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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
59/62

第59話 京鬼と烈火のラブラブデート

 

 4月15日、巳の刻。

 休日である本日、京子は鬼渡と和菓子屋の前にいる。


 

 「……いい? という訳で今日は京鬼のために協力して! 」 

 「あの……何で俺がデートなんてしなくちゃいけないんすか……。俺、これから図書館に行く予定だったんすけど」

 和菓子屋の前にいる鬼渡は朝から不満そうな顔をしている。



 「図書館なんていつも行ってるでしょ? 今日は京鬼のために協力してよ……ね? デート!! 」

 2人が和菓子屋の前にいるのには理由がある。その発端は昨日、京子が家でゆっくりと畳の上でくつろいでいる時に起きた。


 




 □ □ □






 (ねぇねぇ、京子ぉ)

 (ん? 何?)



 心の中にいる京鬼が語り掛けて来た。それ自体は普段からのことで特段珍しいことはないのだが、昨日の問題はその話の内容であった。



 (あたい、烈火とデートがしてみたいさね!! )

 (えっ……で、デート!? )

 (そうさね! ほらっ、これ!! )

 「おわっ、ちょ……ちょっと!! 」

  



 『ポンっ!! 』




 その瞬間、京子の身体は煙に包まれ、京鬼となった。京子は京鬼から身体を取り返すことは出来るが、京鬼もまた同様にその気になれば京子の身体を取ることが出来るのである。京鬼は部屋の隅に置いてあった雑誌を手に取る。先週の花まつりで図書館から借りて来た雑誌である。



 「この本に書いてあったさね!! デートをするとその相手ともっと仲良くなれるって。だから、あたい明日烈火とデートしたいさね! )

 京鬼は京子に対し、雑誌で読んだデートを要求してきたのである。京鬼は餓鬼ではあるが、身体を京子と共有しているためか、どうやら文字が読めるらしい。



 (で、デートってそんな……。それに、明日!? い、いやいや!! 無理だよ急には、あたし鬼渡の連絡先とか知らないし……っていうか電話ないし……)

 京子は京鬼の唐突な要求に対し、論理的に無理であるということを説明した。が、京鬼にはそんな説明は通用しなかった。



 「……デートしてくれなきゃあたい桃次郎退治に協力しないっさね……」

 (えっ……)

 ごね出した。京鬼は京子の餓鬼型となった姿。その身体の頑丈さは京子の約10倍。そんな餓鬼型の京鬼は桃次郎との戦いにおいて重要な戦力である。協力してもらえないという訳にはいかない。 



 (わ、分かったよ。……頼んでみる……から)

 「わ~~い!! やったっさね~~~!!! 」






 □ □ □






 こうして京子は本日15日。朝早くから鬼渡を探して街中を走り回り、ようやく和菓子屋の前で鬼渡を捕まえたのである。




 「はぁ……嫌っすよ。あいつウザいし……」

 「ウザくない!! だいたい何でそんなに京鬼を嫌うんだ? 可愛いじゃあないか? 」 

 自画自賛。京鬼とは京子が赤餓鬼であった頃の前世の姿であるが、その身体は現在の京子の身体がベースである。故に、京鬼への賛美は自身への賛美に等しい。



 「それにさぁ、京鬼は強いんでしょ? 火の玉とか手から出るんでしょ、すごいじゃん!! そんなすごい子なんだし今のうちに仲良くしとこうよ、ねっ! チームワークは大事だよ? 鬼渡♪ 」

 「まぁ、そうっすけど。……はぁ……分かりましたよ」

 「よしっ!! ありがとう、鬼っち♪ 」

 京子は鬼渡に京鬼とデートさせることに成功した。



 「で、急にお願いで悪いんだけど鬼渡はどんなデートで行こうと思う? 」

 京子は早々に鬼渡に対し、これから始まる京鬼とのデート内容を聞く。

 「えっ……あ~~、急に言われても。俺、デートとかしたことないっすから……」 

 「えっ……あ、そ、そっか」

 「まぁ、デートって言うのがどういうもんかは知ってるんで、大丈夫っす。図書館の本で読んだことあるんで」

 「おおっ、それなら良かった。……で、どんな内容? 」

 デート未経験の鬼渡に京子は一瞬不安を募らせたが、本で得た情報からデートがどういうものであるかは知っていたことに安堵する。




 「まず巳の刻に和菓子屋の前で集合」

 「わ……和菓子屋。。まぁ、餓鬼はみんな和菓子好きだし、京鬼も和菓子かもしれないから……いいか。それでそれで? 」

 「集まったら和菓子屋に入って饅頭を20個買います」

 「えっ……い、いきなりお饅頭……そ、それで? 」

 「和菓子屋の前で饅頭を食います」

 「…………お店の……前で。……ふ~~ん、それでぇ? その後は? 」

 「食い終わったらその辺をふらふらっと歩いて解散っす」

 「……………………」

 「どうっすか? こんな感じでいいっすか? 」

 




