェニーが閉じ込められていたことを考えると、ある種の秘密の通路のようなものだったのだろう。
正規の攻略ルートを通らずに上手いこと進めているためなのか、あれだけいた魔物の群れとは遭遇していない。
「なんだかこんなに魔物と遭遇しねぇのも気味が悪ぃな……」
「ああ、まるで誘い込まれているような気になってくる」
「やめてくださいよ怖いこと言うの……」
魔物と遭遇することなく中央の建物の中に入ることができた僕たちは真ん中に見えていた屋根の大きな空間に向けて歩みを進める。
静まり返った一本道に僕たちの足音が響き渡り、建物の中に魔物が全くいないという状況に違和感を感じ始めていた。
「やっぱりおかしいわよね?」
「……ああ……」
「ハーミット、周囲に魔物がいないか探索魔法使って確認できる?」
「わ、分かりました……『エネミーサーチ!』」
「どうだ?」
「こ、これは……すでに囲まれてます!!!」
「なんだと!?」
僕たちが気づいたことに魔物も気づいたのか、僕たちの入ってきた入り口や通路にいくつかあった扉から一斉にゴブリンやコボルトが押し寄せてくる。
「こっちだ!急げ!!」
リッツさんの指示を受けて通路で唯一魔物の出てきていなかった扉に全員で雪崩れ込む。
扉に入った瞬間に中にあった箱を扉に当てて少しでも開かないようにと押さえつける。
「助かったぜ……」
「あの数はどうしようもなかったですね……」
「それにしてもこの部屋は何なのかしら……」
「魔物がこの部屋だけ出てこなかったってのは流石に不気味だな」
『そこに転移陣があるの〜』
フェニーが部屋に設置された棚の裏に見つけたのは転移陣という、触れると対応した場所に強制的に移動させられてしまう罠だった。
これがどこに繋がっているかわからない以上、簡単に手を出すべきではないが、このまま外の魔物が扉を破るのを見ていることが正しい選択なのかはわからない。
「ど、どうしますか!?」
「行くしかないだろ!」
「き、危険ですよ」
「できるなら魔法陣の裏に隠れて魔物だけ転移させられないかしら?」
『無駄だと思うの〜一度に転移できる数は限られてるから一回送ったら結局この場所で魔物と戦うことになっちゃうの〜』
「だったらこの転移陣を封鎖した上で俺たちだけで飛ぶしかないわけだ」
「……待て、危険すぎる……」
「ど、どうしましょうか……」
僕たちはこの時間がない状況で判断を迫られる。
リッツさん、レントさん、フェニーは転移賛成派
グレイさん、母さんは転移反対派
ハーミットと僕は様子見
見事に意見がわかれてしまった……
『グギャギャ!!』
ーードンドンドンドン!!ーー
ーーベキベキッ!ーー
「悩んでる時間なんてねぇぞ!」
「ここにいてもどのみち全滅だ!覚悟を決めて飛び込め!」
「……仕方がない……」
「わかったわ……」
「行きましょう!」
魔物が扉を叩き、ドアがもう破られてしまうと言ったタイミングで全員で転移陣に飛び込む。
ーーーシュンーーーー
「ぐっ……」
「大丈夫か!?」
「何とか……」
転移して移動してきた場所は暗い部屋の中だった。
フェニーの燃えている炎の光で若干の明るさは確保できているが、それでも3m先もわからないような状況だ。
『カカカカ……』
「なんだ!?」
『カカカカッ!』
『この声!リッチなの!!』
「ってことはボスの部屋かよ!」
「ぜ、全員避けてください!魔法です!」
ハーミットの声を聞いて状況はわからないが横に飛び込むようにしてその場を離れる。
