Episode1
――西暦2042年4月6日、午後2時。
満開の桜並木の下を、優しく風が吹き抜けていく。
青く広がる空には雲一つなく、太陽が燦燦と輝きを放ちながら大地に恵みを与えていた。
時折、舞い散る花びらがその光を受けて煌めき、エフェクトのように世界の美しさを彩る。
まるで憂いも悲しみも存在しないかのような風景だった。神が創り出した完璧な世界、そう言われても納得できるような説得力が此処にはあった。
――だが、実際には違う。
舞い散る花びらが口に入り、むせ返りながら自転車を漕ぎ続ける今の俺の心には、憂いしかない。
いや、訂正しよう。
今の俺の心には、99%の憂いと1%の安らぎしかない。
「はあ……」
なんとか花びらを取りのぞき、盛大にため息を吐いて自転車のハンドルに肘を乗せる。そのまま背中を丸め、あたかもこの世の全ての不幸を背負うかのように姿勢を前に屈ませた。
自転車を支える力もなく、ふらふらとよろめくが気にすることはなかった。今さら倒れて傷付いたところで、俺の崩壊した人生に対する影響は皆無に等しいのだから。
――というより、気力的に支える余裕がなかっただけなのだが。
ああ、なんというか。
我ながら、自分の無能さに呆れるというか笑えるというか。いっそ世界ごと滅びてしまえばいいのに、なんて考えてみても滅びるはずもなくて。
結局、この世の不条理に白旗を振り続けながら生きていくしかないのか……。
「あぁーー……」
思わず、声にならない声が漏れる。
踏み込むペダルが一層重くなった気がした。