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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
52/62

第52話 頼れるお友達


 「く……くぅう。そ、そんなぁ……だいたいあたしは何にも悪い事してないんだったらぁ……」

 「か、課長! だ、大丈夫だよ……お、鬼っちがすぐに部長を呼んできてくれるって!! 」

 四肢を強く拘束され、動かせないまま地獄課から連れ出され、地獄のある方向へ進んでいる京子は手足の動きを大人しくし、だらりと全身の力が抜く。天井が視界に見える中でそしらの声が足元の方から聞こえる。そんななす術なく天井を見上げ続けている京子の元に上月が近寄って来た。



 「……何も悪い事はしてない? 」

 上月の手にはそう言って手に持っている紙を京子の顔の前に差し出す。

 「そ、それは? 」

 「日下京子の査察調書。罪状、大学のあの講義で代返を1回依頼。自販機の釣銭の10円玉を搾取……」

 「えっ、な、何でそれを!? 」

 その紙には京子が生前に行った悪事が書かれていた。悪事という程の内容であるかどうかは個人差はあろうが、京子自身が死んだ際に気にかけていた内容である。



 「夜咫烏やたからすはすべてを看てる。私たち現査察うつつささつ課が見ていなくても。烏がいつも代わりに看てる。そしてあんたの一番の罪は……これ。省庁で勤務していた時、自分が調べたデータを議会で説明が通るように都合の良い資料に作り替えた罪。これは国家の国益を損ねる重大な罪……だからあんたは地獄行き」



 「そ……それは…………」

 上月の言うことは間違ってはいなかった。京子は上司からの指示とは言え、議会説明が通りやすいように資料を作り直した。決して虚偽の資料ではなかったが、議会で上手く説明がつくような資料に作り直した。それに関しては弁明の余地はなかった。

 「………………」

 「だから、あんたは地獄行き……日下京子は地獄行き」

 まるで機械のように感情のない言葉で京子の罪を説明する女。




 

 「ま、待って!! た、確かにそれはダメなことだったって自分でも思う。ごめんなさい。で、でも今あたしはこの地獄を何とかしたい!! 罪人が正しく裁かれる地獄を作るんだから!! だから……は、離してっ……んっ、離せ~~~!! 」

 が、京子とてそんな生前の自分の行いを悔い、今日までこの章で閻魔として気持ちを新たに働いて来た。大人しく【はい分かりました】と諦めるわけにはいかない。今の地獄の罪人たちを裁くのは自分しかいない。そんな自信だけは人一倍の女は再び手足をぱたぱたと動かし抵抗を始める。

 そうこうしているうちに京子は拘束されたまま天空省から地獄へ行く出入口まで来ていた。



 「それは次の地獄課長が……閻魔がすること。罪人のあんたが気にすることじゃない。罪人のあんたは裁かれる側……あんたは罪人、あんたは地獄行き。おいっ、罪人に閻魔の赤服は必要ない……脱がせてここから地獄に放り投げろ」

 だが、そんな罪人の弁明など意に介さずというように部下に命令を続ける上月。当然と言えば当然である。罪を犯して謝って済むなら警察は、現査察うつつささつ課は要らない。上月たちの仕事の意味がなくなる。

 「はいっ。それじゃあ、今まで地獄課長の業務お疲れ様っした! よいしょっと……」

 上月に命じられた雷来ルイコは京子の赤服の肩に手をかけ、上へ上へとずらし始めた。他の人々も京子の赤服の裾に手をかけ、その服をめくり上げ始める。



 「や、やめて!! やめてったらぁ~~!! こ、これ脱いだらあ、あたし下着姿になっちゃうったら~~!! や、やだ……やめてったら!! 」

 閻魔の赤服を脱がせようとしてくる手を必死に身体をくねらせながら抵抗する。

 「か、課長ぅ。……う、うわぁ……ど、どうしよう」

 その状況をなす術なく、見守り続けるしかないそしら。



 「そんなの私に関係ない……あんたが地獄でどうなろうと……私には関係ない。罪人は罪人らしく地獄で生き抜けばいい……。下着で地獄に行こうと、裸で地獄に行こうと……私には関係ない。こんな罪人が閻魔になれて……なんで私は」

 (…………ん? 何だろう? この人、今一瞬……)

