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序
とある街の一番高いところ。
教会の鐘がある屋根の上に、佇む一人の青年の姿。
「あと少し……。夜が開ければ、私は消えてなくなるだろう」
その若い見た目からは不釣り合いな、やけに落ち着いた声で青年は呟いた。
地平線が少しずつ青白く染まっていく。
黎明よりも、少し前の時間。
この時間帯は不思議な力を感じる、と青年は思っていた。夜が明ける兆しが現れるこの時間が、一番気温も下がるように感じるし、肌がピリピリと、光の気配を感じて目覚めて行くような。
ほぅ、と息を吐いて、朝日が昇る地平線を見る。
「果たして、この選択によって私の望みは叶えられるだろうか。……いや、もうすぐこの世から去る者が、未来を案じても詮なきことか」
光の矢が雲を貫いた。朝日が夜の青さを打ち払っていく。
どうやら時間が来たようだ。
「さらば、世界よ。私は行く。彼等に一言言えればよかったが、今更だな」
次々に空を裂く光の矢が、青年の身体を貫くように伸びたところで、青年は意識を手放すのだった。
「願わくは、"次"の私が、全てを終わらせてくれることを……――――」