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33話 十階層、ボス戦

 ◇



 ローテーションを続けながら進んでいると、明らかにボスがいそうな大きな扉の前にたどり着いた。


「情報通りであれば、この先に階層ボスがいるはずです。確かミノタウロスだとか」


 メルは階層が上がるたびに情報を買ってくれるのだが、ちゃんとパーティ資金からお金を出しているのか心配になってくるな。

 各々装備を確認して、アイコンタクトを交わす。


「よし、行こう!」


 アムゼルの掛け声で、扉を開ける。いくつかのランプで照らされた薄暗い空間の最奥に、巨体が腕を組んで座していた。

 ミノタウロスは、角がある二足歩行の牛人間のようなもので、大きな斧と突進でとにかく破壊力が大きいらしい。体長は五メートルほどだ。

 大きな影がゆったりと立ち上がり、隣に立てかけてあった大斧を掴んだ。


「炎よ、我に力を! 『ストレングスヒート』」


 アムゼルが自身に攻撃力増加魔法をかける。


「光の盾よ、我らを守りたまえ『プロテクション』」


 続けてパーティ全体に光属性の防御強化魔法を唱えた。アムゼル、メル、燦花、ラジの眼前に薄く光る光の盾が現れる。盾はすぐに見えなくなった。


「っ」

「あら……これは知らなかったわ」


 俺とソルティにも光の盾がかかろうとした時、何かに弾かれて火花が散った。衝撃で軽傷を負う。


「支援魔法でもアウトなのか……」


 俺たち魔族は光魔法が弱点だ。光の攻撃魔法が効くのはわかるが、まさか支援魔法まで効いちゃうとは。

 幸い、前を向いていたメルや燦花は気が付かなかったようだ。アムゼルはチラッとこちらを見たが、すぐに前に向き直ってミノタウロスに突っ込んで行く。それに合わせてメルと燦花が両側面に回り込んだ。俺は一応後衛盾兼回復要員として待機、ラジとソルティが後方で魔法攻撃を行う。戦闘開始のどさくさに紛れて、こっそりソルティと俺に回復魔法をかけておいた。


「はあああ!」


 アムゼルが大剣を振るう。ミノタウロスも大斧を振るいアムゼルが盾で受ける。何度か繰り返して、ミノタウロスはアムゼルに釘付けになったようだ。


「喰らいなさい!」

「みなさん、ミノタウロスの弱点は心臓です!」


 燦花とメルがそれぞれ剣と矢で攻撃を与えていく。ミノタウロスも大斧を振り回して牽制するが、燦花とメルは軽い足取りでヒットアンドアウェイを繰り返した。


「『ウィンドブレード』」

「放てじんらい、わが敵を貫け! 『ボルトショット』!」

「GUGAAAAA」

「行かせない!」


 ソルティとラジが魔法で援護する。ミノタウロスがソルティ達に向かおうとしても、すぐにアムゼルがミノタウロスに斬りかかり、陣形を立て直した。ちなみに、雷系はほとんど効いていないようだ。怯むどころかただただ逆上させただけのようだ。

 すると、ミノタウロスが頭を上下させ、片足で地面を蹴る動作をした。


「突進が来ます! 避けて下さい!」


 メルの一声で、俺はラジとソルティを抱えて横っ飛びした。回避した直後に巨体が通り過ぎ、フロアの壁に激突した。そのまま動きを止めるかと思ったが、ミノタウロスはすぐに振り返って再度突進してきた。まずい、早すぎる。


「ロス!」


 咄嗟に小脇の二人をぶん投げ、刀を抜く。ミノタウロスの角が激しい音を立ててぶつかる。踏ん張って止めようとしたが無駄で、足が浮いてしまいミノタウロスの突進に巻き込まれてしまった。壁に身体がめり込む音がして、何本か骨が折れた音がした。ミノタウロスは角が壁に刺さって抜けないようだ。俺の眼前に奴の顔がある。鼻息荒く興奮しきったような表情をしていた。拳で俺を殴ろうと振りかぶっている。


「『アイスランス』」

「GYAAAAAAAAA!!!」


 その鼻先に氷の槍をぶち込んだ。衝撃で角が外れ、仰け反ったところに蹴りを入れて後ろに倒れさせる。そこにすかさず燦花が斬撃を加え、腕を一本飛ばした。奴は残った腕を振り回しながら立ち上がり、すぐに大斧を拾う。顎の半分が抉れているが、まだ充分動けるらしい。今度は燦花に向かって突進を仕掛ける。燦花は回避し、壁に激突したところをアムゼルが斬りかかる。ミノタウロスはすぐに反転して応戦し、再度アムゼルに向かって突撃した。アムゼルはまともに受けたが、やはりパワーがあるのか、ミノタウロスの突進を受け切り、動きを止めさせた。


