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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
49/62

第49話 守りは戦の肝心要! 上品スキル、緑断側!!


 「ふんふんふ~~ん♪ 楽しみだなぁ。ねぇねぇ、地獄の門ってどんな感じ? ねぇねぇ、課長~~? 」

 ツバメに変化したそしらは2匹のカブトムシの間をひゅんひゅんと飛び回る。



 (おわっ!! ちょっと……話しかけないで!! 近くを飛ばないでよ!! )

 カブトムシになった京子は周囲を飛ぶツバメに怒る。が、喋ることはできない。カブトムシであった前世を思い出してから京子は自宅での特訓を経て、だいぶ長い時間カブトムシの状態でいられるようになっていた。

 しかし、畜生型の身体で会話をすると変化への集中がおろそかになり、変化が解ける。




 罪人たちに気がつかれないように飛行している現在の位置は地面から30mほど上空。ここで変化が解ければ、地獄の硬い地面へ身体が叩きつけられることになる。そのため京子は周囲を元気に飛び回るうざいツバメを無視しながら下層の地獄の門を目指した。





 「でも、課長と鬼っちが前世でカブトムシだったなんて……ふふっ、ふふふ……おもしろ~~い!! ……あっ、もしかしてつがいだったんじゃない? あははっ!! 」

 (あっ……ちょっと!! )

 周囲で飛び回るそしらがそんな言葉を放った途端、前方を飛んでいたもう1匹のカブトムシがツバメに向かって引き返してきた。

 


 (…………はっ!! )

 ツバメとカブトムシの間に慌てて割って入るメスのカブトムシ。ここは地表から30mの高さ。こんな場所で争って変化が解ければ大惨事である。メスのカブトムシが割って入ったことによりオスのカブトムシは何とか目的の方向へ向きを戻し、飛んで行った。 



 (……はぁ…………疲れる。。)

 『ひゅん、ひゅん!! 』

 無礼なツバメに手を焼きながら、メスのカブトムシは再び集中して飛行を続けた。






 ♦  ♦  ♦






 何とか変化が解けることなく、京子たちは地獄の門のある地下14階へ到達した。幸いなことに地獄の門の周辺には罪人たちの姿はなかった。3000万人ほどの罪人がいる地獄ではあるが、その広さはとてつもない。

 1羽のツバメと2匹のカブトムシは変化を解き、地獄の門の前に立った。


 

 「うわ~~~!! 何これ!? すっごく大きいね~~」

 そしらは目の前にある巨大な建造物を見て驚いている。地獄の門である。初めて地獄の門を見た者は誰しもその大きさに驚きの声をあげるほどにその門は大きい。




 「よしっ!! …………ふんっ!! うううぅう~~~~!! 」

 地獄の門を前にし、何を思ったのであろうか。そしらは突然扉に両手を付け、そして押し始めた。

 「んっ……ぐぐっ…………ダメかぁ。。 開かないや……」

 どうやら門の開門を試みたらしい。が、高さ20mほどもある門はびくともしない。




 「うふふっ~~、地獄の業火がないと開かないって言ったのに……意外とあの子バカなんだねぇ、鬼渡ぃ♪ 」

 「えっ……あ、まぁ……そっすね……」

 このひと月近くで色々なことがありすぎてここへ初めて来たときの自分の行動を忘れてしまったのか、京子は目の前で扉を必死に押すそしらを微笑ましく眺めている。



 「……で、課長はどうなんすか? 地獄の業火は眼に灯せそうっすか? 」

 地獄の業火。目の前にある地獄の門を開けるために必要な閻魔である者が眼に灯すことができるという業火である。 

 「…………え? あっと……どうかな……はっ!! 」

 鬼渡に尋ねられ、京子は自らの変化した左眼に力を込めた。



 

