第26話 同じ言葉
前衛……それも盾役となると魔物との距離も近く、引き受けてくれる人は少ない。
僕と同じくらいの体格のゴブリンですらガーディさんほどの力を振るってくるのだ。今まで戦うことをして来なかった人にお願いするのは難しいだろう。
「あとは前衛の盾役か……だれか心当たりはあるか?」
「僕はそんなことをしてくれそうな人って言うとガーディさんしか心当たりがないですね……」
「まぁ、そうなるよな……」
「そもそもグレイさん、普通の探索だと盾役っていないじゃないですか、ダンジョンではどうして必要なんですか?」
「……ダンジョンは洞窟にあることが多い……自由に動けない以上……魔物と正面衝突は避けられない……」
「狭い空間だと満足に避けられないから、攻撃を受け止めながら戦うしかないと……言うことは簡単だが、素人には厳しくねぇか?」
「そうですね……」
考えれば考えるほど難しそうだった。
「一度兵士の人達から人手を借りれないかもリッツさんと相談してみます」
「わ、私はお父さんのところに行って準備して来ます」
「そうしたら11時ごろ西門集合にしましょうか」
「……わかった」
「おう!」
ハーミットもダンジョンに行くつもりではなかったので、道具や着替えなど身支度をするために解散した。
僕も一回家に戻って母と合流してリッツさんのところに向かおう。
「ただいまー」
「ブレイブ……もう行くのかしら?」
「いや、後衛はハーミットが来てくれることになったんだけど、前衛の人がまだ見つからなくて、リッツさんに相談しようと思って……」
「そうよね……あの人でも魔物と戦う時は怖いっていつも言ってたから……戦いなれてない人は余計に難しいわよね」
「父さんも怖いって言ってたの?」
僕は母の言葉にとても驚いた。父は魔物なんか簡単に倒せるし、怖くなんかないのだと思っていたからだ。
「ふふっ、それはそうよ!あの人だっていくら強くても人間だし傷ができれば痛いもの。魔物と戦う前にはブレイブには泣き言言ってるとこは見せられないからな!って言っていつも頑張っていたのよ」
「そうだったんだ……」
「ええ……気持ちはブレイブにもわかるんじゃない?」
「うーん……そうなのかな?」
「そうよ……ウェスタンの人を助けたいからってダンジョンに向かうってリッツさんにいってる姿なんてあの人そっくりだったわよ」
「リッツさんにも似て来やがってって言われたけど……そうなの?」
「優しいお父さんでありたいっていつも言ってたから、ブレイブの前では頑固で決めたことは譲れないってところは見せてなかったものね」
僕の知らない父の事をたくさん話す母はどこか懐かしむような、悲しいような顔をしながら、心の整理をするように自宅を片付けて出発の準備をしていた。
きっかけは僕のわがままからだったけれど、こうして父のことと少しずつ向き合う事ができたのなら、それはそれでよかったのかもしれない。
「そろそろ行こうお母さん」
「どうしたのブレイブ、お母さんなんて呼んで……つい最近までそうだったのになんだか懐かしいわ」
「いや、あの日をちょっと思い出してね、同じ言葉だけど、違う気持ちでこの家を出たかったんだ」
「あら、そうだったのね……じゃあ行きましょうか」
あの日から何も変わっていない自宅からリッツさんの屋敷に向かい歩き出す。
あの日に父に言われて母と逃げた道。あの時は不安でどうすればいいのかわからずに、言われるままに歩き出した。
今日、これからは戦うために母と歩き出す道。同じ道でも確かに違う、自分の足で歩き出すと決めた。
「行ってきます」
「行ってきますね」
改めてドアを閉めて、家を見上げて母と歩き出す。
『おう、行ってこい!』
歩き出した僕の背中には聞こえるはずのない父の、いつも送り出してくれた言葉が確かに聞こえた気がした。
あの日と同じ道を歩き、リッツさんのお屋敷に到着した。
グレイさんやレントさんと話している間にガーディさんと屋敷に戻ってきていたリッツさんが迎えてくれる。
「おう、ブレイブ、アーネス戻ったか」
「リッツさん、戻りました」
「ええ、しばらくまたお世話になるわ」
「ああ、お前たちならいつまででもかまわんぞ。ところでブレイブ、ダンジョンにいくメンバーは決まったのか?」
「実は……「リッツさん、わたしもダンジョンに向かうことにしました」」
「なんだと?……いや、ちょっとまてアーネス!」
リッツさんは母がダンジョンに向かうと聞いて驚いて声を上げる。
「ブレイブが向かうんだもの。わたしも行ってもかまわないでしょう」
「そうだが……そう言う事じゃないだろう。お前に何かあればあいつは……」
「それはブレイブだって同じことよ。ブレイブは戦うと決めて、狩猟やダンジョンに行くと決めた。それを認めてくれたのはリッツさんでしょう」
「うむ……」
「直接魔物は倒せなくても……私もブレイブと一緒に戦いに行きたいの……待ってるだけは嫌……わかるでしょ?」
「……そうか……そうだったな」
リッツさんはあの日に泣き崩れてしまった母を目の前で見ている。今度僕に何かあれば、母は耐えられないということもわかる。ただ、言いたいことはわかるが、賛成はしない。そんな複雑な表情をしながら母の話を聞いている。
「リッツさん、メンバーだけど、僕と母さん、グレイさん、レントさん、ハーミットまでは決まってて、あとは前衛を引き受けてくれる人が1人いれば出発できるんだ……誰か一緒にきてくれる人はいませんか?」
「そうか……前衛か……」
「ガーディさんは狩猟のほうもあるし、リンスさん達も街に何かあった時に守ってもらいたいからあまり連れて行けないよね」
「そうだな、あいつらには残ってもらう。それはうちの兵士達も同じだ」
リッツさんは今度はキッパリと人員を出せないと告げた。
兵士の人達も借りれないとなるといよいよ心当たりもない。どうすればいいだろうかと頭を悩ませる。
「俺が前衛として一緒に行こう」
そんな時に告げられたリッツさんの言葉に僕も母も耳を疑った。




