第33話 ダンジョン攻略後編
横穴を抜けるとそこは建物の中と同じような薄暗い空間だった……魔物の気配は全くないが、ジメジメとしていて不快感が高い。
「ギリギリ状況がわかる程度の明るさしかないし、ジメジメしててなんか不快だね……」
「そうね……服も何度も濡らして生乾きだから臭いも嫌よね」
「に……臭い……」
『別に気にしなくて大丈夫なの〜』
ハーミットは自分の服の服の臭いを確認すると少しだけ僕と距離を離れる。
みんな一緒で臭くなっちゃってるのはしょうがないんだからフェニーの言うように気にしなくていいのに……
通路のような作りをそのまま進んでいくと、再び水面が広がっているが、こちらは先ほどとは違い、徐々に狭くはなっているが、そのまま歩いて進んでいけそうだった。
バシャバシャと音を立てながら水路を進んでいくと、道の先から音が聞こえてくる。
キン!キィン!! ゴォン!
近づいていくほどに音の正体がはっきりとしてきた。
これは戦っている音だ!
「戦闘の音だ!リッツさん達かも!!」
「急ぎましょう!」
「は、はい!」
僕たちは少しずつ狭くなる水路を一気に走り抜け、広く明るい空間に出ることができた。
「眩しいっ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!あれ!!」
「リ、リッツさん……」
『ピ、ピンチっぽいの〜』
僕たちの出てきた場所の反対側には大人のサイズのゴブリン10体ほどに囲まれて徐々に壁側に押されているリッツさん達の姿があった。
腕や体に傷を負っているゴブリンが何体もいて、距離を保ちながら攻撃していることから、近づいてグレイさんに切られるのを警戒しているようだ。
ゴブリンは石を投げつけたり、長い棍棒を振り下ろしているが、リッツさんは下がりながらも一つ一つ丁寧に盾で捌いている。
しかし、このままでは壁に追い詰められて下がることもできずに攻撃を喰らってしまう。
何とか助けに行かないと……
「ハーミットは牽制程度でいいから魔法で攻撃!
フェニーはリッツさん達の所に飛んで、怪我をしていたら治してあげて!
母さんはこれでハーミットに石が当たらないように守ってあげて!」
「わかりました!」
「ええ、任せて!」
『頑張るの〜!!』
「じゃあ、いくよ!!」
僕たちはリッツさん達を壁まで押し込み、いよいよ集団で襲い掛かろうとしていたゴブリンの背中に一気に襲いかかる。
「はぁ!!」
「ファイヤーボール!!」
『助けに来たの〜!』
『グゲッ!!』
『グゴッ!?』
『ゴブ!?』
リッツさん達に意識を集中していたゴブリン達は背中を刺されたり、隣にいた個体が燃やされたことに動揺したのか、一斉に振り返る。
ーーーシュッーーー
そんな明らかな隙をグレイさんが見逃すはずもなく、包囲を構築していたゴブリンの壁に穴を開ける。
そこから一気にリッツさん達は飛び出してくることで、危機的状況を脱することができた。
「無事ですか!?」
「ブレイブ……助かったぞ」
「……感謝する……」
「流石にやばかったぜ……」
「怪我をしていたらフェニーと母さんに手当をしてもらってください!」
「じゃあすまんが……一旦下がらせてもらうぜ……」
そう言ってレントさんは後ろに下がる。
すれ違いざまに見たレントさんの左腕は変な方向に曲がり、腫れ上がっていた。
「フェニー!母さん、すぐ治せそう?」
『血は止められるけど、骨はちゃんと元の形にしてからじゃないと一気に治せないの……」
「じゃあ骨の方は私がやるわ……かなり痛むけど我慢してちょうだいね……」
「あ、あぁ……それで動かせるようになるなら頼むぜ……」
「いくわよ!……」
ーーグチュリ……ーー
「ぐうっ……」
「もう少しよ……頑張って…………はい、できたわ」
『はいなの〜』
「ぐっ……感謝するぜ……」
腕の中がどうなっていたのか、痛みがどれほどだったのか想像もしたくない、湿った音をたてながら強制的に治療されたレントさんは額に大量の汗を浮かべながらも笑みを浮かべて戦闘に復帰する。
「レントさん……まだ無理はしない方が……」
「んなこと言ってられる状態じゃねぇぞブレイブ」
「そうだ。数は依然相手の方が多く、正面から戦える人員も少ないんだ。無理を無理と言っていたら切り抜けられん」
「……そういうことだ……」
この数の大型のゴブリンを前にして、怪我を治療したばかりでも戦いに向かうという大人組の覚悟は凄まじい。
僕も負けてはいられない。こんな所で死ぬわけには行かない。ウェスタンの人を助けるためにも、僕たちの街を守るためにも、必ずここを切り抜ける。
そう覚悟を決めて集中する。
「相手はホブゴブリンだ……正面から攻撃を受け止めようとするなよ……」