フェニーの炎を目印にしたように左右バラバラになって回避した僕たちの間を何かがものすごいスピードで横切っていく。
「助かったぜハーミット!!」
「ま、また魔法がきます!!」
「くっ、息をつく間もない!」
今度は僕たちの目にもはっきりとわかる燃え盛る炎の波が押し寄せてくる。
「これはかわせねぇぞ!!」
「さ、下がってください!『ウォーターウォール!』」
ーーバシュゥ……ーー
ハーミットが僕たちを囲むように水でできた壁を作ってくれたことで何とか炎の波の魔法を乗り切る
『カカカッ!』
「明かりも満足にないんじゃ戦いにならない!」
「フェニーちゃん、あなたの炎を貸してちょうだい!」
『わかったの〜』
魔法を放つ度に暗闇の中慌ただしく動く僕たちが面白いのか、リッチは不気味な笑いのような声を上げる。
母は建物の中で拾ってきた袋を漁りながらフェニーに声をかけて何かにフェニーの炎をつけている。
「みんな!これで少しは見えるようになるわ!」
そう言って母は松明のように燃え盛る石をあたりに何個も投げ込んでいく。
フェニーの炎はみんなを励ますように優しく燃え盛り、あたり一体を明るく照らしてくれている。
「これがリッチ……」
「まさか本物を拝む日が来るとはな」
「こ、これが……」
暗かった部屋の中が明るくなることでようやくリッチの姿を見ることができた。
黒のローブを全身を覆うように被り、皮と骨だけしか存在しないような顔をしてこちらを見つめている。
手に持った指揮棒のような杖は黒く鈍く輝いている。僕の拾ったナイフと同じような模様が刻まれているのを見ると、呪いが付与されている可能性もありそうだ。
「つ、次の魔法が来ます!」
『カカカッ!』
「今度は電撃か!!俺の元に集まれ!」
リッツさんの掛け声を受けて全員が集まり、リッツさんの構えた大盾よりも後ろに下がる。
ーーービシャン!!ーーー
リッツさんは盾を地面に突き刺すと魔法が直撃した瞬間だけ盾を手放し、電撃を盾から地面へと流していく。
「凄まじい攻撃の密度と威力だな……」
「……隙をみて切り込む……」
「グレイさん……隙って……」
『カカカカカカカカ!!』
「こ、これは……!!みなさん避けてください!!」
『呪いなの!当たっちゃダメなの!!避けるの!!』
ハーミットとフェニーが避けろと言った直後、漆黒の魔弾が無差別に発射された。
速度はそれほど早くはないのだが、一つ一つが心が冷えるような重圧を放っている。
弾幕の密度にムラがあり、僕の元に来た数は少ないため、何とか避け切ることに成功する。
「みんな!?」
「きゃっ!」
「ハーミット!?」
「だ、大丈夫です……ローブにかすめただけです……」
「……問題ない……」
「ぐぅ……あぁぁ!!」
「レントさん!!!」
「レントさんが私を庇って……」
「フェニー!!」
『呪いはすぐには無理なの!全身に回る前に術者を倒すの!』
「そんなこと言ったって!!」
『呪いの回復に入ったらハーちゃんの魔力を補助できないの、ハーちゃんの魔力が尽きたらリッチの攻撃防げないの!!』
「うぅ……俺は良い……ハーミットの魔力の方が……今は重要だ……」
「そんな……」
レントさんは母を庇って呪いを受けてしまった……バラバラになっていたとはいえ、僕が母を守るべきだったのに……
このままではハーミットの魔力も尽きてしまう。レントさんも呪いが全身を回る……リッチに普通の攻撃は効かない……
どうすれば……どうすればいい!!
