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57話 遺跡エリア①

 ◇



 アムゼル達を置き去りにして遺跡エリアに向かった俺たちは、まさに遺跡の入り口に立っていた。

 歴史を感じさせる石を削ったような遺跡は、苔があったり蔦があったりとそれなりに風化しているように見える。ズバリ言うと雰囲気ある。

 遺跡の入り口からは這い出るように植物の蔓が伸びており、中を遠目に覗くだけでも、白っぽいピンクの花がそこかしこに咲いているのが見えた。


「ラティ・クレイド……見れました……!」


 いつか図書館で見てみたいと話していたラジは、毒の花だと言うのにちょっと嬉しそうである。頭を撫でてやるとしよう。


「流石にこの中を通り抜けるのは難しそうね。出口があるエリアが塞がるなんて、ダンジョンの役割としてあり得ない状態だと思うのだけれど……」

「これもダンジョンの異変なのか? 各階層で同時期に起きてるし、ダンジョン自体に何か原因があるんだろうな。それにしてもこれじゃあこの階層をクリアするなんて無理だよなぁ?」


 言いながら、俺はウサギ型魔導具を取り出した。

 作戦としては、コイツと感覚共有して特攻し、内部の様子を探ると言うだけだ。


「蔦が生え過ぎて足の踏み場も無いな。ソルティ、入り口付近だけでもいいから焼けないか?」

「お任せあれ。『フレアストーム』!」


 ソルティの手から炎の渦が放たれる。遺跡の内部はたちまちに火の海と化し、ボロボロと植物が焼け落ちていく。


「よし! 行ってみるか。ソルティとラジは周囲を警戒しててくれ。ちょっと無防備になるからな」

「わかりました!」

「わかったわ」


 炎が引いた所で、俺は意識をウサギ型魔導具と共有させた。視界の高さが一気に低くなり、遺跡がデカく感じる。


「風よ、疾く走れ『ファストブレス』」


 ウサギにバフをかける。速さ命だからな、この作戦。ウサギを走らせ、遺跡の内部に足を踏み入れた。


 遺跡内部は焼き払ったので魔獣はおらず、今の所は蔦もない。事前に地図を貰っておいたので、大体の道はわかるはず。

 というかほとんど一本道だった。迷路のようではあるが、上下に移動することはなく最奥にボス部屋がある簡素な造りだ。


「うわっ、もう出てきた」


 奥から蔦が生き物のように畝りながら伸びてきた。ウサギが捕まらないよう跳ねて避けながら進む。


「……」


 気配を感じて一度壁の影に隠れた。通路の先にリビングアーマーが五体もいた。

 その他の魔獣はまだ見かけていない。

 リビングアーマーはしばらく固まっていたが、それぞれ別々の方向に歩き出した。

 遺跡を歩き回っているのだろう。


 姿を消す魔法をウサギにかけて、リビングアーマーの足元をすり抜ける。

 バレて踏まれでもしたら困る。回収が難しい。


 蔦とリビングアーマーを避けながら迷路を進むと、だいぶ時間がかかったがボス部屋に辿り着いた。

 ボスは七つの首を持った蛇のようなドラゴンだった。


 ―――

 ムシュマフ Lv65

 HP55000/55000

 MP23000/23000

 スキル:火60 猛毒 毒沼

 称号:

 備考

 ―――


 毒タイプの魔獣だった。流石にこんな毒の花だらけの場所で毒耐性の無いボスなわけがないと思っていたが、毒攻撃ばかりしてきそうな蛇じゃないか。

 姿が見えないと敵と認識されないようで、ウサギはこっそりと大蛇の横を通り抜けられた。


 目的はボス部屋の後ろの転移装置がある部屋だ。蔦がその部屋から伸びてきているから。


「うわ……これか……」


 後ろの部屋に入ると、転移装置の後ろに大きな穴とも言うべき空間の歪みが生じていた。黒い穴からいくつも蔦が伸び、向こうと繋がっているせいで空間の穴が閉じられないようだった。


