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第30話 ダンジョン攻略中編

とにかく進まなければならない。それは間違いない。

現時点で魔物が建物の上にいないと言うだけで、この先も現れない保証もなければ、この場所自体が安全である保証もない。


「進みましょう」

「そうだな……それしかない」

「そ、そうね……」


 眼下に広がる魔物の絨毯を見ればこの先に進んでどうにかなるのか不安になるのも無理はない。

 落ちれば一瞬で細切れにされる。そんな当たり前の事実を認識するだけで、この球体のように丸みを帯びた屋根に立つ足が震える。


「一度脇道に沿って立っている建物の上を辿って、あっちの屋根が繋がっている方向から回り込んで進みましょうか」

「……そうだな……」

「おう!」


 このまま真っ直ぐに屋根を進んでも屋根が繋がってないため一度降りなければならない。この状況ではそれだけはあり得ない。全員一致で進行方向を変え、滑らないように慎重に向かっていく。


『ギギャ!!』

『グルァ!!!』


 下に集まっていた魔物達も僕たちの移動に合わせて脇道を使いながら着いてくる。

 攻撃はされなくてもこの永遠続くプレッシャーは体力と集中力をゴリゴリ削っていく。

 息が浅くなり、足取りも重くなる。


「きゃっ!」

「ハーミット!!!ぐっ!」


 屋根の一部が濡れていたのか、ハーミットが目の前で足を滑らせる。咄嗟に手を掴むが僕も足を滑らせて屋根から滑り落ちていく。


「剣を刺せ!ブレイブ!!」

「はい!」


 リッツさんの声に従って剣を建物の天井に突き立てるが、勢いを消しきれない……このままじゃ2人とも落ちてしまう!


「きゃあ!」

「うわぁ!」

「ハーミット!ブレイブ!」


 みんなの声がダンジョンの中に響く。

 僕とハーミットは手を繋ぎながら体に浮遊感を感じ、そのまま落下していく……

 こんなところで……死んでしまうのか……

 そう思って下を見ると眼下に広がるのは魔物の絨毯ではなく、水面だった。

 咄嗟に剣をしまい着水に備える。


ーーバシャン!!ーー


「ぶはぁ!……ハーミット!大丈夫!?」

「…………」

「ハーミット!ハーミット!!」

「…………」


 水面に叩きつけられた衝撃でハーミットと繋いでいた手が離れてしまった。必死に呼びかけてもハーミットの返事がない……水面に上がってこないってことは……水中で気を失えば溺れてしまう。


「すぅ……ーバシャンー」


急いでハーミットを見つけるために水の中に潜る。水中はかなり深く、底の方はどこかに繋がっているのか横に広く広がっている。

 ハーミットはどこだ…………いた!!