「割り切れ!ブレイブ!!そんなんじゃ次はお前がやられるぞ!!」
「そんなこと言ったって……」
「ここに来ると決めたのはお前だろう!仲間が呪いを受けたぐらいで動揺するな!みんなを守るんだろ!!だったら悩んでないで戦え!!」
「っ……わかりました!」
「ぐぅ……それで良い……いけ!ブレイブ!」
「レントさん!絶対助けます!死なないでくださいね!!」
「あ……あぁ」
リッツさんの喝とレントさんの後押しを受けて僕は改めて剣を構える。
あのナイフは切り札だ……もともとリッチが持っていたものだから、見せれば警戒されてしまう……絶対に外さず、急所に攻撃できるタイミングでしか使えない。
あの時の感覚を思い出せ……僕がみんなを守るんだ……
「つ、次の魔法来ます!」
「今度はなに!?」
「炎の波だ!!」
「っ……『ウォーターウォール!』」
全員がハーミットの近くに集まり何とか魔法を凌ぎ切る。ハーミットの額には汗が滲み、限界が近づいてきていることが誰の目から見ても感じられる状態だ。
「次の攻撃が何であれ、俺が受け止める。グレイ……切り込めるか?」
「……任せておけ……」
「ま、また魔法が来ます!」
「よし!こい!!」
ーーーガキンーーー
ーーゴシャッ……ーー
「ぐぅぅ……」
「リッツさん!?」
「行け!」
「……ああ……」
ーーシュッーー
リッツさんが土の槍を盾で受け止め、壁まで吹き飛ばされる中、槍によってできた死角を縫うように移動したグレイさんの一撃でリッチに深い切り傷が刻まれる……はずだった。
『カカカッ』
「……ぐぅっ……」
グレイさんの一撃は確かにリッチの体にあたっていた。しかし、ローブに刃物への耐性があるのか、リッチが魔法で何かをしたのか不明だが、リッチには傷一つついていない。
さらにリッチは手に持った杖をグレイさんに叩きつけることで距離を取る。呪いの武器での攻撃をグレイさんは咄嗟に防いだが、空中で踏ん張りが効かず、吹き飛ばされてしまう。
「グレイさん!」
「……問題ない……」
『物理攻撃がこんなに効かないのはおかしいの!』
「……何かカラクリがあるということか」
「リッツさん!大丈夫ですか!?」
グレイさんもリッツさんもボロボロだが、まだ戦えるようだ。しかし、レントさんの顔色は先ほどよりも悪く、時間があまり残されていないように思える。
「ハーミット……僕はあの時の魔法を使えると思う?」
「ブレイブくん……きっとできます!!私も手伝いますから、諦めないでください!」
「ありがとう……やってみる!」
僕はハーミットの近くに行き、身体強化の魔法をかけてもらいながら、守るべき仲間、家族のことをしっかりと見つめる。そうしてから一度目を閉じて体の中に意識を集中させる。
……僕は何のためにここに来たんだ?……
みんなを守るんだろう……ウェスタンの人を助けにいくんだろう……レントさんを助けるんだろう……母を守るんだろう……
そして、魔法を使ってみんなを助けてくれているハーミットを僕が守るんだろう!
みんなのことを思う度に、守ろうと思う度に体の奥から力が湧いてくる。
そして倒すべき相手をしっかりと見据える事でさらにその力は熱を帯びて体を駆け巡る。
僕1人じゃない。みんなで戦っているんだ!絶対に勝てる!!
ゆっくりと目を開けて、剣を構える。
「ハーミット……ありがとう!……行ってくる!!」
「はい!今度はちゃんと見てますから!勝ってください!」
ハーミットは僕の体から湧き上がる魔力が見えたのか、僕に無茶をするなでも、帰ってきてでもなく、僕を信じて『勝ってください』と言ってくれた。
仲間が信じてくれている。それだけでさらに体が熱を帯びていく。
そしてその熱はリッチにも伝わっているのか、今までグレイさんやリッツさんの動きを見ていた瞳がギロリと僕をまっすぐに捉える。
「いまからお前を倒す!」
『カカカッ』
まるで僕にやれるならやってみろと言わんばかりの表情を浮かべて再びリッチは僕に向かって大量の呪いの弾丸を放った。