「ゲホ……『ハイヒール』」


 俺はその隙に中級治癒魔法を唱えて怪我を治す。


「やああ!」

「『ウィンドブレード』」

「大気より生まれる氷のつぶて、うち抜け! 『アイスブラスト』」


 燦花、ソルティ、ラジが追撃する。ラジは雷系が効かないとすぐに判断したらしい。氷魔法に切り替えていた。


「おかしいです。こんなに素早い動きが出来るなんて情報にはありませんでした」


 メルが矢を放ちながら独り言のように呟く。


「突進攻撃については情報あったんだし、つまり動きが速いってことじゃないのか?」

「確かにそうかもしれませんが、少なくとも今みたいに連続で行わないと聞いていました。一度避ければ必ず身動き取れなくなるので、その隙をつけ、と」

「壁にぶつかる前にブレーキかけてるよな、あいつ」

「ええ、思った以上に知恵があるようです。ここまで攻撃しても倒れないと言うのも気になりますし、なんだか胸騒ぎがします」


 確かに、今も尚攻撃を与えられているはずのミノタウロスは、倒れる気配もなくピンピンしている。顎を抉っているのに出血も大したことないような?


 ―――

 ミノタウロス・ゾンビ Lv50

 HP15660/35000

 MP5566/6000

 スキル:悪50 雷68

 称号:

 備考:≪生命呪縛≫≪腐化の呪い≫

 ―――


 ここでようやく≪超鑑定≫を使用した。誰もダンジョンの敵に鑑定スキルを使ってこなかったので意識から外れていたのだ。


「おい、あいつアンデットになってるぞ!?」

「なんですって!?」


 HPもかなり高い。十階層の敵は平均三十レレベル、ボスは四十レベルだとメルが話していたが、あのミノタウロスは五十ある。


「アムゼル! 聖属性で戦え!」

「? わかった! この身は穢れを祓う剣。穢れを受けぬ純白の鎧。我に力を……『フォトンメイル』」


 アムゼルが自身に聖属性付与の強化魔法をかけた。白く光る大剣でミノタウロスを斬りつける。


「GAAAAAAA!?」


 初めて攻撃が入ったかのようにミノタウロスが怯んだ。


「聖属性で畳みかけろ! ホーリーサー…」


 俺も奴に聖魔法をぶち込もうとしたその時、首の後ろがピリッとした感覚がして、咄嗟に前方に飛び込んだ。

 前にもこんなことがあった気がする、と振り返れば、そこにはミノタウロスの物に負けず劣らず大きな斧を持った少年がいた。クレイズだ。


「クレイズ!? 何故ここに!?」

「誰その子!? どっから入ってきたの!?」


 メルの声で気付いたのか、燦花もクレイズを見てしまった。

 クレイズはうっとりと目を細めて俺に微笑みかける。


「魔王サマー♡あーそーぼー♡」


「……は?」


 俺は何も答えない。代わりに反応したのは燦花だった。

 クレイズが俺を「魔王」だなんて呼んでいるのはさぞかし不思議な図だろう。たがそう簡単に俺が魔王だとは思わないはずだ。先にクレイズを黙らせて、後で弁明すればいい。


「メル、他のみんなとミノタウロスに集中しろ。コイツは俺が黙らせる」

「は、はい! お気をつけて」


 メルがミノタウロスに向かう。メルは燦花の肩を叩いてミノタウロスに向かわせてくれた。俺はクレイズと対峙する。ひとまずはこれでいい。


「アドラスはどうした?」

「んー? 街で面白いことが起きてるって遊びに行っちゃったよー? でもボクは魔王サマと遊びたかったからこっちに落としてもらったのー☆ねえねえ嬉しい? 嬉しいよねー?」


 クレイズは言い終わらないうちに斧を振り回して向かってくる。膂力も笑顔も恐ろしい。


「今忙しいんだ。待てもできないのか? アドラスの躾も大したことないのな」

「待てなんて教わってないよー! アドラスはやりすぎるなよって言ってくれただけだよー?」


 クレイズから繰り出される攻撃を飛んで避けて、魔法をぶち込む。無詠唱のアイスブラストだ。クレイズは斧を盾にするが、幾らかは食らっていた。でも怯まない。痛覚がないんじゃないのかと言うほどに、眉の一つも動かない。気味の悪い笑顔のままだ。