「向こう側に行くか……? いや、戻って来れなくなりそうだしな」


 ふー、と深呼吸をして、魔力を集中させる。


「『アイスブラスト』」


 ウサギ越しに魔法を展開する。初級の氷魔法。だが、込める魔力によってはアイスランスにも匹敵する。それを、遺跡の部屋を覆い尽くすほどの弾数を出現させ、一気に叩き込む。突然攻撃された蔦は驚いたように跳ねるが、もう遅い。次々と氷の弾丸に撃ち抜かれ、ボロボロと蔦が千切れていく。蔦が千切れれば、ストッパーになっていた物が消え空間の歪みが閉じていく。だが、まだ攻撃の手を緩めない。

 案の定穴から再び蔦が延びようとしてくるので、一つも漏らさず撃ち抜いていく。


 数分の攻防の末、ようやく最後の一本を千切り、空間が閉じた。


 しばらく様子を見て、空間が再び開かないことを確認した所で、ウサギを引き返させることにした。

 作戦成功である。まだ遺跡内には毒の花の残骸が残っているわけだが。



 ◇



 一仕事終えてアムゼル達の元に戻った時にはもう日が暮れていた。

 近づいた時から笑い声が聞こえていたが、戻るとアムゼル達が焚き火を囲んで楽しそうに騒いでいた。


「よぉ。随分と楽しそうだな」

「ロス、戻ったんだね。待ってる間みんなで模擬戦したんだよ」

「あー! ロスー! 後でお湯出してー!」

「はいはい」


 そういやこのパーティ、水属性持ち俺だけか。

 ソルティとラジに手を洗わせ、先に食事を取らせる。

 ゲイル達は天幕の中で静かに食事を楽しんでいるらしい。

 グレイヒ達も焚き火の周りに混ざっており、表情は明るい。

 俺が不在の間、特に何も起きなかったようだ。仲が良さそうで何よりだな。


 焚き火の周りに混ざると、ピッチピチのボンレスに身を包んだガチムチのお兄さんがにこやかに肉を勧めてくる。確か≪守刀≫のゴンザスだったか……一人だけ圧が凄いんだが。


「どーぞロスちゃん。よく焼けてるワよ〜」

「ど、どーも……」


 このゴンザスという男、アムゼルとかラジとかは「くん」なのに俺だけ「ちゃん」付けしてくる。笑顔が逆に怖い。

 肉は美味かった。


「ところでロス、遺跡はどうだったの?」


 アムゼルが思い出したように尋ねてきた。


「あー……まだラティ・クレイドが残っているとは思うが、もう増えないと思うぞ」

「それは凄いね。今ある花をどう処理しようか」

「それだけじゃ無くてな。あの遺跡、どうも毒対策ができてないと攻略できそうにない」

「中を見てきたんですか?」


 話にメルが混ざる。


「そりゃ中見てこないと植物をどうにもできないだろ。一応ボス部屋も覗いてきたぞ」


 俺の言葉に、先程までの賑やかさが一気に凪いだ。皆真剣な表情で俺を見つめる。


「ボスはムシュマフという、七つ首の大蛇だった。スキルの中に毒関連のものがいくつかあったから、奴も毒を吐いてくるだろう」

「ムシュマフ……参ったね。ダンジョンの異変というのは本当だったのかい」


≪守刀≫のリーダー、ニイナが頭を掻く。≪守刀≫はギルドに依頼されてアルファクラウドに長い期間常駐している雇われ冒険者パーティで、異変が起きてからも街から出ていないので、あまり情報を知らないようだった。


「ムシュマフ……わたしは聞いたことがありません。ニイナさんはご存知なのですか?」

「ああ。奴は三十五階層のボスだった。アタシ等が挑んだ最高階層が三十五階層だったんだが、その時のボスだったんだよ。しかもそいつは、アタシ等がそれ以上の攻略を諦めた原因の魔獣さ」


