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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
48/62

第48話 そしらの前世はなんでしょう?


 5分程度の現実逃避を終え、2人はそしらのいる部屋に戻った。



 「ご、ごめんね……あ、空谷さん……席外しちゃって」

 「……そしらでいいよ? 空谷だとお姉ちゃんとかぶるし……それにあんまり空谷って呼ぶの嫌なんじゃない? ……仲悪いんでしょ、お姉ちゃんと」

 そしらは京子たちがいない間も一応は手元にあるファイルを確認してくれていたらしい。つまらなさそうな表情で京子の顔をちらりと確認すると再び、視線を手元に落とした。どうやら姉と京子の仲の悪さは知っているようだ。




 「あっ……うん。そっか……ありがとね」(……まぁ、その感じだと『そしら』呼びも同じ運命を辿りそうだけどね……)

 そしらに言われるがままの京子とそんな京子を鬼渡は横目で苦々しく見ている。

   

 

 「……そうだ!! 」

 そんな2人を気にすることもなく、そしらは急に何かを思ったのか、席から勢いよく立ち上がり、2人を見る。



 「じゃあさ、地獄の門を見せてよ!! 地獄は開いてなくても、門なら見られるでしょ? あたし、地獄の門見てみたい!! 」

 そしらは京子に地獄の門の拝観を希望した。


 

 「えっ……で、でもなぁ……。。」

 そしらの希望に対し、京子は浮かない顔をして隣の鬼渡の方を見た。

 「ん? ……あれ、もしかして見せられない? ひょっとして……地獄の門なんて

ないんじゃあ……」

 「そ、そんなことないったら!! ちゃんとあるよ! ……けどさぁ、桃次郎がなぁ。。」

 「桃次郎? 」

 京子の言葉にそしらは右に首を少しかしげている。その様子からしてそしらはどうやら地獄にのさばっている桃次郎のことは知らないようである。

 


 「あれ? もしかして知らなかった? ……地獄にはねぇ、すっご~~~~~くすっご~~~~~くヤバい桃次郎って奴がいるんだよ? ……見つかったらどうなっちゃうか分かんないよ~~~? 」

 京子は意地の悪い顔をしながら桃次郎の存在を大きくアピールする。

 「……そ、そうなんだ。。」

 その話を聞いた途端、そしらは急にトーンダウンしてうつむいてしまった。




 (お? ……もしかしてちょっとビビってる? うんうん、まぁそうだよね! あたしも初めて桃次郎に会った時はあまりの怖さに腰抜けちゃったもんね)

 「腰抜かして大泣きしてましたからね……課長」

 心の中で考えていた京子は隣の鬼渡から声をかけられ、ハッと我に返った。



 (おいっ、乙女の心の中を勝手に読むな!! )

 「……すんません」(どこが乙女だよ……)

 ここは章。九品のランクが存在する世界。念の使えるものはその気になれば相手の心を読むことが出来る。それを阻止するためには自身も念が使えるようになる必要がある。未だに念が使えない中品下生の京子は心を読んだ鬼渡を心の中で非難した。

 そんな奇妙な会話をしていると、そしらが突然立ち上がった。



 「でも!! ……やっぱり見たいし! それに鬼っちもいるし大丈夫っしょ!! ねっ、鬼っち♪ 」

 「……あ? 」

 鬼渡が京子に対してそしらを何とかさせようとしていた理由がこれである。そしらがタメ口を聞いていたのは京子だけではない。鬼渡についても同様であった。課長が舐められているから部下も舐められる。

 鬼渡がそしらに向かって歩みだす。




 (……ハッ!! )

 その歩み出す鬼渡の手をみて京子は気がついた。




 『グギギギギイイィ……』

 物凄い力で作られた握りこぶしに。あんな握りこぶしをこしらえて鬼渡はどこへ行こうというのだろうか。答えは明白であった。そんな今から起こるであろう惨劇を回避するために京子は慌ててその握りこぶしを握る。 




