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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
55/62

第55話 超人気アイドル、アンバパーリー


 「まだかなぁ~~」

 「楽しみぃ」

 『ワイワイ……』

 『ガヤガヤ』



 「う……うわぁ、人がいっぱい……」

 「そりゃ超人気アイドル歌手だからね! 」



 アンバパーリーのライブが開催される西の広場へ着いた京子たちはすでに広場を埋め尽くすほどに集まっていた群衆の後ろに付く。目の前にはよくある屋外式のライブ用の壇上が見える。そんな京子たちの後ろからも続々と群衆が集まり、来た道が塞がった。

 そんな会場の上空にはたくさんの虫や鳥たちが飛んでいる。不思議な現象であると普通なら思う。が、京子は章に来て一か月。その上空の虫や鳥たちの正体が変化の術で変化した者たちであることを理解していた。



 (あたしも飛ぼうかなぁ……興味ないし。でもなぁ、1人だけ勝手な行動するのも……しかも途中で変化の術が解けて落ちたら悲惨だしなぁ……)



 そしらに連れられて来ただけの京子はいつ始まるかもわからぬこの密集した場所から変化の術で上空へ避難しようかとも思ったが、ライブが何時間続くかも分からぬ中、変化し続けていられる自信はなかった。何より、今日はせっかく鬼渡とそしらの2人と中を深めるための祭り。京子は2人と共にアンバパーリーが来るのを群衆の中で待ち続けた。






 ♦  ♦  ♦






 待つこと30分程。周囲に流れていたBGMが無くなり、目の前のステージ上に煙が立ち込め始める。



 「きゃ~~~、パーリー!! 」

 「すげぇ……本物だぁ……」



 「えっ……ど、どこ? どこ? 」



 京子は周囲の観客たちが歓声を上げた。が、ステージ上には人影一つ見えない。必死に群衆が見ている先を探す京子。その時、京子は気がついた周囲の視線がステージの頭上にあることに……

 慌ててその視線の先を見るとそこには大量の鳥がこちらへ向かって羽ばたいてきていた。



 「あれって……もしかして……」



 京子がその鳥の群れを見つめていると鳥たちがステージに向かって急降下してきた。そしてその鳥たちがステージに到着するとともに、先ほどまでもうもうと噴出していたステージ上の煙がさらに量を増す。

 そしてそのステージ上の煙が立ち込めること30秒、ようやく煙が消え始めたステージ上に大量の人影が見えた。



 「みんな~~~! お待たせ~~~~!!! 」



 「きゃ~~~、パーリー!! 」

 「待ってたよ~~!! 」

 

 

 「えっ……あ、あの人があ、アンバパーリーなの? 」



 京子は煙の中から現れた大量の人々の中で1人大きな声で叫んだ女を見る。

 黄色の光沢のあるきらびやかなハーレムパンツにそれを覆うように上から透けた薄桃色の布を纏っている。上半身も同様で黄色の光沢のある衣装が胸部を包んでいる。そして女の額には大きな宝石のような装飾品がかけられていた。それはどことなくおとぎ話に登場する踊り子のような衣装である。



 「うっわぁ……すっごい綺麗…………」



 「アンバパーリーだよ~~!! 今日はみんなぁ……楽しもう~~~~!!! 」

 「いえぇえええええ!! 」

 「きゃああああああ!! 」

 「それでは聴いてください……輪廻……転生!! みんないくよ~~~!! 」



 そんなこの世のものとは思えぬほどの絶世の美女に京子はみとれている中、周囲の盛り上がりも最高潮となり、ライブは始まった。



 『テテテ、テンテケテンテンテン、テンテン!! 』

 リズミカルな曲と共にアンバパーリーの周囲の人物たちが力強く、くるくると踊り出す。どうやら彼女たちはバックダンサーだったようである。





 「り~んね~~は~~~めぐ~る~~、ぐ~るぐ~~るめぐ~~る~~! そんなりんねをげだつし~~ほ~~と~けを~~~っめ~ざすぅ~~~~!! ……はいっ!! 」



 「てんに、にんげん、ちくしょうどう~~!! しゅらにが~~きにじ~~ごく~~! くるくるめぐって、しょうじんだぁ! そ~こから~~っげ~~だつ~~~!! みんないくよぉ!! 」



 「くるくるくるくるまわ~~る~~」

 「くるくるくるくるま~~わる~~」



 (う……うわぁ。なんか……ヘビメタのライブっぽい……)


 

 歌の感じからして決してヘビーメタルのようなデスボイスが響いていたわけではないのだが、周囲の観客たちの一心不乱に首をひたすら時計回りに地獄回りにとくるくるくるくる回すその様子を見て京子は若干引いていた。





