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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
57/62

第57話 ねじる京鬼


 「ねぇねぇ。鬼渡、そしら」

 「ん? 何すか? 」

 「なぁに? 課長? 」



 2人は先に自分の読みたい本を持ってきてすでに席にいた。

 「日章如来って知ってる? 」

 「あ~、知ってますよ……」

 「この章を作ったって言われてるすごい人のことでしょ? 」

 2人はもくもくと本を読みながら京子の会話に付き合う。

 「じゃあ、その日章如来にっしょうにょらいに最初になったのが閻魔様だったっていうのは……知ってるかな? 」

 そんな京子の質問にそれまで話を軽く聞き流していた2人は視線を京子の顔に向け、本を読むのを止めた。

 「それ、どの情報っすか? そんなの聞いたことないっすけど……」

 「あたしも知らな~~い。ってか、日章如来にっしょうにょらい様って日章国にっしょうこくを治めてるすごく偉い人って言われてるんだよ? それが閻魔様だったって言われても……ねぇ」

 2人は京子の顔を疑いのまなざしで見ている。日章国にっしょうこくとはあかしにいる者たちが目指している場所。日章如来とはその日章国を治めている者。そんな立派な日章如来が目の前にいる人物の努めている役職と同じであったはずはない。そんな表情を浮かべている。



 「ほ、本当だってば!! ほらっ、この本に書いてあったんだから!! 」



 京子は疑いのまなざしを向ける部下2人に対し、持ってきた本のページを開き、そして見せた。



 「何すか……それ」

 「何って『最初の閻魔』って本だよ? これに書いてあったんだから……」

 「課長……そんな本読んでないでさ……もっと仏教の本を読もうよ」



 そんな京子の示した本に対して2人の反応は何故か冷ややかだった。



 「もうっ、そしらまで何言ってんの? あたしが持ってきたのはちゃんと『最初の閻魔』っていう話が書かれた仏教のほ……って何これ!? 」

 鬼渡とそしらの呆れたような表情を見て、ふと京子は自分の手にある本をもう一度見た。そして驚いた。そこには先ほどのような字ずらの並んだページではなく、代わりに



 【気になる彼と急接近!? 恋の魔法エービーシー!!】

 と書かれていた。



 「な、何これ……あたし、さっきまでちゃんと『最初の閻魔』って本を読んでたのに……」

 「寝ぼけてたんじゃないっすか? 」

 「課長ってそういうの興味あるんだね……」

 「ち、違うんだって!! さっきまで……ほんとに……あ、れ……急に……眠く、なって……」

 


 京子は必死に手に持っている恋愛系の雑誌を両手で身体の後ろに隠し、否定しようとした。が、そんな弁明の最中に京子は猛烈な睡魔に襲われた……そして。



 『……ポンッ!! 』

 京子の身体は煙に包まれ、その煙の中から勢いよく天に向かって2本の腕が伸びあがった。



 「あたいが読んでた本さね~~~!! 」

 「お、お前!! 」

 「え、な、何々!? 」



 煙の中から現れたのは赤髪に鋭い2本の歯、頭頂部には2本の角を持った人物……否、餓鬼の京鬼きょうきであった。そんな元気いっぱいで出てきた京鬼は目の前にいる鬼渡の顔を見てみるみるうちに満面の笑みを浮かべた。



 「お? ……あはっ!! 烈~~火っ、久しぶりっさね! 会いたかったっさね~~!! ……ふぐっ」

 「やめろ、近づくな……」

 「何でっさね~~、もう~~!! 烈火ぁ!! 」

 


 口を前に突き出し、迫って来る京鬼の顔を鬼渡は右手で押しのけた。そんなことを気にすることもなく、京鬼は必死に両手を前にぱたぱたと動かし、何とか鬼渡に触れようとしている。



 「えっ……な、何!? か、課長……ど、どうしちゃったの!? っていうか……課長……なの? 」

 そしらは突然現れたその京子によく似た人物を見つめ、不思議そうに首を左にかしげている。 

 「こいつは課長じゃない。こいつは課長が餓鬼だった頃の姿だ」

 そんなそしらに対し、鬼渡は京鬼を右手で抑えながら冷静に説明する。

 「きょ、京鬼!? ってか、課長って……餓鬼だったの!? 」 

 そんなそしらの声で今まで鬼渡に必死で向かおうとしていた京鬼がそしらの方に目を向けた。



 「か……可愛い~~~♪ 何これ!? いつもの課長とはちょっと違うね。髪の色はもちろんそうだけど、なんか子供っぽいっていうか……この頭の角なんかちょっと短くて可愛……いっいだたたたたた!! 」 