 「い……良いわけあるかぁ~~~~~~!! な、何じゃそのデートは!? 京鬼が可愛そうでしょ〜〜!! そんな適当なデート絶対しないでよね」

 「えっ……ダメっすか。デートって集まって、何か食って、そこらへんふらふらして終わりって本に書いてあったんすけど……」

 「ダメだよ!? 全っ然ダメ!! ってかどんな本を読んだんじゃ、お前は! 京鬼がしたいデートはそんなんじゃないからね!? ほらっ、見てよこれ!! 」

 「…………何すかこれ? 」

 「この前の花まつりの時に図書館で借りた雑誌。……ほらっ、ここ」

 京子は京鬼が読んでいた雑誌を指さす。よく見てみると雑誌のページの所々に鋭利な何かで『カリッ』と印のようなものが付けられている。おそらく京鬼が雑誌を読み、気になった箇所を爪で引っ掻いたのだろう。



 「……何かすごい傷ついてますけど……」

 「そっ、京鬼が付けたの! 気になった雑誌のページに印としてね」

 「……どうすんすか、これ」

 「どうしようね……本当に。じゃなくって!! まずはデートだよ、デート!! 」

 傷つけられた雑誌を指摘され、京子は一瞬この借り物の雑誌をどう弁償しようか考えた。が、まずは今日の目的であるデートの話題に話を戻す。



 「……はぁ、まぁ期待なんてしてなかったけどさ。デートプラン考えといて良かったよ」

 「……デートプラン? 」

 「そっ! ちゃんとあたしが考えてきたから。鬼渡はこのあたしのデートプラン通りに今日1日動くんだぞ? いい、分かった? 」

 京子はその希望通りのデートプランを考えて来ていた。



 京鬼は京子の別餓鬼格である。京子はそんな自分の中にいる京鬼をかわいく思えるようになっていた。それはどこか小さな妹を可愛がる姉のような心持ちである。そんな可愛い京鬼が粗雑な扱いを受けるのは耐え難い。京子は鬼渡に出来得る限りのデートテクニックを叩き込んだ。



 巳の刻 集合

     ショッピング

 午の刻 昼食

     街の散策

 未の刻 映画

 申の刻 解散(自宅まで送る)

 



 一般的な大人のデートであれば夜までお酒を飲んで楽しく過ごし、仲を深め、さらにその先にはお泊り……ということもあり得る話である。

 が、京鬼にはまだ早い。まだというよりかはそれはさせない。その京子の強い意志が反映されたデートプランである。



 「えっ……こんなに色々行かなきゃいけないんすか。」

 鬼渡は京子に渡された1枚の紙を見つめながら不満そうな顔で呟く。

 「そんなにたくさんないじゃん。ショッピングしてご飯食べて映画見て終わりだよ。あっ、支払いはこれ使って」

 「……はぁ」

 そう言って京子は鬼渡に今日のデートで使う徳を手渡す。



 「あ……あと、京鬼が家に行きたいとか言っても……ぜ、絶対に家に連れて行くんじゃないぞ? 」

 京子は鬼渡に念を押す。京鬼は自分に似て可愛い。そんな可愛い女が家に上がれば何か間違いが起きてもおかしくはない。京子はそう感じた。

 「いや、しないっすよ……めんどくさい。この内容終わったらさっさと解散しますって」




 「あと、あたしは朝から街中走り回って疲れたからちょっと京鬼の中で寝るから。ちゃんとあたしが渡した紙の通りにデートするんだぞ? いいな? …………じゃあ、京鬼になって来るから。ちょっと待ってて……」

 「え、どこ行くんすか。ここで変化すればいいじゃないっすか」

 「う、うるさいなぁ!! いきなりいたらおかしいでしょ!? 京鬼の理想のデートは男が1時間くらいずっと待ち合わせ場所で待ってるっていうやつなんだから」

 京鬼の憧れているデートは80年代の頃のデート。その頃のデートで女が男と同じタイミングでいることはありえない。男は女を待つもの、これが常識である。



 「はぁ…………めんどく」

 「めんどくない!! ダメだぞぉ、鬼渡。そんなんじゃ、京鬼に嫌われちゃうよ! 」 

 「いや、別にいいっすけど……むしろ嫌って欲しいっす」

 「……じゃあ、待ってて。京鬼になってくるから」

 京子は鬼渡の言葉を無視して、鬼渡に背を向け猛ダッシュで街を走りだし、数十m先の角を右へ曲がった。



 (あ~~、面倒だな~~……図書館行きてぇ~~)

 鬼渡が角を曲がった京子を見送り、気だるそうに空を眺めていると前方から大きな大きな声が聞こえて来る。




 「あはっ、烈っ火~~~~!!! お待たせっさね~~~~~!!! 」

 角の生えた赤髪の女。服装は桃色のトップスに黄緑色のワイドパンツ姿をした人物。京子が戻って来た。いや、今は餓鬼型の容姿であることから京鬼がやって来た。が、身体だけで言えば数十秒ぶりの再会である。



 「ご……ごめんさね。遅れたさね」

 「いや、全然待ってないけど」

 鬼渡はいつもの愛想のない態度で京鬼に言葉をぶつける。



 「あれ?? そっさね? まぁ、いいや。じゃあ今日はいっぱいいっぱい遊ぶっさね~~♪」

 そう言って京鬼は鬼渡の素っ気ない態度を気にすることもなく、鬼渡の目の前で元気よくくるくると回り始めた。

 「はぁ…………うぜぇ」



 こうして鬼渡は京子から渡された紙に書いてあったスケジュールで京鬼と強制的にデートをすることになるのだった。





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