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36話 砂漠エリア

 それから数時間ほど歩くと、端末と石場を見つけた。到着と同時に砂中からボスが出現する。

 十一階層のボスはデスワームだった。地中に潜り、下から丸呑みにしてくる攻撃が厄介なのだが、俺の気配探知で躱せていた。


「アムゼル! 右から来るぞ!」

「わかった!」


 デスワームが何度目かの丸呑み攻撃を仕掛けてくる。体長十メートルもある巨体が砂を掻き分けて出てくるので、近くにいると流砂や地揺れに巻き込まれる。そのため気配を感じたらダッシュで距離を取るようにしていた。

 お陰で近接は攻撃タイミングがあまりない。素早い燦花はヒットアンドアウェイで斬撃を繰り返しているが、奴は体皮が分厚いので致命傷には届かない。


「『フレアショット』」


 ソルティが放つ火の矢を、デスワームは身を捻って躱す。

 物理も当てにくいが、魔法攻撃はもっと当たりにくかった。デスワームは魔力探知を持っているらしく、魔法を避けるのだとか。地中に戻った時も、魔力を感知して敵を見つけるらしい。そのため魔力の高いものが狙われやすく、俺>ソルティ>アムゼルの順で狙われていた。

 デスワームが身体をのたうち回らせて砂を巻き上げる。次いで身体を一方向にぐるぐると円を描くように素早く動き、巻き上がった砂が渦を成していく。砂の竜巻だ。

 発生した強風にラジとソルティが浮きかけたので慌てて抱きしめる。俺もちょっと浮きそうなので姿勢を低くして何とか耐える。メルと燦花も飛んでしまいそうだ。アムゼルが駆け寄って自分に捕まるように指示していた。


「っ、『バリア』」


 俺とアムゼルの近くに半円状の透明な結界を張る。風の影響を受けなくなった。ひとまずあの砂嵐を治めなければ。


「『アクアスプラッシュ』、『マッドウェーブ』」


 雨のように戦闘エリアに水が降り注ぐ。砂に水分を含ませ、風で沸き起こるのを防ぐためだ。

 次に土魔法でデスワームがいる一帯の砂を泥状にして中心に集束する流れを作る。デスワームは重たい泥の中では上手く動けないようで、目論見通り動きを封じることができた。


「今だ!」


 バリアを解除して声をかける。アムゼルと燦花が突撃する。


「『ロックブロック』」


 泥の中に岩で足場を作り、二人を進ませる。メルはその場で弓を引く。当て放題になったのでソルティもラジも魔法をぶっ放した。


「はあああ!」

「てやああ!!」


 アムゼルの斬撃は深く、一撃で体皮の中にまで届く。燦花は同じ場所に何度も斬り込むことで体皮の中に剣を届かせた。


「『フレアショット』」


 火の矢がデスワームの頭を貫き、風穴を開けたところでデスワームは光となって霧散した。

 ドロップアイテムはコイン数十枚と魔石、あとぶよぶよした体皮の一部だった。


「砂というだけで厄介な敵でしたね……」


 メルがドロップアイテムを回収しながら感想を述べる。


「攻撃力は大したことないんだけど、範囲が広いね。ロス、魔法使ってくれてありがとう」

「出てくる中じゃアレが一番弱いんだろ? 他のはこれより厄介なのか……」


 そもそも砂に入られてしまうと、気配探知がないと正確な位置が分からず音や視覚情報で判断するしかなくなる。デスワームのようにすぐ砂の中から攻撃してこられると対処が厳しくなるのは問題だ。気配探知は俺しか持っていないので、そこらの敵で気配探知に頼らない戦い方を模索した方が良いかもしれない。


「ひとまず街に戻りましょう。もう少し砂漠対策をして、あとはまた何階層かまとめて攻略していきましょう」


 端末にカードを登録して街に戻ることにした。



 ◇



 数日が経った。二日かけて十二階層を突破した。夜になると魔獣の数が十階層を彷彿とさせる数だったので、岩で壁を作って息を顰めて夜を明かした。昼間でないと進めそうにないので、砂漠エリアは攻略に相当時間がかかりそうだ。

 ちなみに、十二階層のボスはまたデスワームだった。水で湿らせて泥で固めてタコ殴りで終わった。

 倒したその足で十三階層へ入る。

 十三階層は砂漠というよりは荒野で、転がる草やサボテンがちらほら見える。

 地層が浮きだった岩壁などもあり、岩などの死角も多かった。メルの斥候が役に立つ。また、十二階層から、なるべく気配探知に何か引っかかっても教えないことにした。自分達で警戒する癖をつけるためだ。