 「……それっ!! くるくるりんねをまわって~~~っ! ほ~~と~~けを~~~っ! め~ざす~~~~~!! …………みんなぁ! ありがと~~~!! 」



 「きゃあああ!! パーリー!!!!! 」

 「最高~~~!! 」





 「え~~、それでは続いての曲は……これだぁ~~!! 聴いてください……カカバ地獄!! 」



 「あっ……あたしの知ってる地獄だ」





 『ドゥッドゥッ、ババン!! ドゥッドゥッ、バ、バ、バン!!! 』

 先ほどまでのリズミカルな曲とは打って変わって今度は曲名に似つかわしいおどろおどろしい曲が流れ始める。バックダンサーたちの動きもまるで地獄で苦しむ罪人たちのように地面を這う動きや、苦しみに満ちた表情を見せ始める。その様子はバックダンサーの域を超えてもはや演劇のようでもあった。



 「え~んま~~は~~さば~~く~~、ようしゃは~~しないぜ~~!! お~ま~え~~は~~カカ~~バ~~じ~ご~く~~いき~~……」

 


 (んっ……おお!! な、何か……いい歌かも……)

 曲名に親近感を覚えた京子はアンバパーリーの歌うカカバ地獄を身体を躍らせながらのりのりで聴いた。






 ♦  ♦  ♦






 「みんなぁ!! あ~りがと~~!! また来るね~~~!!! 」



 「きゃーー! こっち、こっち向いて~、パーリー!! 」

 「パーリー最高~~~!! 」



 「きゃ~~~!! パーリー!! またねー!! 」



 アンバパーリーのワンマンライブは1時間ほど続き、最後の頃には周囲の盛り上がりに負けない程に楽しみ大いに興奮した京子は大きな歓声で再び鳥に変化し、舞台から飛び去って行くアンバパーリーを見送った。そのあまりに興奮した様子を隣にいた2人の部下に若干引き気味に見られていたことなど知る由もなかった。



 ライブをたっぷり堪能したあと、先ほどまで混雑していたライブ会場の西広場からはほとんど群衆が去っていた。



 「……はぁ~~、楽しかったね。あたしパーリーの歌気にいっちゃった! CDとか買おうかな? 」



 アンバパーリーの歌は【輪廻転生】や【カカバ地獄】、【自業自得】など仏教に関する曲名ばかりであったが、その曲のどれもが自分を奮い立たせてくれるような曲や悪人を叩きのめす勧善懲悪的な曲であった。そうした曲であるがゆえにアンバパーリーはこの章で絶大な人気を持つアイドルなのであろう。



 「あっ、じゃあ今度あたしが持ってるCD貸してあげるよ、課長」

 「えっ、本当に? ありがとう~~!! ……っあ。。」



 そしらと楽しそうに話している時に京子は気がついた。鬼渡がいつもよりもさらに退屈そうな顔になっていることに。



 (し、しまった……すっかりあたしが楽しんじゃってた……。ダメダメ!! 今日は2人と仲良くなるため、あたしの威厳を取り戻すためのお祭りなんだから。鬼渡にも楽しんでもらわなくちゃ……) 



 冷静さを取り戻した京子はにこやかに鬼渡に近づき、尋ねる。



 「じゃあ次は~~、鬼渡が行きたいとこに行こうか。鬼渡はどこに行きたいのかな~~? 」

 「いや、俺は特に……ないっす」

 「いやいや、『ないっす』って……なんかあるでしょ! せっかくの楽しいお祭りだよ? ね、何かない? 」

 京子が必死に鬼渡に行きたい場所を尋ねると鬼渡がぼそりと呟く。



 「……じゃあ、図書館行きたいっす」

 「と、図書館って……いつもと同じじゃん! 鬼渡は本当に図書館好きだよねぇ」

 「あっ、良いねぇ図書館! やっぱり花まつりと言ったら図書館で仏教書を読むのははずせないよねぇ。さっすが鬼っち係長だよ!! 」

 「誰が鬼っちだ……」

 「あれ? ……もしかして図書館って結構定番のコースなの? 」

 いつもと同じ図書館という行き先に呆れた京子であったが、どうやら図書館は花まつりでは良く行く場所らしい。花まつりとは本来、釈尊の誕生を祝う日である。そうであればその日に図書館へ行き、仏教の本を読み仏教への理解を深めるということは別におかしなことではないのである。






 ♦  ♦  ♦






 「うわっ、すっごい混んでる……」

 


 図書館に着くと普段の休日より3倍ほど混雑していた。図書館の前には広い芝生があるのだが、今日は寝転びながら読書にふける者たちがその芝生の上を占拠していた。





 「えっ! そんなに読むの!? 」



 京子が仏教の薄い本を頑張って3冊探して席に戻って来ると、鬼渡が分厚い本を20冊も持って席に戻って来ていた。



 「はい、せっかくの花まつりですし、普段は読めない本なんかも読めたりするんすよ……」

 「そ、そうなんだ……で、でもその量はさすがに無理なんじゃないかな? 」

 「それくらい普通っしょ!! 」



 『……ドンッ!!! 』

 