 必死に身体をくねらせ脱衣に抵抗しながら見つめていたたいそう不機嫌そうな上月の表情が一瞬悲しそうな表情に変わった気がした。



 「……はぁ、はぁ……か、課長!! あの、部長なんすけど……か、会議に出てて……って、あっ……」

 「わっ、お、鬼渡!? ば、バカ!! み、見るなっ、み、見ないでったら!! 」

 絶体絶命の状態のタイミングで戻って来た鬼渡が視界に見える。普段なら頼れる部下であるが、現査察課に対しては何もできない今の鬼渡は自身のはだけつつある身体の立会人の1人にしかならない。そんな状況を見た鬼渡は慌ててて身体をくねらせている京子に背を向けた。

 「す、すみません!! あの……部長は会議に出席中で……不在でした」

 「そ、そんなぁ……っあ!! ちょっ、ちょっと!! 脱がさないでよ……へ、変態!! ば、バカ~~~!! 」

 この絶望的な状況から逃れる唯一の希望も消え、京子はなおも執拗に服をはぎ取ろうとする雷来ルイコらに抵抗を続ける。と、雷来ルイコや他の足元を掴んでいる職員の手が止まった。



 (あれ? ……止まった? )



 「お前、何してる? 早くやれ……」

 その様子に上月はたいそう不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にし、再度部下の雷来ルイコに命令する。

 「い、いやぁ……よく考えたらこの人、女性ですし……俺らが脱がすのはちょっと……まずいかなぁと今更思いまして……」

 雷来ルイコのその言葉を聞き、京子が周囲を確認すると現査察課の職員の内、男性陣の手が止まっていた。おそらくは先ほどの鬼渡に対しての京子の言葉で自分たちの今している行為を改めて考えたのだろう。



 (よ……良かったぁ。これでしばらく時間が稼げる)



 京子は心の中で安堵し、手足や身体のくねらせを止めた。が、そんな期待はたいそう不機嫌そうな女によって打ち砕かれた。



 「……どけ」



 「え? おっ、おわぁ!! い、いやぁああああ!! ちょ、ちょっと、ちょっとぉ!!」



 上月は雷来ルイコが持っていた京子の脱がされかけの赤服を両手に取るとそのまま後ろに5歩ほど下がり、一気に服をはいだ。

 「い、いやぁあああ!! か、返して!! か、返せ~~~!! 」

 首を大きくのけぞらせ、視界に見える赤服を手に持った上月を睨む。



 「さっさと放り投げろ……」

 そんな京子の睨みの表情も見ることなく、上月は地獄の方角を見続けている。視線を上月から外し、周囲の状況を確認するといつの間にか手足を拘束している職員が全員女性に交代していることに気がついた。その職員たちによって身体を振り子のように前後にグラングランと徐々に大きく振られ始めた。



 「あっ……ううっ…や、やめて!! やめてよう!! 」

 だが、京子の必死の懇願に対し、上月のように一切の表情の変化も見せずに身体を振り続ける。どのタイミングで地獄へ放り込まれても不思議ではないほどの振れ幅になった時、京子は気がついた。頼りにできるもう1人の存在に。 

 


 

 


 「そ、そうだ!! 吹姫ふぶきさん……じゃない……ゆ、雪宮さん、雪宮さんを呼んでくれぇ!! 」

 「…………吹姫ふぶき? 何であんたが吹姫ふぶきを知っている……」

 「ふ、吹姫ふぶきさんは……と、友達じゃあ!! こ、ここにだってふ、吹姫ふぶきさんに連れてこられたんだからねっ!! 」

 上月が言葉を発した。それも雪宮という言葉ではなく、吹姫という雪宮の下の名を。京子はチャンスと思い、必死に吹姫との仲の良さをアピールした。



 「…………分かった、確認しよう。おいっ、止めろ」

 すると、先ほどまで大きく振り子のように揺れていた身体が徐々に振れ幅を小さくし、やがて静止した。

 「は、はぁ……た、助かったぁ…………」



 京子は幸運であった。

 縦割りの悪習が未だに根強い現の行政。そんな縦の関係に囚われず、調査省の吹姫と親密な関係を築いていた京子は図らずも、あれ程表情一つ変えることなくたいそう不機嫌な顔をしていた上月の行動を止めることに成功した。




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