 荒野でも暑さは変わらず、相変わらず冷風循環作戦で進行する。ただ、メルは偵察に出て離れてしまうので、そこまで風を送れない。代わりに、湿らせた布を氷魔法で冷やして、首に巻く用に渡しておいた。

 ラジは暑さに耐性がないらしく、周りがちょうど良いくらいの温度でも少し暑いらしい。なのでメルと同じように冷たい布を首に巻かせた。

 荒野はスコーピオンに加え、アックスビークやボアウルフといったお馴染みの魔獣も出でくる。またサンドリザードマンというリザードマンの亜種みたいな魔獣も出てきた。プチがついていないだけあって身体能力が向上しており、油断していると大怪我をしかねなかった。


「チッ……プチが取れたからって調子に乗ってんじゃないわよ!!」


 などと考えていると、燦花が腕をバッサリ斬られ、キレ気味に反撃してサンドリザードマンを屠った。燦花の腕の傷は光を纏ってみるみるうちに治ってしまう。自動回復は強いが、MPの消費も安くはない。燦花はあまり防御姿勢を取らないので怪我の量も多い。


「昼間でも敵の数が多くなってきましたね。夜になったらさらに増えるのであれば、早いとこセーフティエリアを見つけたいところですが……」

「一本道だし似たような景色ばかりだね」

「同じところを歩いているわけでは無さそうなので、進むしかないんですが……」


 荒野はいつの間にか両サイドを地層の壁に阻まれた谷底のような場所を進む道のりになったのだが、この道が長かった。しかも谷に入る前より入ってからの方が敵が多い。崖の中腹あたりに横穴があるので、もしかしたら敵の住処なのかもしれない。


「谷底に入ってしまったらセーフティエリアが無いという可能性もあります。なるべく温存して進みましょう」

「わかった。じゃあまた前衛後衛入れ替えてこうか」


 今回はアムゼル、メル、ソルティ組と俺、燦花、ラジ組に分かれた。正直壁として機能しない俺一人に魔術師二人はバランスが悪い。十階層の時はまだ燦花との信頼関係的に勇者組で揃えた方が良いということになっていた。だがもう魔王バレしたことだし遠慮はいらないかとアムゼルとも話していたのだ。


 燦花が何体かサンドリザードマンを引き受けてくれる。俺も何体か抑えておけるので、その間ラジに魔法を撃ってもらう。アムゼルが前衛の時は一人で大体受け持つことができる。たまに溢れた敵からソルティが魔法で倒し、メルがアムゼルの援護に回る。かなり安定したローテーションになったので、燦花以外の怪我人はいない。


 日は暮れてきてしまったが、しばらく進むと谷が終わり視界が開けてきた。視界の奥に転移装置が目に入る。


「ボスが出てくるね。アキカさん、MPポーション飲んでおいて」

「わかった」


 燦花はアムゼルに手渡されたポーションを呷る。


「さて、何が出てくるか……」

「普通なら待ち構えていると思うのですが……わたし達より先に誰かが倒したのかもしれませんね」

「少し待つか……? いや……」

「どうしました?」


 俺は気配探知に何かが引っかかっていることに気がつく。ボスは見えないが、その辺りに何かがいる。


「念のため聞くが、この階層のボスは何が出るんだ?」

「ここも下の階層と同じで、デスワーム、シャドースコーピオン、スフィンクスのどれかが出るはずですが……」


 シャドウスコーピオンは影に潜むが、影が少ないボスエリアでは砂中に潜み、冒険者の影を伝って移動攻撃を仕掛けてくるらしい。今感じている気配は砂中ではなく、砂上の空間にある。


 空間を見つめていると、空中から赤い光線のようなものが発射された。


「っ、『バリア』」


 初撃をギリギリで防ぐことができた。光線はバリアに弾かれて霧散する。パーティが一斉に戦闘態勢に入る。が、ボスエリアには何も見えない。


「……なあ、情報と違うボスが出た! って前にもあった気がするんだが」

「……そうだね。しかも僕達の時にタイミングよく出てくるっていうのも、可能性としてはあるよね」

「さすが≪トラブル吸引体質≫」

「あはは……行くよ。みんな構えて」


 アムゼルを先頭にボスエリアに駆け込む。敵は相変わらず見えないので、俺はパーティ全員を覆うようバリアを貼った。即座にピュンピュンと音を立てて、四方八方から赤い光線が飛んでくる。