 「えっ……ええ!? 」

 


 京子が鬼渡の持ってきた高く積みあがる本の山を見ていると、その机がドスンと大きく揺れた。その揺れの方向に目を向けると今見ていた本の山よりもさらに積みあがった本の山がそこにはあった。



 「ちょ!! そんなに読めるの!? 」

 「大丈夫大丈夫!! あたし読むの早いし。さっ、課長も席に座って読書しよ!! 」

 「う、うん……」



 一列になって黙々と読書を始める3人。一番右で一人だけ薄っぺらい本を読んでいる京子は左隣で分厚い本を読むそしらと鬼渡をちらちらと見る。



 (うわぁ……どんどん読んでるよぉ…………。あたしもこれ読み終わったらもうちょっと分厚いのもってこよ……)

 そんなことを考えながらもくもくと読書をする京子の耳に不思議な音が聞こえて来た。



 ≪……じゃない? ≫

 ≪まぁ、…………だな≫



 (ん? ……何だろう? 何か音が聞こえるような、今のは……声? )



 ≪でもさぁ、課長って結構胸あったよねぇ……意外だったよ≫

 ≪いや、俺は別に興味ねぇしそんなに見てなかったから知らねぇよ≫



 (や、やっぱり聞こえる!! )



 京子はその音がそしらと鬼渡の声であることに気がつき、再び2人の方に目を向けた。が、二人の口元は動いておらず、その視線は手元の本に注がれていた。



 (…………気のせい、かな。。)

 京子は今聞こえた声を幻聴であることを疑った。ここ最近、家で変化の術を練習したり、図書館で借りている本を夜遅くまで読んでいたことによる疲れが幻聴の原因であると。そう思い、自身も再び手元の本を読み直そうと思ったその時、



 ≪それにしても課長ってなんで課長何だろうね? あたしや鬼っちよりも九品のランクも低いし、でも眼は開眼してるし……よく分かんないよね。あのカブトムシ≫

 ≪おいっ、止めとけ……。課長だって今は中品下生でもいつ中品中生になって『念』が使えるようになるか分かんねぇんだから、あんまりこうやって『念』を使って悪口言ってるとそのうち痛い目見るぞ……≫

 ≪え~~、悪口なんか言ってないよぉ。いいじゃん!! どうせ聞こえないっしょ……カブトムシっ、カブトムシ!! あたしの上司は~~メスのカブトムシ~~~♪ ≫



 (や、やっぱり聞こえる!! は、はっきり聞こえる……)

 今度ははっきりと聞こえた。そしらがそしっているのが。



 (も、もしかして……これが『念』による会話ってやつ!? ってことはあたし……中品中生にランクアップしたの!? や、やった……けど……)

 素直に喜べなかった。今、京子は『念』によってそしられている。このまま放っておけば周囲で読書をしている『念』が使える者たちの耳にも届いて迷惑になる。というよりもそれ以上に謗られ続けて呑気に読書などできるはずがなかった。



 「んっ、んん!! 」

 京子はそれとなく咳ばらいをし、隣にいるそしらへアピールした。



 ≪カブトムシっ、カブトムシ!! メスのカブトムシ~~~♪ ≫

 が、そしらは相変わらず黙々と読書している視線で楽しそうな声ではしゃいでいる。



 『ドンッ!! 』

 京子は気がつきそうにないそしらの様子を見て、左手で作った拳を机に振り下ろした。その音に身体をブルっと震わせたそしらと鬼渡は京子の顔を見る。



 「そしらちゃん? 図書館では静かにしないといけないよ? ……ね? 」

 「あっ、か、課長……もしかして……『念』……使えるように……なったんすか? 」

 「……うん。なんか……そうみたいだね。。」

 勘の良い鬼渡は京子が『念』が使えるようになったことをいち早く察知した。その様子を2人の間に挟まれて見ていた当事者のそしらは気まずそうに京子の顔を見てにこやかに笑った。


 

 「あっ……と……。す、すご~~い。流石は閻魔様~~、あ、あたしの自慢の上司~~……」

 「嘘つけ~~~!! さっきメスのカブトムシ呼ばわりしとったじゃろ~~!! 」

 「ご、ごめんなさい~~!! 」



 「……ねぇ、何あれ? 」

 「うわっ、またあの女か……ったく」

 「あの人この前、餓鬼型になってはしゃいでたよね」

 「マジかよ……やべぇ奴だな」

 事情があったとはいえ、図書館で再び大声を出し、またも周囲からの冷たい視線を浴びせられる京子なのであった。 



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