 燦花が息の呑むのが見えた。≪守刀≫はBランクパーティだ。ギルドにも認められる程腕の立つ冒険者が、攻略を諦める魔獣。


「道中はリビングアーマーを見かけた。他は見てないが、ラティ・クレイドがなくなったら復活するかもしれん」

「リビングアーマーも厄介だね。アンタ達は戦ったことはあるのかい?」

「はい。十四階層にも出ましたから」

「あんな狭いところにもいたのかい……ここの遺跡はもう少し通路の幅が広いから、まだ戦いやすいかもしれないが……」

「時々複数体で固まって居たぞ」

「複数体相手にするのは骨が折れそうだ。ただ、これだけの人数がいれば可能性はあるかもしれない」

「そうなると、目下の問題は毒対策ですね」


 メルがふむと腕を組む。アムゼルも考え込んでいる。燦花はアイディアを捻り出そうとうむうむ唸って居た。

 ソルティは食事を終えて満足したのか食後のティータイムを楽しんでいた。ゴンザスが美味しいお茶を淹れてくれるのだ。

 ラジは眠気に耐えかねて俺の膝の上で寝ている。後で天幕に運んでやらなくては。


「ラティ・クレイドの駆除はどうするんだい? 炎魔法を使ったとしても、遺跡内の空気が無くなるから奥まで行くのは危険だよ?」

「入り口からソルティが全部焼くから問題ない」

「あんな広範囲を!? お、お嬢ちゃんだと舐めてたよ……すまないね」

「よくってよ」


 ソルティは髪の毛を後ろに靡かせて答えた。実に優雅な動きだ。色気もあるので八歳児じゃないとバレそう。


「アタシ等魔法には詳しく無いけど、毒耐性を上げる魔法があると他のパーティに聞いたことがあるよ。アンタ達は知ってるかい?」

「『ベノムレジスト』ですね……聖属性の魔法です。ロスさん、使えますか?」


 ちらりとこちらを見るメル。俺は肩をすくめた。毒の類は完全には効かないからな。俺の知識は自分が効かないものについてはあまり対策を取ろうとしていないので、そう言った魔法も知らない。


「魔導書があれば良いのですが……持ってないんですよね……」

「あるよ、魔導書」


 天幕からゲイルが出てきた。とてもにこやかな顔をしている。金の匂いを嗅ぎつけた商人みたいな顔だ。商人だが。


「金取るって言うんだろ? 持ち合わせはないぞ」

「お金は要らないよ。私は皆さんと仲良くなりたいんだ」


 えー、どの口が? 散々悪どいことを目の前でやっておいて?


「特に勇者諸君の話は詳しく聞きたいねぇ。どんな敵をどう倒してきたのか。伝記の一ページにさせて欲しいんだ」


 本気だったのか伝記……。

 勇者という言葉に≪守刀≫の頭にはてなが浮かぶ。無理もない。聖剣を見たことがなければ、あとは「鑑定」持ちでもなければ勇者なんてわからないだろうし、まず勇者が近くにいるなんて普通思わない。


