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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
61/62

第61話 オニイワタバコの髪飾り


 「ふんふんふ~~ん♪ た~のしいっさね~~♪」

 「……良かったな」



 映画鑑賞を終え、再び章の街中を歩く鬼渡。その前を元気にぴょんぴょんとジャンプしながら上機嫌で進みゆく京鬼。



 「でも、烈火すごいさね!! あたいが行きたいと思ってるところに全部連れて行ってくれるさね!! 」

 「……良かったな」



 笑顔で話しかけてくる京鬼に気が付かれないように鬼渡は京子から手渡された紙を確認する。京鬼が喜ぶのは当然である。事前に京鬼が行きたいと印を付けていた雑誌の内容を元にプランを立てているのだから。


 

 (映画も見たし……あとはこいつを家に届けて終わり……っと)



 京子に渡されたデートプランも終え、鬼渡は京鬼を送るために京子から渡された紙に書かれている家の方向へ歩いてゆく。……が、



 「って、あれ……いない。あっ、おい!! 」

 ふと隣をみると京鬼の姿がなかった。慌てて周囲に目を向けると京鬼がある店内に入っていくのが見えた。そこはゲーセン。あかしのゲーセンは六斎日にだけ営業している。と言ってもそこまで大きくきらびやかな施設ではなく、昔の旅館や地方にあるようなどこか懐かしい雰囲気のゲーセンである。



 「おいっ、何やってんだよ! 」

 「あっ! 烈火烈火!! あたい、これやってみたいっさね」

 「えっ……? こ、これ? …………ダメだ。もう帰るぞ」

 「ええ!? なんでっさね~!? 」

 「もう終わったからだよ」

 「終わったって何さね!? だってまだ外も明るいし、あたいまだまだ遊びたいっさね! 」

 「いいから、ほらっ! 帰るんだよ!! 」 



 そう言って鬼渡は京鬼の手を掴むと無理やり店内から引っ張り出そうとした。……が。



 「い、嫌だっさね~~~……」

 「ぐっ……なんて力だ……」



 今の京子の身体は餓鬼型の京鬼。力は鬼渡と拮抗していた。



 「し、仕方ねぇ……じゃあ、ちょっとだけだぞ? いいな?」

 「わ~~! やったっさね!」

 「え~~と……あった」



 『じゃらじゃらじゃら……』

 鬼渡は両替機で1000徳を機会に入れ、100徳に変えた10枚の硬貨の1枚を京鬼に手渡した。






 ♦ ♦ ♦


 




 「も、もっかい!! もう1回だけやりたいさね」

 「もう諦めろって……」 

 「ま、まだ……まだっさね! 」



 京鬼が狙っているのは鬼のぬいぐるみ。鬼のぬいぐるみが入ったカプセルが時計回りにくるくると回転し、それをボタンを押して跳ねあがったイルカによって落とすのである。が、獲れない。



