32話 十階層、再挑戦
◇
「あれ、あいつら……」
服屋に入ると、アムゼル達がいた。メルと燦花が楽しそうにしている中、アムゼルは死んだ魚のような目で微笑んで遠くを眺めている。その両肩には買った服を入れていると思われる革袋が下げられていた。パンパンだし重そうだ。
「よう、アムゼル。服屋に居たんだな」
「ロス……良いところに来た。一つ持って」
「は? うわっ」
問答無用で片方の革袋を渡される。ズシ……と音がなるほど重い。
「ロス達も洋服を見に?」
「ソルティが替えの服を探しているらしくてな」
ソルティはラジを連れてさっさと物色しに行ってしまった。メルと燦花も気づいて、四人できゃっきゃと洋服談義に花を咲かせている。まあ、ラジは着せ替え人形になっているだけだが。
「女の子の洋服選びって長いんだね……端から端まで見るし、ここでもう十件目なんだ」
「じゅっ!? ……飯食ったか?」
「食べてないよ。お腹すいた……」
「じゃあ近くの店入るか? ソルティはあんまり悩まなそうだしここで済ませるだろ」
「良いのかな、女の子だけで残して」
「仮にも冒険者なんだから問題ないだろ? ソルティもいるし。いざとなったらここら一帯吹き飛ばしてでも逃げてくるって」
「それが一番心配なんだけどなぁ」
と言いつつも、アムゼルも限界だったらしい。メル達に一声かけて、向かいの食堂に行くことにした。誓って聖剣から離れたかったわけじゃない。不可抗力だ。
食堂は空いていた。広めの座席を取って、後から人が合流する形でも問題なさそうだ。アムゼルはがっつり遅めの昼食を頼み、俺は飲み物と軽食を頼んだ。花の香りと果物の味がするジュースと、サンドウィッチだ。タレでしっかり味付けされたボアウルフ肉のサンド。美味い。
アムゼルもあっという間に食べ終わってしまったので、先程酒場で聞いた話をする。
「へえ、物騒だね。ウェルダネスは人口比率に対して治安が良いことで有名なんだけどなぁ。その中でもさらに警備が厳重なライフパレスでってなると、なんだかきな臭いね」
「だろ? 俺はてっきりお前の称号の力が発揮されてんのかなと疑ったね」
「称号? あぁ、不名誉な方か……。どうなんだろう。最大のトラブルの種が目の前にいるからなぁ」
「オイ、それって俺のことか!?」
「自覚あるんだー。それはよかったなー」
アムゼルは棒読みで笑いながら飲み物を注文した。
「そういやここに来てしばらく経ったが、前のパーティメンバーとは会わなくて良いのか?」
「あー、うん。冒険者の数も多いし、意外と会わないもんだね」
「ギルドの掲示板を使えばすぐじゃないのか?」
「それも考えたけど、なんて言うのかな……正直なところ、会うべきか悩んでる」
今この街で活動しているであろう元パーティメンバーは、アムゼルを含め過去の話を掘り返されても良い顔しないのではないかと懸念しているようだ。
「そんなに身構えるようなことか? だって、アムゼルは良い報告をするんだろ?」
「え……」
アムゼルが顔を上げる。その目は驚きに見開かれていた。
俺は思うのだ。例え生きて戻らなかったのだとしても、行方不明であった仲間の所在が分かった事は、良い事だと。
「生死がわからなくなってそのままっていう冒険者が多い中で、リーフェはちゃんと帰ってきたじゃないか。その報告をするんだから、これは良い知らせだろ?」
そう言うと、アムゼルはちょっと泣きそうな顔になって、すぐに顔を覆って、
「はは……ロスはすごいなぁ」
としばらく肩を震わせた。
落ち着いた頃にメル達が店に入ってきた。
「お待たせしましたー。さすがに疲れましたね、わたし達もちょっと休ませてください」
メル達も同じテーブルにつく。俺の隣にラジが来て、ソルティはわざわざ端っこの俺を中側に押し込んでまで反対側の隣の席を勝ち取った。アムゼルの隣にはアキカを座らせメルが端に座る。俺の目の前に聖剣……じゃない、燦花が座ったため、かなりビリビリする。
四人とも甘めの飲み物を注文した。メルと燦花は軽食も頼んでいた。
