第32話 ダンジョン攻略中編Ⅲ
「母さん、戻ったよ……ハーミットはどう?」
「お帰りなさいブレイブ……まだ目が覚めないわ……」
「前に魔力を使い切ったら1〜2日は経たないと戻らないって言ってたからな……」
「リッツさんたちのことも考えるとそこまで待てないわよね……」
「そうだね……」
僕は穴をよじ登りながら母に戻ったことを伝えると、ハーミットの方を向いたまま返事をしてくれた。
確かに母の言うとおり、一瞬1秒の判断が命に関わるダンジョンで仲間の数が少ないまま1〜2日も探索を任せるのは良くない。
リッツさんたちが闘い慣れているとは言え、そこまで余力があるとは思えないからだ。
「フェニー、ハーミットを治すことは難しい?」
『……魔力の回復は再生とは違うからすぐには難しいの』
「そっか……」
『ただ、回復するために魔力を集める手伝いくらいはできるの』
「そうすればハーミットは早く目覚める?」
『起きると思うの!』
僕は新しく仲間に加わったフェニーに話を聞くと、この状況を改善できそうだと教えてくれた。
さっそくフェニーにハーミットの回復の手伝いをお願いする。
「きゃっ、ブレイブ、燃えてる鳥よ!」
「大丈夫だよ母さん!建物の中で出会って、仲間になってくれたフェニーって言うんだ」
「……ハーミットちゃんは燃えたりしないわよね?」
「母さんも、触ってみればわかると思うけど、あったかくて気持ちいいよ」
母は視界の外から急に現れたフェニーにびっくりし、ハーミットに触らない様に払い除けようとする。
僕が大丈夫だと伝えると、腰が引けながらではあるけど、僕の言葉を信じて触ってみている。
一度触って抵抗されないとわかれば、可愛く思えてきたのか、揉みくちゃにしている。
『ちょっと、集中できないの〜!そろそろ離すの〜!』
「いいじゃない、フェニーちゃん!もうちょっとだけ!」
「母さん、ハーミットのためだから……」
「……そう言われたらしょうがないわね」
『た、助かったの〜』
母は渋々といった感じでフェニーを離すと、フェニーはハーミットの上に立ち、羽をその場で優しく羽ばたかせている。
『少し時間がかかるから建物の中を探検するなら行ってくるといいの〜リッチの残した物もまだあると思うの〜』
「この先役立つの物ってこと?」
『役立つかどうかはわからないの……ただ、待ってるよりはいいと思うの〜』
「まぁ、確かに……母さんはどうする?」
「私はパタパタしてるフェニーちゃんをみてるわ、とっても可愛いもの」
『じゃ、邪魔だけはしないでほしいの……』
「母さん、ほどほどにね……じゃあ行ってくる」
フェニーの言うとおり、待っているだけてば何の役にも立てない。僕は再び壁をよじ登って建物の中に入っていく。
先ほどのフェニーを見つけた場所より奥はまだ行っていないので、武器をいつでも取り出せる様にして進んでいく。
「……相変わらず本だらけだな……」
奥に進んで来ても見渡す限りの棚で、本ばかりがギッチリと入っている。
これで四角い建物の中をざっと横切った形だ。今度は壁沿いに入り口側に戻っていく。
「お、なんかある」
フェニーを見つけた空間よりも少し入り口側の壁沿いには棚ではなく机が置いてあり、大型のナイフと鉱石や小物の入った袋がいくつも置いてある。
「この大きな袋ならもしかして空気を溜めて置けるかも……」
簡易的な酸素ボンベの様な形で使えそうな大きな袋をいくつか手に取り持っていくことにする。
ナイフも今まで見たことない素材で出来ているし、何やら文字の様なものが刻まれているので持っていくことにした。
「なんか冒険って感じで楽しくなってきたな……もっと探してみよう」
今度は反対側の壁の方に向かっていくと、同じ様に机が置いてある。上には先ほどと同じ様な鉱石や素材も置いてあるのだが、変に雰囲気のある小さめの四角い箱が気になった。
「何だこれ……紋様が刻まれてるけど、開けられたり何かを刺せるようなところはなさそう……でもただ彫っただけの物って感じでもないんだよな……」
いわば柄の着いた四角い石。なぜか僕にはそれが箱として存在していて、中に何かが入っていると確信できた。
そんな不思議な感覚があり、一度手に取ると気になって手放せなくなってしまった。
「まあ、誰のものってわけでもないし、持って行ってみよう」
僕はそれをポケットにしまい、再びぐるりと建物の中を散策する。
流石に本を手に取って読んでみたものの、書いている文字も内容も分からないので持って帰るのは諦めた。
「……ブレイブ〜」
遠くから母の呼ぶ声が聞こえてくる。ハーミットが目を覚ましたのかもしれない。