「敵は複数いるぞ。気をつけろ」

「見えないというのはどうにも厄介ですね」


 そう言いながらメルが放った矢が、的確に光線の発射口を射抜いた。射抜かれた魔物の透明化が解かれ、その姿を表す。目玉が黒っぽい外皮に覆われ、背面に翼が生えている魔獣だった。


「これは……イビルアイ……!? 砂漠地帯の階層では確認されていない魔獣です! 眼から放たれる光線はさまざまな効果を持っているようなので気をつけてください!」

「気をつけろって言われてもなあ!」


 俺は光線の発射口と思しき場所に刀を振る。だが寸でのところで避けられたらしい。手応えがない。だが気配が動いたので場所がわかる。俺は踏み込んでその一体を斬り捨てた。しかし、その隙にサイドに控えていた別の個体の光線を受けてしまう。

 斬るためにバリア外に出ていたのが仇となったか。


「ロスさん!」


 撃たれたのは左腕だ。焼けるような痛みが走るが、溶け落ちたわけではないらしい。むしろ左腕が重くなる。


「石化です! 石化解除の治癒魔法使えますか!?」


 一旦下がって腕を見れば、左腕が石のようになっており、みるみる身体を侵食しようとしている。


「っ!」


 俺は即座に脇から刃を入れて、肩口から左腕を斬り上げた。飛んでいった腕は完全に石となって砂上にトスッと埋まった。


「……っ、『ハイヒール』っ」


 上級の治癒魔法では欠損は治らない。だが出血は止まる。最高級の治癒魔法である『リザレクション』をかけられれば治せるが、発動に時間がかかり戦闘中では集中できないため後回しにすることにした。


「うわ、思い切り良すぎ……」


 アムゼルが引き気味に茶化す。燦花は顔を真っ青にして口元を押さえている。メルも同様に顔を青ざめて、慌てたように俺の腕が無くなった脇腹のあたりの服を掴んだ。


「な、なんてことを……! 今持っているポーションでは欠損を治せないのに……!」

「いや、これで良い。石化解除の魔法は覚えてないから使えない。あのままじゃ石になってたし、俺が死んだらバリアが切れて詰みだぞ。落ち着け、メル」


 刀を地面に突き刺して、右手でメルの肩を掴んで軽く揺らす。動揺で先が読めてない様子だったが、その言葉でメルはハッとしたように我を取り戻した。


「……っ、はい、すみませ……」

「まだ来るぞ! さっきも言った通り石化は多分治せない。バリアから出ずに倒すには、魔法とお前の弓が頼りだ」

「……ええ、任せてください!」


 メルは腕でぐいっと目元を拭うと、俺から離れて矢を番えた。ソルティとラジが数を減らしてくれているが、一向に全滅する気配がない。

 気配探知ではむしろ増え続けているような感じがする。


「キリがないな。どこかから湧いてるのか?」

「この辺りは死角もないし、地面に不審なところもないよ。本当、敵の姿が見えないってのは厄介だね」

「私じゃ斬る前に撃たれるし、困ったわね……」


 アムゼルと燦花はバリアの中で剣を構えることしかできない。一歩出れば石化光線を浴びるし、浴びたら固まる前に斬り飛ばすしかない。後で治せるとはいえ、激痛と出血に耐えられるかどうか。


「地面からじゃないとすれば……空か!」


 三人で見上げたが、魔獣の姿は見えない。だが、俺の気配探知には、大量の魔獣の気配が空を埋め尽くしていた。


「ふぅ……『アイスブラスト』」


 一度呼吸を落ち着けて、魔力を集中させる。そのまま呪文と共に数千もの大量の氷の棘を出現させ、地上から上空へ解き放つ。

 ボスエリアを埋め尽くす勢いで精製された氷が一斉に空に打ち上がる。同時に見えない物体に幾つもぶつかっていき、血飛沫と肉片を飛び散らせてボタボタと地面に死体が落ちていく。流石に攻撃を受けたり絶命したりすれば透明化が解けるようで、瞬く間に当たりは血溜まりと死体の山で埋め尽くされた。