「良いけど、この後寄りたいところはまだあるのか?」
「防具屋ですね。アキカさんの装備がボロボロなので」
「わかった。少し休んだら買いに行こう」
「ロスさんも来てくださるんです? やったー」
何故かメルが喜んだ。
「ただし長居はしないし何件も回らない。行く店は一つだ」
「良いお店があるんですか?」
「さっきここまで来た時にドワーフが営業している店があったんだ。グレイブにあったドワーフの武器屋は品質が良かったから、こっちでもそうなんじゃないかと思ってな」
値段は見てみないとわからないが、買うなら安くて高品質だ。ドワーフブランドに期待している。
「なるほど、多分わたしも行こうと思っていたお店です。ではそこにしましょう」
店が決まったところで、メル達にもリゾート施設で起きた事件の話をした。
「武器の類が簡単に持ち込めないあの館で……?」
メルは何か思うところがあるようで思案顔になったが、すぐ元に戻った。燦花はよくわかってないらしい。アムゼルに尋ねるような視線を向けた。
「この街には貴族が行くようなリゾート施設があってね。警備がものすごく厳しくて、持ち込む衣服なんかも細かくチェックするような場所なんだ」
「リゾート施設……ここって意外と観光地なの?」
「もちろん。歓楽街は街並みも異国情緒あふれてて綺麗らしいよ。僕は見たことないけど」
「わたしも無いんですよねー。探索の合間に休みの日を設ける予定ですし、その時見に行きましょうね、アキカさん」
「うん、行ってみたい」
今日の外出で三人は随分仲良くなったようだ。ちょっと微笑ましい。
「私、聞いてみたかったんだけど……ロス……くん? とソルティちゃんとラジくんって兄弟か何かなの? ラジくんはエルフに見えるけどすごく懐いてるし。でもソルティちゃんはロスくんのことサマ付けするし、どういう関係なのかなって」
燦花が俺に話しかけてきた。意識を向けられるだけでビリビリとした気配を感じる。
「ソルティは知り合いだな。ラジは拾った」
「拾ったぁ!?」
「ちょ、声が大きいよアキカさん」
「あ、ごめんなさいつい……ものすごく素っ気ない説明だったけど、二人はそれで納得してるの?」
「え? う、うん。だってロスだし?」
「そそそ、そうですね、ロスさんですからね……はい」
コラ二人とも急に挙動不審になるなよ、と睨みつけたくなった。実際目が据わった。
「その辺詳しく説明すると長くなるんだよ。外でする話じゃないし。まあ追々な」
「えー、すごい気になるんだけど。まあいっか。そのうち聞かせて?」
燦花もとりあえずは引き下がってくれるようだ。ソルティはずーっと俺の腕に絡みついてるし、ラジは飲み物がよっぽど美味しかったのかずーっと幸せそうな顔して啜ってる。
「ああ。それと、俺のことは呼び捨てで良い。君付けとか痒くなる」
「そうなの? じゃよろしくね、ロス」
「俺の方も燦花と呼ばせてもらう」
「うん、それで良いわ。……なんだか発音が上手な気がするけど……」
「ん? 発音?」
「ううん、何でもない何でもない」
話がついたところで、暗くなる前に防具屋へ向かうのだった。
◇
翌日。再びの十階層。
地図があるところまでは六人の動きの確認をしながら進み、疲れないように戦闘員をローテーションして進むことにした。
燦花は剣なので前衛だ。アムゼルと二人で前に出して、後ろにメル、ソルティとラジの後衛部隊、俺は背後を守りつつ後衛盾といったところか。十階層は敵も多くしょっちゅう囲まれるが、今のところは問題なく進めている。
「アキカさん、やり辛いと思うところはある?」
アムゼルも新しく入った燦花を気遣い、戦い方を話し合っている。
「ううん、大丈夫。あんまり前に出過ぎないようにするのは難しいけど、背中を気にしなくて良いのは本当に助かるわ」
「そろそろ慣れてきたと思うし、半分に分けて体力温存しようか」
「ええ」
チーム分けはアムゼル、燦花、メルの勇者組と、俺、ソルティ、ラジの魔王組……魔王なんて言ったらバレるので声に出してはいない……に分かれることにした。
