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死んだら天国行けずに地獄の閻魔になっちゃった  作者: ツーチ
桃次郎討伐編
47/62

第47話 そしらは謗る、容赦なく……


 4月3日 新人争奪戦で獲得した空谷そしらが地獄課へ配属となって3日目である。……が、京子と鬼渡は頭を悩ませていた。 




 「……ああ~~、もう~~!! ……ねぇ、一体いつまでこれ続けなきゃいけないのぉ? 」

 静かな地獄課の室内に大きな声が響く。期待の新人、そしらの声である。京子と鬼渡と新人のそしらは他の課の協力で仕訳けた罪人調査書を確認している。この確認作業は罪人たちをどの種類の地獄で裁くのかをざっくりと決めるための作業。地獄の門が開門すれば八熱地獄、八寒地獄が出現する。

 京子たちは本に記載されている地獄の内容と罪人の罪をひたすらに照らし合わせている。



 「ま、まぁ……そんなこと言わないでさ! 頑張ろうよ!! 地味な作業だけど、地獄の門が開いたときに罪人をどこで裁くかを決める大事な作業だから……ね? 」

 京子は新人のそしらを優しくなだめる。もっとも、今行っている作業はその前段階の3000万枚もの調査書という膨大な量の書類を確認しているわけではない。似たような罪が記載されている罪人たちをどの地獄で裁くべきかという作業である。



 窃盗、不倫は〇〇地獄

 殺人、強盗、詐欺は✕✕地獄

 程度の作業である。にも関わらず、そしらは不満そうである。地道で地味な作業、こうした仕事の積み重ねが大きな仕事の成功へと繋がるということをそしらは分かっていないようである。



 「でもさぁ、ず~~~~と室内で同じ作業してるんだよ? ……っていうか、ここに載ってる地獄って本当にあるの? 」  

 そしらは不機嫌そうな顔で京子に尋ねて来た。



 「えっ……あ、あるよ……」 

 「……じゃあ、見せてよ」

 さも、当然かのようにタメ口で話すそしら。

 「あっ……と、今は……まだ……開いてない……」

 京子はそしらの問いかけに気まずそうに答える。

 「開いてないって……? どういうこと? 開ければいいじゃん!! 」

 「……えっと……だから、八熱地獄と八寒地獄がある地獄の門を開けるには地獄の業火ってのが……必要なんだけど……その地獄の業火が灯せなくって……閉まったままっていう……感じ……かな。。」

 「ええ!? こんなに大変な作業してんのに肝心の地獄が開いてないの!? じゃあ、何のためにこの作業してるか分かんないじゃん!! もお~~!! 課長のランクが中品下生だからダメなんじゃないの!? 」

 「ぐっ……」

 そしらは遠慮することもなく、はっきりと京子をそしってきた。地獄の業火……その業火を閻魔が灯せなくなって久しい。が、そうした天空省の省内の事情まではどうやらそしらは知らないようである。




 「……課長、ちょっと……いいっすか? 」

 「あっ……うん。……ちょ、ちょっと待っててね……空谷さん」

 そんなそしらからそしられている様子を見ていた鬼渡は京子に声をかけ、そしらを残して地獄課の室外へ出た。 






 ♦  ♦  ♦



  



 「……すごいね……あの子……」

 鬼渡に連れ出されて、2人は地獄課から少し離れた廊下にいる。

 新人のそしらはなかなかに可愛い。金髪に大きな青い瞳という異国感あふれる日本人離れした容姿である。女の京子も見とれてしまうほどの可愛さがある。……が、それ故にその性格が際立つ。



 「おとといもあの子の辞令の立ち合いで70階の部長室に行って、他の課にあの子を紹介するためにあたし階段上り頑張ったんだよ? 業務説明と見学で1往復した階段をもう1往復したわけよ……そしたらあの子なんて言ったと思う? 」

 「さぁ……なんて言ったんすか? 」

 「『あたしはもう1往復するのは嫌だからエレベーター使うよ! 課長は急いで階段でついてきてね! 』……って」

 結局、1日の配属辞令のために京子は天空省の鬼畜階段を2往復した。鬼渡は餓鬼課の業務(主に罪人から金を受け取っていないかの確認)があったため、京子は自力でエレベーターで移動する上品ランクのそしらを必死に階段でついて行ったのだ。 




 「締めましょう……あの新人……」

 自分が不在の間のそしらの言動を聞き、制裁を提案する鬼渡。

 「だ、ダメだよ、暴力的なことは!! ……問題になっちゃうから……」

 京子は鬼渡の物騒な提案をすぐに却下した。


 「何言ってんすか。……いつもみたいに大声で怒鳴ったり、叩いたり、身体を前後に思いっきり揺さぶってやったらいいじゃないっすか? 」

 「おいっ……普段のあたしはお前にどう見えとるんじゃ……。だいたい、そんなことしちゃったらせっかくの新人が逃げてっちゃうでしょ? そしらちゃんは新人なんだから優しく、優し~~くしてあげないとねっ!! 」