「えっと……」


 メルがアムゼルと俺を見る。これはアムゼルが決めることだとアムゼルを見た。


「勇者の話でしたら、良いですよ。あくまでも、僕目線の話になりますけど」

「おや、できれば皆さんから聞きたかったんだけどね。まあ良いとしよう。じゃ、あっちで聞かせてもらえるかな? こちらとしては、報酬は後払いとしたいんだ」

「わかりました」


 アムゼルがゲイルと一緒に、ゲイルの天幕へ入って行った。向こうは任せても良いだろう。


「大丈夫ですかね、アムゼルさん」


 顔を寄せて、メルがこっそり尋ねてくる。


「お前と燦花の話は出るだろうな。恐らくそれくらいは話さないと納得しないだろう。まあ、アムゼルに任せておけば良いだろ」

「勇者のことを知ってどうするつもりなんでしょうか」

「さあな。なんせ全部怪しく見えるから。それより、俺たちは毒対策ができた前提でボス攻略の作戦を考えた方がいいんじゃないか?」

「そうですね、ニイナさんからお話を聞いてみます」


 そういうと、メルはニイナのもとへ行った。


「ロスーお湯ー」


 ラジを天幕へ運ぶと、燦花が駄々っ子みたいに服の裾を引っ張ってきたので桶を用意して天幕を後にした。


 ちなみにグレイヒ達も≪守刀≫も天幕を持っていないが、メルが女性陣を連れて天幕に入って行ったので今は野郎共だけが残されている。このままこの辺で雑魚寝の予定だ。


「そういえば、お前とは手合わせしてないな」


≪守刀≫のセイガだ。


「アムゼル達とやったんだってな。戦績はどうだったんだ?」

「総当たり戦になって、ウチの姉御が全勝。アムゼルは姉御にだけ負けてたぜ。三位は俺」

「へえ、アムゼルもやるな」

「………オレはかなしい」


 ほぼ無口のオボロは全敗したらしい。不意打ちを得意とする戦法なので、一対一で完全に向き合ってしまう戦い方は苦手なのだとか。≪守刀≫は敵のターゲットを取って戦うニイナとセイガがいるから、不意打ち戦法は刺さるだろうな。ゴンザスはよくわからんが。あと、≪閃光の剣≫は不参加だったそうだ。


「木剣三本持ってないか? やろうぜ!」

「あー……少し騒いでも大丈夫か。まだみんなも寝ないだろうし」


 俺はアイテムボックスから木剣を三本(もちろん持ってないので「創造」で作った)を取り出してセイガに渡した。


「よっしゃ! オボロ、合図頼むわ」


 焚き火から少し離れて向かい合う。もう日は沈んでいるので、焚き火以外の光源は無い。先程までの賑わいが嘘のように、焚き火がチリチリと爆ぜる音以外の音が消える。


「―――始め!」


 オボロの合図で、セイガが動き出す。二刀流の木剣をクロスさせて突撃してきて、腕を広げるように斬りあげる。

 これはバックステップで回避した。

 セイガはさらに踏み込んで右腕を振り下ろす。木剣でいなすと左腕も振り下ろしてくる。避けたり流したりしつつも、セイガは何度も攻撃をくり返してくる。テンポが良い。


「やるな! だが避けるだけでは俺は倒せないぞ!」

「元気が良いな」


 セイガの横凪を屈んで避け、足を斬ろうと剣を振る。が、これは飛んで避けられた。


「足狙いはさっきやられたんだよ!」


 飛んだ勢いを乗せて、上から思いっきり二本の剣が振り下ろされる。慌てて剣で受けるが、あまりの重さに膝が沈んだ。


「そこ!」


 セイガが屈んでしまった俺の顔目掛けて蹴りを繰り出す。読めていたので横に飛び前転して躱し、すぐに体勢を立て直す。


「……決まったと思ったんだけどなぁ!」


 言いつつも攻撃の手は緩めないようだ。すぐさま剣を突き出して喉を狙われる。

 その剣を払おうとしたが寸でのところで剣を躱された。


「剣狙いもさっきやられた!!」


 同じ右で斬られ、左を斬り上げ、いよいよ決め手が無くなってきた。


「……しょうがないな」


 俺は後ろに飛んで距離を取り、形だけだが、木剣を腰に差し、まるで刀を納刀した状態で構える。短い間に呼吸を整え、集中する。


「はあ!!」


 声を上げてセイガが斬りかかってきた、その両方の剣。

 そこ目掛けて、素早く木剣を抜き払った。


「ッ!?」


 搦手がダメなら、真正面から斬り崩すだけだ。


「そこまで」


 オボロの静止の声。俺はセイガの首に剣を突きつけていた。


「うあ〜〜! 負けたぁ〜〜!」


 セイガが叫び、遅れて、セイガが持っていた剣が地面に落ちた。


「ふぅ……。強いな、セイガ」

「いやいや余裕で勝っといてそれぇ? クソ〜姉御みたいなことされた〜〜」

「余裕では無かったんだが?」


 蹴りが顔に入りそうでびびったし。

 ニイナは俺と同じ刀だったか。ニイナの方が刃渡が長いんだよな。あの長さで居合い斬りをするのか……?


「強い……オレとも……やる」


 オボロが木剣を拾って構え出した。剣を二本逆手で持っている。


「休みなしかよ。まあいいけど」


 セイガの合図で試合を始めたが、オボロは迫られると弱いようで、呆気なく終わってしまい……。


「負け……オレはかなしい……」


 そんな、悲壮な声が夜空に響くのだった。


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