下がっている間も背後からの敵を倒したりするので完全に暇というわけではないが、どうしても進行方向の方が敵は多いので、交代しながら進む案は名案だった。
勇者組はアムゼルが大多数を引きつけ、燦花とメルで各個撃破していく安定したスタイルで戦闘を進めていた。
「ラジ! 横から来るぞ! ナイフは構えておけ!」
「はい!」
「ソルティは全体的に頼む」
「お任せください」
俺たちは、俺が前方を抑えつつ、ソルティに数を減らしてもらい、ラジが側面や近くにいる敵を一匹ずつ対処していくスタイルだ。俺が敵を抑え切れていないので、パラパラと後衛に敵が漏れる。後衛に敵が行ってしまうのは陣形的にアウトなのだが、ソルティの速射無詠唱魔法のお陰で何とか戦線を保てていた。ソルティは俺より魔法の発動が早く、呪文も術名もろくに唱えない。おまけに連射できるようで、一刃の風となって敵を斬り刻むウィンドブレードと思しき魔法を連発していた。
「ロスも相当規格外だなって思ってたけど、ソルティちゃんもすごすぎない?」
燦花が呟くのも無理はない。無詠唱自体相当な手練でなければできない技術であるらしいし。
「気にしちゃダメだよアキカさん。ロスもソルティも大雑把なだけだから」
「おいアムゼル聞こえてるぞー」
「あ、そろそろセーフティエリアだよ」
「チッ、話を逸らしやがった」
立ち向かってくるプチリザードマンをまとめて斬り払って、少しだけうしろを確認する。ラジが少し怪我をしているようだが、それ以外は問題なく進めているようだ。
間も無くして前回到達地点であるセーフティエリアに辿り着く。
少し休憩を挟むことになり、俺は即座にラジに治癒魔法をかけた。
「治すのが遅くなってすまんな」
「いえ、ただのかすり傷でした。ありがとうございます」
ラジの頭を撫でてやる。すると、燦花の視線を感じた。
「……なんだ?」
「あ、いや、ロスって治癒魔法も使えるのね! 教会でも使える人は珍しいのよ」
「そうなのか?」
「そうだよ。冒険者の中でも治癒魔法の使い手はそう多くない。一人でも治癒魔法使いが居たら生存率が格段に違うから、どのパーティも治癒魔法の使い手を探しているくらいだ。一人いたらパーティの格が上がるって言われてるくらい」
俺の問にはアムゼルが答えてくれた。
というかこのパーティ、治癒魔法使えるの俺だけじゃないかとツッコミを入れたかったのだが、そもそも珍しい魔法だったのか。そういやグレイブでも治癒魔法と同じ聖属性の魔法使いが居ないと聞いていたけど、そういうことだったのか。
「じゃあ、ポーションはちゃんと揃えていかないとダメなのか」
「そうですが、このパーティではあまり持たなくても問題無いかと。持ち込みを少なくできるのも、ロスさんのおかげですね」
とメル。
燦花はパーティを見渡して、首を傾げた。
「今更だけどあなた達荷物少なすぎない? 私なんてリュック背負ってるのに。鞄らしい鞄持ってるの、ロスのその布袋だけじゃない」
「僕たちはアイテムボックスがあるから」
「えっ」
燦花の目が驚愕に見開かれる。
「アイテムボックスって名前ばっかでそんなに物入らなくない!?」
ああ、そういえば燦花もアイテムボックスを持っていたが、スキル値が低かった気がする。
「スキル値によって容量が変わるから……これからレベルが上がれば増えていくよ」
「アムゼルはいくつなの?」
「えーっと……三十……」
「私の四倍以上……!?」
「アムゼルさんはスキル値の伸び幅が大きすぎるので、あまり参考にならないかと。私はアムゼルさんよりレベル高いですけど、アイテムボックスは二十二ですよ」
アムゼルとメルの数字を聞いて、燦花は自分のギルドカードを見る。ギルドカードにステータスが載っているので、その値を見ては、顔が青ざめていた。
「ほんと、この世は世知辛いわ」
「は?」
「ううん、こっちの話よ……あはは」
ショックが隠し切れない燦花は置いといて、アイテムボックスから網と魔獣の肉を取り出して火で炙る。昼食の準備だ。
