54話 盆と正月が同時に来るとはこの事よね
◇
ギルドマスターから預かっていた物資を渡し、ゴルバにはリストを認めてもらいつつ、俺たちは遺跡エリア突破に向けて準備と休息を取ることにした。ゲイル一行に現状を伝えれば、無理な攻略はしないとあっさり引き下がってくれた。あの天幕で急いでいると言ったのは、俺たちに同行するための方便だったのかもしれない。
俺やアムゼルが目を光らせているからか、グレイヒ達にも変なお香を使ってないようだし、今のところは大人しい。
メルと燦花に食糧やポーションの買い出しを任せ、俺とアムゼルと子供達は武器屋を探すことにした。アムゼルの盾が結構傷んでいるので、戦闘に備えて修理したかったためだ。あとはラジにそろそろ新しい武器を持たせてみても良いかなと思っている。最近は魔法以外にナイフで倒す姿も見られるので、魔力温存のためにも選択肢を増やしたいところだ。
アルファクラウド内部は菱形に×を描いたような区画分けをしており、中心地はゴルバのような街の運営を行っている人たちの拠点があり、東西南北によって区画が分けられている。遺跡エリア側の北側が比較的魔獣の襲来を受けにくいため居住区画となっており、森エリア方面の南側が生産区画だそうだ。生産区画で拠点防衛に必要な武器を作ったり資材の管理もしている。東は訓練所などの公共施設があり、西に食糧や道具屋などの商店があるのだとか。
区画分けされていると言っても広めの部屋に店が並ぶような街並みなので見た目の変化があまり無い。道も全部似たような見た目をしている。
「えっと、南側が生産区画だったか?」
「こうも似ていると、方向感覚もわからなくなるわ」
「なー? アムゼルー助けてー」
「はいはい。一応壁にかかってるタペストリーの色で区画が判断できるそうだよ。生産区画は青だから、こっちだね」
赤青緑黄色の四色で分けられてるらしい。見ても道が分かりそうもなかったので、アムゼルに先導してもらい、なんとか武器屋まで辿り着く。長い廊下に鍛冶場が並んでおり、店というよりは作業場だった。
俺たちに気づいた男がアムゼルに声をかける。
「見ない顔だな。悪いが売り物はないぞ。修理なら多少はしてやれるが」
「あ、この盾の修理を依頼したくて来ました」
「うわ、ボロボロだなぁ……。今は防衛のための素材すら無い状況でな。一度溶かして整えるくらいしか出来そうに無いが、それでも良いか?」
「充分です」
「じゃ明日取りに来な。それまでに直しとくからよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
話は終わったようなのでその場を後にした。ラジの武器を見繕いたかったが、売り物が無いのであれば仕方ないか。
しばらく適当に見て回っていると、雑貨屋に目が止まった。他の店はあまり品物が無い状態であるのに対して、この店は壁を埋め尽くすように品物が並びごちゃごちゃしていたので目立っていた。
「アムゼル、この店見てっていいか?」
「わかった。なんか色々あるね……」
「こういうところに掘り出し物があるかもしれないからな……」
雑貨屋と言えばいつぞやのウサギを思い出すな。ソルティも同じだったようできょろきょろと見て回っていた。
店の中は魔導具が多いようで、ただ火を付けるだけの魔導具や、煙が出るだけの魔導具、一瞬だけ光る魔導具など、小さな魔導具が並んでいた。
「どれもダンジョン産の魔導具だね」
「魔導具に違いがあるのか?」
「ダンジョン産の魔導具は、魔石を使わずに使用者のMPを使う魔導具がほとんどなんだ。魔石の方が使用者を選ばないしMPを消費しないから便利なんだけど、その代わり壊れやすくて、あまり複雑な魔導具が作れないらしいよ。ここにあるのも単純な魔導具が多いけど……ダンジョン産の魔導具は乗り物があったりするんだよ」