「ただいま」
「やっと帰ってきた!ハーミットちゃんが目を覚ましたわ」
「……ブレイブくん、ご心配おかけしました」
『思いの外順調に魔力が回復できたの〜』
「フェニー、ありがとうございました」
「あ、ハーミットはフェニーをみても驚かないんだね」
「ふふっ……それがね、ハーミットちゃん目覚めてすぐに、フェニーちゃんを見てびっくりしたのか飛び跳ねる様に頭を仰け反らして地面にぶつけてまた気絶しちゃって……大変だったのよ」
『ぶつけた所は私が治したから大丈夫なの〜』
「お、お恥ずかしいところを……」
「起きていきなり燃えてる鳥がいたらびっくりするよね」
「はい……」
ハーミットが目覚めたことで、ようやくこの先に進む相談を進めることができる。
「見てこれ、さっき建物の中に行って集めてきたんだ」
「これは……袋?それも結構頑丈だし、水も運べそうな感じね」
「なるほど……水を運ぶのではなく、水の中に空気を運びたいんですね……」
「さすがハーミット!どうかな?」
「一度試してみないとですが、うまくいけばこの先に進めるかもしれないです」
「フェニーは水に濡れると死んじゃったりする?」
『不死鳥はそんなやわじゃないの〜水の中も平気なの〜』
「それはよかった……僕は袋とか試してみるから、準備できるまで母さんとハーミットは建物の中を見てきてよ。僕には分からなかったけど、母さんとハーミットなら何かわかるかもしれないし……」
「わかりました……行って来ますね」
「ええ、溺れない様に気をつけるのよ」
「うん!」
僕たちはこの先に進むための準備を進める。
まずは袋をバサバサと広げて中にしっかりと空気を入れておく。それを持って水に入っていく……が、うまくいかない。
空気は確かに中に溜まっていて、呼吸もできるのだが、大きすぎて浮力が強いのか、うまく沈んでいってくれない……これを持って泳ぐのは大変だ……
何かオモリのようなものをつけて沈めておくことで空気を吸える中継点を作る方がいいかもしれない。
ただ、横穴の部分には上からオモリをつけて落としたところで入っていかないので、そこもどうするか検討しなければいけない……一度みんなに相談してみよう
僕は足場に戻ると、冷えた体を温めるためにフェニーを抱きしめて2人が戻ってくるのを待つことにした。
「……くん……ブレイブくん、起きて!」
「んぁ……ハーミット……あれ!寝ちゃってた!」
「まぁ、疲れていたのよ、仕方ないわ」
「ごめんなさい……なにか2人は見つけられた?」
「それが、魔導書がたくさんあって、今までの系統とは全く違う呪文も使えるようになりました!」
「おめでとうハーミット!」
「ただ……使いこなせたわけではないですし、まだまだ読みきれないものがたくさんあるので、ここの資料全部持ち帰りたいです……」
「流石にそれは無理でしょう……」
「あ〜アイテムボックスとかがあれば……」
「ハーミットちゃんは研究熱心ね、アイテムボックスなんてお宝の類は全部楽園に持ってかれちゃったわよ」
「そうなんですよね……仕方ありません、諦めます……」
さすが研究者兼魔法使い。あの難しい本を読むことで、魔法まで習得してしまうとは……
「新しい魔法は何ができるようになったの?」
「魔物を引き寄せる魔法と身体能力を少しだけ上げる魔法です!」
「引き寄せる魔法と身体能力を上げる魔法ね……」
「特に魔物だけってところがすごいんです!その術式を研究すれば、逆に遠ざけることや、魔物を罠に誘引することだって………………………………」
「あぁ……ハーミットのスイッチが入ってしまった……」
「ハーミットちゃんはどうしたの?」
「魔法について語り出すと止まらなくなっちゃうみたいで……母さんはなにか見つけた?」
「鉱石の中に宝石が混ざってたから少し貰ってきたわ」
「宝石?普段つけてないよね?」
「それはそうよ、興味ないもの」
「だったら何で……」
「この宝石は魔除けとかに使われるやつだからこの先みんなを守ってくれるといいなと思ったのよ」
母さんは母さんで博識だなと感心しながらハーミットが元に戻るのを待つ。
待っている間に、先ほど試してみたことを伝えると、本棚とロープを使って少しずつ設置、横道の分だけは呼吸ができるようにしておきたいということになった。
元に戻ったハーミットと身体能力向上魔法を使って作業をしていく。
時間は結構かかったものの、何とか横穴を突破できるほどに設置することができた。
これでようやく先に進むことができる。
先の水路のことも考えて、袋も多めに持っていこう。