 「…………う~~ん。。ダメみたい……」

 「そうっすか……。まぁ、まだ中品下生っすからね。そりゃそうっすよね……」

 「……ふんっ!! 」

 「いてっ!! 」

 京子は鬼渡の左肩を力いっぱい叩いた。 

 ここへ来たのは約一月前。桃次郎の恐怖を味わったあの日以来である。が、京子はまだ左眼に目的の業火を灯すことはなかった。




 「う~~ん……ダメかぁ。。 まぁ、地獄の門も見れたし、きっとこの先にはあそこに書かれてた地獄があるんだろうし……よしっ、頑張ろうっ!! 」

 そしらもしばらくの間、何度か扉の開門を試みていたが、微動だにしない門に諦めがついたようである。地獄の門の存在もその目で確認でき、満足した様子である。

 3人は再び変化の術を使い、罪人の目に付かないように地獄の門を後にした。






 ♦  ♦  ♦






 地下12階。先ほどの地獄の門のある地下14階でカブトムシに変化してから30分程度経つ。相変わらず周囲をびゅんびゅんと飛び回るツバメ。





 (いいなぁ……ツバメ。。)

 京子はカブトムシの姿で目の前を優雅に飛び回わるツバメを羨む。

 (だいたいさぁ、何であんなに可愛い子が前世まであんな可愛い生物な訳!? おかしいよね? ……しかも、イルカにまでなれるみたいだし……。あぁ~~羨ましい、羨ましい、羨ましい~~~!!! )

 目の前の可愛いツバメになったそしらを見て、ただひたすらに羨ましいと思う京子。そんな羨ましいという気持ちが高まったが故に悲劇は起きた。




 『……ポンッ!! 』




 「…………あれ? 」 

 1匹のメスのカブトムシは煙に包まれ、そして赤服の女が現れた。人型の京子である。羨む気持ちが行き過ぎたあまり、変化への集中がおろそかになり、変化が解けた。地面から約30mの高さ、羽のない身体。これの意味することはただ一つ。

 自由落下である。





 「いやぁああああああああああ!!! 鬼渡ぃいいいい!! 」

 京子は必死に落下する身体から声を振り絞り、鬼渡に助けを求める。が、鬼渡はさっさと京子やそしらから数十m先を飛んでいってしまっていたため京子の落下に気がつくのが遅れた。

 



 「きょ、京鬼ぃいいいいいい!! 」

 (…………)

 鬼渡の助けがなければ身体は硬い岩盤に叩きつけられる。落下の中、京子は京鬼への変化を試みた。餓鬼型である京鬼の身体であればたかだか30m程度からの落下など意に介さずであろう。が、カブトムシの変化が解け、極限の状態である現状では京鬼への変化も起こらなかった。

 なにより何の反応もないことから察するにどうやらお昼寝タイムのようである。




 「いやぁあああああ!!! 落ちる!! ぶつかるぅぅううう!! 」

 「あたしに任せて、課長!! 」

 30mの高さから落下し、取り乱しまくる京子の元へ駆け寄るツバメ。幸いにも周囲をちょろちょろしていたツバメは京子の落下にいち早く気がついた。


 


 「はっ!! 」

 そしらは変化を解き、京子のあとに続いて落下を始める。だが、京子の救出は鬼渡の方が適任であったろう。





 「なんや? 騒がしい。……おお!? おいっ、女や! 女が落ちてくるで!! 」



 「おおっ、本当だ……女だ」



 「おいっ、女が2人落ちてくるぞ~~~!! しかも1人は金髪の姉ちゃんだ!! 」



 京子の絶叫により、地表にいた罪人たちが上空の京子に気がつく。そしてその上にいるそしら。赤と青の和服は目立ちすぎた。上空の2人の存在はあっという間に下にいる罪人たちに伝わり、2人の落下地点に向かって群がってきている。

 が、絶体絶命の状況である京子にそんなことを気にする余裕はない。



 「いやぁあああああ!!! 」

 「……緑断側りょくだんそく!! 」

 落下する京子が向かっている地面に向かってそしらは両手を突き出す。そしらが叫ぶと、落下する京子の真下の地面に何かが出現した。




 「えっ? ……何……あれは。。……家?? 」

 真下に現れたのは典型的な木造の昔ながらの日本の家。そして、その先には池や石、生い茂る木々が出現していた。

 「あれは……庭園?? 」

 京子が見たのは大きな池に周囲を囲む木々。それは日本庭園のような形をしている。



 「うおぉ!! 何やこりゃあ!! 」



 「つ……冷てぇ」



 京子の元へ群がって来ていた罪人たちがその出現した庭園の池にはまり、足を取られている。

 「はぇ~~……すごい。。」

 下で起こっている何とも不思議な現象をただただ上から見下ろす京子。




 「で、でも。…………い、意味ない~~~~!! 」

 そう。意味がない。いかに罪人たちが池にはまって足をとられていようと京子が落下する先に待っているのは硬そうな木の縁側。岩盤よりはましかもしれないが、叩きつけられれば大ダメージである。



