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Episode3



 声のした方を見ると、女性が小走りで駆け寄ってくるところだった。


 グレーのショートボブに、グレーの瞳。黒のニットを着て、ベージュの長めのスカートが走る動きに合わせてふわりと揺れる。


「リンさん! お久しぶりです」


「お久しぶりです。お元気でしたか?」


「はい、お陰さまで」


 自然と笑顔が溢れ出ていた。


 ――燈芽とうめ りんさん。足立ダンジョンセンターの設立当初からのメンバーで、今はセンター内の案内を担当している。


 こんな俺にもいつも優しくしてくれて、どうしようもなく憂鬱な人生にただ一点の安らぎを与えてくれる存在だ。


「訓練場にいくんですか?」


「はい、ちょっと試してみようかと思って」


「……大丈夫、でしょうか?」


 リンさんが不安げな表情を浮かべる。俺のこれまでを知っているだけに、色々と思うところがあるのだろう。


「大丈夫です。こう見えて俺もちゃんと特訓してきましたから」


「そうですか……。でも、気を付けてくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 俺も半年間、死に物狂いで訓練を積んできた。今までの俺とは全く実力も違っているはずだ。


 もしこれで通用しなかったら……いや、そんなことを考えるのは止めよう。


 リンさんの気遣いに感謝を告げて、そのまま立ち去ろうとした時、


「あ、訓練が終わったら、もう一度声をかけてください」


 思い出したかのように、リンさんが言った。


「え? どうしてですか?」


 唐突な言葉に、思わず聞き返してしまう。


「分からないですか?」


「うーん……」


 なんだろう? クエストの紹介かなんかだろうか。


 時々、国が冒険者の育成を目的としたクエストを出すことがある。

 俺にクリアできるクエストは少ないが、もしそういったクエストの発注が出た時にはリンさんを始め、センターの職員が紹介してくれることがあった。


 でも、つい先日クエストを受けたばかりだ。そんなに頻繁に低ランクのクエストが発注されるとは思えない。


 クエストの紹介ではない。だとしたら他になにが……。


 そのまましばらく俺が考え込んでいると、


「ふふ、まあ後のお楽しみということで」


 リンさんが悪戯っぽく笑ってみせる。



 ――ぐっ! か、可愛いすぎる……!



 あまりの衝撃に一瞬意識が遠のくが、既のところで引き戻った。


 だめだ……。このままだと訓練前に戦闘不能になりかねない。


「分かりました。それじゃあちょっと、頑張ってきます」


 必死に雑念を振り払い、表情を引き締める。


「はい、無理しないでくださいね」


 リンさんに見送られながら、俺は地下訓練場への階段を降りていった。


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