気を失っているのか、その体はどんどん沈んでいく。


急いで潜り、ハーミットの体を掴み、水面へと向かっていく。気を失った人の体は重く、水面まで僕の息も続かなそうだ……


ーーーバシャン!!!ーーー


 もうダメだと思ったタイミングで水面に人が落ちてくる。

 あれは……母さん……


 手を伸ばして母の手を掴めば、一気に引き上げられる。


「ゴホ!ゴホ!!」

「ブレイブ!大丈夫!?」

「母さん……ゴホッゴホッ……ハ……ハーミットが!ゴホッ」

「いい?ブレイブ、母さんが後ろからハーミットちゃんを抱えて浮かぶから、息を吹き込んであげて!」

「でもそれって……」

「いまは命がかかってるのよ!私がやってもいいけど、今のブレイブじゃ抱えたまま浮いていられないでしょう!!」

「……わかった」


 母の言う通りだ。ハーミットの命がかかってる。気を失って水を飲んでしまっているのか呼吸がない。

 僕がちゃんとやらないとハーミットが死んでしまう……

 人工呼吸なんてやったことがないけど、鼻をつまんでしっかり息を吹き込むことはわかってる。

 僕だけじゃない、母もいるんだ……きっとできる


「いくわよーバシャー」

「うん……スゥッ……ふぅっー……」

「ブレイブ!もっと強く、しっかり吹き込みなさい!」

「すぅ……ふぅぅーーー!!!!」


 母はハーミットを後ろから抱き抱え、仰向けになるようにしてその場にとどまるように泳いでくれる。

 あんな体制でいつまでも泳いではいられないだろう……

 僕の焦る気持ちが吹き込む息の量を減らしてしまう

 何度も挑戦するが、ハーミットは呼吸をしてくれない……


「母さん……」

「ブレイブ!諦めちゃだめよ!もう一度!!」

「すぅっ……ふぅぅ!!」

「ゴホッゲホッ!!」

「ハーミット!!」


何度も繰り返して息を吹き込み、それに合わせて母が胸を強く圧迫すると、ハーミットは飲み込んでしまった水を吐き出すことができた。


「ゴホッ……ゴホゴホ……えっ!……なんで!?……嫌!」

「ハーミットちゃん!落ち着いて!体の力を抜いて呼吸を整えるのよ!」

「ハーミット!大丈夫!!もう大丈夫だから!」


 意識が戻ったハーミットは自分が抱えられている状態なのと、水面という状況にパニックになってしまう。

 母は後ろから抱き抱え、再び溺れてしまわないようにし、僕は彼女の顔を両手で包み込んで声をかける。


「あ……あ……ブレイブくん……それにアーネスさん……」

「そうだよ!僕がちゃんといる!大丈夫だから」

「落ち着いたかしら、ハーミットちゃん」


 少し時間はかかったものの、ハーミットは誰に抱えられて、今がどう言う状態なのかを理解できたのか、少し落ち着いて来た。


「ハーミットちゃんは1人で泳げるかしら?」

「は、はい、浮かんでいるくらいなら大丈夫です……」

「とは言っても、この場所は周りに登れるところもないし、どうしようか……ずっとは浮いていられないよ?」

「ハーミットちゃん、魔法で私たちが少しの間上がれる陸地を作ることってできるかしら?」

「……壁から足場を突き出せば私達の乗れる分くらいは大丈夫だと思います」

「じゃあお願いしようかしら」

「分かりました…………『クリエイトアース』」


 ーボコボコボコボコー


 壁から飛び出した足場に全員で登る。

 3人が乗った上で1人は横になれるくらいの狭い足場ではあるが、この状況ではありがたい。


「ブレイブ!ハーミット!アーネス!大丈夫か!?返事をしろ!!」

「リッツさーん!大丈夫でーす!!水に落ちちゃって登れなかったですけど、ハーミットに足場作ってもらってとりあえずはみんな無事です!!」

「そうか!脱出はできそうか!?」

「登るのは難しそうです!でも水底の壁が奥に広がっていたので泳いでいければどこかに繋がってそうです!」

「わかった!無茶はするなよ!」

「リッツさん達は!?」

「俺たちはこのまま攻略に向かう!ダンジョンさえクリアできれば魔物がいない状態でお前達の助けに向かえるからな!」


 かなり上の方からリッツさんの声が聞こえてきた。

 きっと何回も呼んでくれていたのだろう、僕たちが必死になっていて気づけなかっただけのようだ。

 そして、どうやらダンジョンの中にいる魔物はボスを倒すと消滅するらしい。外に出た魔物はダンジョンとの繋がりが切れるのか消滅はしないらしいので、とりあえずはダンジョンボスの攻略が先決だ。


「僕たちはどうしようか……」

「戦えない私が言うのもなんだけど、リッツさん達だけでボスを倒すのは難しいんじゃないかしら……」

「ごめんなさい……私が足を滑らせたりしなければ……」

「ハーミット、後悔していても始まらないし、みんな無事だったんだからいいじゃんか。これからどうするか考えようよ」

「ブレイブくん……わかりました」

「ハーミットちゃんの魔法でなんとかできないのかしら?」

「す、少なくともあそこまでの高さで地面もないとなると上に登るのは無理です……」

「水を無くしたり、息継ぎができるような場所を作ることは?」

「……やったことがないので……」

「そっか……一旦潜って通路の奥まで確認はしておきたいんだけどね……」

「そ、そうですよね……クチュン!」

「あらあら、そういえばびしょ濡れのままだったわね、風邪を引く前に一度暖まりましょう」


 3人で薄着になって体を寄せ合って休憩する。


「このまま死んじゃうんでしょうか……」

「ハーミット……」

「そうねぇ……私はそれでも構わないわ」

「母さんまで!」

「そう怒らないのブレイブ……ちゃんと聞いて……2人が一緒に落ちていった時はどうしようかと思ったわ。あんなにたくさん魔物が下にいる中で進んで来たんだもの当然よね。

 それであの人に続いてブレイブまでダンジョンで……って思ったら思わず飛び込んじゃったの。

 下の様子がどうなってるなんて関係ない。どうせ死ぬならブレイブと一緒に逝きたい。そう思ってたの。でもこうしてみんなちゃんと生きてる。だったらやっぱり生きて帰らなきゃ……そう思ったの。だから、ハーミットちゃん……諦めずに一緒に頑張りましょう。ね?」

「……はい……」


体を寄せ合ってお互いの体温を感じながら静寂に包まれていると、ハーミットが不安な声で話を始めた。やっぱりここからすぐに動けないと言うのは不安が募るのだろう。

 母もよく助けに来てくれたと思ったけど、半分以上自暴自棄だったようだ。

 気持ちはわからなくもない。ハーミットと母が同じように落ちていったら僕も飛び込んでしまっただろうし……


「それに、死ぬ時はここにいるみんな一緒。寂しくないわ」

「やめてよ母さん縁起でもない!」

「ふふっ……そうね、そしたらハーミットちゃんと私が危ない時はさっきみたいにブレイブに助けてもらわなくちゃね」

「??さっきみたいに……ですか?」

「溺れていたハーミットちゃんを人工「ちょっと母さん!!ダメでしょそれは!!」あらあら」

「(人工……人工呼吸……人工呼吸!?)それって……」

「必死に頑張るブレイブはかっこよかったわよ」

「母さん!///」

「……////あ、ありがとうございます……///」


 ハーミットはどうやら自分がどうやって助けられたのかを理解してしまったらしく、唇に指を当てながら真っ赤になってそっぽをむいてしまった。

 いつものフードを今はかぶっていないから顔全体が真っ赤になっていて、その仕草と相まってとても可愛く思える。


「そ、その……緊急事態だったから……」

「だ、だ……大丈夫です……ただ……その……できれば起きてる時に……って……ち、違うの!……そのっ!……っー////」

「あらあら、2人とも真っ赤になっちゃって可愛いわねぇ」

「母さんやめてよ!」

「いいじゃない、私は娘も欲しかったし大歓迎よ」

「娘って!」

「……///」


 ハーミットと僕は母さんに弄られて恥ずかしさやらなんやらで体温も上がり、先ほどよりも少し元気になった。

 気を遣いながら場を明るい空気にしてくれる母はすごい。

服は乾かないけど、熱を持った体を冷やすために一度水底を確認しにいってみよう。

 前衛できるのは僕だけなんだ。2人をしっかり守らないと!

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