 京子はそう言って笑顔で左手で人の頭をなでているような仕草をする。

 「そうっすか……じゃあ、俺も課長にタメ口つか……」

 「ダメ。……あたし別にプライド高い方じゃないけど、自分よりもランクの高い2人の部下にため口利かれたらあたしの自尊心……地面にめり込むから……」

 鬼渡の提案は再びすぐに却下された。京子の辛うじて地面にめり込まずに済んでいる自尊心を死守するために。






 ♦  ♦  ♦






 「ってか、何であんなに高飛車な態度なんすかね……あの新人」

 新人のそしらの態度に冷静な鬼渡も珍しく苛立っている様子である。

 「う~~ん……た、例えば……、、あっ!! ……ぜ、前世が……悪役令嬢だった……とか? 」

 苛立つ鬼渡をなだめるために原因を探る京子。



 「あく……何すかそれ? 」

 「ん? 知らないの? 悪役令嬢っていうのは……その……えっと……悪役の令嬢だよ。。」

最低の説明力。『急行列車が急行の列車』、『鴨南蛮が鴨の南蛮』という説明レベル。だが、説明すべき用語の間に『の』を差し込むことで説明できた雰囲気は出せた。



 「まぁ、単純に言うと悪い奴ってこと……かな? 」

 「悪い奴……罪人ってことっすか?? 」

 京子の説明を聞いて、そしらを罪人認定する鬼渡。京子は慌てて否定する。

 「違う、違う!! 悪い奴なんだけど……そんなには悪くない……。っていうか、良くないよ!! 鬼渡!! そうやってそしらが悪い奴って決めつけて苛立つのはまさに心が三毒に侵されている証拠!! もっと前向きに考えよう? 前向きに……ね? 」

 三毒。それは心を毒する要素。京子は今の鬼渡が三毒に支配されそうになっていることを指摘し、前向きな考え方を提案する。


 

 「前向きにって……生意気女とどうやって前向きに仕事していけばいいんすか? 」

 「……えっと……。そ、そうだ!! 物語にしちゃおうよ! 」

 「……物語? 」

 「そう! 今のこの状況を物語なんだって思って仕事していくの!! 物語のタイトルは……そうだな。。『転生したら前世でメイドとしてお仕えしていた時に死ぬほど虐げられていた口の悪い悪役令嬢が部下になっていて、もう1匹の部下である餓鬼と3人で地獄の罪人を裁きまくるわちゃわちゃ楽しいほのぼのスローライフを送ります!! 』……みたいな? 」



 「転生……スローライフ?? 」

 聞きなれない用語に怪訝な顔をしている。そもそもこのタイトル問題だらけである。京子は死んで、ここに京子として存在しているわけで転生はしていない。そしらが悪役令嬢だったかもわからないし、ましてや地獄で罪人を裁く仕事でスローライフなど送れるはずもない。

 しかし、京子はそんなことを気にすることなく、喋りつづける。


 

 「あっ!! ……あと、サブタイトルは『閻魔になった私が部下のそしらにそしられ放題!? 転生しても主従関係は変わっていないようです。おまけに性悪女に二重人格、ムキムキ男に着ぐるみイケメン……曲者ぞろいの世界でも……京子は今日も健気に頑張ってます』……で、どうかな? ねぇねぇ、どう思う鬼渡?? 売れるかな? 」

 長い……無駄に長すぎる。いくら何でも長すぎる。もはやただの文章である。



 「いや、知らないっす。……つーか何すか、その異様に長い文言は。そんな本図書館でも読んだことないんすけど……」

 鬼渡は現の今の流行りを理解できていなかった。どうやら図書館にはそうした本は揃えていないらしい。

 「いやいや、タイトルは長ければ長いほどいいんだよ? 今の流行りだからね……現の。。転生に悪役令嬢にスローライフ……うん、ばっちりだ! この超人気の3要素があれば、絶対に売れる……。あたし、生まれ変わったらここで経験したことを小説にするよ! 鬼渡」

 怪訝な顔をし続けている鬼渡に満面の笑みを向ける京子。


 


 「へぇ……そうっすか。。まぁ、別にいいっすけど、そろそろ現実見てください……そんなんだから舐められるんですよ……」

 「…………ううっ。。そんなにはっきりあたしのダメな所を指摘しないで……そしらないで……」

 京子は両手で顔を覆って下を向く。今起きている現実を小説を書いて物語の世界へ押し流したかった。……が、今起きていることは現実。

 生意気な新人ではあるが、唯一配属された新人。生意気な態度を怒りたいが、怒れないというジレンマ。そんな現実に鬼渡にまで謗られ、強引に呼び戻され、目からは大粒の涙が溢れる。




 

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