第17話 覚醒
道幅の広いところを進んでいくも、なかなかピーターさん達の痕跡も見つけられず、気持ちばかりが焦っていく。
「兄貴……こっから先は俺もいくのは初めてっす……」
リンスさんがそう言ったのは、両隣が切り立つ崖になっている道に差し掛かった時だった。
「この崖を抜けるとまた少し開けた道になるらしいんすけど、獣や魔物が凶暴になるって噂で聞いちまって、それからは近づかねぇようにしてたっす」
「だとよ……ブレイブ、どうしたい?」
「僕は……それでも進むことでピーターさんや、誰かを助けられるかもしれないなら、進みたいです!」
「ま、そうだな……ここまでせっかく来たんだ!お前ら!少しだけ進むぞ!!」
「う、うっす!」
ガーディさんは僕の意見を尊重して、前に進もうと言ってくれた。
幸い今までの道のりではバンビなどは見かけたが、凶暴な獣や魔物は出てこなかった。しかし、この先はそう簡単には行かないという雰囲気を感じる。
「ブレイブ、ハーミット、この先もお前らを守ってやりながら戦うつもりではいるが、陣形を抜けてくる獣や魔物が出てくるかもしれねぇ、武器をしっかり持って、少しも油断すんなよ……」
「わかりました!」
「は、はいっ!」
こうして僕たちは松明を持ち、切り立った崖の間をゆっくりと進んでいく……
「止まれ」
「っ……」
もう少しで崖が終わり、開けた道に出そうだという頃、いつもよりも小さな声でガーディさんが周囲に告げる。
「ハーミット、悪いが一度探索魔法を使ってくれ」
「わ、わかりました……」
『エネミーサーチ』
ハーミットが魔法を使うと、緑の波のようなものが薄く広がっていく……
「これはっ……獣の反応10です!崖を出てすぐの所!すでにこちらに気づいて待ち構えています!」
「ちっ!こっちより数が多いな!お前ら!気合い入れていくぞ!」
「おう!」
「はい!!」
崖を抜け、ガーディさんたちが崖を背にして扇状に広がり正体不明だった獣と向かい合う。
「やべえっす!全部サーベルタイガーっすよ!」
「くっ、ブレイブ!ハーミットもう少し下がれ!危ねぇぞ!」
リンスさんが大型の虎のような獣を見て声を張り上げる。
サーベルタイガーは高い機動力を持っており、大きな牙、鋭い爪を武器に襲いかかってくる強敵だ。余程の実力がない限りは一対一では勝ち目がないと言われるほどである。
そんな存在が10体もいるのだ。魔法で援護ができるハーミットはともかく、近接武器しか持ってないのに、僕だけ何もせずに下がっている場合じゃない。
「ハーミット!もう少し下がってから、ガーディさん達の援護をするように攻撃魔法で隙を作ってあげて!」
「ブレイブくんは!?」
「僕はガーディさん達と一緒に戦う!」
「危ないよ!」
「それでも!みんなが怪我をするのを黙っては見てられない!!」
僕は腰に刺した短剣を手に持ち、2体を目の前にして動揺しているリンスさんの元に向かう。
「リンスさん!大丈夫ですか!?」
「ブレイブ……なんで来てんすか!兄貴が下がってろって!」
「こっちの数の方が少ないのにそんなこと言ってられないですよ!!」
「でも初心者が勝てるような相手じゃないんすよ!危ねぇから下がってるっす!」
手元の武器が震えてるリンスさんは、それでも僕を守ろうと下がるように言ってくれる。ガーディさんもリンスさんもみんな本当に優しい人達だ。
父はこんな人達がたくさんいると分かっていたから、街を守ろうとしたんだろう。
だから!僕もこの人達を絶対に失いたくない!!
「父さん……母さん……僕もみんなのために戦うよ!力を貸して!」
改めて戦う決意を固め、武器を前に構える。
集中しろ、相手は早い……一瞬も隙を見せるな……
体格も相手の方が大きい、この細い武器を使って正確に牙や爪を防ぐことはできない……だったら!
『グルルゥ……』
ーシャッ!!ーー
僕の目の前にいたサーベルタイガーは低く唸り声を上げると、一気に僕の喉元を噛み切ろうと想像以上のスピードで飛びかかってくる。
「ブレイブ!!!」
隣にいたリンスさんが叫ぶ。
目の前にはすでにサーベルタイガーが大きな口を開いた顔で迫って来ている。
ーー避けられないーー
それでも、僕は諦めない。みんなを守るんだ!そう思うと力が体の奥底から湧いてくるようだ。
不思議と恐怖心もない。なぜかスローモーションにみえるこの世界の中で、僕は武器を構えた手を寸分違わず、顔を傾けたサーベルタイガーの目玉の前に置く。
そして少しだけ体を捻り、飛びかかってくるサーベルタイガーの突き出した前足と牙の出ていない方の顔の間、ちょうど肩の位置に体を逃す。
ーーードン!!ーーー
そして僕はサーベルタイガーと衝突して、その大きな体と一緒に壁まで吹き飛ばされる。
「ブレイブくん!!!!嫌ぁ!!!!」
ハーミットの叫び声が聞こえる。
真っ暗な視界と顔の上をねっとりとした血液と思われる温かい液体が流れていく。
ぶつかったことで、右の肩が少し痛むが、意識ははっきりしている。体が重いのは上にサーベルタイガーが乗り掛かっているかららしい。
僕は手に持っていた武器がなくなっていることに気づき、サーベルタイガーの目に刺さっているはずの短剣を手探りで探す。
「ブレイブくん!!!嫌!嫌ぁ〜〜!!」
「ちっ!ブレイブがやられただと!!」
「「やべぇ!みんな!くるっすよ!!」」
みんなの動揺する声が聞こえてくる。まだまだサーベルタイガーに囲まれているんだ。早く生きてるって、まだ戦えるって安心させてあげないと……僕が、みんなを……ハーミットを守らないと!!