「分かりました!……行きます!!」
「「おう!!」」
僕は剣と短剣を構え、右側から怪我をしながらも襲いかかってくるホブゴブリンを迎え撃つ。
ホブゴブリンは長めの棍棒を片手で真上から振り下ろす。僕はリッツさんに向かって何度も攻撃していた姿も見ていたため、余裕を持って回避する。
棍棒が地面を叩いた瞬間下がった肘に向かって短剣を突き刺す。ホブゴブリンが肘に刺さった短剣に気を取られた瞬間に首筋に剣を突き刺すとホブゴブリンは剣が刺さった状態の喉元を押さえて体を勢いよく捩る。
あまりの勢いに僕はおもわず剣を手放してしまう。
「くっ……」
「ブレイブ!そんなすぐに武器を手放すな!」
「はい!」
僕はリッツさんから怒られながらも予備武器であるククリナイフと拾ったナイフを構える。
まだ目の前には敵がいるんだ、リッツさんの言うように武器を簡単に失っていられない……
そこからは一進一退の消耗戦といった状況が続き戦況が膠着したが、しばらくして、フェニーがハーミットの上で魔力を集めて魔力の回復を促し、魔力の使用量を抑えた魔法を連発するという固定砲台戦法を2人が生み出した。
遠距離からも援護ができるこちら側が次第に有利となり、レントさんとグレイさんが攻めに転じることで、何とか全て討伐することに成功した。
「ふぅ~……厳しい戦いでしたね……」
「ほんとだな……ブレイブ達が来てくれなかったらあそこで死んでいたかもな」
「リッツさん達はどうしてここに?」
「それは俺たちこそ聞きたいところでもあるんだが……」
ホブゴブリンが全て絶命していることを確認してから、お互いの経緯を報告する。
リッツさん達は屋根の上を大きく迂回しながら中央を目指して進んできたが、あともう少しというところで屋根に登っていたコボルトの襲撃を受けて建物の下に落ちてきてしまったらしい。
落下の際にレントさんは腕を骨折、一緒に落ちてきたコボルトは倒せたが、今度はホブゴブリンに囲まれて消耗戦を繰り広げていたということらしい。
僕たちの方も新しく仲間になったフェニーを紹介しながら、このダンジョンのボスがリッチと言う魔物みたいだということまで含めて報告を行う。
短期間でいろいろなものを見つけてきた事にリッツさんはかなり驚いていた。
「全く……どうやったらこんなものを手に入れることができるんだか……」
「貴重なものなんですか?」
「もろんだ!こいつは正真正銘ダンジョンアイテムだ!ボスを倒し、ダンジョンを出なければ使用できんがな……」
「これが……」
「すごいじゃないブレイブ!大手柄よ!」
「まぁ、問題はリッチをどうやって倒すかというところだがな……」
「強敵なんですか?」
「高威力の魔法をひたすらに放ってくる上、本体の体は不死を象徴しているからな。物理攻撃での討伐はほぼ不可能だ」
「ほぼって言うなら倒せないことはないってことよね?」
「それも魔力の込められた武器や魔法の付与された状態でなら通じるというレベルだ……そんな武器など……」
『ご主人の持ってるナイフなら可能なの〜』
「ナイフって言うと……これ?」
僕はフェニーの言うナイフは建物の中で拾ったやつだろうと思い、みんなの前に出して見せる。
「何だか雰囲気はあるナイフだが……」
「あ、あの……ま、魔力はナイフからは感じませんが……」
『それはそうなの!このナイフにつけられてるのは呪いだから魔力は出てないの〜』
「呪いって……大丈夫なのか?」
みんなは呪いの武器という聞いたことのない単語に顔を顰める。知らずとは言えそんなものを持って戦っていた僕も何か影響があったらどうしようとナイフを握る手に汗が滲む……
『傷をつけない限り大丈夫だと思うの!』
「傷つけられるとどうなるんだ?」
『再生を阻害されるし、一時的に不死性を破壊されてしまうの〜』
「それってもしかして……」
『私が再生できずに灰になっていた原因の武器でもあるの〜』
「ごめんね……知らずとは言えそんな武器を持ってきちゃって……」
『大丈夫なの〜ご主人はとっても優しいの〜』
「不死性が破壊できるならリッチにも有効って事じゃねぇのか?」
『その通りなの!あの骸骨を同じ目に合わせてやるの!』
「あはは……」
思ったよりフェニーは根に持つタイプなのか……気をつけよう。
「あとは魔法だけど……ハーミットは魔力の回復はどう?」
「フェ、フェニーのおかげで7割ほどまでは回復できました」
「よかった!」
「じゃあ一休みしたら先に進むぞ」
「はい!」
僕たちは各々装備の点検をしたり、仮眠を取ったり、服を乾かしたりしてリッチの居ると思われる中央の建物へ向かう準備をする。
いよいよ決戦になるのか……気を引き締めよう。