 「…………う~~~~」



 次第にイラつく京鬼。章での徳の役割は本来は感謝への対価。が、今の京鬼はイライラマックス。機会に飲み込まれていくこの徳は一体誰のための徳になっているのであろうか。



 「あ~~、ったく……しょうがねぇなぁ。代われ」

 「えっ……あ、うん」



 見かねた鬼渡は京鬼に代わり、イルカを跳び上がらせ、見事落とした。獲ったのは鬼のぬいぐるみ。全身が赤色の鬼のぬいぐるみであった。



 「……ほらっ、これでいいだろ?」

 「……ん? …………んん!?」

 「良かったな、獲れて」

 「…………うぅ~~~。違う……」

 「どうした? 欲しかったんじゃねぇの、それ? 」

 「だ、だから、違うっさね!! あたいが欲しかったのは……紫色ので……」

 そう言うと京鬼は目の前の機会で未だに時計回りにくるくると回転するカプセルの中に囚われたままの紫色の鬼のぬいぐるみを指さしてぴょんぴょんと跳ねた。

 「……別にいいだろ、何色だって。それにお前は赤餓鬼なんだからちょうどいいじゃねぇか、赤色で」

 「ち、違うっさね。全然違うっさね!! 」

 「はぁ……めんど。ほらっ、もういくぞ!」

 「おわっ!! ま……待ってっさね!! む、紫鬼~~~!! 」



 しびれを切らした鬼渡は京鬼の右手をしっかり掴むと、今度は両手を使って力づくで店内から引きずり出した。



 「ううぅ~~~……むらしゃき……」

 「何だよ……まだ納得してねぇのか? いいじゃねぇか、その赤い鬼のぬいぐるみ。お前に似てるし」

 「くぅううう……」

 「……うっ! 」



 鬼渡にそう言われ、思わずしゃがみこむ京鬼。先ほどまであんなに元気に街を跳ねていた姿は見る影もない。



 (…………まずいな。このままこいつの機嫌が悪いまま解散したら今日1日の時間が無駄に……しかも課長にチクられたら何言われるか分かったもんじゃねぇ……どうしたもんか)

 「ん? あっ……そうだ。おいっ、ちょっとあの店寄ってくぞ」

 「えっ……あ、うん。わ、分かったさね」



 鬼渡が京鬼を連れて入ったのは雑貨屋。店内には様々な物が置かれている。風鈴、提灯、行灯、灯篭、かんざし。どれもこれもあかしの街を彩っている物であった。



 「うわぁ~~、色々あるっさね」

 「……おっ、あった。ちょっと待ってろ」

 「あっ……うん」



 鬼渡は店内の商品を物色し、何かを見つけるとそれを手に取りそれを買った。



 「烈火、何買ったっさね? 」

 「……ほらよ」

 「お? これ、何さね? おわぁ! 綺麗な紫色っさね! 」

 「髪飾りだよ」

 「髪飾り?」

 「なんだ? 髪飾りも知らねぇのか? 髪飾りってのは頭に付ける飾りのことだよ」

 「へぇ~、そうっさねぇ~。それにしてもすごくきれいな髪飾りっさね」

 「やるよ」

 「えっ。これ、もらっていいっさね? 」

 「ああ。さっきお前が欲しがってた紫のぬいぐるみと同じ紫だし、それでもいいだろ? だからほらっ、さっさと機嫌直せ」

 鬼渡が京鬼に手渡したのはオニイワタバコの髪飾り。紫色の小さな花で中心が黄色い可愛らしい花の髪飾りであった。



 「う、うん! うんうん!! あたいこの髪飾り気に入ったっさね! これは頭に付ければいいっさね? よしっ……んっ…………あれ? 上手くっつかないっさね……」

 京鬼はもらった髪飾りを早速自身の頭に取り付けようと試みる。が、なかなか思うようにいかない。

 「ったく……何してんだ。貸せ……」

 「あっ……」

 


 『かちゃ……かちゃ……』

 見かねた鬼渡は京鬼の頭に代わりに手渡した髪飾りをつけてあげた。



 「ほらっ、付いたぞ」

 「ん……付いてるっさね? ねぇ、付いてるっさね? 」

 「いや、だから付けたって言っただろ……」

 自身の頭に付いた髪飾りをぺたぺた触っている京鬼であるが、実際に自分の目で確かめることができない京鬼は何度も鬼渡に自身の頭を確認させる。

 「ふふん♪ ありがとうっさね烈火。あたい、これ大事にするっさね! 」

 「お……ああ……」

 先ほどまでの絶望の顔から一転、無邪気に笑顔を向けてくる京鬼の顔に思わず鬼渡は言葉を詰まらせた。 






 ♦ ♦ ♦






 時刻は酉の刻。京子が予定したデートプランよりも2時間ほど予定を超過し、鬼渡はようやく京鬼を京子の家の前へ連れてきた。



 「よしっ、じゃあ今日はこれで解散ってことで」

 「うん! ありがとうっさね烈火! あたい、すごく楽しかったっさね」

 「そりゃ、良かったな」

 「うんうん! …………ふわぁ……」

 「ん? どうした?」

 「…………眠い」

 「眠いって……お前は本当に自由だな」

 「ふえ? あはは……ん? ちょっと待ってっさね。…………うん。今日は楽しかったっさね! 京子、ありがとうさね」

 