「チッ、そもそも俺を魔王サマと呼ぶのはやめろ。お前を臣下だと思ったことはない」

「えー♡じゃあ今から臣下にしてよー! 魔王サマー♡」

「断る!!」


 クレイズとの鬼ごっこはフロアいっぱい使っている。ミノタウロス戦は中央で繰り広げられているので、辛うじて邪魔にはなっていないが、回復要員は俺だけだ。早いとこあっちに戻りたい。

 いっそ斬ってしまうか。とはいえ、斬る理由がないとも思ってしまう。元とはいえソルティの器だったものなんだろうし。


「……わかった。クレイズ」

「なになに? 臣下にしてくれるのー?」


 俺が立ち止まると、クレイズも立ち止まった。


「『ファストスリープ』」

「えっ……」


 クレイズが斧を取り落として、自身も床に倒れ伏した。ひとまず創造で作った鎖で全身ぐるぐる巻きにして放置した。


 アムゼル達の所に戻ると、燦花とメルが負傷して倒れていた。燦花の怪我はみるみるうちに治っていくが、メルの怪我は深い。


「『ハイヒール』」


 即座に治癒魔法をかける。燦花もメルも怪我は治ったが、気を失ったままのようだ。


「ラジ、二人を見ていてくれ」

「はい!」


 アムゼルとソルティがミノタウロスと対峙していた。アムゼルは盾が無くなったようで、大剣だけで戦っていた。ソルティは聖魔法を使えないので、火魔法で牽制する程度だった。アンデットには聖属性が一番だが、火属性も効かないわけじゃない。肉体が全て灰になれば動けなくなるのは当然だ。


「『ホーリーサークル』」


 ミノタウロスがいる場所に光る魔法陣が出現し、光の柱を上げる。ミノタウロスは苦しそうにもがき、動きが鈍った。


「アムゼル!」

「はあああああ!!」


 アムゼルが両手で大剣を振り上げ、ミノタウロスの残っていた腕を斬り飛ばす。そのまま剣を返して、ミノタウロスを左肩から袈裟斬りにした。剣はミノタウロスの心臓に届いたようで、ミノタウロスの目から光が失われる。


 次いで、ミノタウロスが音を立てて地面に倒れ、光となって霧散した。

 消えた場所には、コインの入った革袋と魔石、ミノタウロスの角と思しき素材と、大斧が現れた。ドロップアイテムだ。


「やっと……倒した……」


 アムゼルが地面にへたり込んだ。よく見たら残りHPが一割だったし怪我だらけだった。


「『ハイヒール』『ヒール』『ヒール』」

「ありがとう」


 慌てて治癒魔法をかけてやる。ソルティも疲れたようでしゃがみ込んでいた。怪我は無く、HPも減っていないので頭を撫でてやるに留めた。

 ボス部屋は一度倒すと一定時間敵が出現しないそうなので、メル達が目覚めるまで少し休むことにした。


「戦闘前さ、プロテクションかけたけど、ロスとソルティちゃんにはかけられなかったのかな?」

「むしろダメージを負ったぞ。光属性は何であれ喰らうらしい」

「そうだったの? ごめんね……」

「いや、俺もソルティも知らなかったからな。次からは俺達は対象から外してくれると助かる」

「そうするよ。でも、プロテクションかけられればさっきロスが受けた攻撃も肩代わりできたのになぁ」

「まあ、その辺りは仕方がないだろう。油断した俺が悪い」

「慢心の間違いでしょ」

「アムゼル、お前たまに言葉が強いよな」

「何のこと?」


 良い笑顔だこと。

 などと話していると、燦花が「ぅ…」と言って目を覚ました。続いてメルも目を覚ます。


「ミノタウロスは!?」


 燦花はガバッと起き上がって辺りを見回した。


「大丈夫、ちゃんと倒したよ」

「よかった……ごめんなさい。私、気を失ってたなんて……」

「僕も庇いきれなくてごめんね」

「い、いや、そんな。次はもっと頑張るわ」


 燦花は両手を握り込んで意気込んだ。


「盾も壊れちゃったし、強敵だったね」

「情報と違う敵だったんだ。生きてただけ良かったな」

「あの、ロスさん……」


 目を覚ましたメルが気遣わしげにこちらを見る。


「あいつは簀巻きにして眠らせた。放っておけ」

「大丈夫なんでしょうか……もうしばらくすればまた出現するのに……」

「問題ない。縛られていようが、あいつがミノタウロスに負けるとは思えない」

「そ、そうなんですね……」

「とにかく一度街に戻ろう。話さないといけないことがあるわけだし」


 俺はちらっと燦花を見た。目が覚めてからの燦花は、俺と目を合わせようとしない。


「……そう、ですね。そうしましょう」


 俺たちは十階層最奥の扉に進み、転移装置にカードを登録してから街に戻るのだった。


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