第25話 隣で
ーーダンジョンーー
それは洞窟や森林の奥地など魔力が澱み、溜まりやすい場所に発生することが多いと言われているが、稀なケースとして、長年放置された建物がダンジョン化することもあり、そのメカニズムはいまだに解明されていない。
ダンジョンを長い間放置していると、内部に発生する魔物がダンジョンの外に出てくるようになる。それだけはこの100年の間でわかっており、ダンジョンが発生したらなるべく早くダンジョンを攻略し、ダンジョンの核を破壊する必要がある。
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「グレイさん、レントさんはダンジョンを攻略したことはありますか?」
「……ああ……」
「俺はねぇな」
「そうですか……グレイさん、ダンジョン攻略に必要なものは何かありますか?」
「……薬と予備の武器は必須だ……人数も最低でもあと3人はほしい……」
「あと3人か」
「……俺は前衛、レントとブレイブは側面……あと防御ができる前衛と後衛、治療師……あたりはほしい」
「なるほど……そうなんですね」
今回は街の防衛の事も考えるとガーディさん達にお願いするわけには行かない。
「ピーターさん達はどうですか?」
「……あいつらは戦闘向きでは無い。ダンジョンは無理だ……」
「そうすると誰に声をかけましょうか」
「盾役に後衛と治療師か」
「私が行くわ……」
グレイさんとレントさんとメンバーの相談をしていると後ろから聞きなれた声が聞こえる。
「母さん……」
「治療なら覚えもあるし、一緒に行かせてほしいの」
「……危険だぞ」
「わかっているわ……それでも、あの人に続けてブレイブまでダンジョンに向かうのよ、待っていることなんてできないわ……」
「母さん、僕はちゃんとみんなと一緒に帰ってくるよ」
「何もせずに待っていて、行方不明になったなんて言葉を聞くのはもう嫌なの!そんなことになったら私は私を許せない!」
「母さん……」
「それにあの人が最後に見たものを私も見てみたいの」
「……ブレイブ、連れて行ってやれ……」
「グレイさん……分かりました」
まさか母が一緒に行くことになると思わなかったけど、これで治療師は見つかった。
母は早速治療に使えるものを集めに、自宅や広場に向かって行った。
「あとは前衛と後衛だな!」
「ブレイブくん!!怪我はありませんか!?」
「ハーミット!!ハーミットこそ大丈夫だった!?」
「はい!あの後は無事に街に着けたんですけど、ドッチさんの治療をする手伝いをしていたらお迎えに間に合わなくて……ごめんなさい!」
「そんなの全然大丈夫だよ!ハーミット達に怪我がなくてよかった!数も少なかったし心配していたんだ」
リッツさんの屋敷のある方向からハーミットが走ってくる。ドッチさんの治療が終わってすぐにこちらに来てくれた所を見ると、すごく心配をかけてしまったようだ。
「ありがとうブレイブくん!」
「あ、そうだ……こちらレントさん!ウェスタンから向かって来ていた人達の1人だよ!」
「レントだ、よろしくな!」
「あ……あの、ハ……ハーミットです……」
「緊張してんのか?とって食おうなんざ思ってねぇから安心してくれ!」
「レントさん、ハーミットは人見知りなので……」
「そうか!そりゃ悪かったな」
ハーミットはまだレントさんやフローリアさんに会ったことが無かったと思い、レントさんを紹介するが、レントさんが声をかけるとハーミットはすぐに僕の影に隠れてしまう。
「ブレイブ……時間もない……早めに前衛と後衛を探すべきだ……」
「前衛……後衛?……ブレイブくん、なんの話ですか?」
「僕たちで西に新しくできたダンジョンを攻略しに行くんだ」
「ブレイブくん、あの時……約束しましたよね!帰ってくるって、そう言ってましたよね!ダンジョンなんて……帰って来れなくなるに決まってます!なんでそんなところに行くんですか!」
「ハーミット……でも行かなきゃいけないんだ!」
「なんで……なんでですか……」
「ウェスタンに残ることしかできなかった人を助けに行くには、ダンジョンをまず攻略しないといけないから……」
「でも、それはブレイブくんが行かなきゃいけない理由にはならないです……他の人でもいいじゃないですか!もう……もうあんな無茶はしないでほしいです!この前だって死んじゃってもおかしくなかったんですよ!」
僕がダンジョンに向かうと言うと、ハーミットは『必ず帰る』という約束や、何度も言われた『無茶や無理をしないで』という言葉で僕を引き留める。
ハーミットの目の前でサーベルタイガーに吹き飛ばされたことを思い出す。とても心配をかけてしまったし、ハーミットの言うようにダンジョンの魔物はサーベルタイガーよりも強いものも多いだろう。
あの時の力が出せても僕だけではダンジョンは攻略できないかもしれない。それをハーミットもわかっているからこうして僕を止めようとしているのだろう。
「ごめん……それでも……それでも僕は行くよ」
「どうして!!」
「一度でも力がないからって背を向けて、見ないふりをして、みんなを守りたいって僕の心にも嘘をついたら、もう……みんなを守るために立ち上がることができなくなってしまうと思うから……」
「ブレイブくん……」
「ハーミットの心配もわかってるよ、僕はまだ弱い。父さんみたいに1人でダンジョンを攻略なんてできない」
「だったら……」
「僕には力が足りない……だから、今はみんなの力を借りて一緒に戦う。そして、たくさん学んで僕は強くなるんだ」
「でも……だって……」
「だからね、ハーミット……見ていてほしいんだ。僕が間違った道に進まないように、胸を張ってみんなを守るって言い続けられるように……」
「……だったら私も連れて行ってください」
「ハーミット……」
「ブレイブくんはまだ魔法もちゃんと使えないですし……さっきみんなの力を借りてって言ってましたよね……私も一緒に行って、近くでブレイブくんを助けたいんです」
それを言われると断る理由が無くなってしまう。
僕はダンジョンに行きたい。危険だから彼女は僕に行ってほしくない。せめて行くなら心配だから僕と一緒に行きたい。
それの気持ちに対して、危ないからと僕が彼女を止めることは正しいのだろうか……
母の時もそうだった。お互いにお互いのことをちゃんと心配している。それでもやりたいと願うものがある。だったら隣で一緒に歩んで行きたい。
僕たちはそうして、家族を、街を守ろうと集まった仲間じゃないか……だったら……
「グレイさん……レントさん……いいでしょうか」
「……後衛に入るならいいだろう……魔法使いは希少だ……」
「俺も構わないぜ」
「ブレイブくん……」
「ハーミット……ちゃんと言わせてほしい」
「……何をですか?」
「ダンジョンは危険だと思う。それでも僕と一緒に来てほしい。それに、これが終わった後もずっと……ハーミットには僕のことを見ていてほしい。僕もハーミットのことをちゃんと見ているから」
「……それって……///」
「一緒に街を守るためにこれからも頑張ろうね!!」
「っ……ばか!」
「えっ?ハーミット……来てくれないの?」
「行きます!一緒に行きますけど!……ブレイブくんのばか……」
なんでハーミットが怒っているのかはわからないけど、ダンジョンに一緒に来てくれることになった。魔法が使えるハーミットはできることが多いし心強い。
足りないメンバーはあと前衛だけだ……