武器を探り当て、少し捻りながら引き抜く。
脳まで短剣が届いていたのか、サーベルタイガーはすでに息絶えている。
体を捻り、足が挟まらないように気をつけながら立ち上がると、ハーミットの近くまで行き、崩れ落ちて泣いている彼女を抱きしめ頭を撫でる。
「ハーミット……大丈夫……大丈夫だよ……僕が守るから」
「ブレイブ……くん?……」
「うん、僕だよ。ちゃんと生きてる。大丈夫だから」
「うわーーーん!!ブレイブくん!!ブレイブくんが生きてる!!」
「心配してくれてありがとう、でも……行かなきゃ、まだみんなが戦ってる」
「ぐすん……待って、行かないで!!そんなに血だらけで、怪我してるんでしょ!もう無理しないで!」
「ハーミット……大丈夫、怪我はしてないよ。それに、なんだか力が溢れてくるんだ。今ならなんでもできそうな気がする。だから、行ってくるね」
「うん……わかった……でも、無理はしちゃダメだよ……」
「わかってる……」
少しだけ落ち着いたハーミットから離れ、戦闘中のガーディさん達の元へ向かう。
「ガーディさん!リンスさん!ご心配おかけしました!」
「ブレイブ!!生きてたか!!」
「ブレイブ!よかった!!死んだと思ったっす!」
「すまねぇがいま全員余裕がねぇ!徐々に押されてるやつもいる!お前も血だらけじゃねぇか!ハーミット連れて先に逃げてくれ!!」
ガーディさんはこちらを一瞬だけ見ると、大怪我をしていると思ったのか、ハーミットを連れて逃げるように指示を出す。
ガーディさんは目立った怪我はないものの、リンスさん達は結構ボロボロになって来ている。
「大丈夫です。僕も戦います!」
「そんな体で無茶すんな!!」
「今ならみんなを守れる!そんな気がするんです!」
「待てブレイブ!前に出るな!!」
僕は先程回収した短剣を片手にガーディさん達の陣形より前に出る。
サーベルタイガー2頭は陣形から出て来た僕に向かって一斉に飛びかかってくる。
攻撃をされたと認識した瞬間、先程と同じように世界がスローモーションに見える。
その中で先ほどとは違い、体をぶつけることなく1匹の目玉に短剣を突き刺す。しっかりと刺さったことを確認した後、もう1匹の胴体を蹴りながら距離を取る。
ーーードシャーーー
『グルルゥ……』
1匹は仕留めた。が、武器を刺したままにしているため、対峙するもう1匹を仕留める手段がない。
「ブレイブ!これを使うっす!!」
リンスさんが少し長めの剣を僕に向かって投げ込んでくれた。
「ありがとうございます!」そう言って空中で剣を受け取ると、再びサーベルタイガーと対峙する。
「今度はこっちからいくぞ!」
僕はサーベルタイガーに向けて駆け出し、剣を振るうと、近づかれたくないのか、その場から急いで飛び跳ねて距離を取ろうとする。
しかし、そちらの方向には僕の助けに向かってくれていたガーディさんがいる。
「おらぁ!!!!」
『ギャウゥ!!!』
ガーディさんが斧を振り下ろすと、無防備な胴体に一撃を受けたサーベルタイガーは絶命する。
あと7体。 すでに数でも有利になった。
「ガーディさん!畳み掛けましょう!」
「……ああ!」
僕の様子が気になっているみたいだが、この状況を切り抜けることが優先だと、リンスさん達の陣形に合流すると、取り付いている相手を牽制する。
「ブレイブ!やれんなら左側を頼む!さっきドッチが一撃くらっちまって長くは防げねぇ!」
「分かりました!!」
左側に駆けつけると、左肩から大量に出血をしながらも、突発されないようにしっかりと武器を構えているドッチさんがいた。
「ドッチさん!!大丈夫ですか!?」
「ブレイブか……ちょっと油断しただけだ……」
「下がって手当をしてください!ここは僕が引き受けます!」
「あぁ……すまねぇな」
対峙するサーベルタイガーの数は2頭。
今度はガーディさんも近くに居ない。油断せずに行こう。