 「いやぁあああ! ぶつかるぅぅううう!!!! 」

 そう思った瞬間、京子の身体はふわりと何かの力で浮き上がり、そしてゆっくりと家の軒先にある縁側に腰かけた。

 「…………あれ? あたし……無事?? 」

 呑気に縁側に腰かけくつろいでいる姿の京子。先ほどまでの絶叫が嘘のように優雅な姿である。 

 「……よっと!! 」

 何が起こったのか理解できていない京子。気がつくと隣に上から京子を追って落ちて来たそしらが同様にふわりと縁側に腰かけていた。呑気に縁側に腰かける2人がそこにはいた。




 「くそっ、何やこの池やぁ!! 」 



 「へへっ……女……女……」



 が、横のそしらを気にしている場合ではない。目の前の庭園の池にはまっていた罪人たちが次々と池からあがり、こちらへ向かってくる。




 「おわっ!! は、早くに……逃げなきゃ……ってうわっ!! な、何すんの!? 」

 「まぁまぁ、ゆっくりしようよ」

 逃げようと縁側から立ち上がり逃げようとする京子を押さえつけ、縁側に腰かけさせ続けるそしら。



 「ちょ、ちょっと!! 罪人が来てるんだから早く逃げないと……は~~~な~~~せ~~~~~~~!! 」

 「まぁまぁ、大丈夫だって課長……ほらっ」

 「……え?? 」

 結果的に縁側に腰をかけてそしらと呑気に庭園を眺めていると、突然周囲に土埃が立ち込め始めた。



 「え?? な、何……何!? 」

 土埃の先、庭園が小さくなっている。いや、そうではない。縁側と庭園の距離が離れていっていた。そして、その間にある大地は大きく裂けていた。

 「えっ……い、家が……動いてる!? 」

 下から伝わって来る振動で京子は気がついた。庭園が小さくなっていたのは庭園が動いていたわけではない。今、腰かけている縁側……いや、家が動いているということに。




 「うわぁ!! 」



 「ぎゃあああああ!! 」



 一部の罪人たちはその裂け目に落下してゆく。




 「あ……ああ…………」

 叫び声をあげながら裂け目に落下してゆく罪人たち。その様子を京子は呑気に縁側に腰かけて眺めている。

 「課長……課長。ほらっ、あそこ」

 目の前の光景に唖然としている京子の肩を叩くそしら。そしらは次第に小さくなってゆく庭園を指さしている。その指の先を見て京子はまたもその光景に驚いた。

 なんと庭園の上に穴が出現し、そのから先ほど裂け目に落ちていったはずの罪人たちが現れた。



 『ザッパアン!! 』



 『バシャアン!! 』



 その罪人たちは再び池の中へ落ちてゆく。




 「えっ、何……これ。。夢?? 」

 目の前の信じられない光景にただただ驚く。と、その時、先ほどまで立ち込めていた土埃がなくなった。




 「あっ……止まっちゃった。。走るよ!! 課長」

 横に座っているそしらが呟く。どうやら一連の奇妙な現象が終わったようである。 

 「え? あ……うん」

 そしらに促され縁側から立ち上がり、罪人たちの見える庭園の反対側である家の方を振り向く……が。

 「あれ……ない」

 先ほどまで存在していたはずの縁側はおろか家すら綺麗に消えていた。不思議に思った京子は反対側にある庭園を確認する。が、そちらにあったはずの庭園も何故か綺麗に消え去っており、はるか遠くに先ほど池に落ちた罪人たちがこちらへ向かってきているのが見えるだけであった。




 (さっき見てたのは、夢……だったのかな? )

 「ほらっ、課長!! 早く早く!! 逃げなきゃ!! 」

 「え? あっ……うん」

 京子が不思議に首をかしげている間にも罪人たちとの距離が徐々に縮まる。そしらは京子の手を引き、罪人たちから逃げてゆく。


 



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