 鬼渡とも会話の途中で突然会話を始める京鬼。どうやら眠っていた京子が目を覚ましたようだ。



 「課長起きてるのか? 」

 「あっ……うん。今起きたっさね。京子も起きたし……あたいは眠いし……そろそろ眠ることにするっさね」

 「おう。じゃあな」

 「あっ、そうだ。烈火これあげるっさね! 」

 「ん? あっ、これって……」

 「あげるっさね! さっきもらった髪飾りのお礼っさね! 」

 そう言って鬼渡が京鬼から受け取ったのは先ほどのゲーセンで鬼渡がとった赤鬼のぬいぐるみであった。



 「あげるって……これ俺がとったやつじゃねぇか」

 「えへへっ……」

 「……まぁ、いいけどよ」

 「ふふっ、じゃあおやすみっさね! 烈火♪」

 京鬼はいたずらな笑みを浮かべると右の人差し指で鬼渡の頬をつついた。



 『ポンッ!! 』

 と同時に、京鬼の身体は煙に包まれ、中から黒髪の人物が姿を現した。



 「あっ、課長。お疲れ様っす」

 「んっ……。おう、鬼渡おっつかれ! 今日はどうだった? 京鬼はちゃんと楽しめ……って! 何!? この格好!? なんであたし、こんな格好してんの!? 」

 ふと腹部に違和感を感じた京子が視線を下に落とすと先ほどまで身に着けていた服装とずいぶん異なる短い丈のスカート。何より明るめの紫色の上着に関してはなかなかに露出の高いものに変わっていた。 



 「なんでスカートになって……しかもおへそも出ちゃってるし。あっ、ないんだっけ……おへそは。じゃない、鬼渡! これは何!? 」

 「何って……あいつが服が欲しいって言うから買った服っす」

 「あっ……そ、そうなんだ。……なら、しょうがないか」

 自身が今身に着けている服も自身の分身のような存在である京鬼が選んだ服であれば自然と受け入れてしまう。京子は紫色の丈の短いトップスを下にくいっと下げた。



 「で? 今日はどうだった? 京鬼は喜んでた? 」

 「え? ……まぁ、けっこう喜んでたと……思うっす。課長のプラン以上に色々あったんで……」

 「ふ~~ん。あれ? その手に持ってるぬいぐるみは何? 」

 「あ、これはあいつがくれたんすよ。俺が買ってやったその髪飾りのお礼にって」

 「ん? 髪飾り? ……あっ」

 鬼渡が指さした京子の頭。その部分に手を当て、京子は自身の頭から髪飾りを取り外した。



 「ふ~~ん。京鬼にプレゼントを贈るなんてなかなかいいところあるじゃあないかぁ、鬼渡♪ あっ、もしかして好きになっちゃったか? もぉ~~、困るなぁ! 京鬼の身体はあたしの身体なんだしぃ……やっぱり魅力が」

 「いや、全然好きになってないんで」

 「むっ! 」

 「……ただ。まぁ……その。良い奴っすね、あいつは」

 「うんうん。そうでしょ、そうでしょ!! なんたって京鬼はあたしの前世だからね! 」

 こうして鬼渡の貴重な休日は京鬼との1日デートに消費された。が、このデートによって京鬼の鬼渡に対しての好意もますます上がり、地獄制圧のための貴重な戦力になってくれるに違いない。



 「それにしても……ふんふん。なかなか可愛い髪飾りじゃない。よしっ、あたしも明日はちょっとだけおしゃれして行こうかな? これくらいならそんな派手じゃないし付けて行っても大丈夫だよね? 」

 そう思って翌日、京子はオニイワタバコの髪飾りを付けて課長会議に出席したのだが、オニイワタバコが外来種であることを知らず、馬面の逆鱗に触れてしまうのであった。



 『ドォオオン!! 』

 「ひぃいい!! ごめんなさい、ごめんなさいぃ!! 」




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