第29話 ダンジョン攻略前編
霧が晴れて目の前が明るくなる……
そして目の前に広がる光景に圧倒される
「これは……」
「す、すごいわね……」
「宮殿……でしょうか……」
外は少し高い丘の上と繋がっていたのか、洞窟の中とは思えないほどの光量で満たされた空間の中に佇む真っ白な宮殿が眼下にそびえ立っている。大都市にある王族の居城だと言われても疑問に思わないほどの雅やかな外観だった。
「いまから、あそこに乗り込むんですか?」
「……この形のダンジョンは珍しいが……無いこともない……」
「おそらくあの宮殿のような建物の中にボスが居るはずだ」
「ボス……ですか」
「……種族は不明だが、この規模であれば最低でもボブはいるのは間違いない……」
ボブゴブリン……道中にリッツさんやグレイさんが教えてくれた、大人ほどの背まで成長したゴブリンだ。
その腕力は建物に簡単に穴を開けてしまうほどで、正面から受け止めて仕舞えばリッツさんの盾でも衝撃は防ぎきれないらしい。
「そんな魔物をずっと放置も出来ませんよね」
「……ああ、そのために来たのだ……」
「まずはこの城壁を越えられる場所を見つけるぞ」
「おう!」
宮殿の大きさは僕たちの住む街が丸ごと入ってしまいそうな大きさで、中心にあるドーム状の綺麗な建物までは結構距離がある。
崖にあった洞窟の中に街が一つ入るほどの空間があるとは思わなかったけれど、ダンジョンとはそう言うものらしい。
一般的には洞窟のままで、階段を降りていくようなタイプが多く、少し稀なケースでも塔のような構造で登っていくタイプくらいらしい。
小高い丘を降りて、外壁をぐるりと回るように歩きながらダンジョンのことをリッツさんやグレイさんに詳しく聞きながら歩いていると、街の中に入れそうな入り口を発見する。
「あの門みたいなところから中に入れそうですね」
「……だがあそこから入れば魔物に見つかる……」
「だが、いかねぇと始まらねぇぜ?」
「ほ、他の入り口は……」
明らかな罠……と言うよりも、ここから入って来いと言わんばかりの門に対して、そのまま進むか他の道を探すか判断に迷う。
門はかなりの大きさがあり、そこを抜ければ真ん中の建物まで、一直線で繋がっている。あの真ん中の建物にボスがいたとして、大通りをそのまま進んで楽に攻略できる……そんなことはないだろう。
大通りから横につながっている道がいくつもあるのが確認できるし、他の建物がどういう物なのかもわかっていない。
「……だが進まねば始まらない……」
「グレイの言うとおりではある。ダンジョンに挑みに来ているんだ。罠の一つや二つあって当然だろう」
「進むか!」
「はい!」
僕たちは門をくぐり抜けることを決めた。
門を全員で潜ると先ほどまで見えていなかった宮殿の全貌が明らかになる。
「圧倒されてしまうな……」
「ええ、すごいわ……こんな綺麗な建物見たことない」
「と、所々光ってます……」
丘から見下ろしていた時とは違い、間近で見上げるような形で建物を見ると、その造りの精巧さと豪華さに驚かされる。
ーーーカタンッーーー
「物音!?みんな気をつけて!!」
「周囲を警戒しろ!!」
どこかで何かを倒したような、止めていたものを外したような小さな音が聞こえたため、意識を切り替えて周囲を警戒する。
先ほどから僕たちはダンジョンに来ているんだ……建物なんかに圧倒されてる場合じゃない。
ーーーーガラガラガラガラ!!!!!ーーーー
ーードン!!ーー
「と、扉が……」
「……退路は絶たれたか……」
ハーミットとグレイさんの言葉で門の方を見ると、入って来た者を絶対に逃がさない。そう思わせるような重厚感のある扉が上から落ちてきていて、門は塞がってしまった。
『グゲゲッ』
『グルゥ』
門が塞がると同時に大通りの脇道から魔物達が顔を覗かせる。
入って来たものは絶対に逃がさないのだから、小道をたくさん作って逃げられるようにするのではなく、大通りを作って物量で殲滅すればいい。そんなダンジョンの意思をひしひしと感じる。
「幸い鼻の聞くコボルトは1番手前にしかいない!一気に片付けて脇道に逃げ込むぞ!」
「……ああ……」
「わかりました!!」
リッツさんはこの大通りで迎え撃つのは困難だとすぐに判断し、索敵に優れるコボルトを殲滅してから一度逃げるように指示をだす。
それにしだかってグレイさんが一気にコボルトの元へ駆け抜ける。
ーーシッーー
ーーザシュ!!ーー
コボルト達はこのタイミングで自分たちの方につっこんで来ると思わなかったのか、声を上げることもできずに袈裟斬りにされたり、首を刎ねられたりしている。
グレイさんは本当に強い……ピーターさん達と街を渡り歩いているだけのことはある。
「……こっちはだめだ……」
「なんだと!?」