 燦花は口元を押さえ、あまり視界に入れないようにしていた。スプラッタ系は苦手だったのか。悪いことをしたな。すぐに魔石になって消えるが。

 そして、辺りを埋め尽くしていた気配が途絶えると、上空に一つだけ気配が残されていることに気がつく。

 すると、上空に黒い渦のような空間の歪みが可視化され、中から大きな腕が空間の縁に捕まるように出てきた。


「あいつがボスだ! 撃て!」

「『フレアショット』」

「はい!」

「凍土にほほえむ魔女の森。凍てつく森より出し氷の槍よ、わが敵をうがて! 『アイスランス』!」


 俺の合図に、ソルティ、メル、ラジがそれぞれ攻撃を放つ。ラジは最近覚えた氷の中級魔法だ。ソルティのレーザーとメルの矢は当たったようだが、一歩遅れたラジの魔法は手で叩くように弾かれた。

 空間の歪みから頭が、胴体が、翼が、現れる。

 その姿は、女のような半人と、人間ほどの直径がありそうな太い蛇の半身をもち、翼が生えている。鋭い眼光がこちらを射抜き、長い髪が意思を持つように蠢いて……否、それぞれが蛇の頭のようだった。


「メドゥーサ……そんな……ずっと上の階層のボスじゃないですか……」

「どんなやつだ?」

「彼女の眼を見てはいけません。石化します。おそらくバリアでも防げないかと。あと髪に見える蛇の瞳も同様です! 気をつけて!」


 メドゥーサの髪の蛇達はそれぞれ眼から光線を放ってくる。バリアを溶かす勢いだったので慌てて散開した。

 下級のバリアではメドゥーサの眼光は防げないらしい。

 ちなみに、上級の結界魔法となる『プリズムウォール』は光属性との組み合わせになる。俺は使えない。


 メドゥーサは燦花に狙いを定めて光線を放つ。燦花は懸命に避けて、剣で砂を巻き起こしたりして光線を躱す。アムゼルはその隙にメドゥーサに近づいて大剣で斬り上げた。鱗が硬く、攻撃はあまり通っていない。だが注意は引けたようで、メドゥーサはアムゼルに狙いを変えた。


「光の盾よ、我らを守りたまえ『プロテクション』」


 アムゼルは自分に強化魔法をかけた。光の盾がアムゼルの前に出現し、すぐ見えなくなる。

 メドゥーサの光線に、アムゼルが盾を構える。盾が光線を弾いて、その光線が髪の蛇の一匹に命中した。蛇が石化して落ちる。


「これだね」


 アムゼルは要領良く、蛇の光線を弾いて蛇に撃ち返す。繰り返すうちに、メドゥーサの長髪は全て石になった。あれだけ近くにいて、蛇やメドゥーサの目を見ないで撃ち返すのはすごい技術なのではなかろうか。俺にはできないな。


「はあ!!」


 アムゼルがメドゥーサの眼光を弾き、メドゥーサに当てた。が、本体には効かないらしい。でもこれで光線は一対のみとなった。気配探知でも他の気配は引っかからない。

 燦花がすかさず駆け出してメドゥーサに斬りかかる。即座にメドゥーサが光線を飛ばしてくるので転がって避けた。アムゼルが盾で庇いに行く。


「痛っ」


 アムゼルの盾が間に合わず、一瞬の光が燦花の足を掠めてしまった。斬り落とすべきか…いや、イビルアイと違って、光線を浴びた箇所だけが石化している。目を見たら全身石化するようだが、こいつの光線は当たった場所だけのようだ。


「ラジ、一瞬でいいから動きを止めろ!」

「はい! 放てじんらい、わが敵を貫け! 『ボルトショット』」


 ラジの手から放たれた雷撃の塊がメドゥーサにぶつかる。命中した途端、メドゥーサが身体を跳ねさせて動きを止めた。その一瞬の隙をアムゼルが逃す筈がない。俺も一気に距離を詰める。


「はああああ!!」

「ハッ!」


 アムゼルが大剣を振るい、メドゥーサの胴体を袈裟斬りにし、その背を飛び越えるようにして俺の刃がメドゥーサの首を飛ばした。

 メドゥーサは声もなく倒れ、光の粒となって消える。コインやドロップアイテムが出現するが、一同の表情は明るくない。


「……十三階層、クリアだ」


 俺の左腕全損と燦花の右足の石化。決して良い勝利とは言えない結果だった。


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