「乗り物か〜! 欲しいな……」
「かなり上の階層で見つかるらしいから、僕達には縁遠いかも」
「今の難易度で上まで行ける気がしないんだが?」
「ほんとそれ」
などと話しながら見ていると、ラジが何かを見つけたのか一点を見つめていることに気付いた。
「ラジ、どうした? 何か面白い物でもあったか?」
「あの、これ……」
頭をポンと撫でると、ラジは耳をぴくっと動かして、俺を見上げ、見ていた物を指差した。
指差した先には黒い金槌のような物が吊るされていた。
「ん?」
久しぶりに「超鑑定」を使用してみる。
―――
魔導兵器・ミョルニール
等級:SSR(最上質)
作者:クシア・ワンダールーン
説明:柄に埋め込まれた人工魔石に魔力を登録する事で、登録者のみ使用可能となる。使用者の意のままに柄の長さと重さを変えることができ、小ぶりの金槌に見えても込める魔力の量によってはドラゴンよりも重くなる可能性を秘めた国宝級の一品。槌の大きさは変わらないが、使い方によって如何様にも戦術の幅を広げてくれるため、小振りだからと侮れない代物。普通に釘も打てる。ただし、魔力の込め方によってはたまに雷が落ちる。
―――
「すみませーんこれいくらですかー?」
「あ? この棚の品物はみんな大銀貨五枚だよ」
「買います」
「お、おう、早いな、毎度あり」
俺は即決でギルドカードを翳して会計を済ませた。
「結構な金額だったのに……ロスのお小遣い無くなっちゃったんじゃない?」
「良いんだよ。これぞ求めてた逸品だから」
「そんなにすごいんだ?」
「後で話す。ラジ、これはお前のだからな。使い方も後で教えるから」
「いいんですか……!?」
ラジは耳がぴこっと上に動いて、目をキラキラとさせて喜んでくれた。頭を撫でてやっているとソルティがぶー垂れた顔で睨んできたのでソルティも頭を撫でてやる。あ、機嫌治ったみたいだ。チョロくて助かるな。
武器屋は無かったが、これはこれで良い買い物ができた気がするな。
それにしてもまたあの名前だ。クシア・ワンダールーン。
何か珍しい物を鑑定した時、結構な確率で眼にする名前。一体何者なんだろうか。今はそれを知る術もないのでいつか考えるとするか。
その後宿屋まで戻ると、メルと燦花とも合流した。
「あ、アムゼルさん、ロスさん。ちょうど戻って来たところですね」
ちょうど良いので宿屋の食堂で夕食を取る。
物資があまり無いのかスープと焼いた肉だった。
「食糧は買えたか?」
「それが……。予想通りではありますが、売れる程余ってないようで、食糧もポーションも買えませんでした」
「そっか。むしろ届けた物資の中身がそれかもしれないし、補充は無しで攻略するしかないね」
アムゼルが自分のアイテムボックスを確認しながら頷いた。
俺の方もヘルハウンドの肉が大量にある以外はあまり食糧を持っていない。ポーションも全部渡してしまった。
「MPポーションが無いのは厳しいな」
「うーん、そうだね。森エリアで学んだ戦闘スキルを、さらに洗練させないと……消耗をいかに抑えるかが重要になりそうだ」
「その前に遺跡エリアの毒花はどうするんですか?」
確かにラティ・クレイド大繁殖をどうにかしないことには遺跡エリア攻略どころでは無い。
「まあそれは、行って見てからのお楽しみだな」
「結構自信あるんだね? さすがロスだよ。ゴルバさんの話だと、足りない物のリストは今日中に書けるそうだから、明日僕の盾とそのリストを受け取って、その足で向かおうと思うんだけど良いかな?」
一同頷いて答える。
ゲイル達にも伝えないと、とアムゼルが席を立ち、俺たちは部屋に戻って休むことにする。
しかし、その晩、けたたましい鐘の音で叩き起こされることになる。
カンカンカンカンカン!!