グレイさんがコボルトを倒して奥の道を確認するとすぐに引き返してくる。
どうやら先が行き止まりになっており、ここに入り込めばひたすらに押し寄せてくる魔物を正面から受け止める子になってしまう。
「みんな、いいからその道に入りましょう!」
「アーネス!?何を考えている!」
「いいから今は奥まで走って!」
母は何かを思いついたのか、全員にグレイさんが行き止まりと言った道に入るように伝えて走り出す。
魔物達が奥から押し寄せてくる中、母を先に行かせておいていくことはできない。
「母さんを信じましょう!」
「くそっ!説明くらいしてくれってんだ!」
「……わ、わかりました!」
母の意図はわからないけど、退路もない状態で魔物に囲まれるよりはマシだと母を追いかけてくれる。
「母さん!説明くらいしてよ!!」
「いまは時間がないでしょう!ハーミットちゃん!ここに橋を作ったように岩の柱を作って壁にしてちょうだい!」
「わ、わかりました……『ストーンランス!』」
全員追いついて来たことを確認すると、母は小道の出入り口に魔法で壁を作り出すように言う。
「とりあえずこれで今すぐ魔物が入ってくることはないわ」
「さて、アーネス……こんなところに閉じこもっている理由を詳しく聞かせてもらおうか」
「あら、よく考えればわかると思うのだけど……まあいいわ、聞いてちょうだい」
母の説明によれば、ダンジョンに入って来た時に宮殿を上から見下ろした時に魔物の姿は見つからなかった。
魔物はダンジョンの中とはいえ、急に出現する事はないとグレイさんやリッツさんが周囲を歩いている時に話していた。
だったら、この行き止まりを使って屋根の上に登れば当面の安全も確保しながら、宮殿中央まで近づけるだろうとのことだった。
「……確かに一理あるな」
「……肝心の上り方はどうする……」
「ハーミットちゃんの魔法でゆっくり地面を押し上げてもらうって案もあるんだけど……できそう?」
「そ、そうですね……できないこともないと思いますけど……」
「難しいなら大丈夫よ、他にもいろいろ考えているから……」
「だ、大丈夫です!やらせてください……」
「……『ストーンランス』」
ハーミットが集中して魔法を唱えると、いつもは先端が鋭い石柱の先端が平らなまま僕たちを上に押し上げていく
「……形を保てるのはここまでです……ごめんなさい……」
あと3mほどで屋根に手が届くといったところで上昇が止まってしまう。
「……問題ない……」
グレイさんは少しだけ助走をつけると、壁を蹴り上がり屋根に手をかける。
リッツさんがグレイさんの足を下から押し上げると、上に登ったグレイさんがこちらに向かって手を差し出す
「次はリッツさんが上がりましょうか」
「ハーミットが先じゃなくていいの?」
「スカートのハーミットちゃんを先に上げるつもり?」
「……///」
「あ……ごめんね……」
「と言うわけで、リッツさんが先に上がって、みんなを引き上げた方がいいとおもうわ」
こうして順番に全員が登ることができた。屋根の上は母の言うとおり、魔物はいなかったのだが、若干アーチ状になっていたり、屋根が繋がっていなかったりとそのまま一気に進む事もできそうになかった。
「下の様子は……うわっ!」
「危ねぇぞブレイブ!」
ーーーブン!!ーーー
身を少し乗り出して下の様子を見ようとすると、ゴブリンが棍棒を投げて来ていた。
レントさんが僕の体を引っ張ってくれたおかげで当たらなかったが、上にいるからと安心もできないと言うことを実感する。
下に集まった魔物の数はかなり多く、それこそ200〜300匹程度はいるといった感じだった。魔物は僕に棍棒が当たらなかったことを悔しがりながら、こちらに向かって喚き散らしている。
あのまま下で迎撃していたらどうなっていたか、考えるだけでもゾッとする。
「あ、あんなにたくさん魔物が……」
「アーネスのひらめきがなければ飲み込まれていたな」
「流石にあの数はどうしようもねぇぞ」
ーーーゴクリーーー
僕の喉からなったのか、あるいはここに来た全員だったのかもしれない。緊張のあまり喉が鳴る。一瞬でも迷い、判断を間違えれば即全滅。入って来たものを生きては返さない、絶望の象徴……
攻略すればダンジョンアイテムという莫大な利益をもたらすものが手に入るとは言え、攻略に対する難易度と手に入れた後何ができるかわからないアイテムではあまりにも天秤が釣り合っていないような気がする。
僕たちはまだ宮殿の門から入ってからたったの200m程度しか進めていない。
遠くに見える宮殿に無事に辿り着くことが出来るのだろうか……そしてそこにはボスもいる……
街からここに来た距離を考えれば距離は10分の1もないだろうが、ここから先の道のりはそれよりもはるかに長く、険しく感じるのだった。