 「お前……誰さね……」

 「いだっ、いたたたたっ!! だ、誰って課長の部下のそしらだよ!! や、やめてったら……課長!! 」

 京子の餓鬼がき型の姿に興味津々のそしらは京子に生えた頭の角に触れようと手を伸ばした。が、京鬼はそんなそしらの右腕を左手で掴むとそれを地獄回りにねじり上げる。



 「あたいは京鬼。気安く触るんじゃないさね……」

 「きょ、京鬼!? いっ、いたたた!! 」

 「お、おい!! やめろ」

 鬼渡は慌ててそしらの腕をねじっている京鬼の左手を放させた。が、京鬼はそしらから目を離さない。その目は獲物を逃さない狩人のような鋭い目つきである。



 「いっつ~~……な、なんなの、もう~~……」

 「だから言ったろ? そいつは課長じゃないんだ。人格もな……」

 「えっ、じ、人格もって……そんなことあるわけ……いだたたた!! 」

 隙を見て京鬼は再びそしらの右腕をねじり上げる。

 「だから、やめろって!! 」

 再び鬼渡は左手を叩き、そしらの腕を解放し、2人の間に割って入る。



 京鬼はそしらと会うのは初めて。京子の中にいる時にも外部の音や声は聞こえているはずなのだが、普段から鬼渡にしか興味がない京鬼にとって今日までそしらの存在には気がついていなかったのであろう。いきなり目の前に現れ、鬼渡の隣に親しそうにいるそしらに敵意むき出しで腕をねじった。



 「……ねぇ、何? あれ……」

 「ったく、何度も何度も……ってあれ? いつものあの女じゃないな」

 「あの男を巡って痴話げんかでもしてんのか? ったく……」

 周囲から冷たい視線が浴びせられる。



 結局、京鬼になった京子が騒ぎを起こしたので3人は図書館から出ることにした。 






 ♦ ♦ ♦






 「へぇ~~、まさか課長が餓鬼だった頃の姿だったなんてねぇ。びっくりしちゃったよ。でもさぁ、変じゃない? 普通は前世って言ったって今の自分の前世なんだから人格は普通1つだよね? 」

 「知らねぇよ。課長の場合はあの餓鬼だけは別の人格として課長の中に存在してんだよ。ウザいんだよなぁ、あれ……結局、図書館も長居できなかったし……はぁ」



 そんな2人の会話を京子は黙って聞いている。京鬼の姿ではないので角はもうないが、先ほどまで角が生えていた自身の頭頂部を両手で抑え、頭を抱えている。しばらくして京子は餓鬼型の京鬼からいつもの人型の京子に戻っていた。



 「な、何かごめんね鬼渡……あたしのせいで図書館追い出されちゃって。そしらも腕だいじょう」

 「ひぃ!! 」

 「…………」



 先ほどの図書館での自身の中にいる京鬼がしでかしたことを鬼渡に説明されて知った京子は自分がねじったそしらの腕を心配し、そしらに近づいた。が、避けられてしまった。

 


 (あっ、ううっ……最悪だ。そしらに上司として良いところを見せようと思ってこの歓迎会を開いたのに……下着姿を見られた分の挽回どころかさらに恥ずかしいところを見られた……。しかも腕もねじってすごく怖がられてるし……もうっ!! 何で勝手に出てくるの、京鬼! )

 (あたい、悪くないっさね!! 京子が本棚の前で意識を失ったからあたいが代わりに身体を使ってただけさね。……で、ちょっと面白そうな本を読んでただけさね。恋の魔法エービーシー……はぁ、良いっさねぇ……)

 (はいはい、この本ね……)



 そう言って京子は京鬼が先ほどまで読んでいたという本を見つめる。結局、京鬼にお願いされて図書館で借りてきてしまっていた。京子が2人に見せたこの本は京鬼が読んでいたものだった。日々の疲れがたまっていた京子は本棚の前で一度意識を失い、その時に京鬼が身体を使っていた。そして意識を取り戻したが、2人の前で再び意識を失ってしまったのであった。どうやら相当に疲労がたまっているらしい。



 (あっ、そうだ。本だよ、本。あたしが意識を失ってあたしの身体になった時に持ってた本は? ねぇ、知らない? 最初の閻魔っていう本だったはずなんだけど)



 京子は先ほど本棚の前で立ち読みしていたはずの『最初の閻魔』という本のことを思い出し、その所在を尋ねた。もしかしたら自分が意識を失っていた時に京鬼があの本にすり替えたのかもしれないと思ったからだ。



 (知らないっさね。あたいが持ってたのはあの本だったさね)

 (そ、そっか……。あの本は一体どこに行っちゃったんだろう? 夢だったのかな? …………はぁ~~。。)



 結局、日々の仕事や自宅での変化の術の特訓などの無理がたたり、図書館で意識を失った京子は自身の別人格である京鬼によりそしらの腕をねじって怖がらせてしまっただけであった。……睡眠は大事。





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