「なんだ!?」
「大型魔獣の襲来かも! ロス、みんなを起こして!」
「わかった!」
アムゼルも飛び起きて、急いで装備を整え出した。俺は近くのラジを抱え、起こしながら女子部屋とゲイル達の部屋の扉を叩く。
ちなみにグレイヒは女子部屋、フォッシルとミストは俺たちと同じ部屋に居るのでもう起きている。
「何かあったんでしょうか?」
「おそらく襲撃だろう。俺たちは様子を見てくるから、ゲイル達は避難しろ。確か非戦闘員は中央区画の地下避難所に逃げ込むらしい」
「ああ、そうするよ。でも≪閃光の剣≫も護衛して欲しいな。そういう契約だし」
「わかってる。グレイヒ、お前らはゲイル達の護衛だ」
「ええ。あなた達も気をつけて」
正直ゲイルの所に置いていくのは不安しか無いが、今は森からも遺跡からも出られない状況だし、無茶はしないだろう。きっと。多分。
「おいゲイル、俺たちがこの階層から出してやるから大人しく待ってろよ?」
「嫌だねぇ、この状況じゃ何もしないよ」
「こんな状況じゃ無かったら何かするって言ってるようなもんなんだよなぁ!」
ゲイルに構ってる暇はないので、メル達の準備が整った所で駆け出した。
襲撃は南側から来ることが殆どと聞いているが、状況を確認するために中央区へ向かう。
「ゴルバさん! 敵襲ですか!?」
アムゼルが代表して会議室に駆け込む。
「ベヒーモスだ! 奴が南側の城壁に突撃仕掛けてこようとしている! 残った大砲で足を止めさせたが、いつ迫ってくるかわかんねえ!」
「僕達も加勢します!」
「助かる! 南側の城壁を上がってくれ! そこに現場を指揮してるタルドって男がいる!」
「わかりました!」
アムゼルが会議室から出て来て、「行くよ!」とみんなを先導した。
南側の城壁の階段を登れば、そこは慌ただしく動き回る冒険者でごった返していた。
「魔法部隊! 詠唱開始!」
城壁の上から草原エリアに目を向ければ、ベヒーモスがこちらに向かって突進しようとパワーを溜めている所だった。
「ソルティ! ラジ! 加勢しろ!」
「ええ!」
「はい!」
ソルティとラジが魔法詠唱中の冒険者達の横に並ぶと、一瞬ギョッとされたがすぐに集中してくれた。
「撃て!」
「「「『フレイムランス』!!」」」
「『エクスプロード』」
ドカーーーーン!!
魔法部隊は全員フレイムランスを放ち、ソルティは十八番の魔法をぶっ放した。しかも離れてるからってどデカいのをぶっ放したおかげで、ベヒーモスの巨体が思わずのけ反ってしまうレベル。
ラジは射程的に届かないようで集中して待機している。
「!?」
魔法部隊も指揮をしていた男も皆ギョッとする。
「あなたがタルドさんですか? 僕達は≪黒鳥の大剣≫です!」
アムゼルが素早く近寄って指揮官に話しかける。
「あ、ああ、外から来てくれたっていう……彼女もそうか? あんなデカい魔法撃って大丈夫か? できればまた突撃してこようとした時に撃ってほしいんだが」
アムゼルがソルティを見れば、ソルティは問題ないとばかりに髪を後ろに流した。
「……大丈夫みたいです。ただ、タイミングは彼女に任せてください」
「わかった。充分助かる。お前ら! 大砲用……」
地上にいた冒険者達が大砲を準備しかけた所で、
GYAAAAAAA!!!
突如、上空から魔獣の叫び声が上がった。
遠かったから大きなダメージにはならなかったが、俺は思わず壁に手をついてしまう。
「ロス!」
「平気だ。光よ、一切の魔を寄せ付けぬ陣を成せ。―――『リフレクマジック』」
ひとまず防御壁を張ったところで、上空を見上げれば、そこには大きな黒い影……ワイバーンが翼を広げてこちらを見下ろしていた。
ワイバーンの口が大きく開かれる。
「な……やはり来たか……! 総員、一時屋内に退避!!」
タルドの声で城壁の上にいた冒険者達が慌てて階段を駆け降りていく。
だが、アムゼル達は俺の周りに集まった。
「ラジ、魔法準備。あっちはアイスランスなら届くだろ」
「はい!」
俺はパーティを覆うバリアを張る。その瞬間にワイバーンが城壁に向かって強烈なブレスを叩き込んだ。
炎の波は階段を瞬く間に駆け下り、階段下に逃げ込んだ冒険者達をも襲いかかる。だが、魔法部隊が寸での所でバリアを張れたようで、損壊は少ない。
「今!」
「『アイスランス』!」
ブレスが止んだ所にラジの魔法を撃ち込む。かなりの速度で放たれた氷の槍は、ワイバーンの翼に命中する。
貫通こそしなかったものの、衝撃でワイバーンが怯んだ。
「ソルティ!」
「『フレイムランス』!」
続け様にソルティの炎の槍を当てると、ワイバーンは完全によろけて街の上空から草原エリアに流れた。ベヒーモスがいる方向だ。
「このまま奴らがやり合ってくれたらな……」
「いや……どっちも街の方を見てるようだね」
アムゼルが大剣を構える。盾はまだ修理中だ。
「全く、盆と正月が同時に来るとはこの事よね」
燦花も剣を抜いて構えた。