 「そ、そうだね!! ずっと室内で作業してるだけだとイメージも出来ないだろうし、見に行こっか!! 」

 このまま室内で書類業務ばかりしていてはそしらの不満が溜まっていく。京子はそしらに向かって歩もうとする鬼渡の歩みを止め、そしらの希望を叶えることにした。

 「やった~~!! 嬉しいなぁ♪ 」

 そしらは両腕を高く上に掲げ、喜びを表現しながら小走りでこちらへ走り、2人のいる部屋の入口を通り過ぎ、部屋の外へ出た。

 

 

 「え? いいんすか……地獄の門がある階には桃次郎がいるんすよ? 」

 京子の提案に鬼渡は不安そうな表情で問いかける。そう、桃次郎とその取り巻き達はほとんど地獄の門がある階にいる。地獄の地は広大ではあるが、遭遇しないということはない。だが、今の京子には変化の術で得たカブトムシの姿がある。

 「まぁ、大丈夫っしょ!! カブトムシの姿で飛んで行って地獄の門をちょこっと見てまた飛んで帰って来ようよ!! 」

 「はぁ……そんなに上手くいきますかね……」

 京子の楽観的な考えにやや不安な表情を浮かべる鬼渡。

 


 「お~~い!! 課長、鬼っち~~~、早く行こうよ~~~~!! 」

 そんな2人を気にすることもなく10mほど先へ走っていたそしらが2人の方をくるりと振り向きはしゃいでいる。

 


 「……あ? 」

 そんなそしらの態度に再び歩み出そうとする鬼渡。京子は慌ててそのこぶしを握ったままの手を高く掲げる。

 「よしっ、じゃあ行こう!! いくぞ、鬼っち!! 」

 「誰が鬼っちですか……」

 遠くにいるそしらに2人して高く手を挙げているように見せ、そしらに地獄の門を見せてあげることにした。






 ♦  ♦  ♦






 地下11階、天空省と地獄の出入り口。ここから先は罪人蔓延る無法地帯。いくら鬼渡がいるとはいえ、無数の罪人たちから京子とそしらの2人を守るのは難しいだろう。京子は餓鬼型である京鬼への変化によって何とかなるかもしれないが、そしらに関しては前世が何であったかをまだ知りえていない。

 何より飛行可能な生き物であったことがなければ地獄の門までの到達が困難になる。 

  


 「……という訳で今から地下14階に行くんだけど、危ないから変化の術で飛んでいこうね。そしらは変化できる中で飛べる生き物はいる? 」

 京子はそしらが変化の術で飛べる生物が何かいるかを確認する。

 

 

 「え……飛べる生物かぁ……」

 「な、何でも大丈夫だよ? 」(…………そう、何でも大丈夫だよぉ? ハエでもいいし、醜い蛾でもいい……何なら皆に嫌われているゴキだって……飛べるしね、ふふっ……ふふふっ。。)

 京子は少しわくわくした。こんな可愛い見た目のそしらであっても前世までそんなきらきらしていたはずはないと。自身の前世がしじみやカブトムシであったように、そしらだって前世は自分と大差ないだろうと。何なら自分よりも忌み嫌われる生物であって欲しいと。



 「う~~ん、あたしはだいたい海とか川にいたからなぁ……」

 「へ、へぇ~~。そうなんだ」(海とか川かぁ……。おっ? ひょっとしてあれか? フナムシとか……そういう系か!? そっかぁ、でもフナムシは飛べないよね。せめてゴキなら何とかなったのにぃ。。)

 京子は何故か無数にいる海や川の生物の中でフナムシであったと決めつける。容姿が可愛いそしら。そんなそしらに謗られる自分。そんなあまりにも大きすぎる格差を前世が是正してくれると期待する。

 



 「イルカとかクラゲは飛べないし……飛べる生き物はツバメとウグイスくらいかなぁ……」

 「…………えっ? あっ、と……そ、そっか……」

 格差は埋まらず、広がった。そしらが覚えている前世はイルカ、クラゲ、ツバメ、ウグイス。どれもまぁまぁ可愛らしい生物。特に、イルカとツバメは京子が憧れていた前世の在り方。その両方の前世を経験しているだけでなく、人型の姿までも可愛いとは何とも不公平な話である。




 「そっか……うん、そっか……。……じゃあ、ツバメになって……行こうね。。」

 「は~~~いっ!! 」

 かけられた小さい声にそしらは元気よく返事をした。




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