火に焚べておいたらあとはメルが味付けしてくれるので、ひとまず人数分並べておく。
「ロスは?」
そんなことをしていたら背後から亡霊のような声が聞こえた。ビリビリとした感覚も一気に強まったので、ついびっくりしてしまった。
「俺はって何? 何の話?」
「ロスのアイテムボックスはいくつなのよ……」
「えっ」
「やめといたほうが……」
アムゼルとメルから嗜めるような声が。
俺は気にせず、現在の改竄している方のステータス値を言う。
「四十だが?」
言葉を受け、燦花はふらふらと壁に倒れ込んで項垂れたのであった。
ちなみに、現在のパーティのステータスを見ておこう。俺、アムゼル、ソルティは改竄の方だ。
―――
ロス
年齢:16
ジョブ:冒険者(D) LV35
HP5000/5600
MP6000/8500
スキル:雷50 氷65 水50 治癒75 聖75
火45 風45
剣術45 アイテムボックス40
称号:
―――
―――
アムゼル・ハイルベレイン
年齢:17
ジョブ:冒険者(C) LV40
HP11300/15500
MP14000/15000
スキル:火62 光72 聖59 雷45
剣術69 盾術70 アイテムボックス30
探知70 魔力探知90
超感覚 女神の加護
称号:≪勇者候補≫≪トラブル吸引体質≫
備考:
―――
―――
ソルティ・レグスノヴァ
年齢:8
ジョブ:冒険者(D) Lv30
HP1800/1800
MP2000/2700
スキル:火57 爆50 風20 土20 時空17
封術15 魔力探知26 幻15 魔眼
称号:
―――
―――
メルヴェイユ・フェレス・ヴァルカン
年齢:15
ジョブ:冒険者(B) Lv42
HP3550/3550
MP4560/4560
スキル:風60 土45 精霊魔法64 弓65
探知68 魔力探知65 回避65 諜報60
罠36 地図作成40 鑑定55
アイテムボックス15
称号:≪情報屋≫≪勇者候補≫
備考:ヴァルカン王国王位継承権第五位・第三王女
―――
―――
ラジ
年齢:10
ジョブ:冒険者(D) Lv25
HP1250/1250
MP2500/2500
スキル:雷40 氷35 時空10 結界術10 隠蔽22
称号:
備考:エルフ(ホーリー)
―――
―――
アキカ・タチバナ
年齢:18
ジョブ:勇者 Lv38
HP6750/6750
MP1800/2550
スキル:風70 光60 剣術90
時空25 アイテムボックス7 幸運90
生命魔法 天眼
称号:≪剣の勇者≫
備考:異世界人
―――
おっと。
「『ヒール』」
地味にアムゼルのHPが減っていたので治癒魔法をかけておく。こいつ怪我しても隠すし全然痛がらないからわかり辛いんだよな。治癒魔法をかけたらHPは全快した。
「ん? ああ、治癒魔法かけてくれたの? ありがとうロス」
「怪我したんならちゃんと申告しろ」
「ごめんごめん。大したことなかったし、ちゃんと後で治してもらおうと思ってたんだよ?」
「どーだか」
続いて燦花にMPポーションを渡しておく。
「あ、ありがとう」
「魔法使ってるとこ見てないんだが、結構MP減ってるのな」
「私の場合、自分の怪我を自動で治す生命魔法があるから」
「ああ、MPを引き換えにしてるのか」
「そうなの。だからMPが切れちゃうと自動回復も無くなるのよ」
「MPポーションはちゃんと持ってきてるのか?」
「うっ……お金がなくて……」
MPポーションは下級でも一本小銀貨一枚かかる。大銅貨三枚あれば一日食う寝るに困らないくらいなので、貧乏冒険者には大銅貨十枚分の価値があるMPポーションはそんなに数を揃えられないのだ。
「じゃあ尚更それ飲んどけ。回復が追いつかなくなるなんて事態は避けたいしな」
「そうですよ。ボス部屋まであと少しだと思いますが、一応今のうちに回復しておいてください」
「高価なのに……ありがとう」
メルにも勧められて、燦花は小瓶を呷った。
しばらく休んだところで、ボス部屋目指して再び出発することになった。




